ボトルメール

鳳雛

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第1章

5. なんてね

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Side.凪

ザザァーーー・・・

『「消えないで」なんていくらでも言うよ。』
『私には凪さんが必要です。』

なに、それ・・・
手紙の文字から目が離せず、膝下まで海に浸かった体も動かすことができなくなっていた。
ちょっと、泣いたかもしれない。

ザザァーーー・・・

「・・・」

このまま、この波が、
ここからあなたのいるしずく島まで、
ボトルみたいに、僕を運んでくれれば…

「・・・なんて、ね」

******************************************

浜辺から職場へ戻って午後の作業を始める。
「・・・」
今日はあんまり集中できてないな…

バタン!!

「凪さんミシン壊れた!;」
「あの、いぶき島への生地の発注忘れてました…」
「すみません!今月の顧客リストなくしてしまって・・・!」

勢いよく開かれたドアとともに、スタッフが一斉にミスを報告してきた。

これも いつものこと。
みんながそれぞれの仕事をこなして、抱えきれなくなったら、僕や周りに助けを求める。
でもみんな、手遅れになってから頼ることはなかった。
手遅れになった後に、消えてしまった後には、頼ることもできないんだね。

「・・・ふふっ」
「「?」」
同じような日常が果てしなく繰り返されたって、別に消える必要なんてない。
必要としてくれる人がいるんだから。

「今日はお仕事終わりっ。みんな、帰ろう?」
「え!?」
「で、でも!;」
「ミシンは僕が直しておく。発注も僕からお急ぎでってお願いしておくよ。
顧客リストなら僕の頭にもあるから安心して」
「「っ!!」」
僕も、早く帰ってやりたいことがあるから。
「じゃ、解散っ」ガチャ
バタン
「「・・・」」

「や、やっぱすげぇな凪さん…」
「ああ…ってゆーか!!」
「ね、私も初めて見た・・・」

「凪さんって 笑うんだ」

******************************************

「ふー…」
家に戻って少し横になる。
目を閉じると、自然に頭の中が整理されていく。

うちの職場は毎日バタバタしてて、夜も休日も休まず働く。
みんな一流になるために、僕の仕事まで取っていく。
だからみんな、もう僕より裁縫もデザインも集客もできるようになっていると思う。

もう僕の下にいる必要もないのに。
「・・・」
体を起こして机に向かう。
返事、書きたい。

それにしても、改めて考えるとおかしいね。
届けるために手紙を書くのに、宛先を書かないなんて。
でもやっと、宛名は書けるようになった。
少し前から名前はわかっていたけど、宛名を書くのは親愛の証だから。

「みな・・・と・・・?」
あ。
えっと、何て呼ぼうかな…
湊さん?湊くん?それとも湊ちゃん…?

あれ?
この人って男の子?女の子…?
一人称が『私』で、語尾で『~もん』って言ってたし、文章のテンションも高いから女の子?
でも筆圧は力強くて、靴屋をやっているから男の子?
そもそも何歳なんだろう…?
「???」
本当に何にも知らないな、僕。

一度宛名について考えるのをやめて、また今日届いた手紙の最後の部分を読み返す。
『私には凪さんが必要です。』
なんか、愛の告白みたい(笑)
深読みすると、『私のために生きてください!』って言われてる気さえする。
「・・・悪くないかも」
なんてね(笑)
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