上 下
6 / 38

三国と裏切り

しおりを挟む

「さっきユクスも言っていたけど、騎士クラスの生徒は国属クラスの生徒に自分たちを売り込むのが目的さ。だけど今は、国属クラスの生徒たちは売り込んでくる生徒の相手をしている暇はないんだよ」
「どういうことだ?」
「ほら、前を見てみな」


 リトはそう言いながら、前を歩いていた生徒たちの一向に目を向ける。


「あの制服、国属クラスの生徒か……それがどうした?」
「前を歩く生徒たちは全員で12人、何か気になることはない?」
「気になる?」


 あまり気にして見ていなかったが、リトに言われて俺は前を歩く生徒たちを観察する。

 リトが言うように生徒の人数は12人。
 男女比率は女3の男9か。左右に花壇が植えられた道を、横一杯に広がって歩く光景は、仲の良い者の集まりといった感じだが……。


「二つの集団なのか?」
「そう、正解。彼らは別々の国出身の生徒だよ」


 同じ制服だが楽し気に会話している様子はなく、視線だけをだどれば左右でいがみ合っているように感じた。
 そして片方が歩く速度を上げると、もう片方も上げる。


「まさか、どちらが前を歩くかを競っているのか……?」


 そんなことありえない、そう思いながらも聞くと、リトはにっこりと笑顔を浮かべながら頷く。


「そんな些細なことで。子供かあいつらは……」
「まあ、僕らを含めまだ子供だからね。だけど彼らにとっては、そんな些細なことも重要なのさ。他国と競うってところでね。ユクスは、国属クラスの生徒たちの本当の目的は知ってるよね?」
「……少しだけだが」


 これから起きるであろう戦争に備えて、敵と味方をはっきりさせる。
 というのがリトの言う”本当の目的”かはわからない。そんなことを言ってしまっていいのかわからない。
 それに禁忌指定の魔導書が盗まれたことは、カトレアから秘密にしろと言われている。

 だから曖昧な返事をした。


「この学園の表向きな設立した理念は、各国の若人たちが共に学び切磋琢磨する場を提供するとか言われているけど……実際はたぶん、いつか戦争が起きたときのためだろうね」
「……戦争が起きると、リトも思っているのか?」
「たぶん、ここに入学した生徒はみんな、薄々は感じているんじゃないかな? そもそも、この学園が作られたこと自体が異例だから」
「どういうことだ?」


 リトは歩きながら、俺の知らない人間界の簡単な歴史を語ってくれた。

 およそ100年ほど前。
 この人間界──”エミネリア大陸”で長きに渡って起きていた戦争が終結すると同時に、休戦協定が結ばれ、この世界はに三国に分断された。

 北側を領土とする『神聖ペシャレール王国』と、
 南西を領土とする『ガルダンダ共和国』と、
 南東を領土とする『ベル・レノン帝国』。

 そして、それに属する小国や街や村といった領土だ。
 三国は国土を均衡に保ったまま、互いに争わないよう、巨大な壁で国境を分断した。
 そんな国境の中心に位置するのが、ここ、国境都市ヴェリュフールだ。
 ヴェリュフールは、元は激戦地の置かれた王城だったのだという。まあ、争っていた三国から挟まれた場所にあるのだから当然だろう。
 ヴェリュフール魔剣学園と形を変えた元王城、そこに住んでいた国王は戦争が始まってすぐに逃亡。戦争中は今のような綺麗な場所ではなかったのだという。
 休戦協定が結ばれてからは、三国が国境を渡らないようにという見張り場のような恰好で、ここはいつからか中立の立場を掲げた者が住むようになったのだとか。


「──だからこの100年、こうして他国の者と顔を合わせることはなかったんだ」
「なるほど。つまり今は、初めての顔合わせで緊張状態の三国の生徒は、他国を警戒している状態ということか?」
「そういうこと。何時、何処で、他国が何をしているかわからないからね。だから僕たちのような中立国出身の生徒に構っている暇はない。まずは身内で団結するのが先決だからね。それに……身内から裏切者だって出るかもしれない」
「裏切者? 随分と物騒だな」
「まあ、可能性の話だけどね。さっき強制的に国境を巨大な壁で隔てたって言ったでしょ?」
「ああ」
「例えば祖先がさ、元は神聖ペシャレール王国の出身だったけど、ガルダンダ共和国の捕虜となって、そのまま国に帰れなかったとかだったら、今の中立国である国境都市ヴェリュフールで動けて、尚且つ、その国の王族がいるなら、寝返るチャンスではあるよね?」


 クスッと、リトは悪い笑みを浮かべた。


「なるほど。お前も、そういう考えなのか?」
「僕?」


 リトは不思議そうに首を傾げる。


「僕は正真正銘の中立国出身さ。ヴェリュフールじゃないけど、近くの小さな村出身だよ」
「じゃあ、どうしてこの学園に?」
「おかしなことを聞くね。そんなの決まってるじゃないか、今より豊かな生活を得る為に、三国のどこかに自分を売る。もちろん、高値でね」


 迷いなく、リトはそう言った。
 それと同時に、寮へと戻ってきた。


「それならなおさら、俺と話している暇はないんじゃないのか?」


 今はまだ三国に相手されないとはいえ、ここで暇しているよりも何かしらの行動をとった方がいいと思ったから聞いた。
 すると、リトはベッドに腰を下ろした。


「いやね、実は君が、管理理事の方と何やら二人で話していたのを見ちゃってさ」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...