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本編
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王宮に着くといつものように簡単に着替えを済ませ、詰所で今日の予定を確認する。今日は西側の見回りで、アルスとペアだ。俺の方ではあまり覚えていないがどうやらカイラスが言うには後輩らしい。腕もそこそこで期待の持てる隊員だ。
「先輩おはようございます」
「ああ、だがいつも言っているように同じ隊員だ」
「いやいや、先輩と並んで呼ばれるなんて無理です!」
どうも、こいつはカイラスとの練習風景を見ていたようで、俺の実力のほども知っているらしい。やりにくい相手だ。こんな後輩に見られていたとはまだまだだったなと思っていると一つ話題が思い浮かんだ。
「アルス、お前は婚約者はいないのか?」
「どうしたんですか先輩。急にそんなこと聞いて。まあ、王宮警備隊見習いみたいな現状じゃあ無理っすね」
「いや実はな…」
恥ずかしさをこらえながらも、今日朝にあった出来事を話す。
「…先輩愛されてるっすよそれは」
「そうなんだろうか。俺も学生時代は他の生徒が付き合っているところを見たりしたが、女の方は恥ずかしがったりしていた記憶があるんだが…」
「でも、腕組みたいとか何か言われたんじゃないんっすよね」
「ああ、話をしていただけだが急にな。びっくりはしたんだがそのまま自然に話をされたから言えなかった」
「じゃあ、無意識なんじゃないんすか?」
「だが、そういうことを無意識にできるものなのか?」
相手にそれも異性に触れる行為に関して無意識にするなら、経験豊富なら可能かもしれないけれどティアナはそんな子ではないし。
「う~ん、じゃあ前からやってみたいということが、話に集中してて勝手に出たとか?」
「自信なさげだな」
「これでも先輩たちの次ぐらいには剣振ってた俺に聞くのがダメなんすよ。カイラス先輩に言わないんすか?」
「あいつに言ってどうなると思う?」
「絶対、面白おかしく言ってくるっすね…」
「それにな、あいつはティアナと1度会ったことがあるからな。会ったことのないお前にヒントをもらっても、会ったことのあるあいつに答えをもらいたくはない」
この先輩はいったいどうしてしまったんだろう。強くともちょっと面倒ごとが嫌いな先輩だったはずなのに。今はただの4歳年下の婚約者に翻弄される男の子のようだ。
「ま、まあそうっすよね。でも、いいじゃないっすか?そうやって距離を向こうからつめてくれるってことは好意を持たれているってことじゃないっすか。誰か俺にも紹介してくれないっすか?」
「む、そういっても相手は子爵令嬢だからな。お前、子爵令嬢とか紹介されて大丈夫か?」
「やっぱいいっす。絶対ろくな目にあわないっす」
話を聞いていて勘違いしそうになったが、王都でも有名な貴族学園に通ってるのだ。男爵家の次女、三女ならともかく高位貴族にも知り合いがいるだろう。自分のような小物騎士には夢のまた夢だ。
「それに、さすがにお金が続かないっすね」
「ティアナは別に必要ないといっていたが、どうなんだ?」
「普通はもっとドレスとか使用人とか欲しがるらしいっすよ。王宮騎士のゴードンさんが愚痴ってました」
「ああ、あの人は男爵家の長女と結婚したんだったな」
「領地も持ってた人らしくて、結婚後もちょくちょく夜会に出てるらしいっすね」
「まあ、その心配はないだろうな。ティアナはお茶会は苦手らしいから。うちに来てからは婚約者が騎士爵だから出る必要はないって、断るそうだ。いい理由ができたといっていた」
「先輩、ますます逃しちゃダメっすよ。先輩に並ぶ為にいるような人じゃないっすか。来月の騎士戦も頑張ってほしいっす」
「あれは投票制だろう?さすがに選ばれないさ」
「わかんないっすよ。今までは隊長が自己評価で上から選んでいたっすから、強制参加の人もいたそうっすから」
「まあ、出ることになったらほどほどには戦うさ。さすがに1合打ち合って終わりましたじゃ、子爵にも申し訳が立たないからな」
「またそんなこと言って。婚約者の人もかわいそうっすよ。せっかく騎士戦に出た相手がすぐに負けるなんて」
「きっとティアナならわかってくれるさ」
「かっこいいとこ見せれるっすよ?」
「……別にそこで見せる必要はないだろう。機会があったらでいいさ」
そんなことを話しながら今日の業務も終了になった。後は彼女を迎えに行くだけだ。はやる気持ちを抑えきれず俺はアルスのつぶやきは届かなかった。
「悩むぐらいには、可能性があると…メモっとくっすか」
「先輩おはようございます」
「ああ、だがいつも言っているように同じ隊員だ」
「いやいや、先輩と並んで呼ばれるなんて無理です!」
どうも、こいつはカイラスとの練習風景を見ていたようで、俺の実力のほども知っているらしい。やりにくい相手だ。こんな後輩に見られていたとはまだまだだったなと思っていると一つ話題が思い浮かんだ。
「アルス、お前は婚約者はいないのか?」
「どうしたんですか先輩。急にそんなこと聞いて。まあ、王宮警備隊見習いみたいな現状じゃあ無理っすね」
「いや実はな…」
恥ずかしさをこらえながらも、今日朝にあった出来事を話す。
「…先輩愛されてるっすよそれは」
「そうなんだろうか。俺も学生時代は他の生徒が付き合っているところを見たりしたが、女の方は恥ずかしがったりしていた記憶があるんだが…」
「でも、腕組みたいとか何か言われたんじゃないんっすよね」
「ああ、話をしていただけだが急にな。びっくりはしたんだがそのまま自然に話をされたから言えなかった」
「じゃあ、無意識なんじゃないんすか?」
「だが、そういうことを無意識にできるものなのか?」
相手にそれも異性に触れる行為に関して無意識にするなら、経験豊富なら可能かもしれないけれどティアナはそんな子ではないし。
「う~ん、じゃあ前からやってみたいということが、話に集中してて勝手に出たとか?」
「自信なさげだな」
「これでも先輩たちの次ぐらいには剣振ってた俺に聞くのがダメなんすよ。カイラス先輩に言わないんすか?」
「あいつに言ってどうなると思う?」
「絶対、面白おかしく言ってくるっすね…」
「それにな、あいつはティアナと1度会ったことがあるからな。会ったことのないお前にヒントをもらっても、会ったことのあるあいつに答えをもらいたくはない」
この先輩はいったいどうしてしまったんだろう。強くともちょっと面倒ごとが嫌いな先輩だったはずなのに。今はただの4歳年下の婚約者に翻弄される男の子のようだ。
「ま、まあそうっすよね。でも、いいじゃないっすか?そうやって距離を向こうからつめてくれるってことは好意を持たれているってことじゃないっすか。誰か俺にも紹介してくれないっすか?」
「む、そういっても相手は子爵令嬢だからな。お前、子爵令嬢とか紹介されて大丈夫か?」
「やっぱいいっす。絶対ろくな目にあわないっす」
話を聞いていて勘違いしそうになったが、王都でも有名な貴族学園に通ってるのだ。男爵家の次女、三女ならともかく高位貴族にも知り合いがいるだろう。自分のような小物騎士には夢のまた夢だ。
「それに、さすがにお金が続かないっすね」
「ティアナは別に必要ないといっていたが、どうなんだ?」
「普通はもっとドレスとか使用人とか欲しがるらしいっすよ。王宮騎士のゴードンさんが愚痴ってました」
「ああ、あの人は男爵家の長女と結婚したんだったな」
「領地も持ってた人らしくて、結婚後もちょくちょく夜会に出てるらしいっすね」
「まあ、その心配はないだろうな。ティアナはお茶会は苦手らしいから。うちに来てからは婚約者が騎士爵だから出る必要はないって、断るそうだ。いい理由ができたといっていた」
「先輩、ますます逃しちゃダメっすよ。先輩に並ぶ為にいるような人じゃないっすか。来月の騎士戦も頑張ってほしいっす」
「あれは投票制だろう?さすがに選ばれないさ」
「わかんないっすよ。今までは隊長が自己評価で上から選んでいたっすから、強制参加の人もいたそうっすから」
「まあ、出ることになったらほどほどには戦うさ。さすがに1合打ち合って終わりましたじゃ、子爵にも申し訳が立たないからな」
「またそんなこと言って。婚約者の人もかわいそうっすよ。せっかく騎士戦に出た相手がすぐに負けるなんて」
「きっとティアナならわかってくれるさ」
「かっこいいとこ見せれるっすよ?」
「……別にそこで見せる必要はないだろう。機会があったらでいいさ」
そんなことを話しながら今日の業務も終了になった。後は彼女を迎えに行くだけだ。はやる気持ちを抑えきれず俺はアルスのつぶやきは届かなかった。
「悩むぐらいには、可能性があると…メモっとくっすか」
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