上 下
18 / 56
本編

18

しおりを挟む
料理が完成したところで、こちらの邸にあった包みで一つ一つ丁寧に包んでいく。サーラに渡すのだったらちょっとぐらい大目に見てくれるけど、今回渡すのは侯爵令嬢や伯爵令嬢だ。それなりの見た目にしておかないといけない。後は単純にかわいいというのもあるし、誰の分とか把握しやすいってこともあるんだけど。

「こちらの分は終わりましたわ」

「カレンさんすっごーい!早いですね」

「まあ、これぐらいはメイドのたしなみですので」

やっぱり、一流のメイドともなるとラッピング技術もすごいんだな。さっきから私が1つ完成するたびにテーブルに3つは並んでいる。かといって出来上がりに差があるわけではなく、まるで魔法みたいだ。

「それで、この残っている分はどうされるので?」

カレンさんが期待に満ちた目でこちらを見てくる。分かる、こういう作った後は匂いもあるしほんとに食べたくなるよね。

「カレンさんの思ってる通り、私とカレンさんとロイさんの分ですよ」

「やっぱりそうなんですね。さすがはティアナ様…旦那様の分は?」

気付かれちゃいましたか…。恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけどな。

「ガーランド様の分はですね……。」

小さくカレンさんに耳打ちする。

「…まあ、なんて羨ましい!せいぜい悔しがらせてあげましょう!」

「や、やめてください…」

「……冗談ですよ」

ほっ、そんなことしたらガーランド様がかわいそうだもんね。そういえば厨房借りたままだし、すぐに片づけをしてロイさんを呼ばないと。

「ロイさ~ん、終わったのでもうちょっとだけ待ってください。今片付けますから」

「片付けは私が」

「すべて終わって、料理ですから!」

そういってカレンさんと一緒に片づけて夕食となった。今日の夕食はロイさんの言った通り、仕込み済みで火にかけるだけで完成するようになっていた。こういう気づかいしてくれるのが本当にうれしい。この邸にこれてよかったなあと思ったのです。



夕食後、ティアナ様はお部屋に戻られ、旦那様は少々残っている別の書類仕事があるため執務室に籠っております。勿論、そこにはメイドである私と執事のロイも控えております。

「それで今日のお菓子作りはどうだったんだ?」

「とてもよくできておりました。先ほどクッキーを頂きましたが、味も店のものと比較しても劣るどころか、おいしいですよ」

「やはり、カレンもそう思いましたか。ここで暮らし始めて長いですが、あれだけの味のものはウィラー伯爵家から頂いたもの以来ですね」

「ウィラー伯爵様から頂いたのは10年も前の話だろう」

「それぐらいおいしいという事です」

「そ、そうか。因みに2人はいつもらったのだ?」

「私は一緒に作りましたから、その後すぐにですね」

「私共は夕食後の片付けが終わるタイミングで頂きました」

「そうなのだな!まあ、私は今日は執務もあるし声をかけ辛かったのだな」

「旦那様、まさかとは思いますが、行き帰りに甘いものは嫌いだとか何か仰ってませんわよね?」

「いや、そんなこと言った覚えは…どうだったかな?」

ククク、そんなこと言うとは思えないけれど悩むといいわ。旦那様は口下手で私以外の女性とはほとんど話していないとのことだから、そんな趣味・嗜好の話題なんて自分からは出さない。ティアナ様も好みはこそっと私に聞きに来たぐらいですので、話題には上げていないッッ!たとえ、一日だけでも優越感に浸らせてもらいますよ。

「ま、まあ、今度渡しますといっておられましたし、きっと大丈夫ですよ」

ロイさんがすかさずフォローを入れる。だけど、それ以外の情報を聞いている私はそのフォローが明日の夕方まで生きることはないと知っている。

「そうだ、そうだな。ああ、もう終わるから今日は下がって良い」

「はい」

ショボーンとした旦那様の背中をしり目に私たちは部屋を出る。

「こらカレン!」

「なんでしょう?旦那様のためですわ」

「あれがですか?」

「明日になれば分かりますから…」

フフフ、そう明日の夕方までは私の勝利です。明日までかぁ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚相手の幼馴染に散々馬鹿にされたので離婚してもいいですか?

ヘロディア
恋愛
とある王国の王子様と結婚した主人公。 そこには、王子様の幼馴染を名乗る女性がいた。 彼女に追い詰められていく主人公。 果たしてその生活に耐えられるのだろうか。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

王命を忘れた恋

水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

離縁の脅威、恐怖の日々

月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。 ※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。 ※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

処理中です...