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本編
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ふふふ、どうやらガーランド様から稽古をつけていただける算段が付きそうです。最近は負けっぱなしでちょっと調子に乗ってきてうっとおしかったから、これで見返してやれます!
「では、早速予定を決めましょう。何もなければ平日は帰宅後に30分ほど、休日は午前中1時間ほどでどうでしょうか?」
ここは一気に攻めて予定を組んでしまおう。後はこれをどこかに張り出して確実なものにしなければ。今まで稽古といえば隠れて街の道場に少し通ったぐらいで、ほとんど自己流なためこの機会に色々聞かなくては。
「あ、ああ、わかった。しかし、そのぐらいでいいのか?てっきり毎日3時間とかいうのかと思ったが?」
「ガーランド様には他にもお仕事や、騎士団トーナメント戦もありますでしょう?それに、筋肉だるまのような私がお好みですか?」
さすがに剣術を習うといっても、一応令嬢なのだから夜会の一つにも出て女装令嬢と指をさされるのは勘弁してほしい。女性騎士のような姿にもあこがれるけれど、ドレス着用の機会がある今は無理だ。
「あっ、いやそういうことではない。そうか…ならメニューを決めておかないとな、何か希望はあるか?」
「そうですね…型からでいいですか?街道場の型しか知らないので…」
剣に覚えがあるといいながら、本以外で知っている型は少なく、実践ではその型しか使えていないので恥ずかしながらとお願いする。
「わかった。では、前に言っていた通り皮鎧も用意するからそれを着てやるとしよう」
よし、これで目的は達成した。そうとなれば―――。
「ずっと話をしていても減りませんし、どうぞ残りも召し上がってください。こういうのも用意しておりますので」
そういうと私は奥から生クリームやジャムなど付け合わせのものを出してくる。
「これは?」
「今回クッキーなどを作ったのですが、万一にお口に合わないことや甘さが足りないときなどのために用意しました。こうやってつけて召し上がってください」
そういって私はクッキーを一枚とり生クリームにつけて食べる。うん、ちょっとビターな感じがうまく足されたクリームにより調整されていい感じだ。これなら紅茶などの飲み物とも合うだろう。
「ささっ、どうぞ」
ずずいっと前に出して勧める。
「あ、ありがとう。しかし、なんだな」
パクパクと食べ進めながらガーランド様が口を開く。ちなみに、私は2,3口で1枚を食べているがガーランド様は1回つけて1枚を食べている。さすがは私が見上げるぐらい背が高いだけのことはある。
「こう料理がうまいのなら、店を開いてはどうかと思うな」
「店ですか?友人にも言われたことがありますが、私の料理では無理ですよ。ただでさえ見栄えが悪いので…」
基本的に私は食べるものに対して過剰な飾りつけは不要だと思っているので、型のくりぬきも適当だ。最後の1枚なんかは、型に入らないならと適当なサイズと厚さにして一緒に焼く位だ。そんな私では無理だろうと思うのだけど。
「そんなことはないと思う。貴族向けには厳しいかもしれないが、味だけなら身内のお茶会ならいけるだろうし、平民向けの店なら人気店になると思う」
「そういわれると嬉しいですけど、きっと作る相手がガーランド様や友人だからですよ。顔が見えない方相手にはきっと無理だと思います」
「そんなものか。だが、誰彼構わずに食べてもらいたくはないな。変な男に絡まれるだろう」
「もう!ガーランド様ったら、私なんかに声をかける方はおりませんわ。街でも声をかけられたことがありませんし」
みんなは結構声をかけられることもあるみたいだけど、私は一切かけられたことはない。きっと、噂や変な癖でもでて、女だと思われていないのではないだろうか。
「そんなことはないと思うのだが…」
その後も話は弾み、ゆったりとした夕食は和やかに過ぎていった。ロイさんの夕食もサンドイッチなど簡単なもので本当にありがたかった。今日も1日いい日でした。明日はこの機会をくれたおばさんに先日のシナモンクッキーの残りを渡して、宣伝にでも使ってもらおう。
そのころガーランドの執務室では。
「どうでしたかティアナ様のお菓子は、旦那さま…」
「とてもおいしかった…」
食べたときの味を思い出しながら、カレンとロイにこたえる。
「チッ」
何か音が聞こえた気がするが気のせいだろう。
「ようございましたな。昨日のカレンの言動もお許し下さればと」
「確かにあのおかげで今日は朝からつらかったが終わってみればいい日だった」
「そうそう、感謝してくださいませ」
「しかし、稽古の件は本当によろしいので?」
「ああ、それで無茶するようでもないだろうし、いいだろう。皮鎧は俺が昔付けていたものを使えばいい」
「えっ、まさか自分のものを使わせたいと―――」
「変なことを言うな。俺が12、3のころのやつだからサイズが合うというだけだ」
「それならいいんですがね…。新品でもよいと私は思うんですけど…」
「いや、それはダメだ。そんなことをしたら一緒に警邏に行きますと着て付いてくるかもしれん。あの鎧なら使い込んであるから、さすがにそんなことは言い出さないだろう」
「確かに。ティアナ様ならいいそうですな。こちらでも気を付けておきます」
「むぅ」
なんだかカレンは面白くなさそうな顔をしていたが、これは譲れないところだ。他にも、稽古の後に風邪をひかないようにお風呂の準備だとか、今後の執務の時間の調整などを打ち合わせて今日は終わりだ。
「今後ともティアナのことを頼む」
「「もちろんです」ございます」
3人はうなずくとそれぞれの寝室へと向かっていった。
「では、早速予定を決めましょう。何もなければ平日は帰宅後に30分ほど、休日は午前中1時間ほどでどうでしょうか?」
ここは一気に攻めて予定を組んでしまおう。後はこれをどこかに張り出して確実なものにしなければ。今まで稽古といえば隠れて街の道場に少し通ったぐらいで、ほとんど自己流なためこの機会に色々聞かなくては。
「あ、ああ、わかった。しかし、そのぐらいでいいのか?てっきり毎日3時間とかいうのかと思ったが?」
「ガーランド様には他にもお仕事や、騎士団トーナメント戦もありますでしょう?それに、筋肉だるまのような私がお好みですか?」
さすがに剣術を習うといっても、一応令嬢なのだから夜会の一つにも出て女装令嬢と指をさされるのは勘弁してほしい。女性騎士のような姿にもあこがれるけれど、ドレス着用の機会がある今は無理だ。
「あっ、いやそういうことではない。そうか…ならメニューを決めておかないとな、何か希望はあるか?」
「そうですね…型からでいいですか?街道場の型しか知らないので…」
剣に覚えがあるといいながら、本以外で知っている型は少なく、実践ではその型しか使えていないので恥ずかしながらとお願いする。
「わかった。では、前に言っていた通り皮鎧も用意するからそれを着てやるとしよう」
よし、これで目的は達成した。そうとなれば―――。
「ずっと話をしていても減りませんし、どうぞ残りも召し上がってください。こういうのも用意しておりますので」
そういうと私は奥から生クリームやジャムなど付け合わせのものを出してくる。
「これは?」
「今回クッキーなどを作ったのですが、万一にお口に合わないことや甘さが足りないときなどのために用意しました。こうやってつけて召し上がってください」
そういって私はクッキーを一枚とり生クリームにつけて食べる。うん、ちょっとビターな感じがうまく足されたクリームにより調整されていい感じだ。これなら紅茶などの飲み物とも合うだろう。
「ささっ、どうぞ」
ずずいっと前に出して勧める。
「あ、ありがとう。しかし、なんだな」
パクパクと食べ進めながらガーランド様が口を開く。ちなみに、私は2,3口で1枚を食べているがガーランド様は1回つけて1枚を食べている。さすがは私が見上げるぐらい背が高いだけのことはある。
「こう料理がうまいのなら、店を開いてはどうかと思うな」
「店ですか?友人にも言われたことがありますが、私の料理では無理ですよ。ただでさえ見栄えが悪いので…」
基本的に私は食べるものに対して過剰な飾りつけは不要だと思っているので、型のくりぬきも適当だ。最後の1枚なんかは、型に入らないならと適当なサイズと厚さにして一緒に焼く位だ。そんな私では無理だろうと思うのだけど。
「そんなことはないと思う。貴族向けには厳しいかもしれないが、味だけなら身内のお茶会ならいけるだろうし、平民向けの店なら人気店になると思う」
「そういわれると嬉しいですけど、きっと作る相手がガーランド様や友人だからですよ。顔が見えない方相手にはきっと無理だと思います」
「そんなものか。だが、誰彼構わずに食べてもらいたくはないな。変な男に絡まれるだろう」
「もう!ガーランド様ったら、私なんかに声をかける方はおりませんわ。街でも声をかけられたことがありませんし」
みんなは結構声をかけられることもあるみたいだけど、私は一切かけられたことはない。きっと、噂や変な癖でもでて、女だと思われていないのではないだろうか。
「そんなことはないと思うのだが…」
その後も話は弾み、ゆったりとした夕食は和やかに過ぎていった。ロイさんの夕食もサンドイッチなど簡単なもので本当にありがたかった。今日も1日いい日でした。明日はこの機会をくれたおばさんに先日のシナモンクッキーの残りを渡して、宣伝にでも使ってもらおう。
そのころガーランドの執務室では。
「どうでしたかティアナ様のお菓子は、旦那さま…」
「とてもおいしかった…」
食べたときの味を思い出しながら、カレンとロイにこたえる。
「チッ」
何か音が聞こえた気がするが気のせいだろう。
「ようございましたな。昨日のカレンの言動もお許し下さればと」
「確かにあのおかげで今日は朝からつらかったが終わってみればいい日だった」
「そうそう、感謝してくださいませ」
「しかし、稽古の件は本当によろしいので?」
「ああ、それで無茶するようでもないだろうし、いいだろう。皮鎧は俺が昔付けていたものを使えばいい」
「えっ、まさか自分のものを使わせたいと―――」
「変なことを言うな。俺が12、3のころのやつだからサイズが合うというだけだ」
「それならいいんですがね…。新品でもよいと私は思うんですけど…」
「いや、それはダメだ。そんなことをしたら一緒に警邏に行きますと着て付いてくるかもしれん。あの鎧なら使い込んであるから、さすがにそんなことは言い出さないだろう」
「確かに。ティアナ様ならいいそうですな。こちらでも気を付けておきます」
「むぅ」
なんだかカレンは面白くなさそうな顔をしていたが、これは譲れないところだ。他にも、稽古の後に風邪をひかないようにお風呂の準備だとか、今後の執務の時間の調整などを打ち合わせて今日は終わりだ。
「今後ともティアナのことを頼む」
「「もちろんです」ございます」
3人はうなずくとそれぞれの寝室へと向かっていった。
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