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四国茶会 4

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「な、なんのことだ!?」


 明らかに動揺しているヴォルディモア。
 メリッサはその様子をただ黙って見ているだけだった。


「なにそれ、面白そうな話してるなあ」


 先程まで怒鳴られていたクロエだったが、動揺するヴォルディモアに笑みを浮かべる。


「フルーゲル廃墟で俺と会ったこと、もう忘れたのか?」
「……なんのことだか、わからないな」
「まさか、お前たちの方から接触してくれるとは、考えてもいなかったぞ。気付かれない自信があったのか?」
「……」
「だんまりか。まあいい、お前があの仮面の連中だとわかった以上、もう話し合いはなしだ」
「待ってくれ、説明を──」
「──もう止めておこう」


 ヴォルディモアの言葉を遮るように、メリッサは首を左右に振り立ち上がる。


「気付かれた以上、交渉は無理だ……」
「だが」
「諦めろ。彼は、連中がしたことも知っている。それに、この女がいる限りこれ以上の進展はない」


 連中……?
 まさかとは思うが、このメリッサという女も仮面の連中の一人なのだろうか。であれば「連中がしたこと」というのが学園の地下で五番と七番がした魔族召喚のことか、それともカーラのことのどちらかだと結びつく。
 二人とも仮面の連中。
 ただ二人の言い方は、やったのは自分たちではないと言いたげだった。

 そして二人は顔を見合わせながら黙り込むと、ヴォルディモアも立ち上がる。


「時間を取らせてすまなかった。今回は、これで失礼する……」


 立ち去ろうとする二人。
 止めなくていいのかと言いたげなレイナとシスリルだったが、クロエは俺を見て「行かせてやり、どうせこの二人は何も知らんし何も話さんよ」と言った。
 その言葉を聞いて、俺は頷き、二人を立ち去らせた。

 二人がいなくなり、この場にはクロエと俺たち三人だけとなった。


「お前は最初から、あの二人のこと……それに仮面の連中について知っていたのか?」
「でなければ、うちはここにおらへんよ」
「そうか。それじゃあ、二人を逃がしたことにも理由があるということか?」


 そう問いかけると、落ち着いた雰囲気で紅茶を飲むクロエ。


「もちろんや。ただその前に、気付いていると思うんやけど、あのメリッサっていう女も仮面の連中の一人よ」
「やはりそうなのか……」
「ですが、あのお二人が名乗った国はそれぞれ違うのでは……」


 シスリルの疑問に、クロエが答える。


「仮面を付けた連中は同じ国に属した者で作られた集団やなくて、同じ目的、あるいは利害が一致してできた集団なんやろな」
「じゃあ、ペシャレール王国とガルダンダ王国だけじゃなく、レノン王国の者の中にも、仮面の連中の仲間がいる可能性はあるのか?」
「可能性としては、レノン王国にも仮面の連中に属する者がおるかもしれん」
「それを知って、お前の国は何も対処しないのか?」
「おるかもしれん、って言っただけで確定やない。なにせ連中は身内にも素顔を隠し、名前も名乗っとらん。仮面を外した表の顔が、レノン王国の人間かなんてわからへん」
「確かに、お互いを番号で呼び合っていたな」


 五番と七番がそうだったように。
 それにフルーゲル廃墟でも、ヴォルディモア以外は言葉を発しなかった。それは俺たちに正体を知られないためだと思っていたが、仲間であるお互いにも知られないようにしていた可能性も考えられるか。


「うちが二人を引き止めなかったのも、それが理由や。おそらく連中、お互いの素顔と名前を知っているのはそれぞれ数名だけで、他の仮面の者は知らない。せやから、もしあの二人を引き止め、どんな手段を用いて聞き出そうとしても、他の連中の正体を暴くことはできん」
「だったら泳がせ、一緒にいるところを抑えた方がいい、ということか?」
「あの二人は今も、平然と国属クラスの制服を着て学園に通っている。であれば行動を監視して、他の仮面の連中と接触するのを待つ方がええやろ」


 確かにその通りだ。
 仮面の連中、という一括りではなく『五番と七番』と『ヴォルディモアとメリッサ』という感じで別々に互いの素性を知っているが、それ以外の仮面の素顔は知らないということだろう。


「ちなみにやけど、ヴォルディモアとメリッサっていう名前も、偽名の可能性も十分にあるやろな」
「そこまでか」


 そこまでするか、とも思うが可能性としてはある。
 少し考えるが、仮面の連中についてはこれでいいだろう。


「それで、そんなことまで知っているお前は、どういう存在なんだ?」
「うち? うちはただのレノン王国の生徒や」
「生徒か……。レノン王国の普通の生徒は、時を操る──巻き戻す魔術を使えるものなのか?」
「……ほお、一度見ただけで気付くんやな」


 先程のメリッサ相手に使用したクロエの魔術、あれは高速移動や瞬間移動の類ではなかった。
 であれば時を操る──正確に言えば時間を戻す魔術だろう。二人を守ろうと伸ばした手が俺の意志とは関係なく戻ったのにも説明がつく。

 それにこの魔術を発動した際に感じた魔力は、決して”ただの学生”が持っている力とは思えない。
 そしてこの時を操る魔術も、人間界で手にできる魔導書から得た力とは思えなかった。

 おそらくこのクロエという女は、ヴォルディモアやメリッサ、仮面の連中──というよりも、俺が知る人間の中で最も魔術者としての才能があり、危険な人物だろう。


「そんなことより、うちが持っとる情報、知りたいんやない?」
「教えてくれるのか?」
「ええよ。ただし、一方的にうちから教えるんやなくて情報の交換やけどな」


 見ず知らずの相手から簡単に情報を得られる、とは思っていない。


「もしかして、警戒してはるん?」
「しない方が難しいと思うが」
「まあ、そうやけど、うちらは別に敵同士やない。ただ、仲間でもない。言うたやろ、人間は損得勘定で生きるもんやって。だから、うちが知ってる情報と、あんたが知ってる情報を交換せえへんかっていう、ただの商談よ?」
「だが、俺の知ってる情報なんて何もないが?」


 そう問いかけると、クロエはニヤリと笑った。


「禁忌の魔導書……それについて知ってる情報があったら、嬉しいんやけどなあ?」
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