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銀髪のメイド
しおりを挟む管理理事、というのはカーラのことだろう。
何の話をしているときに聞かれたのか、それはわからない。
「彼女、中立国の間では結構な有名人でさ。中立国では珍しく豊富な魔力を持った魔術師としてね」
珍しく?
という部分が気になったが、この場合の珍しくというのは、父の眷属として力を得て人よりも豊富な魔力を持っているから、ということだろう。
「三国からこの学園を設立することを聞かされた際に、唯一それぞれのお偉いさんと対等の立場で対応してみせた彼女」
「へえ、そうなのか。知らなかった」
「そんな女性と入学前に二人で話していたから気になってね……ああ、別に話の内容は聞いてないから安心してよ」
結局のところ、こうして近付いてきたのは俺が女に振られていて「面白そうだから」という理由ではないわけか。
こうして同じ部屋になったのは、はたして偶然ないか。
「まあいい、俺に面倒事を持ち掛けてこないならな」
近付いてきた理由はわかった、だがそこまでリトを警戒する必要はないだろう。
なにせこいつからは、脅威に感じるほどの魔力を感じない。比較するなら、試験のときの訓練用の魔獣程度のものだろう。
「もちろん、僕のことは心配しないでくれ。あとそうそう、僕の専門は”情報”だから、困ったことがあったらなんでも相談してくれ」
「情報? それはあの女と俺が話していることを知っていたように、色々と知らないことを教えてくれるということか?」
「そうだよ」
にこりと微笑むリト。
相変わらずこの笑顔は何を考えているのかわからない。
「何か裏があるのか?」
「裏って、何もないよ。僕はユクスに恩を売っているだけだよ。もし君が大物なら、僕を雇ってほしいなってね」
「同じ騎士クラスに大物がいると思うか?」
「そんなのわからないじゃないか。僕は勘も鋭い方だからね」
「なるほど……」
こちらに害が無いのであれば、何か困ったことがあれば頼ってみるのもいいか。どうせ人間界にいる知り合いなんて、カーラ以外にはいないのだから……。
「ああ、そうだ」
そこでふと思い出した。
「なに、もう仕事を頼みたいのかい?」
「少し人探しを頼みたい」
「いいよいいよ、なんでも聞いてよ!」
どこかわくわくした表情のリトだったが、話が進むにつれ呆れた顔を浮かべられた。
♦
寮を出て俺とリトは市街地を訪れた。
時刻は夕暮れ時で、微かに辺りは暗くなりつつあった。
石畳の地面や、隙間なく建てられた建物を見ると、ここがかつての激戦地だったようには思えない。
──まあ、何十年も経ってるからね。
と、リトは言う。
ヴェリュフールは三国と隔てた壁の中心にある中立国ということだから、ここで暮らす住民も全員、中立国の住民なのだろう。
そう考えると予想以上に多く感じる。
「……着いたよ」
リトは一軒の建物の前で足を止めると、振り返る。
その表情は、心の底から連れてきたことを後悔しているといった感じだった。
「よく俺が持っていた簡単な情報だけでお店までわかったな」
「これが僕の取柄だから……それより、本気かい? 人妻に会いに行くって」
俺がリトに頼んだのは、試験前に助けた人妻がどこでお店を出しているかだった。
──それだけだと探すのは難しいね、せめてどんな感じの女性だとかわかればいいんだけど……。
と言われ、娘がヴェリュフール魔剣学園の試験を受けたことと、俺なりの彼女の見た目や抱き心地や匂いや汗の感じなんかを話したら、なぜかリトは、ずっとこんな調子で顔が引きつっている。
「国属クラスの生徒に話しかけても相手にされないのだろう? であれば、あの人妻と、それに俺たちと同じ騎士クラスに入学したかもしれない娘を抱くべきだと思うんだ」
「どういう理屈さ……」
色々とお預けになった状態だからな。
「まあいい、それよりお店に入るぞ」
「えっ、僕もなのかい!?」
「ああ、ついでに腹ごしらえをしよう」
一人でもいいんだが、人間界での食事──それも店での食事を一人で完璧にできる自信がない。
魔界では使い魔が料理を運んできてくれて、それを食べて終わり。だったが人間界では色々なルールやマナーといったものが存在する。
慣れない食事だからこそ、リトも一緒だと楽ができるだろうと考えた。
俺たちはお店の中へと入る。
「いらっしゃいませ!」
広いスペースの店内に足を踏み入れると、俺たちを見て一人の女が駆け寄ってくる。
かつて父の部屋に飾っているのを見たことがある衣装……確か、メイド服だったか、それを彼女は着ている。
「二名様ですか?」
雪のような鮮やかな銀色の髪を後ろで縛った彼女は、ニコニコとした笑顔を浮かべる。
いい女だ。
見ただけでそう思えるほど、目の前の女は美しかった。
白く透明感のある肌、左目の下の黒子、メイド服越しにもわかる豊満な胸としまった細腰。
あの人妻に匹敵するほどの色気を持ちながら、笑顔には微かに幼さが残っていて……。
「ユクス、いつまで僕たちはここで立っていなければいけないんだ?」
「ああ、すまない」
気付くとメイド服を着た女は、俺たちが座るであろう席にいた。
客であろう屈強な男連中に並んでも隠れることのない160ほどの高い身長は、どうにも見ているだけでも惚れ惚れする。
「ユクス……君が女好きなのはわかった。だがせめて、見惚れるのは席に着いてからにしてくれないか?」
「ん、ああ、すまない」
またその場で立ち止まって彼女のことを見つめてしまった。
「はあ……それと彼女は──」
「──おっ!」
店内の奥、厨房から出てきた女を見て声を漏らす。
それはあの時に助けた人妻だった。服装はメイド服で、先程の女よりもはるかに大人の色気を感じる。
けれど彼女は俺に気付くと、厨房へと走り去ってしまった。
「あの、お客様どうかなさいましたか……?」
席で待つ先程の銀髪の女に声をかけられる。
「いや、なんでもない」
「そう、ですか……。では、ご注文が決まりましたらお呼びください」
彼女はそう言うと、厨房へと駆け足で向かう。
「ユクス、さっきから君の行動は変質者そのものだぞ? 一緒にいる僕まで奇異な眼差しを向けられる」
「ん、なぜだ?」
「なぜって……」
「それより、いたぞ」
厨房の中が微かに見えた。
そこには、先程の銀髪の女と、顔を赤らめた人妻が何かを話していた。
「いたって、何が? それより君が探していた騎士クラスの女の子っていうのが──」
「そんなことより、あの人妻がいたんだ」
すると、銀髪の女が厨房から出てこちらへと歩いてくる。
俺はあの人妻と話がしたくて、彼女に呼んでもらおうと声をかけた。
「すまない、頼みがあるのだが。あの厨房にいる人妻を──」
「ちょ、ユクス! 彼女は──」
──バシャッ!
勢いよく俺に何かがかかる。
「──お水です、どうぞ!」
目の前の女は、先程の笑顔とは違い冷めた目で俺を見て、水の入っていたコップを俺に突き出していた。
「先日は、母がお世話になったそうね──娘の、レイナ・ミーナロッテよ」
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