この人以外ありえない

鳳雛

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11. 頭の中はあなたでいっぱい

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宙読(そらよみ)高校、職員室。

依(より)は今日の分の授業が終わったので、担当クラスの文理選択アンケートをまとめていた。
「依先生のクラスは文系と理系、どっちの希望が多いですか?」
隣の席の繋(けい)が話しかけてくる。
「文系でした」
「そうっすかぁ。自分のクラスは半々です」
「今年はどちらの方が多くなるでしょうね」
「そうっすね~。・・・」
会話が途切れた後も、繋は依を見つめる。
これまでも作業の手を止めて依に夢中になることはあった。
しかし、あの"事故"があって以来、依を見つめる意味が変わった。
「おい繋くん、手が止まってるぞ~」
「あぁ、はい!!」
依を見つめ続けていると、先輩教員から指摘されてしまった。
「ははっ、いくら依先生が綺麗だからって~」
「繋先生ってば、もしや依先生のこと…?」
職員室にいた周りの教員が次々と声をかけてきた。
繋はこれまでに何度もこのような冷やかしを受けている。
依を見つめて、それが誰かに見つかって、大勢に冷やかされるまでが一連の流れだ。
周りは冗談半分、もう半分は本気で繋と依をくっつけようとしている。
少し前までであれば、この冷やかしを照れながらも冗談で返せていた繋であったが、
今となっては、
「確かに、依先生は綺麗です」
「「!?」」
冷静に、正直に返すことしかできなくなっていた。
「?、ありがとうございます」
依は褒められたので、とりあえず礼を言った。

******************************

宙読高校、放課後。

依は空手着に着替えて道場に向かう。
「依先生!」
ジャージに着替えた繋が依に声をかける。
「これから部活ですね。途中まで一緒に行きましょう!」
「はい」
繋はバレー部の顧問をしている。また、体育館と道場は校舎から少し離れた同じ建物の中にある。
そこへ向かって、2人で並んで歩き出した。
「・・・」
繋はまた 依に視線を向ける。
白い道着に身を包んで、髪は後頭部で団子を作っている。
背は低いが覇気のあるその姿に、繋は何度も瞳を奪われている。
「・・・」
しかし今は、以前は感じなかった違和感があった。
「繋先生、どうかしましたか?」
依に突然話しかけられた。
繋は依をじっと見ていたので、自然と目が合う。
「あ、いや…道着って重そうだなって!」
とっさに目に入った道着の話を振る。
「空手着って、実は軽いんですよ?」
「そ、そうなんっすね~!」
何とかごまかせて、繋は安堵する。

「着てみますか?」

「へ…?」

依が突然、黒帯を解く。
「ちょちょちょ、依先生!?」
そして、上衣を脱ぎ始めた。
「どうかしましたか?」
当然 依はインナーを着ているので、上衣を脱いだところで何の問題もない。
「え、っと、その…//」
しかし 繋からすれば、魅力ある女性が目の前で脱ぐという行為が性的に映ってしまうのだ。
「・・・///」
その上、依は胸が大きい。
まるでインナーのサイズが合っていないかのように、依の胸は主張している。

「はい、どうぞ」
依は脱いだ上衣を差し出す。
「あ…はい」
繋は条件反射でそれを受け取り、ジャージの上に重ねて着た。
「・・・」
依と繋はかなりの体格差がある。
そのため、繋は子供用の半纏を着ているような状態になってしまった。
「どうです?軽いでしょ?」
なぜ自分は依の上衣を着ているのか。
「…はい」
繋はこの意味不明な状況を飲み込めずにいる。

「…ふふっ。サイズ、全然合ってませんね」
依は少し笑ってそう言った。
「っ!//」
依は学校ではめったに笑わない。
繋は依の無表情以外の顔を初めて目にした。
「?、繋先生?」
依の可憐な笑顔に、繋は顔を赤くする。
同時に、道着から伝わる依の香りや体温を意識してしまう。

「あ!依ちゃんと繋先生!」
バレー部と空手部の生徒が依と繋を見つけて声をかけた。
「なんで繋先生が依ちゃん先生のやつ着てるの?」
「俺も着たい!!」
部員が続々と集まってきては冷やかしてくる。
いつもの流れが始まった。
「こら!早く着替えてネット張る!」
「みんなも着替えようね~」
繋と依はそれぞれの部員に指示をする。
部員たちはしぶしぶ体育館と道場に向かう。
「まったくあいつらは…
あ、依先生!道着ありがとうございました!」
繋は上衣を脱いで依に返した。
「・・・」
その間、どうしても視線は依の胸に行ってしまう。
「それでは、部活がんばりましょう」
依は身なりを整えて道場へと歩いて行った。
「…ぅぁ~!!//」
少女のような笑顔と凛とした空手家のギャップに、繋は思わず身もだえる。
しかし同時に、改めて道着を纏う依の姿を見て、何かが足りないと感じていた。

******************************

ピー!
「10分休憩!その後紅白戦!マネージャーはボードの準備して」
「「はい!」」
バレー部の練習。
繋は部員に休憩の指示を出す。
「なぁなぁ繋先生」
「ん、なんだ?」
バレー部員が繋に話しかける。
「依先生とは最近どうなんですか?」
「…は?!//」
不意を打たれて、繋は焦りを見せてしまう。
「前からバレてますよ?依先生のこと狙ってんの!」
「ね、狙ってなど…!」
「さっきだって、依ちゃんの上衣着て顔真っ赤にしてたじゃん!」
「それは…//」
「てゆーか何で依ちゃんのやつ着てたの~?」
「そ、それはぁ…!//」
部員から次々と問い詰められてたじろぐ。
素直に依の道着を着ることになった経緯を話せばいいものの、
依が着ていたものを身に纏ったこと、その時に感じた温かさや香りを鮮明に思い出してしまい、どうしても平静を保てない。
「はやく告ればいいのに~」
「協力しますか?!」
部員まで 依と繋の仲を取り持とうとしてくる。
「お、お前たち!バカにするのもいい加減にしろ!
それと、依先生のことを"ちゃん"付けするな!」
繋は途端に情けなくなり、つい部員を怒鳴りつけてしまった。
「なんだよ、自分が『依ちゃん』呼び出来ないからって!」
「八つ当たりだー!」
「さっきは依ちゃんのおっぱいガン見してたくせに」
「なっ…!///」
部員は繋の怒りなど気にも留めず、純真な心で残酷な事実を繋に突き付けた。
「…休憩終了。それとメニュー変更。今から全員校庭10周!!!」
「「え~!!?」」
繋はついに部員に理不尽なメニューを押し付けてしまった。
「ふざけるなー!」
「こうなったらもう言いたい放題だ!」
「そうだ!このむっつり教師!」
「おっぱいフェチ!」
「ヘタレ!はよ告れ!!」
部員は口々に繋へ悪態をつく。
「うるさいうるさい!自分も走る!!」
「いや繋先生も走るんかい!!」
繋は部員とともに外へ出た。

******************************

繋はバレー部員と校庭を走る。
そしてまた、依のことを考える。
「・・・」
繋は依のことが好きだ。
暇さえあれば依のことを考えてしまうほどに、彼女に夢中だ。
そのことは他の教員にも生徒にもバレている。
そう、依以外の全員に。
「繋先生っていっつも依ちゃん先生のこと見てるよね~」
「でも確かに依ちゃんって可愛いよな」
「いい匂いするし」
「おっぱいおっきいし!」
バレー部が話をしながらランニングをしている。
「・・・」
部員たちが言うことは間違いない。
事実、繋もそのような目で依のことを見ていた。
「噂では男子生徒に襲われたとか…」
「それマジ?!」
「っ、おい!話してないでさっさと走れ!」
「やべっ」
「はーい!」
しかし、今となっては、
彼女の真っ白な空手着に赤がない違和感を覚えてしまった。
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