15 / 38
仮面の刺客たち 2
しおりを挟む「レイナ、俺の側にいろ」
「え、きゃ!?」
レイナの肩を抱き寄せながら、
「魔力よ無に帰せ──ヴァライドゲート」
放たれた魔術を防ぐため、俺とレイナを囲うように巨大な門をいくつも生成する。
「連中の狙いが俺かレイナか、あるいはどちらともなのかはわからないが、会話は応じてくれそうにないようだな」
「ええ、そうみたいね」
発動したヴァライドゲートを見て、連中は顔を見合わせた。
感情や思考、そういったことは不明だが、有無を言わさず攻撃してきたくせに次なる一手を繰り出してこない。
そんな奴らの行動に、少し違和感を覚える。だが、
「連中に仮面を外させて、どうして俺たちを襲ったのか聞けばいいだけか」
ヴァライドゲートの門がスッと音を立てて消えると、俺はレイナから離れる。
そして連中の警戒心や、仮面の奥底に光る瞳は、ずっと俺に向けられていた。
「なるほど……」
狙いはレイナではなく俺か。
そしてこの連中は、俺を殺すことを目的としていない。
殺すつもりなら一気に畳みかけてくるべきだ。だがそうしないということは、俺自身の実力を測っている、と考えるのがいいかもしれない。
──禁忌の魔導書を盗んだ者は必ず、膨大な魔力を持ったあなたに接触してくる。
カーラの言葉が頭によぎり、そう考えられた。
「光を覆う闇夜の影よ──アンモレアネア」
太陽の光を遮断するように、暗雲に似た影が上空に浮かぶ。
視界は徐々に暗くなっていき、連中は慌てながらも周囲を照らそうと炎の魔術を発動する。
この連中は魔術の心得も、それなりの魔力も持っているみたいだ。
ただ、それだけだ。
「少し腕に自信があるのはわかった。だが、狙った相手が悪かったな」
「──ッ!?」
両脚へと魔力を込め駆け出すと、標的を180ほどの背丈がある一人に絞って狙う。
なぜなら、俺の行動の後に、次の行動を伺うように他の六人が何度かこいつに顔を向けていた。
おそらくは、こいつがリーダー格なのだろう。
であれば、こいつさえ無力化すれば問題はない。そして情報も、こいつから聞き出せばいい。
他の連中を置き去りに、背後へと移動する──だが、
「──その女を狙え!」
静まった世界で、突如として大声が発せられた。
男の野太い声が響くと、六人全員の標的が俺から一瞬でレイナへと変わる。
周囲を照らす炎の魔術が、影を払う風が、レイナを襲う。
「魔力よ無に帰せ──ヴァライドゲート」
レイナを囲うように展開された巨大な門。
連中の放った魔術は消え、目の前の体格のいい男が俺から距離をとる。
「逃がすかッ!」
詠唱している時間が惜しい。
俺は魔力で生成した剣を右手に持ち、一気に距離を詰める。
だが連中の標的が俺に向くことはなかった。
何度もレイナ目掛けて魔術が放たれる。彼女もなんとか避けていたが、返す魔術はなく、四方八方から攻撃されれば対処できない。
俺は男から離れ、レイナの側に駆け寄る。
「……もういいだろう」
レイナの下へ駆け寄ったときには、既に連中の気配は遠ざかっていた。
追うこともできるが、呼吸を荒くさせたレイナを置いていくことはできない。
「大丈夫か、レイナ」
「ええ……」
手を貸すと、彼女は短く言葉を発して俺の手を掴む。
「……ごめんなさい」
彼女は申し訳なさそうに顔を下げながら言った。
「どうして謝るんだ?」
「私が足を引っ張ったから、あいつらを逃がした……」
「気にするな」
俺自身の落ち度もある。
連中を殺すことは容易だったが、カーラの言葉が頭に残り、生かして捕まえるということで手間取ってしまった。
それがなければ、きっと結果は変わっていただろう。
「……身に染みて分かったわ。魔術師には、どう足掻いても魔力の無い者は抗えないのね」
「なに?」
立ち上がったレイナは悲し気に声を漏らした。
だがすぐに笑顔を浮かべ、首を左右に振った。
「いいえ、なんでもないわ。もう暗くなるから帰りましょ」
彼女は細剣を鞘に納めると、帰り道を歩く。
戦闘の続きはしないのか? という質問をする場面ではないだろう。
俺は彼女の後ろを歩き、伝える。
「酷な話だが、剣術をどんなに鍛えても、魔術には及ばない」
「……そうね」
「レイナはどうして、ヴェリュフール魔剣学園に入学したんだ?」
夕焼け空が段々と暗くなっていく空。
「……自分の腕がどこまで通用するのか知りたかった、そんなところかしらね」
「知ってどうするつもりだったんだ?」
「さあ、どうしたかったのかしらね」
レイナは空を見上げる。
「中立国をより豊かにしたかった。三国にバカにされるのが嫌だった。……お父さんとお母さんを、もっと楽させたかった。いろんな考えを今まで持っていたんだけど、結局のところは、自分の力がどこまで通用するのか知りたかったのよ」
だけど、と。
レイナは苦しそうに笑った。
「やっぱり私には無理だって、わかっちゃった。魔力を持ったお母さんの娘として、他の三国の連中には負けない気持ちでいたんだけどね」
きっと入学前には希望があったのだろう。
磨かれた剣術を手に、魔力を持った生徒たちに挑む。
だがどんなに頑張っても魔術に剣術では勝てない、歯が立たないと理解して、希望が消えかかっているのだろう。
「なんだか、昔の俺に似てるな」
「え、あなたに……?」
驚くレイナに、俺は頷く。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる