世界最強の女好き吸血鬼が、学園でハーレムを築きながら世界を救う英雄となるまで

柊咲

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彼女を抱きしめて 1

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「何があったんだ?」
「俺が到着したときには既に、カーラは襲われた後だった」


 父は、横になって目を閉じるカーラの手を取ると、申し訳なさそうに目を伏せた。


「カーラを襲ったのは、我々と同じ魔族だ」
「魔族? 襲われた場所は人間界ではなかったのか?」
「魔族召喚を行ったのだ。一つの村の人間全てを犠牲にして」
「なに……?」


 魔族召喚が行われていた? ということは、俺が倒した五番と七番の他に、同じことをしようとした人間がいたということか。
 父の話を聞いて、七番があの時、召喚した魔族を見て興奮気味に口にしていたことを思い出す。

 ──多くの人間の魂と肉体を生贄に生み出した魔族召喚。ついに僕成功させたぞ!

 もしかすると、前例があったということか。


「……父のその傷も、その魔族にやられたものなのか?」
「ああ。連中に囲われていたカーラを救い出そうとかばった際にな。だがこうして、命だけは救えた」


 カーラに近付くと、微かに呼吸をするように胸元が浮いたり沈んだりしているのが見てわかった。


「生きていたんだな」
「かろうじてだがな。致命傷は免れ、息はしているが……いつ目覚めるかわからない状態だ」


 だから連中は『死んだ』と思っているのかもしれない。
 ただこの誤算は、俺たちにとって細やかな救いであることは確かだ。 


「それで、その召喚した魔族はどの種族だ?」
「……おそらくは、かつていた魔王の配下の魔族だろう」
「魔王……?」


 人間たちに生きる為に必要な魔術を伝えたのが、大魔術師マクスウェル。
 そして、人を殺める魔術は魔族が争いの中で生み出した力だが、その中でも強力な魔術を生み出したのは、かつて魔界を支配していた魔族の王、魔王ガルデモアだとされている。

 そして、魔王ガルデモアには忠実な配下が大勢いたという。


「どうしてそんな大昔に滅んだ魔王の配下だと見ただけでわかったんだ? 名前なんて、ガルデモアという者しか記録として残っていなかったはずだ」
「魔王と、その配下数名にしか知らされていない魔術を、召喚された魔族は使った。理由はそれだけだが、それで十分だ」


 リトと話してわかったように、魔界にも人間界にも、その家系にしか伝えられていない魔術、それを記した魔導書が存在する。
 吸血鬼である俺であれば、魔力を飲み込む門を召喚する『ヴァライドゲート』や、無数の亡霊の腕を召喚して対象を飲み込む『ヴォイドアレム』なんかがそうだ。
 他にもいくつかあるが、家系や種族によって固有と呼ばれる魔術がある。だから父は、その場で目にした魔術が、魔王ガルデモアとその数人の配下のみに知らされた魔術だとわかったのだろう。


「なるほど、だがよくその魔術を使われて無事だったな」


 魔王ガルデモアは一瞬で一つの街を滅ぼせる力を持っているという話だ。であればいくら配下の魔族だったとしても、その一撃で命を失わず、カーラを救いここへ逃げ延びられたのは奇跡に近いだろう。


「魔族召喚は、成功していなかった。未完成だったのだ」
「……未完成だから、威力が弱かったということか?」
「いや、あの場でカーラを守る魔術を放った俺にその魔族は、たった一撃で立つことがやっとの傷を負わせた。だが追撃してこなかった。奴は一撃しか放てず、溶けて消えたのだ」
「……生贄が足りなかったか、術者の魔力が足りなかったか」
「おそらく後者だろう。明らかに術者の能力が足りていなかった」


 そして、と父は言葉を続けた。


「連中が困惑している間に、俺はカーラを連れ、魔界へと戻ってきた」
「なるほど。その連中は、おかしな仮面を付けていたか?」


 父にそう聞くと、はっきりと頷いた。


「そうか」


 カーラの敵を討ちに行くか?
 そう聞こうと思ったが、おそらく父は頷かないだろう。
 カーラが目を覚ますまで、父はずっと側で支えているのがいいはずだ。


「……連中が何をしようとしているかわからない。だが、必ずまた強力な魔族召喚をするだろう。ユクス、お前はどうする」
「どうするとは?」
「人間界に関わらせたのは俺と、カーラだ。それを放棄してもかまわない」
「なに?」
「人間界では、カーラが予想していた三年後よりも早くに、大きな戦争が起きるかもしれない。その時、魔族召喚によって強力な魔族が人間側につく可能性が高い」
「人間界は危険だから捨ててもいい、か……」


 はっきりと言わないが俺がこれ以上、人間界に関わることを心配しているのだろう。父を圧倒した魔族を再び召喚されれば、俺でも無傷とはいかないだろう。
 それほど厄介な敵が生まれる可能性が高い。


「俺は人間界に。帰りを待つ眷属と友がいるからな……」
「そうか……」


 父はそれ以上、何も言うことはなかった。
 ただカーラの手を握り、目覚めるのを祈っているようだった。

 魔族が祈るか。
 おかしな話だが、それほど眷属であり妻であるカーラを大切に想っているのだろう。
 そしてそれは、俺にとっての人間界に残した彼女たちと同じだった。



 …………。
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