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本編
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「はぁ~」
盛大にため息をつく。今までこんな気持ちになったこともないし、どうしてしまったんだろうか。理由は何となくだがわかっている。だが、そんなことぐらいでこんなになってしまうなど、騎士として情けないとも思う。
「たかだか、お菓子をもらえないくらいで…」
仲間外れといえばそうなのだろうか。しかし、普段から目立たないようにしているし、何なら面倒が遠のくのは助かるとも思っている。カイラスが騎士団に入隊した時も、特に何かを言って来たものもいなかった。ところが今回、みんながティアナからお菓子をもらっているという現実に向き合うとどうしても気が滅入る。
「こうやって剣を振っていれば片付いてきたものだが…」
そう、今俺はティアナと別れて中庭で日課となっている剣の素振りをしている。日課といっても最近は書類仕事やティアナのことで忘れていたので、取り戻すようにちょっとハイペースで振るっているのだが。
「雑念が取れん、やめだやめだ」
一旦、心を落ち着けようとそばにあるいすに腰掛ける。その後、精神統一を図ろうと目を瞑る。浮かぶことといえば、帰り道にティアナが嬉しそうにみんながおいしく食べてくれたという笑顔だ。とても好ましいものだったが、同時に少し寂しかった。
「ええーい、まとまらん!」
考えても、頭に浮かびそうなので無心になれるまでと剣を振り続ける。そもそも、学園の行き帰りも別に話すためではなく、彼女が心配だからだ。そんなことで動揺していては任務に差し支えると思いながら続ける。
「そろそろやめたらいかがです。そんなに無茶なペースで振るものではないと思いますが?」
ふいに声をかけられたと思ったら、いつの間にかカレンが来ていた。
「とはいってもな。ここのところ色々あって、できていなかったからな」
「そんなこと言って、なんだか無理に振ってらっしゃるみたいですけど…」
「カレンにもわかるのか…。そうだな、もう少ししたらやめるか」
剣をほとんど振ったことのない人間にもわかるのだ、無理な訓練や合っていない訓練は腕を下げることにもつながる。
「では、私は別の仕事がありますので…」
ひょっとして心配をしてくれたのだろうか?使用人に心配されるとはしっかりしないとな。
「最後に型の練習だけでもするか」
そう思うと力が抜けてちょっとだけ調子が戻ってきたように感じた。
「お疲れ様です旦那様。」
中庭からリビングに戻るところで、ロイに声をかけられた。
「今日は少しだけ早くの食事になりますので…」
「そうか、ではすぐに終わらせるとしよう」
実は少しお腹がすいていて、何かつまもうと思ったのだがそういわれては難しいだろう。おとなしく部屋に戻って事務仕事をする。苦手な作業だからかこういう時は集中できるものだなと、20分ほどで終わった。軽く伸びをしてくつろいでいるとドアがノックされる。
「なんだ?」
「夕食の準備ができました」
「もうか?今日は早いんだな」
「当然です」
何が当然かはわからないが、食事の時間がずれ込むことなんてめったにないので、早く行くことに越したことはないだろう。食堂に近づくたびになんだかいいにおいがする、これは…。
「ガーランド様!どうぞ!!」
入り口にはティアナが立っていて嬉しそうに腕をつかんで席へと案内する。目の前には昨日カレンたちが食べていたクッキーにケーキ、それにクリームやジャムなどが並んでいる。
「こ、これは?」
私の分なのだろうか?しかし、特にそんなそぶりもなかったし、作った分はなくなったはずだ。
「昨日作った分をみんなに食べてもらった上で、ちょっと直せるところを直して改めて今日、ガーランド様のために作ったんです!どうですか?」
「あ、ああ、とてもよくできているが、どうして一緒に作らなかったんだ?」
「あの、そのう…」
指先を合わせながらティアナはもじもじしている。何だろうか?
「それをお聞きになるとは、まだまだですね」
カレンにもそういわれるが、一緒に作ってしまった方が楽なのではないだろうか?そう思っていると、決心したようにティアナが手をぎゅっと握る。
「あの!、お菓子作り自体が久しぶりだったので、その、ガーランド様が満足できるようなものをお作りできるか自信がなくてですね…それで、先に皆さんに食べてもらって問題ないということで、改めて作りました!!」
一気に言い終わると、とても赤い顔をしてティアナがこちらを見ている。
「すまない…」
「えっ…何かお嫌いなものありました?」
ティアナがあわあわしだしたのですぐに否定する。
「ち、違う。そ、そのだ、みんながもらえる中で俺だけがもらえてなかっただろう?婚約者となったのも子爵様の勘違いからだ。よく話はしても、その…ただの知り合いのようなものかと思われているかもと思っていたんだ」
「そ、そんなことありません!ガーランド様は強いし優しくて、理想の男性です!!……はわわっ」
言ってしまってから、自分の発言に恥ずかしくなったのか、ティアナは顔を覆ってしまった。出会って間もないというのに、勢いとはいえそんなに思われていたなんて…。
「そんなに思ってくれていたのに俺は情けない。食べてもいいか…?」
「はい、そのために作ったんですもの…」
そしてまずはシナモンクッキーから口に入れる。
盛大にため息をつく。今までこんな気持ちになったこともないし、どうしてしまったんだろうか。理由は何となくだがわかっている。だが、そんなことぐらいでこんなになってしまうなど、騎士として情けないとも思う。
「たかだか、お菓子をもらえないくらいで…」
仲間外れといえばそうなのだろうか。しかし、普段から目立たないようにしているし、何なら面倒が遠のくのは助かるとも思っている。カイラスが騎士団に入隊した時も、特に何かを言って来たものもいなかった。ところが今回、みんながティアナからお菓子をもらっているという現実に向き合うとどうしても気が滅入る。
「こうやって剣を振っていれば片付いてきたものだが…」
そう、今俺はティアナと別れて中庭で日課となっている剣の素振りをしている。日課といっても最近は書類仕事やティアナのことで忘れていたので、取り戻すようにちょっとハイペースで振るっているのだが。
「雑念が取れん、やめだやめだ」
一旦、心を落ち着けようとそばにあるいすに腰掛ける。その後、精神統一を図ろうと目を瞑る。浮かぶことといえば、帰り道にティアナが嬉しそうにみんながおいしく食べてくれたという笑顔だ。とても好ましいものだったが、同時に少し寂しかった。
「ええーい、まとまらん!」
考えても、頭に浮かびそうなので無心になれるまでと剣を振り続ける。そもそも、学園の行き帰りも別に話すためではなく、彼女が心配だからだ。そんなことで動揺していては任務に差し支えると思いながら続ける。
「そろそろやめたらいかがです。そんなに無茶なペースで振るものではないと思いますが?」
ふいに声をかけられたと思ったら、いつの間にかカレンが来ていた。
「とはいってもな。ここのところ色々あって、できていなかったからな」
「そんなこと言って、なんだか無理に振ってらっしゃるみたいですけど…」
「カレンにもわかるのか…。そうだな、もう少ししたらやめるか」
剣をほとんど振ったことのない人間にもわかるのだ、無理な訓練や合っていない訓練は腕を下げることにもつながる。
「では、私は別の仕事がありますので…」
ひょっとして心配をしてくれたのだろうか?使用人に心配されるとはしっかりしないとな。
「最後に型の練習だけでもするか」
そう思うと力が抜けてちょっとだけ調子が戻ってきたように感じた。
「お疲れ様です旦那様。」
中庭からリビングに戻るところで、ロイに声をかけられた。
「今日は少しだけ早くの食事になりますので…」
「そうか、ではすぐに終わらせるとしよう」
実は少しお腹がすいていて、何かつまもうと思ったのだがそういわれては難しいだろう。おとなしく部屋に戻って事務仕事をする。苦手な作業だからかこういう時は集中できるものだなと、20分ほどで終わった。軽く伸びをしてくつろいでいるとドアがノックされる。
「なんだ?」
「夕食の準備ができました」
「もうか?今日は早いんだな」
「当然です」
何が当然かはわからないが、食事の時間がずれ込むことなんてめったにないので、早く行くことに越したことはないだろう。食堂に近づくたびになんだかいいにおいがする、これは…。
「ガーランド様!どうぞ!!」
入り口にはティアナが立っていて嬉しそうに腕をつかんで席へと案内する。目の前には昨日カレンたちが食べていたクッキーにケーキ、それにクリームやジャムなどが並んでいる。
「こ、これは?」
私の分なのだろうか?しかし、特にそんなそぶりもなかったし、作った分はなくなったはずだ。
「昨日作った分をみんなに食べてもらった上で、ちょっと直せるところを直して改めて今日、ガーランド様のために作ったんです!どうですか?」
「あ、ああ、とてもよくできているが、どうして一緒に作らなかったんだ?」
「あの、そのう…」
指先を合わせながらティアナはもじもじしている。何だろうか?
「それをお聞きになるとは、まだまだですね」
カレンにもそういわれるが、一緒に作ってしまった方が楽なのではないだろうか?そう思っていると、決心したようにティアナが手をぎゅっと握る。
「あの!、お菓子作り自体が久しぶりだったので、その、ガーランド様が満足できるようなものをお作りできるか自信がなくてですね…それで、先に皆さんに食べてもらって問題ないということで、改めて作りました!!」
一気に言い終わると、とても赤い顔をしてティアナがこちらを見ている。
「すまない…」
「えっ…何かお嫌いなものありました?」
ティアナがあわあわしだしたのですぐに否定する。
「ち、違う。そ、そのだ、みんながもらえる中で俺だけがもらえてなかっただろう?婚約者となったのも子爵様の勘違いからだ。よく話はしても、その…ただの知り合いのようなものかと思われているかもと思っていたんだ」
「そ、そんなことありません!ガーランド様は強いし優しくて、理想の男性です!!……はわわっ」
言ってしまってから、自分の発言に恥ずかしくなったのか、ティアナは顔を覆ってしまった。出会って間もないというのに、勢いとはいえそんなに思われていたなんて…。
「そんなに思ってくれていたのに俺は情けない。食べてもいいか…?」
「はい、そのために作ったんですもの…」
そしてまずはシナモンクッキーから口に入れる。
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