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向けられた細剣 2
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レイナにそう聞かれ、答えを選ぶ。
カーラからは、俺が吸血鬼だということは伏せてほしいと頼まれた。その理由は、俺が魔族である吸血鬼だからだ。
「お前と同じ騎士クラスの生徒だが?」
「……そう」
おどけたように返すが、彼女は間を空けて相槌を打つ。
「それより、これから何か予定あるかしら?」
「それはデートの誘いということか?」
そう尋ねると、彼女は足を止めてニコリと微笑む。
「ええ、そうよ」
何かあるのだろう。
ただまあ、この誘いを断る理由はない。
俺はレイナの誘いに応じると、彼女は黙ったまま歩き始める。
学園を離れ、市街地を抜け、俺が人間界に訪れて最初に見た門を今度は出て、国境都市ヴェリュフールから離れる。
「どこへ向かおうとしているんだ?」
ただの散歩、というわけではないだろう。
「もう少し先に向かったところに廃墟があるわ」
「廃墟……?」
「あなた騎士クラスなのよね? 中立国の人間なのよね? それなのに、フルーゲル廃墟のことも知らないの?」
「ん、まあ」
中立国の人間なら知っていて当然のことなのか。だが俺は知らないので、曖昧な返事をする。
レイナから疑いの眼差しを向けられるが、何も答えず無言を貫くと、彼女は大きなため息をつく。
「……ここ中立国には、国境都市ヴェリュフールを中心に、各地に街や村があるのは知っているでしょ?」
「ああ、まあな」
「ただこの中立国は、百年前に起きた戦争、その中心部だったからどこも被害は少なくなかった。被害の面影がないのは国境都市として完成されているヴェリュフールだけで、他の街や村は、そこまで栄えていない」
「戦争の傷が残ったまま、か……。だが暮らせてはいるだろ?」
リトが以前、自分は中立国にある小さな村出身だと言っていた。
そこが何処にあるのか俺はわからないが、ヴェリュフール周辺に人が暮らしている街や村があるのだろう。そう思って問いかける。
「ええ、ヴェリュフール以外の街や村で暮らしている人は大勢いるわ。ただ100年経った今も、まだ中立国の全ての地が復興したわけじゃない。そういった場所のことを、まとめて廃墟と呼んでいるの。フルーゲル廃墟はその一つよ」
俺たちの歩いている道は、お世辞にも完成された道とは言えない。
大小様々な石ころが無造作に転がり、穴ぼこも散見される。そして馬車が、その穴ぼこを避けて通ったであろう車輪の跡で、道はさらに歪んでいる。
それに左右に広がる草原も、遠目から見れば背丈が揃って爽快な風景だが、よく見れば動物の死体や行商人が捨てたゴミなんかが落ちている。
「歴史資料なんかで見たことがあるわ。中立国の外、三国が暮らす地域には私たちが見たことがないものがたくさんあるって。北の神聖ペシャレール王国に行けば空から雪が降り続ける地域があったり、南西のガルダンダ共和国に行けば昼夜問わず熱い地域があったり。それに三国には海に面している地域があって、人々は海で泳いだりもしたそうよ」
レイナは淡々と言葉を続けていたが、その表情は、どこか寂しげに映った。
そして俺たちは、フルーゲル廃墟に到着した。
「だけど私たち中立国にあるのは、こんな戦争の傷跡が残る廃墟が沢山あるだけ。それを復興できないほど、人も力もない。だからみんな、三国に移住したいと考えるのでしょうね」
周囲に広がる無造作に生えた草木。
建物があっても石壁は所々崩壊していて、戦争時に燃やされたであろう痕跡が目立つ。
そんな形跡を、自然が隠すように木の苗やツタが絡みつく。
焚き火の痕跡も人がいた痕跡も古く、真新しい形跡は俺とレイナのもの以外なかった。
「レイナも、移住したいと考えているのか?」
「私?」
俺の問いかけに、彼女は笑って言葉を返す。
「いいえ、私はここが好きなの。何も無いけど、それでもみんなと楽しく過ごしてきた場所」
「じゃあ」
「ただ私は、今まで一緒に頑張ってきた人たちを見捨てて、三国に移住したいと考える人が許せないだけ。中立国が国と呼べないときから一緒に堪え抜いてきたのに、それを捨てようとするアノーロワ商会がね」
そして彼女は、廃墟の中へと足を踏み入れた。
動物の骨が散らばった広い場所で俺に正対すると、鞘からレイピアを抜いた。
向けられた刃先と視線が鋭く俺を捉える。
「あなた、本当は中立国の人間じゃないわよね……?」
カーラからは、俺が吸血鬼だということは伏せてほしいと頼まれた。その理由は、俺が魔族である吸血鬼だからだ。
「お前と同じ騎士クラスの生徒だが?」
「……そう」
おどけたように返すが、彼女は間を空けて相槌を打つ。
「それより、これから何か予定あるかしら?」
「それはデートの誘いということか?」
そう尋ねると、彼女は足を止めてニコリと微笑む。
「ええ、そうよ」
何かあるのだろう。
ただまあ、この誘いを断る理由はない。
俺はレイナの誘いに応じると、彼女は黙ったまま歩き始める。
学園を離れ、市街地を抜け、俺が人間界に訪れて最初に見た門を今度は出て、国境都市ヴェリュフールから離れる。
「どこへ向かおうとしているんだ?」
ただの散歩、というわけではないだろう。
「もう少し先に向かったところに廃墟があるわ」
「廃墟……?」
「あなた騎士クラスなのよね? 中立国の人間なのよね? それなのに、フルーゲル廃墟のことも知らないの?」
「ん、まあ」
中立国の人間なら知っていて当然のことなのか。だが俺は知らないので、曖昧な返事をする。
レイナから疑いの眼差しを向けられるが、何も答えず無言を貫くと、彼女は大きなため息をつく。
「……ここ中立国には、国境都市ヴェリュフールを中心に、各地に街や村があるのは知っているでしょ?」
「ああ、まあな」
「ただこの中立国は、百年前に起きた戦争、その中心部だったからどこも被害は少なくなかった。被害の面影がないのは国境都市として完成されているヴェリュフールだけで、他の街や村は、そこまで栄えていない」
「戦争の傷が残ったまま、か……。だが暮らせてはいるだろ?」
リトが以前、自分は中立国にある小さな村出身だと言っていた。
そこが何処にあるのか俺はわからないが、ヴェリュフール周辺に人が暮らしている街や村があるのだろう。そう思って問いかける。
「ええ、ヴェリュフール以外の街や村で暮らしている人は大勢いるわ。ただ100年経った今も、まだ中立国の全ての地が復興したわけじゃない。そういった場所のことを、まとめて廃墟と呼んでいるの。フルーゲル廃墟はその一つよ」
俺たちの歩いている道は、お世辞にも完成された道とは言えない。
大小様々な石ころが無造作に転がり、穴ぼこも散見される。そして馬車が、その穴ぼこを避けて通ったであろう車輪の跡で、道はさらに歪んでいる。
それに左右に広がる草原も、遠目から見れば背丈が揃って爽快な風景だが、よく見れば動物の死体や行商人が捨てたゴミなんかが落ちている。
「歴史資料なんかで見たことがあるわ。中立国の外、三国が暮らす地域には私たちが見たことがないものがたくさんあるって。北の神聖ペシャレール王国に行けば空から雪が降り続ける地域があったり、南西のガルダンダ共和国に行けば昼夜問わず熱い地域があったり。それに三国には海に面している地域があって、人々は海で泳いだりもしたそうよ」
レイナは淡々と言葉を続けていたが、その表情は、どこか寂しげに映った。
そして俺たちは、フルーゲル廃墟に到着した。
「だけど私たち中立国にあるのは、こんな戦争の傷跡が残る廃墟が沢山あるだけ。それを復興できないほど、人も力もない。だからみんな、三国に移住したいと考えるのでしょうね」
周囲に広がる無造作に生えた草木。
建物があっても石壁は所々崩壊していて、戦争時に燃やされたであろう痕跡が目立つ。
そんな形跡を、自然が隠すように木の苗やツタが絡みつく。
焚き火の痕跡も人がいた痕跡も古く、真新しい形跡は俺とレイナのもの以外なかった。
「レイナも、移住したいと考えているのか?」
「私?」
俺の問いかけに、彼女は笑って言葉を返す。
「いいえ、私はここが好きなの。何も無いけど、それでもみんなと楽しく過ごしてきた場所」
「じゃあ」
「ただ私は、今まで一緒に頑張ってきた人たちを見捨てて、三国に移住したいと考える人が許せないだけ。中立国が国と呼べないときから一緒に堪え抜いてきたのに、それを捨てようとするアノーロワ商会がね」
そして彼女は、廃墟の中へと足を踏み入れた。
動物の骨が散らばった広い場所で俺に正対すると、鞘からレイピアを抜いた。
向けられた刃先と視線が鋭く俺を捉える。
「あなた、本当は中立国の人間じゃないわよね……?」
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