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向けられた細剣 1

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「レイナ、何しているんだ?」
「ひゃっ!?」


 後ろから声をかけると、彼女の肩がビクッと跳ねる。
 振り返り、声をかけたのが俺だとわかると、ムスッとした表情の彼女に睨まれた。


「……あなた、何しに来たのよ」
「いや、ただ食堂でレイナの姿を見かけてな。それより追わなくていいのか?」


 彼女が追いかけていたであろう女に視線を向ける。
 レイナが歩いていた道にはそこまで人はおらず、彼女の視線から、誰を追っているのかは予想できていた。

 肩まで伸びた金色の髪は、彼女が歩けばふわりと舞い優雅さを表す。160ほどの背丈があって、後ろ姿は綺麗な大人の女といった印象を受ける。
 けれど後ろから見てもわかるほど大きな黒色のリボンが頭の左に見え、彼女を幼く感じさせている。

 後ろ姿はいい女だが……正面からも見たいな。


「別に追いかけてないから。というより、あなたに関係ないでしょ?」
「関係はなかったが、いい女の可能性が出てきた。俺も尾行に協力するぞ」
「はあ? そんな理由で──」
「──おい、いいのか? あの女、曲がり角で見えなくなるぞ」


 レイナのお目当ての女は曲がり角を左に。
 それを見て、レイナは俺と女を何度も見ながら、


「付いて来ないでよね!」


 女の後を追いかけるように歩き始める。


「それにしても、制服姿のお前もなかなかいいな」
「はあ!? あ、あなた、何言ってんのよ!」
「メイド服姿も魅力的だったが、年相応の制服姿もなかなか……それに、今日は得物を持っているんだな」


 顔を赤面させるレイナの左腰に付けた剣。いや、それにしては刀身が随分と細身だ。
 これは……細剣≪レイピア≫か。


「護身用に一応ね。授業でも使うかと思ったのよ」
「そうなのか。だが授業では見なかったが?」


 そう問いかけると、


「ええ、少し用事ができたのよ」


 彼女は視線を前を歩く女に向けた。


「あれはお前の知り合いか? 騎士クラスの制服を着ているが」
「いいえ、知り合いじゃないわ。彼女はシスリル・アノーロワ。アノーロワ商会を仕切っている首領≪ボス≫の孫娘よ」
「アノーロワ商会の孫も、この学園に入学していたのか」
「ええ、私も知ったのはつい先日よ」
「それで後を追っていたのか?」


 そう聞くと、レイナは足を止めた。


「どうした、追わなくていいのか?」
「もういいわ」


 レイナは歩いてきた道を引き返す。
 行き場のない俺も彼女の隣を歩くが、小言はもう言われないようだ。


「彼女と話がしたくて後を追ったのよ。どうしてアノーロワ商会は、急に経営権を値上げして、取り立ても厳しくしたのかをね」
「だが、もう聞く必要はないということか」
「この学園にわざわざ孫娘が入学した、それが答えじゃない」


 そこでリトが話していた言葉を思い出した。


「三国のどこかに移住したい、ということか?」
「おそらくね。でなければ、今まで良好な関係を築いてきたアノーロワ商会が急変してしまった理由に説明がつかないもの」
「三国に接触する為に入学か」
「あの子、授業を受けずにさっきから校舎の近くをずっと歩いてばかりなのよ。きっと、三国の王族に連なる生徒を探しているのでしょうね」
「だが俺が国属クラスの生徒に話しかけても無視されたぞ? あの女も無駄なんじゃないか?」


 そう聞くと、レイナは足を止める。
 そしてまた睨まれた。今度は呆れるように大きなため息付きだ。


「はあ……。あなたと彼女、一緒なわけないじゃない」
「どうしてだ?」
「あなたはただの変態。彼女はアノーロワ商会の首領の孫娘。騎士クラスだけど、あの子なら邪険にされることはないでしょ」
「各お店から徴収した経営権が交渉材料になるしな」 
「ええ、そうね。それより、あなたに聞きたいことがあるのだけど」


 レイナはふと立ち止まって、ジッと俺を見つめる。


「なんだ?」
「……あなた、何者なの?」
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