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本編
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「それで、結局どうなったの婚約話は?」
今日もいつものようにサーラと一緒にお昼を食べているとそんなことを聞かれた。
「昨日、お家にお邪魔して今日からはそこから通ってるんだけどいい人だったわよ」
「そう…ん?そこから通ってる…?」
「うん、父さまが破棄されないように一緒に住めって。急に言われたのが私だから荷物も少なくてよかったけど、サーラだったら間に合わなかったでしょうね」
私がふふっと笑いかけるとサーラが急に立ち上がった。
「ティアナ、あなたそれでいいの?いくらなんでも横暴よ!一目見ただけの人とすぐに一緒になれだなんて」
「ちょっ、声大きい」
「ハッ、ごめんなさい」
我に返ったサーラはナンデモアリマセンと椅子に座る。
「でも、本当にいいの?もっといい人がいるんじゃないかと思うのよ」
「そうでもないかも。ある意味お父様の見る目は正しかったんだと思うわ。もちろん私もね」
そういう友人の目は楽しそうだった。この子がこんなに異性のことを楽しく話すなんて珍しいこともあるものだ。
「でも、生活とか大丈夫なの?さすがに暮らしぶりは違うでしょう?」
「確かに部屋の作りとかは小さいけど、執事さんとメイドさんも優しいし、ガーランド様も気遣ってくれてるし。今度食事を作る約束もしたのよ!」
会って1日で名前呼びとはぬぐぐ、このかわいい友人のかわいさは男どもにはまだ早いと手を回していたのに。思わぬところから攻略されてしまうとは。ティアナの料理、おいしいのよね。それも派手なものではなく、素朴な料理ほどおいしい。これがまたポイント高いと思うのよね。凝ったケーキより一枚のクッキー。しかも、市販のより格別においしい。
「でも、料理なんて久しぶりじゃない。もし失敗しても困るから、お菓子とかなら味見してあげるわよ?」
「サーラが食べたいだけじゃないの。でも、最近は作れてないからまた今度持ってくるね」
「やった!ありがとう」
それからはたわいのない話をして、下校時間になった。
「それじゃあ!」
「ええ、また…」
サーラと別れた後は、先ほどの約束を果たすために街で買い物をする。クッキーの材料ならいつも使っているお店があるからそこで買おう。
「おばさんこんにちは」
「いらっしゃい、久しぶりだね。ティアナちゃん」
「家がうるさくて。でも今後はもう少し頻繁に来ることができるかも」
「どうかしたのかい?」
「うん、婚約者の家で暮らすことになって。今度はうるさく言われないと思うから」
「婚約者!そういえばティアナちゃんは貴族だものね。すっかり忘れてたよ」
「そんな感じしないってよく言われる」
「でも、大丈夫なのかい?急な話だし変な人のところじゃあ…」
「ヘーキよ。王宮警備隊の人だし、すごく優しかったの!」
「楽しそうでよかったよ。今日は何の材料にする?」
「久しぶりだしクッキーにしようと思ってるんだけど、何か珍しい材料とかない?」
「あんまり珍しいのはないねぇ。でも、シナモンとかココアは安くなってるよ」
「ありがとう、ちょっと見てみる」
そういって、私は店の中の製菓コーナーを見る。この店は品ぞろえがいいだけでなく、金額以上に質のいい仕入れが魅力だ。商品の前の品質確認用のところに手を伸ばしてみる。確かにおすすめの材料の質は値段よりかなりいい。
「ねえ、おばさん。これ安すぎない?」
「あんまり売れなくてねぇ。結構原価に近いんだけどこればっかりはね。場所取っても仕方ないし」
「ふーむ。じゃあ、これとクッキーとケーキの材料をもらうね。できたら持ってくるよ」
「お願いするよ。それじゃあこれで」
相変わらずリーズナブルな価格だ。私は代金を払い、店を出て邸を目指す。
「ん?ティアナどうした、こんなところで?」
後ろから声をかけられたので振り向くと、そこにはガーランド様がいた。
「ガーランド様こそどうしてこちらに?」
「ああ、王宮警備隊は普段はこの時間ぐらいまでが勤務時間なんだ。あとは一部の隊員が遅番で詰めることになっている。特に独身者が中心で、婚約者がいたり既婚者は優先的に遅番からは外されるんだ」
「そうだったんですね。じゃあ、私と婚約してよかったですね。この時間だったらまだまだいろんな店に行けますよ」
「そうだな。しかし、ティアナは迎えの馬車などはないのか?てっきり子爵家から出ているものとばかり…」
「父さまからは言われたこともありましたが、清貧に外れますし、私を襲おうなんて人いませんよ」
「そうか…」
何か考えるような仕草をしてガーランド様は頷いている。
「そういえば何か荷物を持っているようだな。持とう」
「いえ、特に重たくないですし大丈夫…」
言い終わる前に材料の入った袋を取り上げられてしまった。しかし、昨日のことといい、結構力もちなんだなぁ。
「どうした、家に帰るぞ?」
「はっ、はい、ただいま」
トテトテと私はガーランド様の後ろをついていき、一緒に家に帰った。
今日もいつものようにサーラと一緒にお昼を食べているとそんなことを聞かれた。
「昨日、お家にお邪魔して今日からはそこから通ってるんだけどいい人だったわよ」
「そう…ん?そこから通ってる…?」
「うん、父さまが破棄されないように一緒に住めって。急に言われたのが私だから荷物も少なくてよかったけど、サーラだったら間に合わなかったでしょうね」
私がふふっと笑いかけるとサーラが急に立ち上がった。
「ティアナ、あなたそれでいいの?いくらなんでも横暴よ!一目見ただけの人とすぐに一緒になれだなんて」
「ちょっ、声大きい」
「ハッ、ごめんなさい」
我に返ったサーラはナンデモアリマセンと椅子に座る。
「でも、本当にいいの?もっといい人がいるんじゃないかと思うのよ」
「そうでもないかも。ある意味お父様の見る目は正しかったんだと思うわ。もちろん私もね」
そういう友人の目は楽しそうだった。この子がこんなに異性のことを楽しく話すなんて珍しいこともあるものだ。
「でも、生活とか大丈夫なの?さすがに暮らしぶりは違うでしょう?」
「確かに部屋の作りとかは小さいけど、執事さんとメイドさんも優しいし、ガーランド様も気遣ってくれてるし。今度食事を作る約束もしたのよ!」
会って1日で名前呼びとはぬぐぐ、このかわいい友人のかわいさは男どもにはまだ早いと手を回していたのに。思わぬところから攻略されてしまうとは。ティアナの料理、おいしいのよね。それも派手なものではなく、素朴な料理ほどおいしい。これがまたポイント高いと思うのよね。凝ったケーキより一枚のクッキー。しかも、市販のより格別においしい。
「でも、料理なんて久しぶりじゃない。もし失敗しても困るから、お菓子とかなら味見してあげるわよ?」
「サーラが食べたいだけじゃないの。でも、最近は作れてないからまた今度持ってくるね」
「やった!ありがとう」
それからはたわいのない話をして、下校時間になった。
「それじゃあ!」
「ええ、また…」
サーラと別れた後は、先ほどの約束を果たすために街で買い物をする。クッキーの材料ならいつも使っているお店があるからそこで買おう。
「おばさんこんにちは」
「いらっしゃい、久しぶりだね。ティアナちゃん」
「家がうるさくて。でも今後はもう少し頻繁に来ることができるかも」
「どうかしたのかい?」
「うん、婚約者の家で暮らすことになって。今度はうるさく言われないと思うから」
「婚約者!そういえばティアナちゃんは貴族だものね。すっかり忘れてたよ」
「そんな感じしないってよく言われる」
「でも、大丈夫なのかい?急な話だし変な人のところじゃあ…」
「ヘーキよ。王宮警備隊の人だし、すごく優しかったの!」
「楽しそうでよかったよ。今日は何の材料にする?」
「久しぶりだしクッキーにしようと思ってるんだけど、何か珍しい材料とかない?」
「あんまり珍しいのはないねぇ。でも、シナモンとかココアは安くなってるよ」
「ありがとう、ちょっと見てみる」
そういって、私は店の中の製菓コーナーを見る。この店は品ぞろえがいいだけでなく、金額以上に質のいい仕入れが魅力だ。商品の前の品質確認用のところに手を伸ばしてみる。確かにおすすめの材料の質は値段よりかなりいい。
「ねえ、おばさん。これ安すぎない?」
「あんまり売れなくてねぇ。結構原価に近いんだけどこればっかりはね。場所取っても仕方ないし」
「ふーむ。じゃあ、これとクッキーとケーキの材料をもらうね。できたら持ってくるよ」
「お願いするよ。それじゃあこれで」
相変わらずリーズナブルな価格だ。私は代金を払い、店を出て邸を目指す。
「ん?ティアナどうした、こんなところで?」
後ろから声をかけられたので振り向くと、そこにはガーランド様がいた。
「ガーランド様こそどうしてこちらに?」
「ああ、王宮警備隊は普段はこの時間ぐらいまでが勤務時間なんだ。あとは一部の隊員が遅番で詰めることになっている。特に独身者が中心で、婚約者がいたり既婚者は優先的に遅番からは外されるんだ」
「そうだったんですね。じゃあ、私と婚約してよかったですね。この時間だったらまだまだいろんな店に行けますよ」
「そうだな。しかし、ティアナは迎えの馬車などはないのか?てっきり子爵家から出ているものとばかり…」
「父さまからは言われたこともありましたが、清貧に外れますし、私を襲おうなんて人いませんよ」
「そうか…」
何か考えるような仕草をしてガーランド様は頷いている。
「そういえば何か荷物を持っているようだな。持とう」
「いえ、特に重たくないですし大丈夫…」
言い終わる前に材料の入った袋を取り上げられてしまった。しかし、昨日のことといい、結構力もちなんだなぁ。
「どうした、家に帰るぞ?」
「はっ、はい、ただいま」
トテトテと私はガーランド様の後ろをついていき、一緒に家に帰った。
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