40 / 56
本編
40
しおりを挟む
「どうぞ、部屋に入ってください」
そういってティアナの部屋に入ってみると、部屋に壁にはレイピアと剣が1本ずつ飾られていた。その横には動きやすい服がかけられている。これとセットなのだろう。反対側の机の上には女の子らしくかわいい小物が置いてある。部屋は色味は赤みがかった色と紫のもの後は青が多いようだ。
「あまり見ないでください」
「すまない」
使用人といえどカレンの部屋にも入らない俺はつい見てしまったが、確かに異性にじろじろ見られたくはないなと謝った。
「それで、剣術の授業はどうだった?」
とにもかくにも話すとなれば今日の剣術の結果が気になったので聞いてみた。
「それがですね、やっぱりこう今までちゃんとした剣術を勉強できていなかったというか、いや、確かに道場の先生はきちんとした方だったんですけど、やはり子爵令嬢にけがをさせまいとほとんどが型の稽古と、簡単に素振りをする程度であとは自己流だったのがですね、今回ガーランド様に基礎から帝国流を教えていただいたじゃないですか、あれで一本芯が通ったような動きができるようになってですね、今日も別の方と手合わせした時は一撃で倒せたんです。ただ、ちょっとやりすぎたと思ったんでそこは反省ですけど、それで、いざグライム様と戦ってる時もいつもと違って自分の動きと相手の…」
「ちょ、ちょっと待てティアナ」
「あっ」
興奮して話す彼女を止める。さすがにこう一気呵成に話されては俺も理解が追い付かない。落ち着いて順番に話すように促す。
「す、すみません。嬉しかったので…」
「この邸に来てから一番うれしそうだな。時間はまだあるからゆっくりでいい」
「はい。それでですね、教えていただいた帝国流が私に合っていたみたいですごく動きやすいんです。前は結構硬い動きのところがスムーズに動けるようになって」
彼女は身振り手振りでこうこうと説明をしてくれる。しかし、部屋着であまり動き回られると非常に良くない。
「あー、なんだ。あまり動いて説明はなくてもいいぞ。剣術のことならわかるから…」
「いいえ、こういうのは実際動いたほうが…」
そこでハタとティアナが気づく。スカートをひらひらさせて動いていることに。
「ええと、最小限の動きで伝えますね」
恥ずかしそうにしながらも話を伝えてくれる。
「気を取り直して、型以外でも実際に動く時の注意なども教えていただいたので、隙ができにくく動きに余裕が持てて回避がうまくなったんです。それで、早くグライム様と戦いたかったのに、横やりが入ってですね!」
思い出しても腹が立つのか、怒りながら話をする。なんでも、いつも万年3位の人間が今日に限って因縁をつけてきたらしい。たしかに、今日のために普段から手合わせを減らして、望んでいるとは聞いてはいたがその結果その様なことになるとは。
「私がちょっと戦わずにいる間に調子に乗って、嫌味まで言ってきて。確かに負けが込んできてましたけど、それでも私は彼には一度も負けたことはなかったのに!」
「まあ、遠目から見ている分には実際の実力差なんてわからないやつも多いからな」
「そうなんですよね~、でも、一撃のもとに葬り去りましたから。こうシュッと!!」
そうして自重することなくティアナは突きを繰り出す。しかし、何度見ても突きの構えは美しい。最初から粗削りなところはあったが、なぜか突きだけはその時点でもかなり洗練されていた。
「そういえば、ティアナは突きはすごく練度が高いな」
「ああ、最初に読んだ教本に女性向けの剣術では、重量がない武器でも効果的な戦闘方法としては突きが有効とあったので、かなりいろんな本を読んでました。道場でも結構聞きましたし」
「そうだったのか」
「はい!それでですね、いよいよグライム様との戦いになったんですが、やはり先ほどの突きを警戒して、やや小さい動きだったのをいなしながら、左右前後に回避と防御しながら攻防を続けてたんです。その時もガーランド様の剣筋よりはるかに遅く、未熟なので私でも対応できました」
―まあ、学生に負けるとは思っていないが、流石にグライム様も現役騎士と比べられてはかわいそうだろう。まだまだ伸び盛りだし体格的にも成長中だ。それでもティアナはお構いなしに語り続ける。
「で、お互い結構時間を無駄に使う感じになってきたところでグライム様がそろそろ疲れたんじゃないかって言ってきたんです」
「確かに回避は動く分、防御より疲れやすい部分はあるな。とはいっても体格差がある以上はやむを得ないだろうが」
「ええ、ですがこの度の稽古を経た私はそこまで疲れていなかったので逆に言い返したんです。もう根を上げたんですかと」
そこで俺はハタと気づく。この言い回しはアルスにそっくりだ。しかも、俺の何でもないことを武勇伝のように話すときと。嬉しいのは分かるけどちょっとこれは盛ってるな。そう思いながらもこの後もティアナはグライム様からの勝利の喜びを語り続けたのだった。
そういってティアナの部屋に入ってみると、部屋に壁にはレイピアと剣が1本ずつ飾られていた。その横には動きやすい服がかけられている。これとセットなのだろう。反対側の机の上には女の子らしくかわいい小物が置いてある。部屋は色味は赤みがかった色と紫のもの後は青が多いようだ。
「あまり見ないでください」
「すまない」
使用人といえどカレンの部屋にも入らない俺はつい見てしまったが、確かに異性にじろじろ見られたくはないなと謝った。
「それで、剣術の授業はどうだった?」
とにもかくにも話すとなれば今日の剣術の結果が気になったので聞いてみた。
「それがですね、やっぱりこう今までちゃんとした剣術を勉強できていなかったというか、いや、確かに道場の先生はきちんとした方だったんですけど、やはり子爵令嬢にけがをさせまいとほとんどが型の稽古と、簡単に素振りをする程度であとは自己流だったのがですね、今回ガーランド様に基礎から帝国流を教えていただいたじゃないですか、あれで一本芯が通ったような動きができるようになってですね、今日も別の方と手合わせした時は一撃で倒せたんです。ただ、ちょっとやりすぎたと思ったんでそこは反省ですけど、それで、いざグライム様と戦ってる時もいつもと違って自分の動きと相手の…」
「ちょ、ちょっと待てティアナ」
「あっ」
興奮して話す彼女を止める。さすがにこう一気呵成に話されては俺も理解が追い付かない。落ち着いて順番に話すように促す。
「す、すみません。嬉しかったので…」
「この邸に来てから一番うれしそうだな。時間はまだあるからゆっくりでいい」
「はい。それでですね、教えていただいた帝国流が私に合っていたみたいですごく動きやすいんです。前は結構硬い動きのところがスムーズに動けるようになって」
彼女は身振り手振りでこうこうと説明をしてくれる。しかし、部屋着であまり動き回られると非常に良くない。
「あー、なんだ。あまり動いて説明はなくてもいいぞ。剣術のことならわかるから…」
「いいえ、こういうのは実際動いたほうが…」
そこでハタとティアナが気づく。スカートをひらひらさせて動いていることに。
「ええと、最小限の動きで伝えますね」
恥ずかしそうにしながらも話を伝えてくれる。
「気を取り直して、型以外でも実際に動く時の注意なども教えていただいたので、隙ができにくく動きに余裕が持てて回避がうまくなったんです。それで、早くグライム様と戦いたかったのに、横やりが入ってですね!」
思い出しても腹が立つのか、怒りながら話をする。なんでも、いつも万年3位の人間が今日に限って因縁をつけてきたらしい。たしかに、今日のために普段から手合わせを減らして、望んでいるとは聞いてはいたがその結果その様なことになるとは。
「私がちょっと戦わずにいる間に調子に乗って、嫌味まで言ってきて。確かに負けが込んできてましたけど、それでも私は彼には一度も負けたことはなかったのに!」
「まあ、遠目から見ている分には実際の実力差なんてわからないやつも多いからな」
「そうなんですよね~、でも、一撃のもとに葬り去りましたから。こうシュッと!!」
そうして自重することなくティアナは突きを繰り出す。しかし、何度見ても突きの構えは美しい。最初から粗削りなところはあったが、なぜか突きだけはその時点でもかなり洗練されていた。
「そういえば、ティアナは突きはすごく練度が高いな」
「ああ、最初に読んだ教本に女性向けの剣術では、重量がない武器でも効果的な戦闘方法としては突きが有効とあったので、かなりいろんな本を読んでました。道場でも結構聞きましたし」
「そうだったのか」
「はい!それでですね、いよいよグライム様との戦いになったんですが、やはり先ほどの突きを警戒して、やや小さい動きだったのをいなしながら、左右前後に回避と防御しながら攻防を続けてたんです。その時もガーランド様の剣筋よりはるかに遅く、未熟なので私でも対応できました」
―まあ、学生に負けるとは思っていないが、流石にグライム様も現役騎士と比べられてはかわいそうだろう。まだまだ伸び盛りだし体格的にも成長中だ。それでもティアナはお構いなしに語り続ける。
「で、お互い結構時間を無駄に使う感じになってきたところでグライム様がそろそろ疲れたんじゃないかって言ってきたんです」
「確かに回避は動く分、防御より疲れやすい部分はあるな。とはいっても体格差がある以上はやむを得ないだろうが」
「ええ、ですがこの度の稽古を経た私はそこまで疲れていなかったので逆に言い返したんです。もう根を上げたんですかと」
そこで俺はハタと気づく。この言い回しはアルスにそっくりだ。しかも、俺の何でもないことを武勇伝のように話すときと。嬉しいのは分かるけどちょっとこれは盛ってるな。そう思いながらもこの後もティアナはグライム様からの勝利の喜びを語り続けたのだった。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる