世界最強の女好き吸血鬼が、学園でハーレムを築きながら世界を救う英雄となるまで

柊咲

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折れない信念

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 この部屋にいるのは全部で十名。
 魔力を持った者は、シスリル・アノーロワを含めても数名ほどしかいない。
 この屋敷に踏み込む前に感じた魔力を持った者の気配はずっと前に消え、おそらくもうこの屋敷を出たのだろう。
 この場にいる彼女らの魔力は、お世辞にも脅威を感じるレベルとは言えない。

 明らかに俺とレイナを相手にするには無謀な戦い。
 それでも連中から感じる雰囲気に、簡単な相手、という余裕は持てない。
 
 何をそんなにこだわるのか、まるでこの戦いに命を賭けているかのような面構えだ。


「……レイナ、普段通り身体能力を強化する魔術を使え。他のことは考えなくていい、何かあれば俺が対処する」


 背中合わせの彼女にそう言うと、コクリと頷く。
 そして前回のように魔力を足下へと込めると、


「なに、これ……」


 レイナは驚きから声を漏らした。
 どうやら、眷属となって魔力が増えたというのは本当らしい。であれば俺も、同じく強くなっているのだろう。


「体に異常を感じたら、すぐに魔術の使用を止めるんだ、いいな?」


 体内に流れる魔力が切れると、体に様々な影響を与える。
 筋肉痛のような痛みを感じたり、急激なやる気の低下、他には意識を失ったり。
 その影響は魔術師によって異なるが、魔力が切れると戦えないという認識が強い。
 そしてレイナは今、急激な魔力の増加によって、使う魔力量を誤る可能性があった。


「ええ、わかったわ」


 そう答えると、背中に感じていたレイナの気配が消え、気付くと大柄な男へ向かって駆け出していた。


「はあッ!」


 目にも止まらぬ速さで間合いを詰め、突き出した細剣に男は反応できない。
 持っていたナイフを弾き、そのまま男のみぞおちに拳を突き出す。


「すごい……」


 レイナは自身の変化に声を漏らす。
 身体能力を強化する魔術しか使っていないが、明らかに前回までの彼女とは違う。それを自分でも理解できたからだろう、その表情には驚きよりも嬉しさがあらわれていた。
 そしてレイナは次へ次へと、自分よりも屈強な男たちを無力化していく。


「魔力の別の使い方を知れば、もっと強くなるだろうな。その前に正しい使い方を教えるべきか」


 かつての魔術を身に着けたばかりの自分を見ているようで、今のレイナは出し惜しみせず余計な魔力まで消費している。
 嬉しいだろうから仕方ないが、あれではすぐに魔力切れを起こして倒れるだろう。


「そうならないようにしないとな」


 レイナの両親はこの屋敷にはいない、であればこの戦いは彼女の本番ではない。
 まだ倒れさせるわけにはいなかない。その前に、シスリルを無力化してレイナの両親の居場所を聞くべきだろう。


「月夜の絶剣を我が手に」


 右手へと流した魔力から、剣を生成する。
 かつて剣に魂を捧げた魔族が記したとされる魔導書から呼び出した黒剣は、片手で持てるほど軽い剣だ。
 刀身から柄まで全てが黒く染まっていて、切れ味は他の剣とは比べものにならない。

 俺はシスリルへと歩き出す。


「円を描け──」


 シスリルの周囲に展開されていたナイフが一本、二本と、俺に向かって飛んでくる。
 その弾道は直線ではなく、くの字に曲がったり、壁に反射したりと俺の四方八方から迫ってくる。

 だが、


「そんな小細工は、俺には通用しないぞ」


 俺へと飛んでくるナイフには微量ながら魔力が込められている。
 魔力の気配も量も感じられる俺には、背中から狙われても避けることも防ぐことも容易だ。
 シスリルへと向かう足を止めない。


「くッ……止まれ、止まってッ!」


 シスリルの声に、周囲の男たちが一斉に俺へと武器を振り上げる。


「無駄だ」


 黒剣を一振り。
 微量な魔力が刃の風となって刀身から生み出される。それに当てられた周囲の者は軽く吹き飛んでいく。


「あなたってほんと……」


 レイナが俺を見て、大きくため息をつく。


「どうかしたか?」
「……いいえ、魔力を得て強くなったと自惚れた自分が恥ずかしいと思っただけよ」
「まあ、上には上がいるということだ」
「嫌味な男」


 ムスッとしているレイナ。

 そして俺は、窓際へと追い詰めたシスリルに問いかける。 


「もう終わりだ。レイナの両親の居場所を教えろ」
「まだ、ですわ……まだ、終われませんわ」


 シスリルが持つ魔力は、明らかに限界だ。
 それは魔力を込めて周囲に展開させたナイフたちが地面に落ちているのを見れば明らかだ。
 だがシスリルは諦めない。それに他の用心棒たちも、地面に膝を付けても何度でも立ち上がろうとする。

 これ以上やればどうなるか、理解しているはずだ。


「レイナ、もう行くぞ」
「えっ、行くって何処へ?」
「それをこれから探す。ただここの連中とやりあっていても、いつまで経っても聞き出せない。……時間だけ奪われるだけだ」


 そうさせているのが誰なのかは知らないが、ここで俺たちを足止めすることが、この場にいる連中の本当の望みだとは思えない。


「ま、待ちなさい!」


 背中を向けた俺へと、ナイフが投げられる。
 だがそれは魔力の込められていない、ただの投擲だ。
 俺たちを見るシスリルの目は、まだ負けていないと言わんばかりの様子だった。


「どうしてお前たちはそこまでする。何がそうさせている?」
「あ、あなたには……あなたには、関係ありませんわ。……わたくしは、アノーロワ家の娘。土足で踏みこんだ貴方がたを逃がしはしませんわ!」
「先に手を出したのはお前たちだ」
「それは──」
「──苦労しているみたいだね、ユクス」


 この場に相応しくないほどの陽気な声がした。
 それも声がしたのは、シスリルの背後からだった。

 そしてこの声に俺は、聞き覚えがある。


「リトか?」
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