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第1部 2章 辺境の町メルキス
お風呂
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「それではお先に失礼します」
「ああ、明日は家を見に行くのだろう?気を付けてな」
「ありがとうございます」
ゴーティス様とランダ様にそれぞれ頭を下げて退室する。さすがにお2人にはまだまだ緊張するなぁ。
「それでは、お部屋までお送りいたします」
「ありがとうございます、ライラさん」
「ライラで結構です。私はお仕えする身分ですので」
「う~ん、分かりました。じゃあ、ライラ。案内して」
これも貴族なりの作法なのだろう。私は貴族じゃないけど、招かれてる以上は合わせないとね。
「承知致しました」
こうして私はライラに案内されて部屋に戻った。
「そういえば、クウィードさんたちは?」
「邸の中では安全ですので、それぞれ自室に戻られております」
「あっ、そうなんだ」
てっきり、護衛と聞いていたから一緒に戻るのかと思った。
「お呼びいたしましょうか?」
「ううん。護衛だって聞いてたから一緒なのかなって思っただけ」
「そうでしたか、それではお風呂にいたしましょうか?」
「お風呂があるんですか?」
「はい。大衆向けも町にはありますよ。ただ、あちらはあまりきれいではありませんし、防犯的にもイマイチですね」
「そうですか…明日、家を買うことになっているんですけど、お風呂付の物件とかありますかね?」
お風呂は元日本人としては外せないし、大衆浴場が治安も悪くて汚いのは嫌だしなぁ。
「探せばあると思います。私も明日、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「いいんですか?ライラさんもしばらく一緒にいてくれるなら、来てくれると嬉しいです!」
ついでに他のことについても色々お願いしたいし。
「では、よろしくお願いします。それと、ライラでお願いします」
「あっ、すみません。まだ慣れていないので…」
どうしても年長者のライラさんを呼び捨てで呼ぶのは難しい。う~ん、これは心の中でさん付けさせてもらうことにしよう。
「では、私はお風呂の準備をしてまいります」
「あっ、よろしくお願いします。…よろしく」
「はい」
ううっ、ライラさんに気遣い無用ですって視線で語りかけられた。どうやらライラさんは結構キッチリした人のようだ。それから、わずか10分ほどで支度が出来たと告げられる。
「用意、早くないですか?」
「こちらの邸ではいつでも入れる準備をしておりますので。時間がかかったのは着替えの手配になります」
「はぁ~、すごいですね。うちで入る時はお湯を沸かすところからだったのに」
「普通はそうですし、各家庭にお風呂はないですから。さあ、どうぞ」
「おっと、その前にお風呂って10m以上離れてますか?」
「ええまあ」
不思議そうに返事を返してくれるライラさんには申し訳ないけど、私は無言で鎧を着こみ、ライラさんに案内されて、この世界初めてのお風呂へ向かったのだった。
「あ、あの、ひとりで入れますから!」
「そういう訳にはまいりません」
何故か鎧を着た私に質問することなくライラさんはお風呂場に着くと、着替えの準備をしてくれた。そして、私も鎧を脱いでいざお風呂というところで、今はもめている。なんと、お風呂で体を洗ってくれるとライラさんが申し出てくれたのだ。
「本当に大丈夫ですから」
「恥ずかしがらなくても大丈夫です。これも良い経験になりますよ」
「ううっ、分かりました。でも、首元だけは触らないでくださいね。ちょっと苦手で…」
「承知いたしました」
初異世界風呂!というところまでは良かったんだけど、まさかライラさんが入って来るとは。洗ってもらうのも確かにいい経験なのだけど、それは普通の人の話。私はデュラハンだから、まかり間違っても頭が取れてはいけない。念を押して、2人でお風呂に入る。
「かゆいところはございませんか?」
「大丈夫です。それにしても、大きい浴槽ですね」
気持ちよく体を洗ってもらいながら気になったことをライラさんに聞く。でも、自分から言うだけあって、洗い方もとっても気持ちいい~。頭が取れないとね。
「はい。入られる方にゆったりして頂かないといけませんので」
「なるほど~、それじゃあ、湯に浸かりますか」
「では、温度調節が必要でしたらお申し付けください」
「あれっ?ライラは入らないの?」
「もちろんです。このような恰好ですし」
そう言えば、ライラさんはメイド服のままだったな。なんで入る時に脱がないんだろうって思ったけれど、そういうことだったんだ。ライラさんには悪いけど、待ちきれない私は浴槽に体を浸ける。
「あ~、いい気持ちだな~。さすがに家にはこんな大きい浴槽は無理だけど、せめて足が延ばせるぐらいは欲しいなぁ」
私が何気なくそう言うと、すかさずメモを取り出して書き出すライラさん。いや、家を買ってもらえるだけでもすごいことなのに、これ以上は言わないよ。多分、恐らく…。そんな大満足なお風呂の時間が終わると、就寝の時間だ。別に起きていてもいいんだけど、夜を過ごすとしたら本を読むか誰かとお話しするぐらいしかないので、寝ることにした。見えない疲れもあると思うしね。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
就寝前には部屋の明かりをライラさんが消してくれる。そういえば、普通に明かりがついているけど、これってどういう仕組みなのかな?明日起きたら聞いてみよう。そう思いながら私は初めての町での1日を終えた。
「ああ、明日は家を見に行くのだろう?気を付けてな」
「ありがとうございます」
ゴーティス様とランダ様にそれぞれ頭を下げて退室する。さすがにお2人にはまだまだ緊張するなぁ。
「それでは、お部屋までお送りいたします」
「ありがとうございます、ライラさん」
「ライラで結構です。私はお仕えする身分ですので」
「う~ん、分かりました。じゃあ、ライラ。案内して」
これも貴族なりの作法なのだろう。私は貴族じゃないけど、招かれてる以上は合わせないとね。
「承知致しました」
こうして私はライラに案内されて部屋に戻った。
「そういえば、クウィードさんたちは?」
「邸の中では安全ですので、それぞれ自室に戻られております」
「あっ、そうなんだ」
てっきり、護衛と聞いていたから一緒に戻るのかと思った。
「お呼びいたしましょうか?」
「ううん。護衛だって聞いてたから一緒なのかなって思っただけ」
「そうでしたか、それではお風呂にいたしましょうか?」
「お風呂があるんですか?」
「はい。大衆向けも町にはありますよ。ただ、あちらはあまりきれいではありませんし、防犯的にもイマイチですね」
「そうですか…明日、家を買うことになっているんですけど、お風呂付の物件とかありますかね?」
お風呂は元日本人としては外せないし、大衆浴場が治安も悪くて汚いのは嫌だしなぁ。
「探せばあると思います。私も明日、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「いいんですか?ライラさんもしばらく一緒にいてくれるなら、来てくれると嬉しいです!」
ついでに他のことについても色々お願いしたいし。
「では、よろしくお願いします。それと、ライラでお願いします」
「あっ、すみません。まだ慣れていないので…」
どうしても年長者のライラさんを呼び捨てで呼ぶのは難しい。う~ん、これは心の中でさん付けさせてもらうことにしよう。
「では、私はお風呂の準備をしてまいります」
「あっ、よろしくお願いします。…よろしく」
「はい」
ううっ、ライラさんに気遣い無用ですって視線で語りかけられた。どうやらライラさんは結構キッチリした人のようだ。それから、わずか10分ほどで支度が出来たと告げられる。
「用意、早くないですか?」
「こちらの邸ではいつでも入れる準備をしておりますので。時間がかかったのは着替えの手配になります」
「はぁ~、すごいですね。うちで入る時はお湯を沸かすところからだったのに」
「普通はそうですし、各家庭にお風呂はないですから。さあ、どうぞ」
「おっと、その前にお風呂って10m以上離れてますか?」
「ええまあ」
不思議そうに返事を返してくれるライラさんには申し訳ないけど、私は無言で鎧を着こみ、ライラさんに案内されて、この世界初めてのお風呂へ向かったのだった。
「あ、あの、ひとりで入れますから!」
「そういう訳にはまいりません」
何故か鎧を着た私に質問することなくライラさんはお風呂場に着くと、着替えの準備をしてくれた。そして、私も鎧を脱いでいざお風呂というところで、今はもめている。なんと、お風呂で体を洗ってくれるとライラさんが申し出てくれたのだ。
「本当に大丈夫ですから」
「恥ずかしがらなくても大丈夫です。これも良い経験になりますよ」
「ううっ、分かりました。でも、首元だけは触らないでくださいね。ちょっと苦手で…」
「承知いたしました」
初異世界風呂!というところまでは良かったんだけど、まさかライラさんが入って来るとは。洗ってもらうのも確かにいい経験なのだけど、それは普通の人の話。私はデュラハンだから、まかり間違っても頭が取れてはいけない。念を押して、2人でお風呂に入る。
「かゆいところはございませんか?」
「大丈夫です。それにしても、大きい浴槽ですね」
気持ちよく体を洗ってもらいながら気になったことをライラさんに聞く。でも、自分から言うだけあって、洗い方もとっても気持ちいい~。頭が取れないとね。
「はい。入られる方にゆったりして頂かないといけませんので」
「なるほど~、それじゃあ、湯に浸かりますか」
「では、温度調節が必要でしたらお申し付けください」
「あれっ?ライラは入らないの?」
「もちろんです。このような恰好ですし」
そう言えば、ライラさんはメイド服のままだったな。なんで入る時に脱がないんだろうって思ったけれど、そういうことだったんだ。ライラさんには悪いけど、待ちきれない私は浴槽に体を浸ける。
「あ~、いい気持ちだな~。さすがに家にはこんな大きい浴槽は無理だけど、せめて足が延ばせるぐらいは欲しいなぁ」
私が何気なくそう言うと、すかさずメモを取り出して書き出すライラさん。いや、家を買ってもらえるだけでもすごいことなのに、これ以上は言わないよ。多分、恐らく…。そんな大満足なお風呂の時間が終わると、就寝の時間だ。別に起きていてもいいんだけど、夜を過ごすとしたら本を読むか誰かとお話しするぐらいしかないので、寝ることにした。見えない疲れもあると思うしね。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
就寝前には部屋の明かりをライラさんが消してくれる。そういえば、普通に明かりがついているけど、これってどういう仕組みなのかな?明日起きたら聞いてみよう。そう思いながら私は初めての町での1日を終えた。
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