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22.5 親の義務
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Side. ???
自分の子どもを守ることは親の使命。
子どもがどんなに成長しても、それは変わらない。
親ならば、誰よりも自分の子どものことを深く知っているのが普通。
それは当然、子ども本人よりも。
そして、子どもの幸せを応援するのは 親の義務。
**************************
「帰国後には必ず診察を受けてくださいね」
通話を終了して 自分のスケジュールを確認する。
娘が旅行中に怪我をしたらしい。
痛かっただろうに、『もう治ったから大丈夫』と平気そうにしていた。
そのように振る舞う娘のことが、私はずっと心配だった。
あの子は見た目以上に繊細だ。
何かが起こっても平然としているが、自身の中ではかなり考えている。
それなのに、人に頼ろうとしない。
私に迷惑をかけないためか、小さい頃から隠しごとが多かった。
昔から聡明な子だったから、隠すのが上手だ。
でも、私には隠しても無駄。
親なのだから、子どもについて知らないことなどない。
でも、あの子はそのことに気づいてないみたいで、まだ私に隠しごとをしている。
そんなあの子が、依(より)さんのことだけは隠さずに紹介してくれた。
うれしかった。
まあ、あの子は彼女の本性について隠そうとしているみたいだけど。
別に隠さなくてもいいのに。
「お~い」
でも、私はあの子の親だから。
「せんせ~?」
あの子が幸せなら、それを応援するのが私の義務。
余計なことはしないで、見守るのみ。
そう、『見守る』だけ。
「あの~、透(とおる)先生?」
「ぁ」
いけない。
娘のことを考えていたから、目の前にいた患者をほったらかしにしていた。
「失礼」
「いえいえ!お医者さんは忙しいっすもんね!」
「・・・」
この患者は2週間に1回、定期検診に来ている。
よくしゃべるので、正直うっとうしい。
でも、この患者を治すことはあの子を治すことにつながるかもしれない。
そう期待しているから、誰も手を挙げない中、私が主治医に名乗り出たのだ。
「今回も目に見える傷や痣などはありません。臓器にも炎症などの異常はありません。
触診による骨の損傷の疑いもありません。来週は半年ぶりにレントゲンを撮ります」
診察の結果を報告する。
この患者は診察の工程が多すぎる。しかし、1つの工程でも無視すれば、この患者は死んでしまうかもしれない。
診察の後は毎回、私が考案している検査を受けてもらっている。
その検査結果を分析して、報告書を作って、次回の検査内容を考えて…と、
あまりにもやることが多すぎるので、この患者が来る日は他の仕事ができず、すぐに1日が終わる。
「それでは検査に入ります。今日は4階で脳波を調べるので、その際は口を閉じていてくださいね」
「わかりました!閉じてます!!」
「…しゃべるなということです」
日本語が通じない人間の相手をするのは疲れる。
「あなたの症状の原因は、身体ではなく脳にあるのではないかと考えています。そこで、身体に衝撃を与えた時の脳の働きを―――」
「自分、難しいことはわかんないっす!」
「・・・」
インフォームドコンセントは医者の義務だ。
後ろにあったホワイトボードを、この教員のくせに頭の悪い患者の前に持ってくる。
今日もまた、すぐに1日が終わるだろう。
「あなたがわかるまで説明するので集中して聞いてください、繋(けい)さん」
自分の子どもを守ることは親の使命。
子どもがどんなに成長しても、それは変わらない。
親ならば、誰よりも自分の子どものことを深く知っているのが普通。
それは当然、子ども本人よりも。
そして、子どもの幸せを応援するのは 親の義務。
**************************
「帰国後には必ず診察を受けてくださいね」
通話を終了して 自分のスケジュールを確認する。
娘が旅行中に怪我をしたらしい。
痛かっただろうに、『もう治ったから大丈夫』と平気そうにしていた。
そのように振る舞う娘のことが、私はずっと心配だった。
あの子は見た目以上に繊細だ。
何かが起こっても平然としているが、自身の中ではかなり考えている。
それなのに、人に頼ろうとしない。
私に迷惑をかけないためか、小さい頃から隠しごとが多かった。
昔から聡明な子だったから、隠すのが上手だ。
でも、私には隠しても無駄。
親なのだから、子どもについて知らないことなどない。
でも、あの子はそのことに気づいてないみたいで、まだ私に隠しごとをしている。
そんなあの子が、依(より)さんのことだけは隠さずに紹介してくれた。
うれしかった。
まあ、あの子は彼女の本性について隠そうとしているみたいだけど。
別に隠さなくてもいいのに。
「お~い」
でも、私はあの子の親だから。
「せんせ~?」
あの子が幸せなら、それを応援するのが私の義務。
余計なことはしないで、見守るのみ。
そう、『見守る』だけ。
「あの~、透(とおる)先生?」
「ぁ」
いけない。
娘のことを考えていたから、目の前にいた患者をほったらかしにしていた。
「失礼」
「いえいえ!お医者さんは忙しいっすもんね!」
「・・・」
この患者は2週間に1回、定期検診に来ている。
よくしゃべるので、正直うっとうしい。
でも、この患者を治すことはあの子を治すことにつながるかもしれない。
そう期待しているから、誰も手を挙げない中、私が主治医に名乗り出たのだ。
「今回も目に見える傷や痣などはありません。臓器にも炎症などの異常はありません。
触診による骨の損傷の疑いもありません。来週は半年ぶりにレントゲンを撮ります」
診察の結果を報告する。
この患者は診察の工程が多すぎる。しかし、1つの工程でも無視すれば、この患者は死んでしまうかもしれない。
診察の後は毎回、私が考案している検査を受けてもらっている。
その検査結果を分析して、報告書を作って、次回の検査内容を考えて…と、
あまりにもやることが多すぎるので、この患者が来る日は他の仕事ができず、すぐに1日が終わる。
「それでは検査に入ります。今日は4階で脳波を調べるので、その際は口を閉じていてくださいね」
「わかりました!閉じてます!!」
「…しゃべるなということです」
日本語が通じない人間の相手をするのは疲れる。
「あなたの症状の原因は、身体ではなく脳にあるのではないかと考えています。そこで、身体に衝撃を与えた時の脳の働きを―――」
「自分、難しいことはわかんないっす!」
「・・・」
インフォームドコンセントは医者の義務だ。
後ろにあったホワイトボードを、この教員のくせに頭の悪い患者の前に持ってくる。
今日もまた、すぐに1日が終わるだろう。
「あなたがわかるまで説明するので集中して聞いてください、繋(けい)さん」
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