デュラハンちゃんの旅日記

弓立歩

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第1部 1章 始まりの大地

光の下へ

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「それで、こんなに入り組んだ道なの?」

 出口まで向かう道中、私はクウィードに案内を受けていた。

「ああ。魔物が住んでいるので定期的に騎士団が見回る他に、町に被害が出ないようこうして地形も変えてしまうんだ。俺も、ガイエル様に聞いてなんとか辿り着いたんだ」

 そう話すクウィードの顔には疲労が浮かんでいる。途中の道にも魔物の死骸があることから、かなり大変だったみたいだ。

「クウィード、頑張ったんだね。こんな強い魔物を倒して」

 私は洞窟内に転がっている魔物をツンツンする。

「いや、お前が倒していたケイブクロコダイルよりは断然弱い」

「それでもひとりで来たんでしょ?すごいよ。ところでなんで一人だけで来たの?騎士団で巡回してるんだよね?」

「ああ、ガイエル様からの直々の依頼でな。お前の立場もあるから極秘任務なんだ。最初は冗談かと思ったが、まさか本当にいるとはな…」

 そう言って、遠い目をするクウィード。

「ふ~ん、証拠とか見せてもらわなかったの?」

「そんなもの持ち合わせていないと言われていたぞ?」

「あっ、そういえば私が渡したものって魔力草ぐらいだった」

 流石に魔力草を見せて私がデュラハンです!なんて言っても効果はないだろう。とはいえ、ガイエルが来るたびにある程度の量を渡していたから、それの販売書類だけでも見せていればちょっとは信用してもらえたかもしれないのに。

「相変わらず詰めが甘いなぁ、ガイエルは」

「今は立派なお方で立場もある。人がいる時に呼び捨てで言わないようにな」

「分かってます。私も孫娘でいいんだよね?」

「ああ。それと金は持っているのか?一応、町に入る時は入場料がいるのだが…」

「あっ、それなら持ち合わせがあるよ。ほら!」

 私は最初から異空間の中に入っていた金貨を取り出す。恐らく女神様が私の新生活を助けるために入れてくれたものだろう。

「なんだこれは?ひょっとして、ガンドール金貨か?」

 私が金貨を出すと、クウィードは奇妙なものを見る目で見て来た。

「何それ?」

「今よりひとつ前の通貨だ。確か廃止されて100年は経つぞ?まだ使えんこともないが、正式な通貨ではないからどこかで換金する必要があるな」

「えっ!?じゃあ、そんなに価値がない金貨なの?」

 長い修行の間に女神様がくれた金貨が無価値になっちゃうなんて!本当にさっさと町に行けばよかったよ、トホホ。

「いや、元から金でできているからそれなりに価値はある。それにお前が持っているガンドール金貨は全て綺麗だな。これならコレクター価値があるから、今の流通金貨より価値が高くなるだろう」

「本当?それなら、まだそれなりにあるから大金持ちだね!」

 女神様の加護がまだ生きていたことに私は安心する。

「あのな。これだけ珍しい状態の金貨を大量に持ち込んだら足も付くし、絶対に狙われるぞ?そうなるとお前の出自を怪しむものも増えるだろう」

「ええ~!?それはやだなぁ。まあ、そんなに上手くはいかないってことか」

 諦めて、金貨の交換は各町で数枚程度にしておこう。その間に冒険者として依頼を受ければきっと日々を生きるぐらいはできるだろう。そう思い直した私はクウィードに遅れないようついて行った。


「まだ、洞窟を出られないの?」

「心配するな。後、数分で外に出られる」

「本当!?いや~、さっきも思ったけど、この距離ならもっと早くに出るんだったなぁ」

 込み入った道とはいえ、たかだか歩いて1時間ぐらいなんだもん。

「俺たち人間からしたらごめん被るな。デュラハンと言えば、魔族の中でも上級の存在だ。その辺に転がっている魔物とは訳が違う」

「うう~ん。自分がそんなに強いだなんて思わないけどなぁ。私ってほとんど他の存在と戦ったことがないし」

「だが、人間の姿でも簡単に魔物を倒しただろう?それとも、人間形態でも能力が下がらないのか?」

「ううん。力とかはすっごく下がるよ!もう、比べ物にならないって感じで。魔力だけはそれなりに残るから戦えなくはないんだけどね。後は神経っていうのかな?危険に対する適応力?とにかく魔物がやって来そうとかそういう感覚が鈍るから、今の私が魔族の私と戦ったら勝負にならないかな?」

「そ、そうか」

 それを聞いて、少し早足になるクウィード。そんなに警戒しなくてもいいのに。今も重たい鎧を着こんで動けるのは魔力でどうにかしてるからなんだよね。

「それはそうと、外に出ると日の光を浴びる訳だが大丈夫か?」

「う~ん。浴びた記憶はないから分からないなぁ。でも、ひとまず今は人間だから大丈夫!一応、外に出てすぐに確認するね!」

 能力が下がるとかデメリットがあるなら今の内に知っておきたいからね!

「分かった。近くの村に同僚が来ているから、いないかの確認をしてからだな」

「は~い。あれ?同僚の人も一緒に来てるんだ?」

 極秘任務っていうぐらいだから、てっきり一人かと思ってたのに。

「まあ、お前を迎えに行く任務は極秘だが、流石に建前は必要だからな。その関係で今は洞窟に近い村に待機してもらっている」

「その人がクウィードのことを心配して入り口にいたりしてね」

「そうでないことを祈ろうか」

 そんな話をしていると、いよいよ前方が明るくなって来た。


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