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18. あなたのために時間をかけたい
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夜9時。
「これでよし。やっと終わった」
マンションの寝室で依(より)と旅行の準備をしている。
明日から5日間、南の島へ旅行する。
ハネムーン休暇は今日を含めた7日間。
今日は依とくっつきながら旅行の計画を立ててたら日が沈んだ。
出血も気絶もせずに、大好きな人と一日中一緒にいられた。
幸せだね。
「依ちゃん、準備終わった?」
「まだ~!どうしよう、どれを持っていけばぁ…」
意外だ。
要領のいい依なら、私より先に準備を済ませていると思った。
でも、準備に時間がかかっている理由はなんとなくわかる。
「依ちゃん、楽しみ?」
「うん!初めての旅行だもん!」
やっぱり。
依は生まれてから一度も旅行したことがないんだ。
学生時代の修学旅行も行ってないんだろう。
自分の意志で外に出たこともなければ、これまで外に連れ出してくれる人もいなかったのか。
「…一緒に準備しよっか」
「いいの?!」
「うん。私も時間かかったけど、さっき終わったから」
「やった~!糸(いと)ちゃん大好き~!」
「私も好き」
**************************
「・・・」
1つのスーツケースの周りには、スーツケース4つ分の大荷物が散乱していた。
引っ越しでもするのか?
「依ちゃん、ドライヤーやポットはホテルにあるからいらないよ」
「そうなの?」
「そうなの。シャンプー類も向こうにあるけど、毎日使ってるもの持っていきたい?」
「ううん、なんでもいー」
意外と美容に無頓着。
「じゃあこのでかいボトルは置いてこうね。あとバスタオルとお箸とコップと…」
持っていく必要がないと思われるものを手に取って、依に渡して元の場所に戻させる。
**************************
結構片付いてきて、依の荷物候補は残りスーツケース2つ分くらいになった。
今は紙に包まれた食器を開封してる。
これが終わったらあとは依に任せよう。
ガサガサ
なにこれ、食器にしては細 ―――
「・・・」
依の荷物候補には、包丁さんが含まれていた。
ガサガサ
「・・・」
ガサ
「・・・」
しかも3本。
あれ? 私のプロポーズで全部解決したんじゃなかったっけ?
確かに私はまだまだ愛情表現が下手だけど、
あの時 ちゃんと私の気持ちは伝わったはず…
「糸ちゃんどうしたの~?」
脱衣所に洗剤を戻しに行った依が戻ってきた。
「依ちゃん、これ」
さっき発見した3本の包丁を見せる。
「…? 糸ちゃん、なんでそんなもの持ってるの?」
「え」
何そのリアクション。
「もしかして旅行に必要だった?」
「空港の検査で引っかかるから余裕で」
旅行で包丁が必要なわけねぇだろ。
「この包丁、丁寧に包装されてたよ。私はこの辺に荷物置いてない」
「???」
うーん。
いっか。
「これ戻してくるね。あとは自分で整理してみて」
「はーい!」
3本の包丁を持って台所に向かう。
**************************
台所の引き出しに包丁を戻す。
『糸ちゃん、なんでそんなもの持ってるの?』
『もしかして旅行に必要だった?』
あの様子からすると、本当に無意識なんだろうな。
この包丁を自分で用意しておきながら、その記憶がない。
3本も丁寧に包んでおいて、それを覚えてないなんておかしい。
でも、この現象と類似したケースを知ってる。
それは依が私と一緒に外にいる時。
私が一緒にいないとき、依は周りの人間とも会話ができる。
けど、私がいれば私以外の人間が見えなくなって、周りの声まで聞こえなくなってる。
この時、依はわざと周りを無視してるわけじゃないっぽい。
無意識に周りを排除して、私の情報だけを取り入れようとする。
私のことが好きだから。
つまりこの包丁は、心のどこかでまだ私のことを傷つけたいって思っている証。
「ドMじゃなかったのかよ」
母に相談するべきか?
いや、今は旅行のことだけ考えたい。
寝室に戻ろう。
**************************
夜11時、寝室。
「んー、どうしよ~」
依はまだ準備中。
私は横になりながらその様子を見守る。
これ以上は手伝わない。
…いや、アドバイスくらいはしようかな。
「依ちゃん。南の島に行くんだからセーターは暑いよ」
「ああ、そっかぁ!」
「向こうで何着か買うから、そのつもりでね」
「はーい!」
依の準備が遅い理由は、旅行の経験がないから。
それと、もう一つある。
「明日は午後の便だから、ゆっくり準備していいからね」
「わかった!
…糸ちゃん、寝てていいよ?」
「いや、起きて見てるよ」
「寝てて!お願い~!」
「わかったよ。じゃあリビングにいるから、それでいい?」
「いい!」
時間をかけてしっかり準備して、一番かわいい姿を私に見せたいんだ。
それは私も同じ。
「これでよし。やっと終わった」
マンションの寝室で依(より)と旅行の準備をしている。
明日から5日間、南の島へ旅行する。
ハネムーン休暇は今日を含めた7日間。
今日は依とくっつきながら旅行の計画を立ててたら日が沈んだ。
出血も気絶もせずに、大好きな人と一日中一緒にいられた。
幸せだね。
「依ちゃん、準備終わった?」
「まだ~!どうしよう、どれを持っていけばぁ…」
意外だ。
要領のいい依なら、私より先に準備を済ませていると思った。
でも、準備に時間がかかっている理由はなんとなくわかる。
「依ちゃん、楽しみ?」
「うん!初めての旅行だもん!」
やっぱり。
依は生まれてから一度も旅行したことがないんだ。
学生時代の修学旅行も行ってないんだろう。
自分の意志で外に出たこともなければ、これまで外に連れ出してくれる人もいなかったのか。
「…一緒に準備しよっか」
「いいの?!」
「うん。私も時間かかったけど、さっき終わったから」
「やった~!糸(いと)ちゃん大好き~!」
「私も好き」
**************************
「・・・」
1つのスーツケースの周りには、スーツケース4つ分の大荷物が散乱していた。
引っ越しでもするのか?
「依ちゃん、ドライヤーやポットはホテルにあるからいらないよ」
「そうなの?」
「そうなの。シャンプー類も向こうにあるけど、毎日使ってるもの持っていきたい?」
「ううん、なんでもいー」
意外と美容に無頓着。
「じゃあこのでかいボトルは置いてこうね。あとバスタオルとお箸とコップと…」
持っていく必要がないと思われるものを手に取って、依に渡して元の場所に戻させる。
**************************
結構片付いてきて、依の荷物候補は残りスーツケース2つ分くらいになった。
今は紙に包まれた食器を開封してる。
これが終わったらあとは依に任せよう。
ガサガサ
なにこれ、食器にしては細 ―――
「・・・」
依の荷物候補には、包丁さんが含まれていた。
ガサガサ
「・・・」
ガサ
「・・・」
しかも3本。
あれ? 私のプロポーズで全部解決したんじゃなかったっけ?
確かに私はまだまだ愛情表現が下手だけど、
あの時 ちゃんと私の気持ちは伝わったはず…
「糸ちゃんどうしたの~?」
脱衣所に洗剤を戻しに行った依が戻ってきた。
「依ちゃん、これ」
さっき発見した3本の包丁を見せる。
「…? 糸ちゃん、なんでそんなもの持ってるの?」
「え」
何そのリアクション。
「もしかして旅行に必要だった?」
「空港の検査で引っかかるから余裕で」
旅行で包丁が必要なわけねぇだろ。
「この包丁、丁寧に包装されてたよ。私はこの辺に荷物置いてない」
「???」
うーん。
いっか。
「これ戻してくるね。あとは自分で整理してみて」
「はーい!」
3本の包丁を持って台所に向かう。
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台所の引き出しに包丁を戻す。
『糸ちゃん、なんでそんなもの持ってるの?』
『もしかして旅行に必要だった?』
あの様子からすると、本当に無意識なんだろうな。
この包丁を自分で用意しておきながら、その記憶がない。
3本も丁寧に包んでおいて、それを覚えてないなんておかしい。
でも、この現象と類似したケースを知ってる。
それは依が私と一緒に外にいる時。
私が一緒にいないとき、依は周りの人間とも会話ができる。
けど、私がいれば私以外の人間が見えなくなって、周りの声まで聞こえなくなってる。
この時、依はわざと周りを無視してるわけじゃないっぽい。
無意識に周りを排除して、私の情報だけを取り入れようとする。
私のことが好きだから。
つまりこの包丁は、心のどこかでまだ私のことを傷つけたいって思っている証。
「ドMじゃなかったのかよ」
母に相談するべきか?
いや、今は旅行のことだけ考えたい。
寝室に戻ろう。
**************************
夜11時、寝室。
「んー、どうしよ~」
依はまだ準備中。
私は横になりながらその様子を見守る。
これ以上は手伝わない。
…いや、アドバイスくらいはしようかな。
「依ちゃん。南の島に行くんだからセーターは暑いよ」
「ああ、そっかぁ!」
「向こうで何着か買うから、そのつもりでね」
「はーい!」
依の準備が遅い理由は、旅行の経験がないから。
それと、もう一つある。
「明日は午後の便だから、ゆっくり準備していいからね」
「わかった!
…糸ちゃん、寝てていいよ?」
「いや、起きて見てるよ」
「寝てて!お願い~!」
「わかったよ。じゃあリビングにいるから、それでいい?」
「いい!」
時間をかけてしっかり準備して、一番かわいい姿を私に見せたいんだ。
それは私も同じ。
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