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彼女を抱きしめて 2

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 ……。



「──ユクス」


 再び人間界に戻ってくると、窓から見る外の景色は少しだけ明るかった。

 シスリルとリトがソファーで眠っていたが、俺の帰りを待っていたのかレイナは起きていた。


「寝ていなかったのか?」
「え、うん……戻ってこないかと思って」
「少し席を外すだけと言っただろ?」
「そうなんだけど、ね……。ねえ、もし良かったら、二人で話さない?」


 レイナの誘いを受け、俺たちは屋敷の外へ。


「少し、寒いわね……」
「ああ、そうだな」


 穏やかな朝の空を染める朝焼けは眩しく、風は少しだか寒く感じる。
 ボソッと呟くレイナの肩に、着ていた制服の上着をかける。


「風邪をひくなよ」
「あ、ありがと……。あなたでも、そういうことするのね」
「どういうことだ?」
「なんでもない! ユクスは、寒くないの?」
「俺は大丈夫だ。それにしても、ここの連中はもう起きているんだな」


 住民区を少し歩くと、若干だが人の姿が見えた。


「お店を運営している人とかは、もっと早く起きてるかな。私の両親も、普段だったら仕込みとかでもうお店に行っている頃よ」
「そうなのか。魔界は人間界と違って朝とか昼とか夜とか、そういった変化はないんだ。だから新鮮に感じる」
「そうなんだ。そういえば、魔界ってどんなとこなの?」
「魔界のこと聞きたいのか?」
「魔界、というか、その……」


 レイナは少し頬を赤く染め頷いた。


「あなたのこと、もっと知りたいなって……」
「ほお、俺のことが知りたいと」
「ち、ちがっ、そういう意味じゃなくて……。ただ、そう! 一応眷属だから、知っておいて損はないでしょ?」
「……ふっ。レイナは眷属になったこと、後悔していないのか?」
「え?」


 レイナは歩く足を止めた。


「眷属になったことで、これから先、レイナも連中に狙われる可能性が高くなったはずだ」
「そうかもね。だけど、ユクスが守ってくれるんでしょ?」
「そうだが──」
「──だったら後悔はないわ。むしろ望んでいた魔力をユクスが与えてくれた……それにお父さんとお母さんを救ってくれた。だからユクスには、感謝しかないわ」
「レイナ」
「あなたこそ、人間界に来たこと……後悔してない?」
「どうしてだ?」
「人間界に来て、ユクスは人間たちの面倒事に巻き込まれたじゃない。だから嫌になって、もしかしたら戻ってこないのかなって、心配になって……」


 だから、レイナは起きて俺のことを待っていたのか。
 俺は不安そうな表情を浮かべる彼女の頬に、手を触れる。


「後悔なんてしていない。それにお前を残して、何も言わずに消えたりしないから安心しろ」
「う、うん……」


 手のひらから感じるレイナの熱が急激に上がり、彼女は慌てるように顔を背けた。そして自分の首元の紋章を指差す。


「そ、そうよね! 女の子の首にこんなの付けておいて、後悔してるなんて言わせないんだから!」
「ああ、そうだな」
「だ、だだだ、だったら責任持って、眷属である私を一生、側にいさせなさいよね! それとも、シスリルだけで十分だって言いたいの!? 嫌よ、私は、あなた……と」


 ムスッとしたレイナが愛しくて、気付いたら抱き寄せていた。
 血の匂いを感じて興奮しているとかではないのに、純粋にレイナを欲しくなった。


「ユ、クス……?」


 俺の腕で小さくなったレイナは、微かに潤ませた瞳で俺を見上げる。

 密着させた体から、はっきりとレイナの鼓動が速くなっているのを感じる。そして顔を近付けると、彼女は「あ、うん……」と小さく声を漏らし、目を閉じた。

 柔らかい唇を奪うと、レイナの全身が一度だけビクッと大きく反応したが、すぐに収まり、俺の腰へと腕を回す。
 少しだけ肌寒かった風が、一気に熱を帯びたように、お互いの全身が熱くなっているのがわかった。

 お互いに唇を離すと、レイナは恥ずかしそうにしながら目線を左に向けた。


「ん、ちゅ……眷属だけど、その……キスしていいなんて、許してない」
「うんと言っただろ」
「それは、いいよ、じゃないもん……。ユクスはその、私とキス、したかったの?」
「ああ、もちろんだ」
「へえ、そうなんだ。じゃあ……うん」


 そう言うと、レイナはもう一度、目を閉じた。
 俺はその表情をジッと眺めていると、片目を開けたレイナが、


「……キス、して」


 そう小さな声で言った。
 女心はわからないが、それでも、俺とのキスを拒んでいるわけではないということはわかった。

 俺は再び、彼女の唇を奪った。
 少しずつ背中に回された腕に力がこもる。離さないと、そう表現しているようだった。


「……ねえ、ユクス」


 ふと唇を離したレイナ。


「シスリルとは、その……したの?」
「何をだ?」
「何って……はあ。キス、したの?」
「いいや、していないが」
「そう、なんだ……」


 レイナは嬉しそうに微笑むと、今度は自分からキスをする。

 そして唇を離すと、俺をジッと見つめる。


「……ユクスは、私の両親を救ってくれて、私に生きる力を与えてくれた。そんなあなたの力に私はなりたい。だから、これからも側にいさせて?」
「当たり前だ。お前は俺の眷属でもあり、大切な女だからな。これからも側にいろ」
「……はい」
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