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本編
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槍と剣のリーチの差は短剣との差に比べればはるかにましだ。しかし、不利という点においては間違いない。なら、どうするか―。あえて、不利な状況下から一気に攻め入るのみだ。
「はあっ!」
裂帛の気合とともに繰り出されるディーネの突きをぎりぎりで見極める。やや右上―――。
「はっ!」
体をひねりその槍先をかいくぐる。そして一気にディーネの肩を強襲する。
「ぐっ!」
思わず槍を落としそうになるディーネだったが、こらえて一気に引く。浅かったか…。
「やるわね。これじゃあゼノはきつかったでしょう。だけど、私も勝負の先にご褒美があるんだからね。そう簡単には負けられないわ」
左肩をかばうように槍を支えるだけで持ち、右に全神経を集中させている様だ。
「今のは私が先行して負けたわけだけど、この間合いからならそっちも手も足も出ないでしょう?」
確かにこのままでは、戦意無しとみられて失格となるかもしれない。ただし、彼女の方は前半から仕掛けていた分有利だろう。
「今ので決めたかったが仕方ない」
俺も対槍用の構えに切り替える。ただし、これは帝国流。彼女が対応できるかどうかで勝負は決まる。
「すぅ―――」
息を整え剣を構える。やや剣を突き出し突進する。
「芸のない動きね」
そして当然ながら彼女が試合を決めようと槍を突き出す。そして俺は剣を引きその穂先に向かって―――。
キィーーーン
「なっ、穂先に当てた?」
両手で剣を突いた俺と左手に力が入らないディーネ。さらに、元々の体格差もあり先端同士でぶつかった武器はそれぞれの反動を体に伝える。すなわち、俺には多少の反動を、ディーネにはより多くの反動を。
「もらった!」
そのまま、すぐに体勢を立て直した俺は剣をディーネの体に向ける。
「そこまで!勝者ガーランド!」
……。わぁぁぁぁ―――。一瞬の静寂の後、会場が沸き立つ。みんなが見守る勝負が終わったのだ。そのお互いの健闘を称える歓声はやがて拍手に代わる。
「負けてしまったわ…」
残念そうに言うディーネ団長に少しでも早く機嫌を直して欲しくてつい言ってしまった。
「ティアナも武芸をたしなむ女性の同士は貴重ですから今度招待しますよ」
「ほんと?ありがとう」
あまりに嬉しかったのか、ディーネ団長が両手で握手をしてくる。
「ガーランド様!」
ティアナの声がしてそちらを向くと顔が真っ赤になっている。どうやら怒り心頭のようだ。後で謝っておくとしよう。そんな俺とは対照的にディーネ団長はティアナに手を振るのだった。
そして勝負を終え、俺は再び控室に戻る。その際にカイラスとすれ違う。
「さすがだな。待ってろよ」
「お前も頑張れよ」
「ああ」
そう言っていったん別れる。
「いやあ、素晴らしい試合だった」
「ギルバート騎士団長…」
「まさか、槍を防ぐためにあんな技を見せるとはな」
「あれはディーネ団長の腕がいいからですよ。彼女は間違っても急所に当たらないようにそして正確に突いてきますからね。腕の悪い相手だと使い物になりません。狙いがずれますから」
「それでもだ。わしなぞ、生涯できぬわ」
そう言ってガイザル殿からも褒めてもらう。それ自体はうれしいのだが、きっとこの人の剛剣なら槍など叩き折ってしまうだろうとも思う。
「いやあ、なんか私場違いですね」
そう言って気まずそうに第3騎士団の副団長がいう。彼自身もかなりの腕だが、さしものこの二人に並ぶほどではない。
「さて、あとはあいつらだな」
「団員同士の訓練ではどうなのですか?」
「最近はカールが忙しくて、ろくに訓練に参加できていなくてな。直接対決は久しぶりだろう」
「第1騎士団は出動回数も多いですからね。書類仕事も多いと嘆いてましたよ」
「そうか、今度副官をつけられるように、宰相殿に話をしてみよう」
「いよいよだぞ」
ガイザル殿がそういうと、試合場は大盛り上がりだ。第1騎士団同士でしかも、最近名を上げているカイラスと副騎士団長だ。それに勝った方はおそらく次の試合でギルバート殿の対戦相手となる。
「始め!」
開始の合図とともにお互いが一閃して離れる。どちらも剣士といったタイプだが構えは同じ王国流でもかなり違う。正眼に構えるカイラスと違い、カール副団長はやや後ろに反った態勢だ。
キィン
何度となくお互いの剣が交じり合う音が響く。決定的なチャンスをつかむため体勢を崩そうとした一撃も、力を込めた一撃もお互いが躱し合いそして、次は自分といわんばかりに反撃に転じる。
「さすがは第1騎士団だな」
「むぅ。カイラスも1月前より動きが良くなっているな」
「たしかに、家でやった時よりいい動きだ」
そう言っている間にも会場ではより早い剣戟が交わされている。
「はっ、やっ!」
幾度となく仕掛けるが見事にカール副団長に捌かれている。このままではらちが明かない。一旦呼吸を整える。
「カイラスもう休憩か?」
「いえ、こんなにちまちまやっていては後にお互い差し支えないかと思いまして…」
「なるほど、それは一理あるな。私も久しぶりに団長と遠慮なく戦いたいし、ここで勝負を決めよう」
そう言ってお互いが必殺の構えを取る。遠慮や手加減はできない。この人をまず越えなければあいつとは戦えないんだ。剣をやや引いて呼吸を整える。そして俺は刹那の瞬間を待った。
「はあっ!」
裂帛の気合とともに繰り出されるディーネの突きをぎりぎりで見極める。やや右上―――。
「はっ!」
体をひねりその槍先をかいくぐる。そして一気にディーネの肩を強襲する。
「ぐっ!」
思わず槍を落としそうになるディーネだったが、こらえて一気に引く。浅かったか…。
「やるわね。これじゃあゼノはきつかったでしょう。だけど、私も勝負の先にご褒美があるんだからね。そう簡単には負けられないわ」
左肩をかばうように槍を支えるだけで持ち、右に全神経を集中させている様だ。
「今のは私が先行して負けたわけだけど、この間合いからならそっちも手も足も出ないでしょう?」
確かにこのままでは、戦意無しとみられて失格となるかもしれない。ただし、彼女の方は前半から仕掛けていた分有利だろう。
「今ので決めたかったが仕方ない」
俺も対槍用の構えに切り替える。ただし、これは帝国流。彼女が対応できるかどうかで勝負は決まる。
「すぅ―――」
息を整え剣を構える。やや剣を突き出し突進する。
「芸のない動きね」
そして当然ながら彼女が試合を決めようと槍を突き出す。そして俺は剣を引きその穂先に向かって―――。
キィーーーン
「なっ、穂先に当てた?」
両手で剣を突いた俺と左手に力が入らないディーネ。さらに、元々の体格差もあり先端同士でぶつかった武器はそれぞれの反動を体に伝える。すなわち、俺には多少の反動を、ディーネにはより多くの反動を。
「もらった!」
そのまま、すぐに体勢を立て直した俺は剣をディーネの体に向ける。
「そこまで!勝者ガーランド!」
……。わぁぁぁぁ―――。一瞬の静寂の後、会場が沸き立つ。みんなが見守る勝負が終わったのだ。そのお互いの健闘を称える歓声はやがて拍手に代わる。
「負けてしまったわ…」
残念そうに言うディーネ団長に少しでも早く機嫌を直して欲しくてつい言ってしまった。
「ティアナも武芸をたしなむ女性の同士は貴重ですから今度招待しますよ」
「ほんと?ありがとう」
あまりに嬉しかったのか、ディーネ団長が両手で握手をしてくる。
「ガーランド様!」
ティアナの声がしてそちらを向くと顔が真っ赤になっている。どうやら怒り心頭のようだ。後で謝っておくとしよう。そんな俺とは対照的にディーネ団長はティアナに手を振るのだった。
そして勝負を終え、俺は再び控室に戻る。その際にカイラスとすれ違う。
「さすがだな。待ってろよ」
「お前も頑張れよ」
「ああ」
そう言っていったん別れる。
「いやあ、素晴らしい試合だった」
「ギルバート騎士団長…」
「まさか、槍を防ぐためにあんな技を見せるとはな」
「あれはディーネ団長の腕がいいからですよ。彼女は間違っても急所に当たらないようにそして正確に突いてきますからね。腕の悪い相手だと使い物になりません。狙いがずれますから」
「それでもだ。わしなぞ、生涯できぬわ」
そう言ってガイザル殿からも褒めてもらう。それ自体はうれしいのだが、きっとこの人の剛剣なら槍など叩き折ってしまうだろうとも思う。
「いやあ、なんか私場違いですね」
そう言って気まずそうに第3騎士団の副団長がいう。彼自身もかなりの腕だが、さしものこの二人に並ぶほどではない。
「さて、あとはあいつらだな」
「団員同士の訓練ではどうなのですか?」
「最近はカールが忙しくて、ろくに訓練に参加できていなくてな。直接対決は久しぶりだろう」
「第1騎士団は出動回数も多いですからね。書類仕事も多いと嘆いてましたよ」
「そうか、今度副官をつけられるように、宰相殿に話をしてみよう」
「いよいよだぞ」
ガイザル殿がそういうと、試合場は大盛り上がりだ。第1騎士団同士でしかも、最近名を上げているカイラスと副騎士団長だ。それに勝った方はおそらく次の試合でギルバート殿の対戦相手となる。
「始め!」
開始の合図とともにお互いが一閃して離れる。どちらも剣士といったタイプだが構えは同じ王国流でもかなり違う。正眼に構えるカイラスと違い、カール副団長はやや後ろに反った態勢だ。
キィン
何度となくお互いの剣が交じり合う音が響く。決定的なチャンスをつかむため体勢を崩そうとした一撃も、力を込めた一撃もお互いが躱し合いそして、次は自分といわんばかりに反撃に転じる。
「さすがは第1騎士団だな」
「むぅ。カイラスも1月前より動きが良くなっているな」
「たしかに、家でやった時よりいい動きだ」
そう言っている間にも会場ではより早い剣戟が交わされている。
「はっ、やっ!」
幾度となく仕掛けるが見事にカール副団長に捌かれている。このままではらちが明かない。一旦呼吸を整える。
「カイラスもう休憩か?」
「いえ、こんなにちまちまやっていては後にお互い差し支えないかと思いまして…」
「なるほど、それは一理あるな。私も久しぶりに団長と遠慮なく戦いたいし、ここで勝負を決めよう」
そう言ってお互いが必殺の構えを取る。遠慮や手加減はできない。この人をまず越えなければあいつとは戦えないんだ。剣をやや引いて呼吸を整える。そして俺は刹那の瞬間を待った。
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