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第四章:魔獣の親子
第18話「ひとりだち」
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白金の巨人――レイの慟哭は、変身の解除と共に小さくなっていき、平原にひとりの青年が嘆き悲しんでいるだけになった。
そして突如として立ち上がり走ると、まっすぐ村の中へと入っていき、村人に囲まれている白い面長の顔の男――異星人に掴みかかり、ガントレットを装着した右手で思いっきり顔面の頬を殴り抜いた。
異星人はうめき声も上げず、ただひたすら怒りで我を忘れて殴り続けるレイを嘲笑う目で見ていた。
「……お前、泣いてるのか……?あんなケダモノのためにか……?」
「っ!?」
その質問に答えるように、拳をより強めて殴る。
「当たり前だろ……! 戦う意思なんてなかった……。それなのにお前らの都合で勝手に……!」
「……お前、今まで食った牛や豚に、いちいち心痛めたり謝罪したりするのか……?」
「お前っ……!」
レイの拳が異星人の顔面を捉える寸前、トラが叫んだ。
「するよ! すっごいかなしいよ! だいすきだったうしがしんじゃったとき……すごくないたよ! かなしくないわけないよ!」
トラの言葉はレイにとって、異星人に問いかけられ答えられなかった問いに、しっかりと向き合った答えを提示してくれた。
「そうだな……。少なくとも、あのモックンの母親をお前のような奴に好き勝手操られて、結局死なせてやるしか救ってやる道がなかった……。……それは全部、お前のせいだ」
今までで一番重い拳を異星人の顔面に叩き込むと、異星人は人間態から本来の姿へと変わっていった。
それはひとことで言うと、『蝉人間』。
あの夏の蝉の顔をした人間、といって良いだろう。
肌は異星人らしいサイケデリックな青を基調とした黄色のライン線が入った不気味な姿だった。
「……クックック……。計算外だった……。まさか侵略計画の最中、巨人族が邪魔に入るとは……」
「委員会の差し金ですか?」
モックンの件で、異星人にひどく冷たい態度で奪ったブラスターの銃口を向けてリズは問いただす。
「委員会……? あんなもの……加入して、仮に侵略に成功したところで、地球の土地は他の奴らと分譲する羽目になる……。俺たちは俺たちのやり方で地球を侵略するだけだ……」
異星人は咳き込みながら、もはや観念したのか、素直に……そして若干嘲笑うように喋った。
「なんでお前達は地球を侵略するんだ……? そんなにここを手に入れたいのか?」
「……今が、絶好の好機なんだよ。地球人の文明は……もうすぐ加速する。そうしたら、またこの地球を汚す……。地球が汚れてからじゃ遅いんだよ……。地球は……二度は耐えられない……」
その時、思わぬ方向からブラスターらしき弾丸の光弾が飛び出し、異星人の胸を貫いた。
「な……何故……?」
レイ達から離れていた村人の中から一人の男が現れて、その本来の姿を現し、村人を驚愕させた。
「貴様はべらべらと喋り過ぎなのだよ、同胞よ。計画は失敗したとしても、必要以上に喋る必要性はあるまい」
蝉人間へと姿を変えた村人の男――異星人は、村人達やレイ達に銃口を向けて離れるように指図する。
特にリズは異星人のブラスターを持っていたので、それを奪い返された。
「貴様が失敗したお陰で、侵略計画も練り直しだ。成功を見守りたかったが、残念だよ」
奪い返したブラスター二丁を振りかざすと、トドメとばかりに何発も失敗した異星人の身体に光弾を打ち込む。
焦げて穴だらけになった異星人の遺体は、そのうち泡を出し溶けて地面へと吸い込まれて消えていった。
「では、諸君。つかの間の平穏を楽しみたまえ。それでは、御機嫌よう」
左脇に右手のブラスターを挟むと、ふところからリモコンを取り出して押すと、山から円盤が現れ、村の外の平原に着陸し、異星人を乗せて飛び去った。
残されたのは、目の前で起きた衝撃の出来事に対する動揺と、村の外の平原の草が円形の渦で倒された模様だけであった。
「私達……何をしたんでしょうか……? あの子のお母さんを助けるって言っておいて……結局……」
リズは今の現状を改めて理解すると、自分の無力さに打ちひしがれ、肩を揺らしながら再び嗚咽を漏らした。
無力な自分が嫌いだ。
己に降りかかる危険を払いのける程度の力はあっても、誰かを救う力にはなっていない。
そんなもの力がないのと同じ事ではないか。
そう思っていると、レイも涙こそ流していなかったが、悔しそうに拳を何度も地面に殴りつけていた。
力があっても、何もできなかったレイの方が、一番無力さを感じているのかもしれない。
そう思い、打ちひしがれていると、泣いているリズを心配したのか、モックンがそばにきてぎゅっと抱きしめてきた。
自分も異星人に蹴られて痛くて苦しいだろうに。
そして、最愛の母を目の前で失って自分が一番悲しいだろうに。
「モックン……あなたは……すごく、強いんですね……。っ……!」
モックンの健気な強さに、リズはモックンを抱きしめかえしてむせび泣いた。
レイは、ひたすら、己の無力さが腹立たしく、地面に溶けて消えた蝉人間に跡に向かって殴り続けた。
「じゃあ、俺たちは行くよ。もう魔獣は襲ってこないと思う……しばらくは」
幌馬車の御者台にリズを乗せて、レイは牽引の鞍を担いで、村人に別れを告げていた。
レイとリズに直接別れの挨拶をするのは、あの兄弟の父親だった。
「……俺たちは、結局何も出来なかった。よそ者のあんたに来てもらわなかったら、俺たちはこの村で全滅していた。……ありがとうよ」
「なぁ、ひとつ聞いていいか? なんでこの村をこんなに守ってたんだ? 死んだら意味ないだろ?」
「……この村はなァ、領主様に貸与されたんだよ。他の村はどうかしらんが、お陰で俺らが頑張ればその分の稼ぎが増えて豊かになる。……この村にはな、俺たちの希望があるんだよ。だから、捨てらんねぇ」
「そっか、希望か。……捨てたくないよな」
レイは手を振って、彼と、村人達に別れを告げた。
リズも何も言える事がないまま、手を振る事が精一杯だった。
レイとリズを見送る村人の中に、魔獣の姿のままのモックンが兄弟と並んでそこにいる。
「なぁ、いっちゃうぞ? にーちゃんとねーちゃん」
『キュイ?』
「おまえ、このままでいいのかよ? あのにーちゃんとねーちゃんにもうにどとあえなくなるぞ?」
「おれたちはずっとこのむらにいるから、またあそぼうな!」
『キュイ……キュイ!』
二人の兄弟――レオとトラに促され、モックンはとことこと走り、レイとリズの馬車を追いかけた。
「……アイツを行かせたのか、おめぇら」
「おれたちより、あのにーちゃんたちのほうが、あいつのためなんだよ」
「あいつつよいよな。かーちゃんがしんでも……ないてなかったんだぜ……」
「あぁ、アイツはつえーよ」
モックンは転びながらも、懸命に立ち上がりレイとリズに追いつくべく走り続けた。
「あのにーちゃん凄かったなァ……。あぁいうのを『勇者』って言うのかもなァ」
「とーちゃん、おれ、あのにーちゃんみたいにつよくなる! つよくなって、このむらをまもる!」
「つよいやつにたちむかうのがおとこだって、にーちゃんいってたもんな!」
「あぁ、強くなれよ! レオ! トラ!」
モックンの息を切って走る姿に、リズはようやく気付いて、レイに止まるように慌てて言う。
「……! モックン……! どうして!?」
『キュイ!キュイ!』
「『二人と一緒にいたい』……『お母さんを助けてくれた二人を助けたい』……? モックン、あのですね……私達は……あなたのお母さんを……助けられ……っ」
モックンが健気に二人を肯定し感謝してくれている事に、リズは申し訳なかったが、モックンは変わらず笑顔でリズに懐いてハグをする。
「……モックン、ありがとうな」
動揺しまいと、レイはわずかな作り笑顔でモックンの頭を撫でる。
するとモックンは二人の前で立派な馬に変身したのだ。
「モックン、お前……!」
馬となったモックンは返事の代わりに馬らしく嘶き、自ら牽引用の鞍を担ぐ。
子供でも魔獣らしく力はあり、楽々とまではいかないが不自由なく幌馬車を引いている。
そして二人に出発を急かすように嘶いた。
「えへっ……。励まされちゃいましたね」
リズは溢れる涙を懸命に拭き、笑顔でレイに同意を求めた。
「本当に強いな、アイツ……」
レイは溢れて頬を伝う涙に構わずリズに笑顔で同意すると、リズの手を取って二人で御者台に座る。
「行くぞ、モックン。場所はあの空の透明の船の方角だ」
モックンは元気よく嘶き、馬車を引く。
三人は新たな仲間を得て、ギアスのいる船を目指して出発した。
そして突如として立ち上がり走ると、まっすぐ村の中へと入っていき、村人に囲まれている白い面長の顔の男――異星人に掴みかかり、ガントレットを装着した右手で思いっきり顔面の頬を殴り抜いた。
異星人はうめき声も上げず、ただひたすら怒りで我を忘れて殴り続けるレイを嘲笑う目で見ていた。
「……お前、泣いてるのか……?あんなケダモノのためにか……?」
「っ!?」
その質問に答えるように、拳をより強めて殴る。
「当たり前だろ……! 戦う意思なんてなかった……。それなのにお前らの都合で勝手に……!」
「……お前、今まで食った牛や豚に、いちいち心痛めたり謝罪したりするのか……?」
「お前っ……!」
レイの拳が異星人の顔面を捉える寸前、トラが叫んだ。
「するよ! すっごいかなしいよ! だいすきだったうしがしんじゃったとき……すごくないたよ! かなしくないわけないよ!」
トラの言葉はレイにとって、異星人に問いかけられ答えられなかった問いに、しっかりと向き合った答えを提示してくれた。
「そうだな……。少なくとも、あのモックンの母親をお前のような奴に好き勝手操られて、結局死なせてやるしか救ってやる道がなかった……。……それは全部、お前のせいだ」
今までで一番重い拳を異星人の顔面に叩き込むと、異星人は人間態から本来の姿へと変わっていった。
それはひとことで言うと、『蝉人間』。
あの夏の蝉の顔をした人間、といって良いだろう。
肌は異星人らしいサイケデリックな青を基調とした黄色のライン線が入った不気味な姿だった。
「……クックック……。計算外だった……。まさか侵略計画の最中、巨人族が邪魔に入るとは……」
「委員会の差し金ですか?」
モックンの件で、異星人にひどく冷たい態度で奪ったブラスターの銃口を向けてリズは問いただす。
「委員会……? あんなもの……加入して、仮に侵略に成功したところで、地球の土地は他の奴らと分譲する羽目になる……。俺たちは俺たちのやり方で地球を侵略するだけだ……」
異星人は咳き込みながら、もはや観念したのか、素直に……そして若干嘲笑うように喋った。
「なんでお前達は地球を侵略するんだ……? そんなにここを手に入れたいのか?」
「……今が、絶好の好機なんだよ。地球人の文明は……もうすぐ加速する。そうしたら、またこの地球を汚す……。地球が汚れてからじゃ遅いんだよ……。地球は……二度は耐えられない……」
その時、思わぬ方向からブラスターらしき弾丸の光弾が飛び出し、異星人の胸を貫いた。
「な……何故……?」
レイ達から離れていた村人の中から一人の男が現れて、その本来の姿を現し、村人を驚愕させた。
「貴様はべらべらと喋り過ぎなのだよ、同胞よ。計画は失敗したとしても、必要以上に喋る必要性はあるまい」
蝉人間へと姿を変えた村人の男――異星人は、村人達やレイ達に銃口を向けて離れるように指図する。
特にリズは異星人のブラスターを持っていたので、それを奪い返された。
「貴様が失敗したお陰で、侵略計画も練り直しだ。成功を見守りたかったが、残念だよ」
奪い返したブラスター二丁を振りかざすと、トドメとばかりに何発も失敗した異星人の身体に光弾を打ち込む。
焦げて穴だらけになった異星人の遺体は、そのうち泡を出し溶けて地面へと吸い込まれて消えていった。
「では、諸君。つかの間の平穏を楽しみたまえ。それでは、御機嫌よう」
左脇に右手のブラスターを挟むと、ふところからリモコンを取り出して押すと、山から円盤が現れ、村の外の平原に着陸し、異星人を乗せて飛び去った。
残されたのは、目の前で起きた衝撃の出来事に対する動揺と、村の外の平原の草が円形の渦で倒された模様だけであった。
「私達……何をしたんでしょうか……? あの子のお母さんを助けるって言っておいて……結局……」
リズは今の現状を改めて理解すると、自分の無力さに打ちひしがれ、肩を揺らしながら再び嗚咽を漏らした。
無力な自分が嫌いだ。
己に降りかかる危険を払いのける程度の力はあっても、誰かを救う力にはなっていない。
そんなもの力がないのと同じ事ではないか。
そう思っていると、レイも涙こそ流していなかったが、悔しそうに拳を何度も地面に殴りつけていた。
力があっても、何もできなかったレイの方が、一番無力さを感じているのかもしれない。
そう思い、打ちひしがれていると、泣いているリズを心配したのか、モックンがそばにきてぎゅっと抱きしめてきた。
自分も異星人に蹴られて痛くて苦しいだろうに。
そして、最愛の母を目の前で失って自分が一番悲しいだろうに。
「モックン……あなたは……すごく、強いんですね……。っ……!」
モックンの健気な強さに、リズはモックンを抱きしめかえしてむせび泣いた。
レイは、ひたすら、己の無力さが腹立たしく、地面に溶けて消えた蝉人間に跡に向かって殴り続けた。
「じゃあ、俺たちは行くよ。もう魔獣は襲ってこないと思う……しばらくは」
幌馬車の御者台にリズを乗せて、レイは牽引の鞍を担いで、村人に別れを告げていた。
レイとリズに直接別れの挨拶をするのは、あの兄弟の父親だった。
「……俺たちは、結局何も出来なかった。よそ者のあんたに来てもらわなかったら、俺たちはこの村で全滅していた。……ありがとうよ」
「なぁ、ひとつ聞いていいか? なんでこの村をこんなに守ってたんだ? 死んだら意味ないだろ?」
「……この村はなァ、領主様に貸与されたんだよ。他の村はどうかしらんが、お陰で俺らが頑張ればその分の稼ぎが増えて豊かになる。……この村にはな、俺たちの希望があるんだよ。だから、捨てらんねぇ」
「そっか、希望か。……捨てたくないよな」
レイは手を振って、彼と、村人達に別れを告げた。
リズも何も言える事がないまま、手を振る事が精一杯だった。
レイとリズを見送る村人の中に、魔獣の姿のままのモックンが兄弟と並んでそこにいる。
「なぁ、いっちゃうぞ? にーちゃんとねーちゃん」
『キュイ?』
「おまえ、このままでいいのかよ? あのにーちゃんとねーちゃんにもうにどとあえなくなるぞ?」
「おれたちはずっとこのむらにいるから、またあそぼうな!」
『キュイ……キュイ!』
二人の兄弟――レオとトラに促され、モックンはとことこと走り、レイとリズの馬車を追いかけた。
「……アイツを行かせたのか、おめぇら」
「おれたちより、あのにーちゃんたちのほうが、あいつのためなんだよ」
「あいつつよいよな。かーちゃんがしんでも……ないてなかったんだぜ……」
「あぁ、アイツはつえーよ」
モックンは転びながらも、懸命に立ち上がりレイとリズに追いつくべく走り続けた。
「あのにーちゃん凄かったなァ……。あぁいうのを『勇者』って言うのかもなァ」
「とーちゃん、おれ、あのにーちゃんみたいにつよくなる! つよくなって、このむらをまもる!」
「つよいやつにたちむかうのがおとこだって、にーちゃんいってたもんな!」
「あぁ、強くなれよ! レオ! トラ!」
モックンの息を切って走る姿に、リズはようやく気付いて、レイに止まるように慌てて言う。
「……! モックン……! どうして!?」
『キュイ!キュイ!』
「『二人と一緒にいたい』……『お母さんを助けてくれた二人を助けたい』……? モックン、あのですね……私達は……あなたのお母さんを……助けられ……っ」
モックンが健気に二人を肯定し感謝してくれている事に、リズは申し訳なかったが、モックンは変わらず笑顔でリズに懐いてハグをする。
「……モックン、ありがとうな」
動揺しまいと、レイはわずかな作り笑顔でモックンの頭を撫でる。
するとモックンは二人の前で立派な馬に変身したのだ。
「モックン、お前……!」
馬となったモックンは返事の代わりに馬らしく嘶き、自ら牽引用の鞍を担ぐ。
子供でも魔獣らしく力はあり、楽々とまではいかないが不自由なく幌馬車を引いている。
そして二人に出発を急かすように嘶いた。
「えへっ……。励まされちゃいましたね」
リズは溢れる涙を懸命に拭き、笑顔でレイに同意を求めた。
「本当に強いな、アイツ……」
レイは溢れて頬を伝う涙に構わずリズに笑顔で同意すると、リズの手を取って二人で御者台に座る。
「行くぞ、モックン。場所はあの空の透明の船の方角だ」
モックンは元気よく嘶き、馬車を引く。
三人は新たな仲間を得て、ギアスのいる船を目指して出発した。
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