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四国茶会 3
しおりを挟む「つまり、二人は三国、それに中立国が手を取り合い、共に平和な道を歩むことを望んでいると?」
「その通りだ。今は国境沿いに建てられた巨大な壁に区切られ、互いの国を行き来できない。それを壊せば、お互いに交流してより生きやすく──」
「──生きやすく、なあ」
ヴォルディモアの説明を遮るように、退屈そうなため息を吐くクロエ。
「邪魔をしない、という話ではなかったのか……?」
「そのつもりやったんやけど、どうも胡散臭い匂いがしてなあ、ついため息が出っちゃったんよ」
「なに?」
「だってそうやろ。おたくらの国は、いったい、この地から何を得られるん?」
この地、とは中立国のことを指しているのだろう。
前のめりになるレイナを目で制して会話の続きを聞く。
「得るものならいくらでも──」
「──ないやろ? 自分らの国の国土はこの中立国の数十倍で、大勢の人が暮らしている。それに対してここは、狭い国土に少ない食糧。おまけに職人の質は劣り、魔力を使える人間は三国に比べ圧倒的に少ない。言い方は悪いけど、助けるだけ損や。そんな中立国に手を差し伸べて、何を得るっていうん?」
「……それはもちろん、協力すれば──」
「──ありえへん」
ヴォルディモアの言葉をはっきりと否定するクロエの表情は、先程までのほんわかした雰囲気はなく、全くの感情がこもっていない無だった。
「そんなにあんたが育ったガルダンダ王国は、お人好ししかおらん国なんか?」
「な、なんだと!?」
「その通りやんか。人間なんて、損得勘定で動く生き物や。料理を提供するお店は、お客の笑顔が見たいだけで料理を作っているわけやない。自分と、自分の大切な者を養う為の硬貨を得る為に料理を作り、もっと多くの稼ぎを出す為により美味しい料理を作れるように努力して学ぶ。けれど中立国を救って待っているのは、自国の破滅や。あんたの国は、自分らが食べる物、それに住む家を失ってでも、中立国の連中に手を差し伸べるん?」
「……」
「せえへんのやろ? 中立国の人々の生活が限界なのは、このヴェリュフールを出ればすぐに見てわかる。何十年も前に終わった戦争の残骸である建物は廃墟と化し、そのときに生まれた死体はそのまま捨てられとる。そして村としての形を持っていても、そこで生きる者は一人、また一人と飢えや魔獣に襲われ死んでいる。今このときも、やろ?」
クロエが不意に、レイナとシスリルを見る。
彼女は何も言わず、頷きもしない。だが、その通りだ。
「そんな中立国の人間全てに手を差し伸べ、自国へ招き入れ、見返りに得られるのは貧しくて狭く、甚大な人員と大量の資金を使って改善しなければならない中立国の国土や。招き入れた自国の先に待っているのは、新しく生まれた”広大な中立国《捨てられた国》”や。それをわかった上で、そんな甘っちょろい思想を掲げるんやったら、あんたらが忠誠を誓う王様は、相当な愚王やな?」
「黙れ……ッ!」
「もう無駄な話は止めたらどうや? 三国のどこも、中立国のような泥船を救うつもりはない。あったらもっと前に国境は無くなるはずやった、この世界がこんな壁で隔てられることはなかった、そうやろ? ただあんたらのやってることは、中立国の住民にそれっぽい言葉を並べ伝えているだけ。そしてここの連中を──」
「──その女の話を聞くなッ!」
クロエの言葉を遮るように叫ぶヴォルディモア。
先程までの落ち着いた口調や抑えた声量とは違った、野太い大きな声が響く。
「……この声」
ふと、レイナがボソッと呟く。
「なぜ貴様は我々の邪魔をする!?」
「ただ思ったことを言っただけや」
だが、レイナのことなんて気にせず、苛立ちを露わにしたヴォルディモアがクロエに詰め寄る。
「我々は彼に話しているのだ! ここにいても構わないと言ったが、口は挟まないでもらえるか!?」
「胡散臭いことばっか言うから、ちょっとだけ彼に忠告しただけやん」
「だからそれが──」
「ユクス、思い出した。この男……」
そして、レイナは俺に耳打ちする。
それを聞いて、なるほどな、と思った。
今まで声量を抑えていたし、三国の者だからこれぐらいの魔力を持っていると思って気にしていなかった。
だが体格も、奴に似ている。
「ヴォルディモア、だったか」
「ん?」
「どうしてお前が、俺と最初に話したときに脅えていたのか、その理由がわかったよ」
あれはただ、仲間がやられていたのを目にしたからじゃなかった。
過去に自分が、俺に殺されそうになったから脅えていたのか。
「……はじめまして、じゃなかったんだな」
「な、なにを、言っているんだ……?」
「今日は、あのおかしな仮面は付けていないんだな?」
「──ッ!?」
フルーゲル廃墟で俺たちを襲ってきた七人の仮面を付けた連中。そして唯一、言葉を発した仮面を付けた長身の男。
──その女を狙え!
そう言った男とこのヴォルディモアは、同一人物だった。
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