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本編
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「ティアナ、あなたすごかったみたいね」
剣術の授業が終わると、席に来たサーラが話しかけてきた。
「ただグライム様に勝っただけよ。最近は少なかったけどいつものことじゃない?」
「本気で言っているの?剣術の授業を受けた子からはまるで戦場みたいだったと専らの噂よ」
「誰がそんなことを…」
「誰というか大半の子みたいね。なんでも最近上り調子だった、クーディ子爵令息をコテンパンにしたって」
「あ~」
あれについては正直申し訳ないと思っている。グライム様に勝つことを思いすぎて、それ以外が目につかなくなっていたのだ。本当に心から反省している。
「ちがうの、あれには理由がちゃんとあるの」
「グライム様に勝ちたかったのでしょう。それだけじゃないだろうけど」
「う…はい。完全に自分を見失っておりました…」
「わかっているならいいのよ。それにしても実力3位を一撃なんて相変わらずすごいわね」
「はい、反省しております。一刻も早くグライム様と戦いたいと思い、一撃で如何に早く済むかのみ考えておりました」
「責めてはいないわよ。本当にすごいことだと思うのよ。グライム様って実家でも剣術漬けと聞くし、そんな相手に互角に勝負しているのだもの。で、今回は何であそこまで勝負にこだわったの?」
流石にサーラは親しい付き合いだけあって、何でもお見通しのようだ。私はこれまでの前の悔しさと、今度の騎士団戦の件を伝えた。
「なるほどね。それならここまで真剣になるはずね」
「でしょう!」
身を乗り出してそれなら仕方ないでしょうとサーラに詰め寄る。
「落ち着いて、だけど、試験は試験なのだから次からはもう少し柔らかな雰囲気でいかないとね」
「はい…」
「おい、ティアナ。さっきはすごかったな。どこで腕を磨いたんだ、びっくりしたぞ」
「あら、グライム様。先ほどはすみませんでした。最近はガーランド様に教わっているのです。とっても教え方がうまくてめきめき上達しておりますの」
「そうなのか?そういえば同じ名前の奴を騎士団戦の名簿で見たな」
「グライム様。同じ名前ではなく同一人物です。ガーランド様が『騎士団戦に選ばれることは光栄だが、緊張する』という事でしたので、実力が発揮できるよう私が今日の認定試験でグライム様に勝てれば、そんな緊張など消えますと話してたんです」
「それであんなにすごい気迫だったんだな。兄上と手合わせするときでも中々なかったぞ」
「お恥ずかしい限りで」
私は頭を下げる。さすがに大人げない行為だったという事を改めて謝罪する。グライム様は気にしないだろうけれど周りの目もあるし、問題児として見られないように周囲にも印象付けておかないと。
「いいや、ティアナがあんなに気迫を発したことはなかったから、驚いただけだ。そいつのことが好きなんだな!」
にかっと笑って去っていったグライム様だが、今何と言われたのだろうか?私がガーランド様を…好き?確かに一緒にいて楽しいし、婚約者ではあるけれども会ってまだそんなに経っていないというのに…。私の心臓はそれから数分バクバクしっぱなしだった。
「あのアホ」
サーラはそう毒づくと、もう帰ってしまった親友のティアナのことを思い出していた。勿論その言葉はティアナにではない。恋心を自分で自覚することなく勝手に告げて気付かせたグライムにだ。
「かねてよりの予定なら、私がティアナから話を相談されて「それって恋じゃない?」と気づかせるシチュエーションを思い描いていたというのに」
そして、会員にも数名立ち会わせて、あとでその姿を絵にでも描かせようとしていたところに飛んだ邪魔が入ったものだ。仕方ないからあの時の姿を、一緒に見ていたクラスメイトと補完しながら1枚の絵を作り上げる。
「後で美術の教師と会員に回して描いてもらって、下書きができ次第、私たちで修正をするわ」
「はい!」
放課後の教室に残っているクラスメイトと他の学年・クラスから数名ずつが集まっている。ここは毎日活動しているティアナファンクラブ活動拠点だ。彼女の私物を守る名目からここが拠点だ。帰りは上の階の廊下に剣術の生徒が、校門までは数名の女子生徒が自然に同じタイミングで帰る。さすがにそれ以降は気づかれるとまずいこともあり、監視はしていない。
「いや~でも、今日のティアナ様はとってもすごかったですよ」
剣術を選択している生徒が口々に言う。1名は途中抜けて私のところへ報告しに来たほどだ。
「そうね。来年からは剣術の授業も認定日ぐらいは見学可能な授業にできるよう話してみようかしら」
「それがいいですわ!私たちも聞くだけではなく実際にみたいですもの」
そう言っている間にも、先週の活動内容がまとめられて広報誌がまとまっていく。
「そうそう、今日の剣術の授業の時のティアナの気迫だけど、婚約者の方がそこまで乗り気じゃないからですって」
「どうしてですの?騎士であれば大変名誉だと伺っておりますが…」
「婚約者様は王宮警備隊だからですわ。いつも優勝者は騎士団から出ておりますから」
「では、願掛けのようなものですの?」
「当たらずとも遠からずでしょう。婚約者のためにまずは自分が頑張って結果を出す。素晴らしいですわ」
「ええ、今日のこともですが、この話は来週の騎士団戦トーナメントにも関わりますから、あえて来週は載せずに次に回しましょう」
「そういえば、この会も大きくなってきてバックナンバーがないかという問い合わせを受けるのですが…」
「そちらに関しては後日検討しましょう。一先ずは私が貸し出し用として3冊持ってきますので」
「さすがはサーラ様。このような状況を予想していたなんて」
「当り前です。彼女はこの学園の精神そのものですもの」
学習において身分はなく貴賤もない。努力と友の助けこそ真の学び。とはこの学園のありがたい学則だ。もっとも、それを信じているものなどいないが。それでも、今もっともその状態に近いものが1人だけいる。それがあの子なのだ。ちょっと、マナーが欠けて剣術に傾いてはいるけれど…。
剣術の授業が終わると、席に来たサーラが話しかけてきた。
「ただグライム様に勝っただけよ。最近は少なかったけどいつものことじゃない?」
「本気で言っているの?剣術の授業を受けた子からはまるで戦場みたいだったと専らの噂よ」
「誰がそんなことを…」
「誰というか大半の子みたいね。なんでも最近上り調子だった、クーディ子爵令息をコテンパンにしたって」
「あ~」
あれについては正直申し訳ないと思っている。グライム様に勝つことを思いすぎて、それ以外が目につかなくなっていたのだ。本当に心から反省している。
「ちがうの、あれには理由がちゃんとあるの」
「グライム様に勝ちたかったのでしょう。それだけじゃないだろうけど」
「う…はい。完全に自分を見失っておりました…」
「わかっているならいいのよ。それにしても実力3位を一撃なんて相変わらずすごいわね」
「はい、反省しております。一刻も早くグライム様と戦いたいと思い、一撃で如何に早く済むかのみ考えておりました」
「責めてはいないわよ。本当にすごいことだと思うのよ。グライム様って実家でも剣術漬けと聞くし、そんな相手に互角に勝負しているのだもの。で、今回は何であそこまで勝負にこだわったの?」
流石にサーラは親しい付き合いだけあって、何でもお見通しのようだ。私はこれまでの前の悔しさと、今度の騎士団戦の件を伝えた。
「なるほどね。それならここまで真剣になるはずね」
「でしょう!」
身を乗り出してそれなら仕方ないでしょうとサーラに詰め寄る。
「落ち着いて、だけど、試験は試験なのだから次からはもう少し柔らかな雰囲気でいかないとね」
「はい…」
「おい、ティアナ。さっきはすごかったな。どこで腕を磨いたんだ、びっくりしたぞ」
「あら、グライム様。先ほどはすみませんでした。最近はガーランド様に教わっているのです。とっても教え方がうまくてめきめき上達しておりますの」
「そうなのか?そういえば同じ名前の奴を騎士団戦の名簿で見たな」
「グライム様。同じ名前ではなく同一人物です。ガーランド様が『騎士団戦に選ばれることは光栄だが、緊張する』という事でしたので、実力が発揮できるよう私が今日の認定試験でグライム様に勝てれば、そんな緊張など消えますと話してたんです」
「それであんなにすごい気迫だったんだな。兄上と手合わせするときでも中々なかったぞ」
「お恥ずかしい限りで」
私は頭を下げる。さすがに大人げない行為だったという事を改めて謝罪する。グライム様は気にしないだろうけれど周りの目もあるし、問題児として見られないように周囲にも印象付けておかないと。
「いいや、ティアナがあんなに気迫を発したことはなかったから、驚いただけだ。そいつのことが好きなんだな!」
にかっと笑って去っていったグライム様だが、今何と言われたのだろうか?私がガーランド様を…好き?確かに一緒にいて楽しいし、婚約者ではあるけれども会ってまだそんなに経っていないというのに…。私の心臓はそれから数分バクバクしっぱなしだった。
「あのアホ」
サーラはそう毒づくと、もう帰ってしまった親友のティアナのことを思い出していた。勿論その言葉はティアナにではない。恋心を自分で自覚することなく勝手に告げて気付かせたグライムにだ。
「かねてよりの予定なら、私がティアナから話を相談されて「それって恋じゃない?」と気づかせるシチュエーションを思い描いていたというのに」
そして、会員にも数名立ち会わせて、あとでその姿を絵にでも描かせようとしていたところに飛んだ邪魔が入ったものだ。仕方ないからあの時の姿を、一緒に見ていたクラスメイトと補完しながら1枚の絵を作り上げる。
「後で美術の教師と会員に回して描いてもらって、下書きができ次第、私たちで修正をするわ」
「はい!」
放課後の教室に残っているクラスメイトと他の学年・クラスから数名ずつが集まっている。ここは毎日活動しているティアナファンクラブ活動拠点だ。彼女の私物を守る名目からここが拠点だ。帰りは上の階の廊下に剣術の生徒が、校門までは数名の女子生徒が自然に同じタイミングで帰る。さすがにそれ以降は気づかれるとまずいこともあり、監視はしていない。
「いや~でも、今日のティアナ様はとってもすごかったですよ」
剣術を選択している生徒が口々に言う。1名は途中抜けて私のところへ報告しに来たほどだ。
「そうね。来年からは剣術の授業も認定日ぐらいは見学可能な授業にできるよう話してみようかしら」
「それがいいですわ!私たちも聞くだけではなく実際にみたいですもの」
そう言っている間にも、先週の活動内容がまとめられて広報誌がまとまっていく。
「そうそう、今日の剣術の授業の時のティアナの気迫だけど、婚約者の方がそこまで乗り気じゃないからですって」
「どうしてですの?騎士であれば大変名誉だと伺っておりますが…」
「婚約者様は王宮警備隊だからですわ。いつも優勝者は騎士団から出ておりますから」
「では、願掛けのようなものですの?」
「当たらずとも遠からずでしょう。婚約者のためにまずは自分が頑張って結果を出す。素晴らしいですわ」
「ええ、今日のこともですが、この話は来週の騎士団戦トーナメントにも関わりますから、あえて来週は載せずに次に回しましょう」
「そういえば、この会も大きくなってきてバックナンバーがないかという問い合わせを受けるのですが…」
「そちらに関しては後日検討しましょう。一先ずは私が貸し出し用として3冊持ってきますので」
「さすがはサーラ様。このような状況を予想していたなんて」
「当り前です。彼女はこの学園の精神そのものですもの」
学習において身分はなく貴賤もない。努力と友の助けこそ真の学び。とはこの学園のありがたい学則だ。もっとも、それを信じているものなどいないが。それでも、今もっともその状態に近いものが1人だけいる。それがあの子なのだ。ちょっと、マナーが欠けて剣術に傾いてはいるけれど…。
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