世界最強の女好き吸血鬼が、学園でハーレムを築きながら世界を救う英雄となるまで

柊咲

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彼女を追いかけて

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「まさか、アノーロワ商会が何かも知らずにあんなことしたなんて……」


 レイナの両親が営む店から寮へと帰ってきた俺とリト。

 というよりも、レイナに声をかけたが「帰って」と短く拒絶された。
 別にお礼の言葉が欲しかったわけではない。だが、彼女の最後の反応、それは俺の魔術への驚きなどからくる反応とは違った。

 だから少し気になるのだが……。

 今は考えても仕方ないだろう。


「アノーロワ商会は、この国境都市ヴェリュフールのお店全体を牛耳ってる商会だよ」


 今まで暮らしていた屋敷に比べて、今の与えられた部屋はかなり狭い。
 二人用の机と椅子、それからベッド。他にも衣服をかけるロッカーや革製の長椅子、それらで部屋の半分が埋め尽くされている。
 窮屈に感じる部屋。ただリト曰く「こんな広い部屋を貰えるなんて有難いね」と、どうやら待遇はかなり良いらしい。

 そんな自室で、制服のブレザーを脱ぎ、ベッドに腰を下ろすリト。


「このヴェリュフールでお店を出すには、アノーロワ商会に経営権として毎月いくらかの金銭を支払わないといけないんだよ」
「その経営権を、どうしてアノーロワ商会に支払わなければいけないんだ?」
「色々と理由はあるんだけど、アノーロワ商会はお店から経営権の金銭を受け取る代わりに、お店同士のいざこざに介入してくれたり、他の街や村から訪れる行商人に商品をその時期に合った適正な相場を提示してくれたりするんだよ」
「それは、お店として有難い見返りなのか?」


 魔界にはそういったお店も、商人すらもいなかったからよくわからない。
 それはリトも同じらしく、首を傾げた。


「さあ、お店を出しているわけじゃないからそれは僕にもわからないけど、これは昔からのここのルールだから、みんな従っていた感じかな。……今まではね」
「今まで?」


 含みを持った言葉に眉を寄せると、リトはベッドに腰掛けて話を続けた。


「あの連中が話していただろ? 市街地に出店するお店全体の経営権の額を上げるって」
「先月に上げ、また更に上げるとか言っていたな」
「アノーロワ商会は、この国境都市ヴェリュフールが中立国として生まれたときから存在する商会だ。終戦後の苦しい時代から今までずっと、そんなに高くない経営権で多くのお店を助けてきたって噂だよ」
「随分と優しい連中だな。だがその噂が本当だとすると、レイナのお店に来た用心棒の親玉と、人物像が結びつかないな」
「前から用心棒が手荒な連中だった、という可能性はあるけど……。でも、人が変わったように取り立てを厳しくしたり、経営権の額を上げたのは事実だからね」
「急に変えたのにも、何か理由があると思うか?」
「理由、か……。ヴェリュフール魔剣学園ができてから、この世界は色々と変わったからね。例えば、中立国から三国のどこかの国に移住したい、もっといい生活がしたいとかね」


 リトは説明してくれた。

 この中立国は海と面していないから、海産物は全て養殖で、それも行っている者が少ない為に希少で高価な物なのだとか。
 だが三国はそれぞれ海に面した地域があるため、天然の海産物を簡単に手にできる。
 そういった、中立国には無くて三国にはある、といったことが数多くあるらしい。
 だから誰も口には出さないが、中立国の住民は三国への憧れや、閉じ込められた生活に不満を感じているのだとか。


「ただ今まではみんなも理解していたのさ。三国に挟まれた中立国《ここ》から出ることはできないって、無理なことだってね。なにせ何年もの間ずっと、外に出ることができなかったのだから。……だけど今回のことで、中立国の者にも外へ出る希望ができた」
「ヴェリュフール魔剣学園の創立か」
「この事は学園の生徒だけじゃなく、中立国の住民にとっても考えさせられることなのさ。だからきっと、アノーロワ商会も三国に取り入る為に、今まで以上に厳しい徴収に踏み切っているんじゃないかな」
「集めた資金を持って三国に移住か……」
「もしくは、集めた資金を献上して三国に取り入るか」
「今まで築いてきたここの住民たちとの関係を壊してでもすることか?」


 そう伝えると、リトは「それぐらい、ここでの生活は息苦しいのかもね」と言ってベッドに横になる。

 どうやらこのまま彼は休むらしい。
 俺もベッドに横になると、少し考える。

 だが、やっぱり人間の考えることは理解できない。
 そもそも、そんなに中立国という名の壁の外に出たいのなら出たらいいではないか、と思ってしまう。
 まあ、そう思うのは俺が窮屈なルールに縛られ生きてきた人間ではなく、自由に生きてきた吸血鬼だったから感じるのだろうか。



















 ♦


















 次の日から、ヴェリュフール魔剣学園では授業が行われた。

 とはいえ、人間の生活に詳しいリトから言わせれば「こんなの授業とはいえない」のだとか。
 それもそのはず、行っていることはこの人間界の歴史についてや、初歩的な魔術の使用、それから簡単な武器の扱い方といった、いわゆる形だけの授業なのだから。
 こんなこと習わなくても身に着けられることだ。


「どうせ、最初から僕たちに授業を行う気なんてないんだろうね」


 昼食時。
 リトは文句を言いながら、ドレッシングが塗ったくられたサラダを口に運ぶ。


「与えられた席も、空席が目立っていたな」


 騎士クラスは全員で300人ほどの生徒がいるが、それら全てが一括りで同じクラスとなる。
 授業は受けたい科目を生徒側が選んで受講する形式で、大勢の生徒が受講する授業もあれば、全く人がいない授業もあった。
 そして午前中のどの授業も、どこも空席が目立ち、騎士クラスの生徒はあまりいなかった。


「どうせみんな、単位だけ取れたらいいんじゃないのかな」
「単位?」
「決められた回数の授業を受ければ三年後、この学園から晴れて卒業できる。逆に受けていなければ卒業できない。まあ、僕たちの目的は卒業じゃないんだけどね」


 そこまで言うと、リトは食器を持って立ち上がる。


「そういうことで、僕は用事があるから午後の授業は欠席するね」


 手をひらひらさせながら去っていくリト。


「さて、俺はどうするか……」


 午前中に受けた授業が退屈だったため、暇つぶし相手のリトが出席しないのであれば俺も受ける気にはならない。

 カーラにでも会いに行くか。
 そう思い食器を持って立ち上がると、


「あれは、レイナか……?」


 食堂の外にレイナの姿を見つけた。
 同じ騎士クラスの制服を着た彼女は、確か午前の授業を受けていなかったはず。

 ふと気になって追いかけると、彼女の視線の先には、また違った女生徒の姿があった。
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