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第1部 2章 辺境の町メルキス
再会
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「さあ、邸に向かうぞ」
「邸?」
冒険者ギルドを出るとそんなことをクウィードさんが言い出した。そういえばガイエルって偉くなってたっけ?
「ああ、ガイエル様が今住んで居られるところだ」
「えっ!?ミツキちゃんに用事があるのってガイエル様なの?」
「そうだ。ほら、馬に…いや、歩いていくか」
「お願いできますか?」
さすがに街中で走られても怖いし、何よりあの気分の悪さを一日に何度も味わいたくはない。まあ、リリーの方も私に慣れてくれたみたいで、今は大人しいんだけどね。なので、アルテラさんと一緒に手綱を持って、私たちは目的の邸を目指す。
「止まれ!これはクウィード様。お通り下さい」
「ああ。通らせてもらう」
「今のは?」
「貴族や騎士たちが住むエリアへの見張りだ。他にも商業エリアや住宅エリアに分かれている。もっとも、商業エリアは上階や裏が住宅の場合が多いから大まかな分け方だがな」
なるほど、さすがに貴族の住居エリアには見張りがいるんだ。お邸にも個別に門番とかいるのかな?
「その冒険者証じゃ、中には入れないから注意してね。手紙を送るのも難しいの」
「行くことはないと思うけど、覚えておきます」
きっと、他の町でも一緒だろうから覚えておかないとな。それから、5分ほど歩くと周りに兵舎が見えて来た。でも、クウィードさんはそれらをスルーして進んでいく。
「まだですか?」
「ガイエル様は領主館の脇に別邸を構えておられる。後少しだ」
「分かりました」
どうやら、あのガイエルはずいぶんと出世したらしい。そして、今までのクウィードさんの口ぶりから察するに、かなりの時間が経っているようだ。
「でも、どうして今呼んだんだろう?」
「それについては俺からも言えん。直接聞くといい」
「そうですね。そうします」
どうせすぐに本人に会えることだし、別に急いで聞く必要もない。それより、歩き詰めで結構疲れて来た。2人は騎士でそれなりの装備をしているけれど、体力があるんだろうな。魔法で鎧の重さをごまかしている私より足取りは軽やかだ。
「着いたぞ」
「ここがガイエルの家…でっか!?いや、相当大きくない?」
案内された邸は恐らく3階建てだろうが、門から邸まで10mぐらいあるし、庭も立派だ。
「それはそうだろう。それにしてもガイエル様と知り合いだったのか?」
「あっ、いや~」
「この子の祖母がな」
「そうだったのか。それではガイエル様の身分も知らなかったのか?」
「なんとなくしか」
危ない、クウィードさんに注意されていたのに、驚いてつい呼び捨てで呼んじゃった。
「さあ、話していても仕方ない。入るぞ」
「あっ、はい」
こうして、私はガイエルと再会するため、邸の中へと入っていった。
「ん?これはクウィード様!お戻りに」
「ああ、ガイエル様から任務を預かっていてな。クウィード、アルテラ、両名帰還したと伝えてくれ」
「はっ!」
門番さんは顔パスして邸に入ると、執事らしき人に事情を説明するクウィードさん。ひょっとして、クウィードさんも偉い人だったりするのだろうか?いや、騎士さんだから偉いとは思うのだけど…。
「お待たせしました。ガイエル様が直ぐにお会いするとのことです」
「分かった。場所は?」
「自室にて、とのこと」
「そうか…」
ガイエルと会う場所を聞くとクウィードさんは伏し目がちになる。どうしたんだろう?
コンコン
「クウィードです」
「帰ってきたのね。入って」
クウィードさんが扉をノックして声をかけると入室の許可が出た。随分親しそうだけど、誰だろう?
ガチャリ
「クウィード、ただいま戻りました」
「同じく、アルテラ。戻りました」
「おおっ!ようやく戻ってきたか。クウィード、どうしていたのだ?この一大事に!」
「それは…」
「わしが頼みごとをしていたのだ」
「父上!」
「お義父さま!?」
「それで、彼女は?」
「こちらにお連れ致しました」
「ど、どうも。ガイエル…様ですか?」
私はそうであろう人物に話しかける。でも、その姿は私の記憶とは全く違っていて、とても弱々しかった。
「ああ。名は何という?」
「ミツキです」
「…そうか」
「父上、この少女は一体?」
「昔、私が見習だった頃に世話になったものの孫だ。身寄りがない孫を頼むという便りをもらったのでな」
「そのようなこと私に言っていただければ…」
「どうにも騎士気分が中々抜けなくてな。自分で本当は会いに行きたかったのだが…うっ!」
「大丈夫ですか?」
「あの、ガイエル様って具合が悪いんですか?」
さっきからベッドの背もたれにもたれかかっているガイエル。何かの病気だろうか?
「ああ。長い間、騎士として前線に立たれていたせいか、傷も多くてな。まだ、しばらくは大丈夫だろうが…」
そういうクウィードさんの目がもうあまり長くはないと告げていた。久しぶりに目にしたガイエルは白髪まみれの髪となっていて、あれから数十年の時が流れたことを私に静かに語りかけていた…。
「邸?」
冒険者ギルドを出るとそんなことをクウィードさんが言い出した。そういえばガイエルって偉くなってたっけ?
「ああ、ガイエル様が今住んで居られるところだ」
「えっ!?ミツキちゃんに用事があるのってガイエル様なの?」
「そうだ。ほら、馬に…いや、歩いていくか」
「お願いできますか?」
さすがに街中で走られても怖いし、何よりあの気分の悪さを一日に何度も味わいたくはない。まあ、リリーの方も私に慣れてくれたみたいで、今は大人しいんだけどね。なので、アルテラさんと一緒に手綱を持って、私たちは目的の邸を目指す。
「止まれ!これはクウィード様。お通り下さい」
「ああ。通らせてもらう」
「今のは?」
「貴族や騎士たちが住むエリアへの見張りだ。他にも商業エリアや住宅エリアに分かれている。もっとも、商業エリアは上階や裏が住宅の場合が多いから大まかな分け方だがな」
なるほど、さすがに貴族の住居エリアには見張りがいるんだ。お邸にも個別に門番とかいるのかな?
「その冒険者証じゃ、中には入れないから注意してね。手紙を送るのも難しいの」
「行くことはないと思うけど、覚えておきます」
きっと、他の町でも一緒だろうから覚えておかないとな。それから、5分ほど歩くと周りに兵舎が見えて来た。でも、クウィードさんはそれらをスルーして進んでいく。
「まだですか?」
「ガイエル様は領主館の脇に別邸を構えておられる。後少しだ」
「分かりました」
どうやら、あのガイエルはずいぶんと出世したらしい。そして、今までのクウィードさんの口ぶりから察するに、かなりの時間が経っているようだ。
「でも、どうして今呼んだんだろう?」
「それについては俺からも言えん。直接聞くといい」
「そうですね。そうします」
どうせすぐに本人に会えることだし、別に急いで聞く必要もない。それより、歩き詰めで結構疲れて来た。2人は騎士でそれなりの装備をしているけれど、体力があるんだろうな。魔法で鎧の重さをごまかしている私より足取りは軽やかだ。
「着いたぞ」
「ここがガイエルの家…でっか!?いや、相当大きくない?」
案内された邸は恐らく3階建てだろうが、門から邸まで10mぐらいあるし、庭も立派だ。
「それはそうだろう。それにしてもガイエル様と知り合いだったのか?」
「あっ、いや~」
「この子の祖母がな」
「そうだったのか。それではガイエル様の身分も知らなかったのか?」
「なんとなくしか」
危ない、クウィードさんに注意されていたのに、驚いてつい呼び捨てで呼んじゃった。
「さあ、話していても仕方ない。入るぞ」
「あっ、はい」
こうして、私はガイエルと再会するため、邸の中へと入っていった。
「ん?これはクウィード様!お戻りに」
「ああ、ガイエル様から任務を預かっていてな。クウィード、アルテラ、両名帰還したと伝えてくれ」
「はっ!」
門番さんは顔パスして邸に入ると、執事らしき人に事情を説明するクウィードさん。ひょっとして、クウィードさんも偉い人だったりするのだろうか?いや、騎士さんだから偉いとは思うのだけど…。
「お待たせしました。ガイエル様が直ぐにお会いするとのことです」
「分かった。場所は?」
「自室にて、とのこと」
「そうか…」
ガイエルと会う場所を聞くとクウィードさんは伏し目がちになる。どうしたんだろう?
コンコン
「クウィードです」
「帰ってきたのね。入って」
クウィードさんが扉をノックして声をかけると入室の許可が出た。随分親しそうだけど、誰だろう?
ガチャリ
「クウィード、ただいま戻りました」
「同じく、アルテラ。戻りました」
「おおっ!ようやく戻ってきたか。クウィード、どうしていたのだ?この一大事に!」
「それは…」
「わしが頼みごとをしていたのだ」
「父上!」
「お義父さま!?」
「それで、彼女は?」
「こちらにお連れ致しました」
「ど、どうも。ガイエル…様ですか?」
私はそうであろう人物に話しかける。でも、その姿は私の記憶とは全く違っていて、とても弱々しかった。
「ああ。名は何という?」
「ミツキです」
「…そうか」
「父上、この少女は一体?」
「昔、私が見習だった頃に世話になったものの孫だ。身寄りがない孫を頼むという便りをもらったのでな」
「そのようなこと私に言っていただければ…」
「どうにも騎士気分が中々抜けなくてな。自分で本当は会いに行きたかったのだが…うっ!」
「大丈夫ですか?」
「あの、ガイエル様って具合が悪いんですか?」
さっきからベッドの背もたれにもたれかかっているガイエル。何かの病気だろうか?
「ああ。長い間、騎士として前線に立たれていたせいか、傷も多くてな。まだ、しばらくは大丈夫だろうが…」
そういうクウィードさんの目がもうあまり長くはないと告げていた。久しぶりに目にしたガイエルは白髪まみれの髪となっていて、あれから数十年の時が流れたことを私に静かに語りかけていた…。
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