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本編

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サーラたちと分かれたところからガーランド様の機嫌が悪い。最初は何でと思っていたが、家に帰ると私がこれまでもたびたび、捕り物をしているのが気に入らなかったみたい。

「大丈夫です。これがなくても何もなかったです」

レイピアを常に持ってるわけじゃないし、素手でも問題ないとアピールしようとしたらますます渋い顔をされてしまった。確かに、危険だという事は私にもわかってる。でも、孤児だからと殴ったり、盗人なんかに出くわすこともある。そんなときにその人たちが何も持たないのであれば、そんな罪のない人々から普段お金をもらっている貴族である私たちが対応するべきなんではないだろうか。

カレンさんやロイさんにもいろいろ注意をしてもらったけど、やっぱり、耐えられない時だってある。そんなときに目をつぶって人を呼びに行くだけなんてどうしてもできない。

「でも、譲れないときもありますから」

そこだけははっきりしておきたかった。そして、みんなに認めて欲しかった。おてんばって言われてもなんと言われてもいい、私が私だと証明できる何かがあるって。

「では、ティアナ様の外出時の対応を考えましょうか」

さらりとカレンさんの発言から始まったティアナガイドラインが策定された。

1.外出時は家の誰かを伴う事。不在の場合は必ず行き先と予定時刻を記す。ただし多用はしない
2.外出先によって人を変えること。服などならカレン。その他食料などはロイ。遠出になるときはガーランドを伴う
3.学園の帰りはガーランドが伴えないときは必ず、カレンかロイが付きそう

…何だろう。すごく小さい令嬢への扱いみたいだ。

「何か不満がおありですかティアナ様」

「えっと、これだとまるで小さい子みたいな…」

「何を言っているんだ。まだ学園に通っているんだから成人扱いは変だろう?」

「それはまあ…でもですね」

「仕方ありませんな。では、先ほどのティアナ様のお話をご実家の子爵家の方にも…」

「ま、まって!」

それだけはダメ。今まで何度もか盗人を捕まえたときも、逆に子爵家の名前を出して脅すように名前を伏せさせたのに、ここで父様にばれてしまったらきっと学園にいる間だけでもと送迎馬車をつける。寄り道もできないし、外出だって週末ごとに人を寄越すかもしれない。

「それだけは…」

「では、この条件でいきましょう。忘れないようにこちらにでも貼っておきましょう」

ロイさんはそういうと紙をペタッとリビングの壁に貼り付けた。結構、その壁いい素材使ってると思うんだけどいいのかな。

「これで一応は安心だな。だが、別に気にすることはない。この家のものは割と出不精だからな。理由をつけて外出できる方が健康にもいいだろう」

「あら、私たちは旦那様に似たのですよ」

「そうですな。主が家に居られるのに使用人がどこそこと出歩くわけにはいきませんからな」

ぐぬうと今にもガーランド様から聞こえてきそうな表情に思わず私は笑ってしまった。

「ぷっ」

それからみんなで笑った後、わが家に新しい決まりが誕生した。不本意だけど私のことを大事に思ってくれる証でもあるからちょっぴりうれしかった。


それから2週間、なんとガーランド様は騎士団戦トーナメントの出場者として選ばれたと報告があったそうだ。ガーランド様のお父様は早くに亡くなられたため、この家からは久方ぶりの出場となったとのこと。さぞ、やる気が出たのかと思えば…。

「ガーランド様、本当に私の稽古を続けていてよいのですか?」

「ん、何か不満があるのか?」

「不満はありませんが、大切な騎士団戦まであと2週間でしょう?」

「あんなものはある程度戦って見せて、あとは降参すればいいのさ。出来レースなんだから」

そう言ってガーランド様が説明してくれる。16名の出場枠で騎士団8名、警備隊8名だけど必ず騎士団と警備隊が当たるようにし、運良く勝ち上がることがない組み合わせになっているという事らしい。

「なんで、そんな形なんです?」

「組み合わせとはいえ運でも決勝に出てしまったら、試合を見ていないものからしたら警備隊にも強いものがいるというものと、騎士団が弱いというものが出るからな。現に警備隊から出たもので3回戦に行ったものはいない」

「なら、ガーランド様が最初の1人目になればいいんですよ!」

「向こうはエリート揃いだ。そんなに楽じゃないさ」

「でも、私はガーランド様が負けるところは見たくないです。たとえ、わざとでも…」

うつむいてそういってしまう。困らせる気はないけれど、この前の打ち合いを見れば負けるなんて考えられない。私が知らない強い方もいるんだろうけど、やっぱりそれでもガーランド様には負けて欲しくない。

「…善処する」

「絶対、絶対ですよ!私も次の試験頑張りますから!!」

「試験?」

「はい、来週に認定試験があるんです。数か月ごとに設定されていて、きちんと上達しているか1対1で戦い、審判の方が判定されるんです。私はきっとグライム様と戦うことになると思います。今度こそ認定日に勝ちますから」

その為に苦渋の決意で普段の剣術の授業中は直接手合わせしないようにしたり、これまでと同じ戦い方を使ったりしていた。その為、さらに戦績は悪くなっているが、認定日に勝つことでその評価を一気にひっくり返してみせる考えなのだ。

「ふむ。…そうだな、ティアナがそこまで頑張っているのに大人の俺が頑張らないのはよくないな。分かったよ。ただし無茶はするなよ?」

「はい!そうと決まれば、すぐに再開しましょう!」

私はやる気をみなぎらせ稽古に励むのだった。



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