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第1部 3章 新たな住まい
契約と次なる行先
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「では、こちらで書類の方はお終いです。いつ頃移られますか?」
「えっと、できれば早いうちに…」
これ以上正体がばれないように一日でも早く入りたい。
「修繕個所はないと思いますが、3日ほど確認するお時間を頂ければと思います」
「修繕個所は私が確認いたしますので、本日より住むことは可能ですか?」
「ライラ!?」
「お邸での生活は緊張なさいますよね?」
ライラさんがはにかみつつ、私の方を向いてくれる。言外のこともきっと心配してくれてるんだろうな。頼りになるメイドさんだ。
「は、はい。できれば早く移りたいです」
「では、すぐに用意を致しますね。ただ、流石に現状では埃もありますので、3時間ほどお待ちいただけますか?店の方で大至急整えますので」
「だ、大丈夫ですか?」
普通の業務もあるのに、そんなに急かせてしまっていいのかな?
「では、お願いいたします。我々はその間に食器など不足しているものを買っておきますので」
「承知しました」
なんだかライラさんと店員さんの間で話がまとまってしまった。ちょっと悪いことをしたなぁと思いつつも、これ以上は邪魔になるので店を出る。
「すみません、急がせてしまって」
「いいえ。これもお客様のためですから、では」
そそくさと店に入っていくお姉さん。きっとこれから忙しいんだろうな。
「さて、それではこれから新居に必要なものを買っていくか」
「はい。でも、今から買うと持っていくのが大変じゃないですか?」
「ああ、それなら馬車を呼べばいい。くれぐれもあっちは使うなよ」
「は、はい」
クウィードさんが言っているのは空間魔法の事だろう。本当に貴重な属性なんだな。私は便利だから今まで気にせず使っていたけど、これからは控えなくちゃ。
「でも、馬車を手配するなら一度戻らないといけませんね」
「いや、町馬車を借りれば大丈夫だ」
「ええっ!?馬車って借りられるんですか?」
意外だ。高いものだと思うのに、貸し借りだなんて。
「ああ。普通に町の外へ行くのにも借りられるし、街中だけの一時的なものなら当日でも可能だ」
「へぇ~。でも、街中だけだとそんなにお金も取れないと思うんですけど、馬車を貸す方は儲かるんですか?」
「それがそうでもないのよ。馬車を引く馬は常に多めに持っているから、余っている馬はいるの。今回も借りるといっても4時間もかからない程度で走ったりもしないから、向こうとすれば助かるわ。何より、貴族からの依頼だしね」
「なるほど。実績にもなるんですね」
「ええ、貴族が借りるところが変な商売をしないだろうってね。金額も街中だけなら銀貨2枚ぐらいかしら?」
「それって高いんじゃないんですか?あまり貨幣の価値は知りませんけど…」
さりげなく銀貨2枚が安いというアルテラさんだけど、本当だろうか?
「そういえば、その辺りの話もしてなかったな。後でライラに聞いておくといい。屋台で金貨を出すような人間になりたくなかったらな」
「分かりました」
「それではまずは馬車を借りに参りましょう」
「はい」
ライラさんの一声を合図に私たちは馬車を扱っている店に向かう。商業エリアに近いところにあるみたいで、途中には私が住むことになる家も通り過ぎた。
「やっぱり、家が気になる?」
「そうですね。持ち家なんて初めてですし、ここで暮らすんだなって実感が沸きます」
「だが、まずは生活になれることだ。無理に依頼を受けに行かなくていいからな」
「はい。でも、やっぱり早いうちに一つは受けておきたいですね。のんびりしてると一生、行かなくなりそうです」
現に今まで、機会があっても外に出なかったし。今後はもう少しアクティブに行きたいからね。
「ミツキならありそうね。あっ、見えて来たわよ」
アルテラさんが前方を指差すと、馬車を扱う店の看板が見えて来た。
「店主、いるか?」
「これはクウィード様。本日はどのようなご用件で?」
「少し街で買い物をすることになってな。ある程度量を買うので、荷馬車を一台借りたい」
「そうですか、何か重たいものは運ばれますか?」
「それは買わないつもりだが、新居に家具以外のものを運び込むつもりでな。最終的に重くなるかもしれん」
「それはそれは!とうとう…」
そう言いながら店主のおじさんがクウィードさんとアルテラさんを見比べる。
「何を勘違いしている!こちらのお嬢様の分だ」
「これは失礼いたしました。直ぐに手配いたします」
アルテラさんに睨まれ、捨て台詞を残すかのようにおじさんは駆けていき、直ぐに戻ってきた。
「早いな」
「それはもう。ちょうど、今待機中の馬に良い馬がおりまして。表に出しておりますので、ご確認ください」
店主のおじさんの言う通り、表に出ると立派な黒毛の馬が馬車を引いていた。
「こいつは体が大きい割には大人しい馬でして、どのような買い物をされても問題ありません」
「そうか。代金は?」
「いつも通り、銀貨2枚です」
「じゃあ、これで頼む」
「ありがとうございます」
クウィードさんが店主のおじさんに料金を支払う。う~む、さっきもだけど色々と払ってもらって悪いなぁ。まあ、私はまだ法定通貨を一枚も持ってないから払えないんだけど。
「ん?御者もいるのか?」
「はい。今からですと食事もされるかと思いまして」
「悪いな。このことはきちんと報告しておく」
「ありがとうございます」
こうして馬車を手に入れた私たちはおじさんに見送られながら商業エリアへと向かった。
「えっと、できれば早いうちに…」
これ以上正体がばれないように一日でも早く入りたい。
「修繕個所はないと思いますが、3日ほど確認するお時間を頂ければと思います」
「修繕個所は私が確認いたしますので、本日より住むことは可能ですか?」
「ライラ!?」
「お邸での生活は緊張なさいますよね?」
ライラさんがはにかみつつ、私の方を向いてくれる。言外のこともきっと心配してくれてるんだろうな。頼りになるメイドさんだ。
「は、はい。できれば早く移りたいです」
「では、すぐに用意を致しますね。ただ、流石に現状では埃もありますので、3時間ほどお待ちいただけますか?店の方で大至急整えますので」
「だ、大丈夫ですか?」
普通の業務もあるのに、そんなに急かせてしまっていいのかな?
「では、お願いいたします。我々はその間に食器など不足しているものを買っておきますので」
「承知しました」
なんだかライラさんと店員さんの間で話がまとまってしまった。ちょっと悪いことをしたなぁと思いつつも、これ以上は邪魔になるので店を出る。
「すみません、急がせてしまって」
「いいえ。これもお客様のためですから、では」
そそくさと店に入っていくお姉さん。きっとこれから忙しいんだろうな。
「さて、それではこれから新居に必要なものを買っていくか」
「はい。でも、今から買うと持っていくのが大変じゃないですか?」
「ああ、それなら馬車を呼べばいい。くれぐれもあっちは使うなよ」
「は、はい」
クウィードさんが言っているのは空間魔法の事だろう。本当に貴重な属性なんだな。私は便利だから今まで気にせず使っていたけど、これからは控えなくちゃ。
「でも、馬車を手配するなら一度戻らないといけませんね」
「いや、町馬車を借りれば大丈夫だ」
「ええっ!?馬車って借りられるんですか?」
意外だ。高いものだと思うのに、貸し借りだなんて。
「ああ。普通に町の外へ行くのにも借りられるし、街中だけの一時的なものなら当日でも可能だ」
「へぇ~。でも、街中だけだとそんなにお金も取れないと思うんですけど、馬車を貸す方は儲かるんですか?」
「それがそうでもないのよ。馬車を引く馬は常に多めに持っているから、余っている馬はいるの。今回も借りるといっても4時間もかからない程度で走ったりもしないから、向こうとすれば助かるわ。何より、貴族からの依頼だしね」
「なるほど。実績にもなるんですね」
「ええ、貴族が借りるところが変な商売をしないだろうってね。金額も街中だけなら銀貨2枚ぐらいかしら?」
「それって高いんじゃないんですか?あまり貨幣の価値は知りませんけど…」
さりげなく銀貨2枚が安いというアルテラさんだけど、本当だろうか?
「そういえば、その辺りの話もしてなかったな。後でライラに聞いておくといい。屋台で金貨を出すような人間になりたくなかったらな」
「分かりました」
「それではまずは馬車を借りに参りましょう」
「はい」
ライラさんの一声を合図に私たちは馬車を扱っている店に向かう。商業エリアに近いところにあるみたいで、途中には私が住むことになる家も通り過ぎた。
「やっぱり、家が気になる?」
「そうですね。持ち家なんて初めてですし、ここで暮らすんだなって実感が沸きます」
「だが、まずは生活になれることだ。無理に依頼を受けに行かなくていいからな」
「はい。でも、やっぱり早いうちに一つは受けておきたいですね。のんびりしてると一生、行かなくなりそうです」
現に今まで、機会があっても外に出なかったし。今後はもう少しアクティブに行きたいからね。
「ミツキならありそうね。あっ、見えて来たわよ」
アルテラさんが前方を指差すと、馬車を扱う店の看板が見えて来た。
「店主、いるか?」
「これはクウィード様。本日はどのようなご用件で?」
「少し街で買い物をすることになってな。ある程度量を買うので、荷馬車を一台借りたい」
「そうですか、何か重たいものは運ばれますか?」
「それは買わないつもりだが、新居に家具以外のものを運び込むつもりでな。最終的に重くなるかもしれん」
「それはそれは!とうとう…」
そう言いながら店主のおじさんがクウィードさんとアルテラさんを見比べる。
「何を勘違いしている!こちらのお嬢様の分だ」
「これは失礼いたしました。直ぐに手配いたします」
アルテラさんに睨まれ、捨て台詞を残すかのようにおじさんは駆けていき、直ぐに戻ってきた。
「早いな」
「それはもう。ちょうど、今待機中の馬に良い馬がおりまして。表に出しておりますので、ご確認ください」
店主のおじさんの言う通り、表に出ると立派な黒毛の馬が馬車を引いていた。
「こいつは体が大きい割には大人しい馬でして、どのような買い物をされても問題ありません」
「そうか。代金は?」
「いつも通り、銀貨2枚です」
「じゃあ、これで頼む」
「ありがとうございます」
クウィードさんが店主のおじさんに料金を支払う。う~む、さっきもだけど色々と払ってもらって悪いなぁ。まあ、私はまだ法定通貨を一枚も持ってないから払えないんだけど。
「ん?御者もいるのか?」
「はい。今からですと食事もされるかと思いまして」
「悪いな。このことはきちんと報告しておく」
「ありがとうございます」
こうして馬車を手に入れた私たちはおじさんに見送られながら商業エリアへと向かった。
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