デュラハンちゃんの旅日記

弓立歩

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第1部 1章 始まりの大地

初めての空

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「こ、これが…」

「ああ、外だ」

 洞窟の入り口にたどり着くと、私は馬鹿みたいにポカーンと立ち尽した。でも、許して欲しい。久し振りの太陽はもちろん、初めて異世界で浴びる日光なのだ。

「どうだ、外は?」

「素晴らしいです!この降り注ぐ陽光!そして、小鳥たちの鳴き声に風によって揺れる木々のささやき!」

「そ、そうか。そんなに感動するとは…」

「だって、生まれて初めての外ですよ!多分…」

 そこはあんまりはっきり言うのも良くないので濁しておく。

「まあ、それならしょうがないか。さ、満足したら村に向かうぞ」

「あっ、待ってください!先に確認を」

「おっとそうだったな。人気は…ないか?」

「ちょっと待ってくださいね。こういう時に良い魔法があるんです。ライトウェーブ」

 私はかすかな光を周囲にばらまく。日中ならこの光は目立つことなく風景に溶け込めるだろう。そして、その光の反射具合で地形や生物がいないか確認するのだ。

「今日の日のために使い方を考えていてよかった~」

「すごい魔力コントロールだな」

「まあ、これでも上級魔族らしいですからね!」

 デュラハンって脳筋の騎士かと思ったら、かなり魔法の適性もあるみたいでこうして自在に魔法を操ることができるのだ。本気モードはもっとすごいけどね。

「おっ、なんか近くに反応がありますね。これは不味いかも」

「どこだ?」

「えっと、あっちの方角です。ただ、動きがないところを見るとすぐにばれそうではないです」

「一応警戒して洞窟の入り口からは離れるか。そうだな…確かこの北側に開けたところがあるからそっちに移動しよう」

「分かりました」

 私たちは反応のあった存在に気づかれないよう、こそこそと場所を移動する。そして、デュラハンが日光で影響を受けないか確認だ。


「ちょっと待ってくださいね」

 私は首に巻いたスカーフを外す。私の人化は首の着脱で解けるのでそれを防ぐためと、ないとは思うけど、切れ目のようなものが見えないように用心でつけている。

「そして、首を取り外して…」

 中々怖い台詞かもしれないが、デュラハンとしては当然の行いなので特に何とも思わない。首が頭から離れた瞬間、私の体は人間から魔族へと早変わり。

 ガシャン

 そして、デュラハン化に伴って視界が悪くなるために脱いでいた兜もし、完全武装になる。これで上級魔族であるデュラハンのリスティル登場だ!

「なっ、なんだ、このオーラは…立っているだけで気圧される!」

「どうかしました?」

 私がデュラハンに戻ると、いきなりクウィードさんが後ずさった。何かいる気配はないんだけど…。

「近寄るな!…本当に魔族なんだな。今のお前からは恐ろしいほどのオーラを感じるぞ」

「そうですか?そういうのって自分では分からないので」

 そんなことを言われても私は全く何も感じないし、している覚えもない。

「強者ゆえの感覚ということか。それで、日の光は?」

「なんともないですね。動きが重いなんてこともありませんし、全く問題ないです」

 私は鎧姿でぶんぶんと腕を振り回したり、足を動かしたりするものの、影響は何も感じない。

「そうか。それは良かったというかなんというか」

「まあ、ちょっと剣を振れば分かりますよ」

 ブゥン

 ズバッ

 ついでに私は愛剣を振るうと、少し離れたところにある木が真っ二つに斬り裂かれた。

「あれ?おかしいなぁ。そこまで力を込めてないのに…」

 まだ、自分の力がコントロールできていないのか、私が不思議がっていると声が聞こえて来た。

「な、何だ!?今の音は!」

「不味い、誰かに見つかったぞ!」

「い、急いで戻ります」

 私はすぐに頭を体に乗せる。ううっ、この瞬間は魔力で重さをごまかせないから重たい…。そんなわけで、私が人間に戻るとすぐに足音が迫ってきた。

「誰っ!?そこに誰かいるの?」

「ん?この声は…」

「知っている人ですか?」

「ああ、一緒に来ている騎士だ。アルテラ!ここだ」

 どうやら、居るのがばれたのはクウィードさんと一緒に来ている騎士の人だったみたいだ。よかった、のかな?

「あっ、やっぱりクウィードだったのね!…その方は?」

「ん?ああ、老公から受けていた依頼の件だ。これから俺たちに同行する」

「どうも、ミツキと言います」

 私は人間になったら名乗ろうと思っていた前世での名前を名乗る。

「そう、よろしく」

 こうしてクウィードさんに同行していたアルテラという騎士の人を紹介してもらった。でも、事務的な態度だし、人見知りとかする人なのかな?いや、全身鎧姿のこの姿を怪しんでいるだけっぽいな。

「では、用事も済んだし町に戻るぞ」

「もういいの?」

「ああ。リス…ミツキも付いて来てくれ」

「はい」

 こうして3人になった私たちは村へと歩いていった。


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