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本編
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「これは…」
口にいっぱいに広がるシナモンの味とそして鼻腔をくすぐる香り。普段は男どもの集まりのためこういうお菓子に縁のないガーランドだが、唯一、貴族の屋敷の警護などで報酬とは別に持たされたものがあった。そういうものでさえ自分には不釣り合いなほどおいしかったというのに、群を抜いておいしい。
「い、いかがですか?」
「あ、ああ、素晴らしいよ。こんなにおいしいお菓子を食べたのは初めてだ!」
「ほんとですか!うれしいですっ!!」
ずずいっとテーブルから身を乗り出してくるティアナに、びっくりしながらも別のものを食べる。ほかのお菓子もおいしい。それに、どことなく甘すぎず自分の味覚に合わせてあるような感じだ…。
「おいしいんだが、なんだか不思議なぐらい好みの味だな。何か人の味覚が分かる能力でもあるのか? 」
たしか、俺の方から彼女にどういった味が好きかということは話してはないはずだったと思うのだが。
「ふふっ、そんなわけないじゃないですかガーランド様ったら。ちゃんとロイさんやカレンさんに聞いたんですよ。これでも気づかれないようにこそこそ聞いて大変だったんですから」
いたずらっぽく言うティアナがとてもかわいくてじーっと見てしまう。何ですかという彼女にはいいやとだけ言っておく。
「それにしても、ティアナはすごいんだな。俺は剣しか使えないが、令嬢としての所作も身に着けているしお菓子も剣も長けている」
「私なんかどれもちょっと努力すればできる程度です。ガーランド様こそ、その剣の腕前は誰にもまねできません!」
ふんぞり返るようにティアナは胸を張って、言い切った。そこは俺が言うところなんだと思うのだが。
「しかし困ったな。これだけのものを用意されているが、俺は何も用意していない。この家でできることといったらささやかなことだが何かしてほしいことはないか?」
来てもらってから、ティアナには令嬢とは名ばかりのことでしてやれていることといえば朝夕の迎えぐらいだ。それに関しても、自分が言い出したことであるし、お互いのことを考えてのもので自分が何かしてやりたかった。
「そ、それでしたら一つだけ…」
「遠慮なく行ってくれ。なんでもしてやる、できることだったらな」
この時、俺は安易に言うべき言葉ではなかったとちょっと後悔することになった。
「ほんとですか!実は前々から一つお願いしたいことがあったのです」
いやに目を輝かせているが何だろうか?
「ガーランド様の戦うお姿を見てですね、お願いしたかったのですが…」
俺の戦う姿を見て?カイラスとの稽古の時か、警備隊の仕事を見たいとかか。などと俺は甘いことを考えていた。
「私を弟子にしていただけませんか!!」
「で、し?」
????今何と言ったのだろうティアナは?でし、弟子か…。道場など開いていないし、そもそも君は令嬢だと思ったのだが…。そして私は情けなくも一言のみしか発することができなかった。
「はい!あの後からずっと考えていたのですが、私は最近伸び悩んでおりましてライバルにも最近は負け越しているのです。ここにきてガーランド様の婚約者となったのはもはや運命と思いました。もちろん、お菓子を作ったのは食べていただきたかったからですけれど。ご褒美をいただけるということでしたらこれ以外はありませんわ」
スパッと言い切られてしまった。全く迷いがない。にしても彼女の腕をもってすればかなりの位置にいると思われるが、一体ライバルとは誰だろうか?
「た、確かに願いをかなえてやれんこともないが、そのライバルとは誰だ?」
騎士爵の中にもたまに父にあこがれて騎士を目指す女性もいるし、少ないが女性の護衛も必要なため需要がないでもないと考えていたのだが。
「グライム様です。騎士団長の子息の」
んん、聞き間違えか。グライム子息は現騎士団長の息子で王宮警備隊のものとも手合わせすることもあるはずだ、それに大体―――。
「剣術の授業は男女別ではないのか?」
男と女では体つきも違うし、王宮での警備に至っては警護場所も異なる。それぞれに合ったことを学ぶため合同での授業は少ないはずだが。
「ガーランド様は騎士学校でしたわね。貴族向けの学園では受講者が少ないため基本は合同です。というかほぼおりませんので…」
まあ、女性騎士とはあったことがあるが、ほとんどが平民もしくは貴族で食い扶持にも困るような貴族や騎士爵などの1代のみの貴族だと聞いたことがある。確かにそんな貴族のものがわざわざ高い授業料を払って学園に通うはずはない…。
「その、なんだ。彼とは仲がいいのか?」
「???まあ、話はしますがライバルですので。基本は踏み込みがどうとかばかりですね」
「ならいい。あまり時間を割けないかもしれないがいいか?」
「はい、前にもお話させていただきましたが、確約いただけると嬉しいです」
確かに最初に中庭で手合わせした時に言ったかもしれないな…。あれ以来手合わせもしていないから正直忘れていた。
口にいっぱいに広がるシナモンの味とそして鼻腔をくすぐる香り。普段は男どもの集まりのためこういうお菓子に縁のないガーランドだが、唯一、貴族の屋敷の警護などで報酬とは別に持たされたものがあった。そういうものでさえ自分には不釣り合いなほどおいしかったというのに、群を抜いておいしい。
「い、いかがですか?」
「あ、ああ、素晴らしいよ。こんなにおいしいお菓子を食べたのは初めてだ!」
「ほんとですか!うれしいですっ!!」
ずずいっとテーブルから身を乗り出してくるティアナに、びっくりしながらも別のものを食べる。ほかのお菓子もおいしい。それに、どことなく甘すぎず自分の味覚に合わせてあるような感じだ…。
「おいしいんだが、なんだか不思議なぐらい好みの味だな。何か人の味覚が分かる能力でもあるのか? 」
たしか、俺の方から彼女にどういった味が好きかということは話してはないはずだったと思うのだが。
「ふふっ、そんなわけないじゃないですかガーランド様ったら。ちゃんとロイさんやカレンさんに聞いたんですよ。これでも気づかれないようにこそこそ聞いて大変だったんですから」
いたずらっぽく言うティアナがとてもかわいくてじーっと見てしまう。何ですかという彼女にはいいやとだけ言っておく。
「それにしても、ティアナはすごいんだな。俺は剣しか使えないが、令嬢としての所作も身に着けているしお菓子も剣も長けている」
「私なんかどれもちょっと努力すればできる程度です。ガーランド様こそ、その剣の腕前は誰にもまねできません!」
ふんぞり返るようにティアナは胸を張って、言い切った。そこは俺が言うところなんだと思うのだが。
「しかし困ったな。これだけのものを用意されているが、俺は何も用意していない。この家でできることといったらささやかなことだが何かしてほしいことはないか?」
来てもらってから、ティアナには令嬢とは名ばかりのことでしてやれていることといえば朝夕の迎えぐらいだ。それに関しても、自分が言い出したことであるし、お互いのことを考えてのもので自分が何かしてやりたかった。
「そ、それでしたら一つだけ…」
「遠慮なく行ってくれ。なんでもしてやる、できることだったらな」
この時、俺は安易に言うべき言葉ではなかったとちょっと後悔することになった。
「ほんとですか!実は前々から一つお願いしたいことがあったのです」
いやに目を輝かせているが何だろうか?
「ガーランド様の戦うお姿を見てですね、お願いしたかったのですが…」
俺の戦う姿を見て?カイラスとの稽古の時か、警備隊の仕事を見たいとかか。などと俺は甘いことを考えていた。
「私を弟子にしていただけませんか!!」
「で、し?」
????今何と言ったのだろうティアナは?でし、弟子か…。道場など開いていないし、そもそも君は令嬢だと思ったのだが…。そして私は情けなくも一言のみしか発することができなかった。
「はい!あの後からずっと考えていたのですが、私は最近伸び悩んでおりましてライバルにも最近は負け越しているのです。ここにきてガーランド様の婚約者となったのはもはや運命と思いました。もちろん、お菓子を作ったのは食べていただきたかったからですけれど。ご褒美をいただけるということでしたらこれ以外はありませんわ」
スパッと言い切られてしまった。全く迷いがない。にしても彼女の腕をもってすればかなりの位置にいると思われるが、一体ライバルとは誰だろうか?
「た、確かに願いをかなえてやれんこともないが、そのライバルとは誰だ?」
騎士爵の中にもたまに父にあこがれて騎士を目指す女性もいるし、少ないが女性の護衛も必要なため需要がないでもないと考えていたのだが。
「グライム様です。騎士団長の子息の」
んん、聞き間違えか。グライム子息は現騎士団長の息子で王宮警備隊のものとも手合わせすることもあるはずだ、それに大体―――。
「剣術の授業は男女別ではないのか?」
男と女では体つきも違うし、王宮での警備に至っては警護場所も異なる。それぞれに合ったことを学ぶため合同での授業は少ないはずだが。
「ガーランド様は騎士学校でしたわね。貴族向けの学園では受講者が少ないため基本は合同です。というかほぼおりませんので…」
まあ、女性騎士とはあったことがあるが、ほとんどが平民もしくは貴族で食い扶持にも困るような貴族や騎士爵などの1代のみの貴族だと聞いたことがある。確かにそんな貴族のものがわざわざ高い授業料を払って学園に通うはずはない…。
「その、なんだ。彼とは仲がいいのか?」
「???まあ、話はしますがライバルですので。基本は踏み込みがどうとかばかりですね」
「ならいい。あまり時間を割けないかもしれないがいいか?」
「はい、前にもお話させていただきましたが、確約いただけると嬉しいです」
確かに最初に中庭で手合わせした時に言ったかもしれないな…。あれ以来手合わせもしていないから正直忘れていた。
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