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中編

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翌日、外出許可を得た私は朝食を終えて読書をしていた。

「ねぇ、ハンナ。殿下が来る前に裏庭に行くのはダメなの?」

「殿下がせっかくお嬢様に興味を持たれた、この機会を生かしませんと」

「やっぱり、殿下って私にあまり興味がなかったのね」

「お嬢様も感じておられましたか?」

「私も悪かったのよ。第2王子って肩書ばかり見てたもの」

記憶をたどる限り、殿下の名前を呼んだ記憶もなければ、連れ回すのも人目があるところだけ。社交の場など王族と一緒にいると示せる場所だけ一緒だったのだ。

「ま、流石に裏庭で土いじりをすれば婚約破棄されるでしょ」

「何かおっしゃいましたか?」

「ううん。裏庭に行くのが今から楽しみだなって」

「左様ですか」

「そういえば裏庭に行く時は着替えるの?」

「いえ、そのような予定はありませんが…。今の丈が少し短いドレスで十分では?」

「ダメダメ、そんなのじゃ服が汚れちゃう」

「お嬢様は裏庭で何をされるのですか?」

「何って裏庭を見に行くんだよ?そうだ!あの服持ってきて!庭師のおじいさんが着てたやつ」

「えっ、あの服ですか?ですがあれは使用人用の服でも質が…」

「いいから!何、ハンナは私の言うことに意見するの?」

やばっ!こういうことは2度と言わないようにしてたのに、癖になってるのか言っちゃったよ~。ハンナ怒ってるよね?

「これが旦那様の言われていた…。かしこまりました!お嬢様の望みとあらばハンナ用意してまいります!」

「お、お願いね」

何だかハンナ嬉しそうだったのだけど…。まあ、用意してくれるならいいいわ。怒ってないみたいでよかった。


「お昼を食べて着替えたのですが、どうしました殿下?」

今日、お父様たちは用事でいないので私が出迎えたんだけど、殿下が私を一目見て全く微動だにしない。

「な、なんだその恰好は?」

「何と言われましても裏庭へ行くのに必要な格好ですが」

「いや、その恰好は庭師のものだろう。裏庭は手入れがされていないのか?」

「公爵家でそれはありません。ただ、裏は森に繋がっておりますので、少し行けばそこそこ荒れてはいますが…」

「なら、ドレスで十分だろう」

「そんなことより早く行きましょう殿下。殿下を待っていたんですよ」

「俺を?」

「ええ、殿下がいないと裏庭に行けないんです。さあ、行きますよ!」

「ああ…」

まだ、反応が薄い殿下の手を引っ張って裏庭に行く。とはいえ、元々運動をしないアルマナの体力は知れているようで、無茶は出来ないみたいだ。

「ふむ。流石に裏庭は俺も初めてだな」

「こちらは表の庭に植える苗を育ててるんです。後は季節が違う植物などもここで育てますね」

「王宮だと季節ごとに庭が変わるから新鮮だな」

「そうなんですね。それじゃあ、私はこれで」

「これでとは?もう部屋に帰るのか?」

「いいえ、私の目的はもっと奥ですので」

そう、私はここにある苗には興味がない。この奥の森近くに生えている雑草の中に使える薬草がないか探しに来たのだ。

「それでは私も失礼します」

「あれ?ハンナもついてくるの?」

「もちろんです。お嬢様を一人にはできませんから」

ハンナはそういうと少しスカートを上げてこちらに来た。こうなると言っても聞かないので、かごも持ってきてもらう。

「それじゃあ、出発」

私はいそいそと裏庭を進んでいく。少し進むと雑草が生えているところに来た。まあ、雑草というのも一般人の目線であって、1つ1つに名前があるんだけどね。

「ここで何をされるのでしょうか?」

「探している薬草があるから、それを確認しに来たの」

まずは、前世と似たような品種があるかどうかだ。見た目が一緒でも成分が違うかもしれないし、そこだけは気を付けないとね。

「あっ、これは使える奴だ」

クンクンとまずは鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。うん、匂いからどうやら同じ品種のようだ。

「後は成分だね。パクッ」

「お、お嬢様何を…」

「うん?匂いからそうだと思うんだけど、一応味を見て確認してるのよ」

「いけません!そのような訳の分からない草を食べるなど…」

「大丈夫。慣れてるから」

「慣れてる?」

いけない、こっちでは初めてだった。

「あ~、何でもないよ。それよりハンナ、同じやつをとりあえず摘んでくれる?」

「分かりました」

「なあ、アルマナは何をしているんだ?」

「私に聞かないでくださいよ殿下。あえて言うなら草食べてましたね」

「だな。アルマナはあんな奴だったか?」

「知りませんよ。私はいつも馬車で待ってましたし。殿下は行かないんですか?」

「行ってどうするのだ?」

「まあそうですね。待ちますか?」

「何が目的か気になる。待っておこう」

そんな会話を尻目に私は裏庭に生えていた数種類の薬草を採って殿下のところに戻ってきた。

「もう気が済んだのか?」

「これ以上は取り過ぎですし、処理が間に合いませんから」

「お嬢様、こちらはどうすれば?」

「土を洗ってどこかに置いておかないといけないわね。どこかいい場所はないかしら?」

「では、私が保管しておきます」

「お願いね」

「それで、あんな雑草をどうするんだ?」

「雑草じゃありません。いや、見た目はそうかもしれませんけど、今日採ったのは立派に頭痛薬や整腸剤に使えるものなんですよ」

「あれがか?」

「そうですよ。頑張って採ったんですからちゃんと作るところまでやります。出来たら殿下にも見せてあげますね!」

「あ、ああ」

笑顔でそういうと殿下もまんざらではない顔をしていた。

「それでは私はこの後の処理がありますので失礼します」

「分かった。無理はするなよ」

「はい。心配してくださってありがとうございます!」

殿下と別れてハンナに指示を出す。乾燥させるものは乾燥させるし、それぞれにあった方法で管理しないとね。

「そうだわ。ラミネートは出来ないだろうけど、管理が簡単になるように棚に置くようにしなくちゃ」

こういうので一番厄介なのは似たものを誤って混ぜてしまうことだ。効果が変わるのはもちろん、過剰に効いてしまったりと大変危険なのだ。そんなことをしていると夕食後にお父様に残るように言われてしまった。

「その、なんだ…アルマナ。今日裏庭で薬草を採取したということだが…」

「はい。裏庭は森への道ですし、中々種類がありましたわ」

「お前はその知識をどこで身につけたのだ?ハンナにこの1週間、読んだ本について確認したがそのような本はなかったのだが…」

「あ~、それはですね…」

こればっかりはしょうがないか。今後研究所とか開きたいし、ここは公爵家というアドバンテージを得るのだ。私は頭を打って目覚めた後、前世の記憶が戻ったことを伝えた。

「なるほどな。急に大人しくなったしハンナたちへの態度も変わったと思ったらそんなことが…」

「ねえ、あなたはアルマナなの?」

「はい、お母様。確かに知識などはずいぶん増えましたけど、アルマナです。なのでその…ちょっと自分がやっていたことが恥ずかしいです」

「まぁ、でも私はあれはあれでかわいいと思うわよ。男を振り回して女は磨かれるのですからね」

「変なことを吹き込まないでくれ。それなんだが、研究所はともかく婚約破棄だけは考え直してくれんか?」

「やっぱり王家からの要請は断れませんか?」

「いや、万が一にも王太子に何かあった時に、低い爵位の家を継いでいると都合が悪いのでな」

「今の王家に王子は2人だけだものね」

「分かりました。でも、私が婚約にこだわらないことは覚えておいてくださいね」

部屋に戻ってハンナにも話をすると詰め寄られてしまった。

「お、お嬢様はもうわがままは言ってはくださらないのですか?」

「ま、まあ、今まで迷惑かけたし。あっ、でも、研究所って言っても人を集めたり薬草とかを栽培したりとやることが多いから、私付きのハンナにはこれからもお世話になると思う」

「本当ですか!私、早速お嬢様のご期待に応えられるように知識を身に付けます!」

「えっ、いや、そこは私がメモとか渡すし、繋ぎぐらいで…」

「いいえ!これからもお嬢様の手足となって働けるなんて素晴らしいです!」

昔のアルマナはハンナにどうやって接してたんだろ?この感じは普通ではないよね。


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