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プロローグ
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「このままお嬢様はお目覚めにならないのでは…」
「だが、治療は施した。しかし、ハンナの言う通りかもしれん。こんなことになるとは、初めての子どもとして甘やかせすぎた…」
「あなた…」
「いや、大事な子だな。目覚めてくれればいい」
何だか声が聞こえる。節子かしら?全くいつまでたっても子ども扱いするんだから…。『恵お嬢様、またそんな恰好で…』とか、いい歳なのにずっと構ってくるんだから。
「ん…」
「お気づきになられたようです」
「あれ?ここは?」
「アルマナ!気が付いたのね!」
「アルマナ?私はめぐ…うっ!?」
頭が痛い。何かが流れ込んでくる。
「大丈夫か?」
「あ、父さま…。ア、アルマナは大丈夫です」
それだけ伝えると再び私は意識を手放した。
「うん、ここは?」
再び意識を取り戻し、周りを見渡す。部屋には誰もいないようだ。しかも、あたりが暗いことからまだ夜明け前だということが分かる。
「私は何してたんだっけ?いつものようにハンナを連れて街に行こうとして、確かバランスを崩して…。いいえ、会社の研究室に無理を言って残って、新薬の最後の仕上げを…」
記憶が混ざり合う。私は恵で私はアルマナ…アルマナ・フィアーラル。夜明けまでの時間を使って頭の中を整理するとどうやら私は日本で死んで転生したらしい。らしいというのは研究室にいた時にそんな小説があると教えてくれた後輩がいたからだ。私は新薬の論文読んでからと返したけど。
「ううん、今思い出せることといえば公爵家の令嬢としてわがまま三昧だったことぐらいね。特に侍女のハンナには迷惑かけたわ。今は14歳だし、これからきっちり更生していかないとね!後は作りかけだった新薬のことも気になるけど、ここでの既存薬の確認もしなきゃ」
アルマナの記憶をたどるとそこまで薬は浸透していない。これは魔法があるのも関係しているけれど、まだまだ未発展の分野だからだ。
「こっちでの生活もだけど、向こうのことも気になるわね。家族は大丈夫かしら?」
そう思いながら、かつて日本で生活していた頃を思い出していた。
「恵~、パパだよ」
「ママですよ~」
私、近衛恵は製薬会社幹部の父を持つ子どもだ。古くは鎌倉時代からある家らしく、旧華族で今の地位を得たらしい。父も研究員ではなく幹部というだけで、出身も薬学部ではなく経済学部だ。最も、営業とか研究所の設立とかもしていて立派に会社へ貢献している。
「恵~、今度パパの会社の見学に行かないかい?」
「おしごと見にいくの?」
「うん。一度、どんな製品を作ってる会社でパパが働いてるか見せてあげたいんだよ」
「いく~」
こうして私の運命の日がやって来た。パパに連れられてやって来た会社の研究所に通された私は、特別に珍しい薬草を見せてもらったのだ。図鑑とかで花や草は見たことがあったけど、こういう草は載ってなかった。珍しいから、中々載ってる本がないんだって。そう聞いた私は次の日から、山野を駆けていた。
「パパのお仕事に興味が出たのかい?」
「うん!いっぱい、めずらしいお花や草を見るの!」
子どもながらに次々と知識を付けていった私に気を良くした父は、家庭教師も付けてくれた。選ばれたのは、実績がある引退間近のおじいちゃんやおばあちゃん先生だった。そのおかげか孫のような年の私は可愛がられ、予定よりはるかに詳しくレベルの高い教育が施された。
「気が付いた時には研究所が選びたい放題だったし、後悔はないんだけどな」
大学を卒業する頃にはそれまでの論文や研究の成果で父の会社だけでなく、数多くの研究所から誘いがあった。もちろん、成果の多くは共同研究だったけどね。家庭教師だった先生たちの弟子とか孫弟子の人と一緒にやったんだ。
「就職後、初の新人での主任研究員になったし、家に帰る回数も減ってたからしょうがないよね」
最後の記憶をたどると多分、疲労により倒れたのだろう。いつも朝一番に来てる新人ちゃん、びっくりしてないといいけど…。
コンコン
前世を思い出しているとドアがノックされた。窓の外を見ると夜明けを迎えていた。
「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」
「ん、起きてるわ」
ガチャリとドアが開きハンナが入ってくる。以前までの私ならここでも文句を言っていた。やれ朝早くに起こすなだの、朝ご飯が遅れて早く起こせだの、学園に通う時は着くのがギリギリになっただのと無茶苦茶を言っていた。でも、新生した私はそんなことは言わないのよ。
「おはようございます。お加減はいかがでしょうか?」
「大丈夫みたい。昨日はまた倒れたみたいでびっくりさせたでしょう?ごめんなさいね」
「い、いえ、お元気そうでよかったです。ですが、念のため後で診察を受けてください」
「分かったわ。学園の方はどうかしら?」
「残すところあと2ヶ月ですし、今は長期休暇中ですからそのまま休んでも良いと、旦那様から伺っております」
「そうなの?それについてはまたお父様と話すわね」
着替えるからと立ち上がるとハンナに止められる。
「まだ、本調子ではないのですからもうしばらくはそのままでお待ちください」
「では代わりに何か本を持ってきてくれない?何もすることがないの」
「分かりました。いつも読まれている本でしょうか?」
「いいえ、ちょっと待ってね」
私は頭の中でアルマナが今までどれだけの知識を付けて来たかを思い出す。勉強か~この子ほとんどやって来てないな。流石に教科書とは言えないので、退屈しのぎに買ってきたと思われる文学書と辞書を指定する。こういう本で何とか熟語とか難し目の表現を覚えないと。また、前みたいなことをするなら色んな文章に慣れないといけないしね。
「この2冊ですか?」
「ええ、そうよ。お願い」
「かしこまりました。それでは医者の手配をしますので失礼します」
ハンナが本を持って来てくれ、再度出て行ったのを見送ると早速、本を読む。
「ううっ、あんまりわかんないかも」
思ったより勉強をさぼっていたようだ。辞書をめくる回数がどんどん増えていく。しばらく読み進めていると再びドアがノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのはハンナの手配したお医者様だった。
「ふむ。頭は小さくこぶになっているようですが、この程度であれば問題ないでしょう。ただ、大丈夫と思っても容体が急変することがありますので、数日は付き添ってください」
「分かりました。お嬢様には私がつきます」
「先生、ありがとうございます」
「いやいや、大事にな。お嬢ちゃんを見ると孫を思い出したよ」
おじいちゃん先生が私の頭を撫でて帰って行くと、再び部屋にはハンナと2人きりだ。
「ハンナ、悪いんだけどこの本は私には難しいみたい。もう少し、簡単な本をくれないかしら?」
「どのような本をお探しですか?」
「そうね…。きょ、教科書とか?」
あんまり言いたくなかったけど、今のアルマナには教科書が一番向いてると思う。基礎力の欠如は致命的だ。こうして、目が覚めてというか記憶が戻って1週間。私はまだ体調が戻らないという言い訳を使って、学力の向上に努めたのだった。
「だが、治療は施した。しかし、ハンナの言う通りかもしれん。こんなことになるとは、初めての子どもとして甘やかせすぎた…」
「あなた…」
「いや、大事な子だな。目覚めてくれればいい」
何だか声が聞こえる。節子かしら?全くいつまでたっても子ども扱いするんだから…。『恵お嬢様、またそんな恰好で…』とか、いい歳なのにずっと構ってくるんだから。
「ん…」
「お気づきになられたようです」
「あれ?ここは?」
「アルマナ!気が付いたのね!」
「アルマナ?私はめぐ…うっ!?」
頭が痛い。何かが流れ込んでくる。
「大丈夫か?」
「あ、父さま…。ア、アルマナは大丈夫です」
それだけ伝えると再び私は意識を手放した。
「うん、ここは?」
再び意識を取り戻し、周りを見渡す。部屋には誰もいないようだ。しかも、あたりが暗いことからまだ夜明け前だということが分かる。
「私は何してたんだっけ?いつものようにハンナを連れて街に行こうとして、確かバランスを崩して…。いいえ、会社の研究室に無理を言って残って、新薬の最後の仕上げを…」
記憶が混ざり合う。私は恵で私はアルマナ…アルマナ・フィアーラル。夜明けまでの時間を使って頭の中を整理するとどうやら私は日本で死んで転生したらしい。らしいというのは研究室にいた時にそんな小説があると教えてくれた後輩がいたからだ。私は新薬の論文読んでからと返したけど。
「ううん、今思い出せることといえば公爵家の令嬢としてわがまま三昧だったことぐらいね。特に侍女のハンナには迷惑かけたわ。今は14歳だし、これからきっちり更生していかないとね!後は作りかけだった新薬のことも気になるけど、ここでの既存薬の確認もしなきゃ」
アルマナの記憶をたどるとそこまで薬は浸透していない。これは魔法があるのも関係しているけれど、まだまだ未発展の分野だからだ。
「こっちでの生活もだけど、向こうのことも気になるわね。家族は大丈夫かしら?」
そう思いながら、かつて日本で生活していた頃を思い出していた。
「恵~、パパだよ」
「ママですよ~」
私、近衛恵は製薬会社幹部の父を持つ子どもだ。古くは鎌倉時代からある家らしく、旧華族で今の地位を得たらしい。父も研究員ではなく幹部というだけで、出身も薬学部ではなく経済学部だ。最も、営業とか研究所の設立とかもしていて立派に会社へ貢献している。
「恵~、今度パパの会社の見学に行かないかい?」
「おしごと見にいくの?」
「うん。一度、どんな製品を作ってる会社でパパが働いてるか見せてあげたいんだよ」
「いく~」
こうして私の運命の日がやって来た。パパに連れられてやって来た会社の研究所に通された私は、特別に珍しい薬草を見せてもらったのだ。図鑑とかで花や草は見たことがあったけど、こういう草は載ってなかった。珍しいから、中々載ってる本がないんだって。そう聞いた私は次の日から、山野を駆けていた。
「パパのお仕事に興味が出たのかい?」
「うん!いっぱい、めずらしいお花や草を見るの!」
子どもながらに次々と知識を付けていった私に気を良くした父は、家庭教師も付けてくれた。選ばれたのは、実績がある引退間近のおじいちゃんやおばあちゃん先生だった。そのおかげか孫のような年の私は可愛がられ、予定よりはるかに詳しくレベルの高い教育が施された。
「気が付いた時には研究所が選びたい放題だったし、後悔はないんだけどな」
大学を卒業する頃にはそれまでの論文や研究の成果で父の会社だけでなく、数多くの研究所から誘いがあった。もちろん、成果の多くは共同研究だったけどね。家庭教師だった先生たちの弟子とか孫弟子の人と一緒にやったんだ。
「就職後、初の新人での主任研究員になったし、家に帰る回数も減ってたからしょうがないよね」
最後の記憶をたどると多分、疲労により倒れたのだろう。いつも朝一番に来てる新人ちゃん、びっくりしてないといいけど…。
コンコン
前世を思い出しているとドアがノックされた。窓の外を見ると夜明けを迎えていた。
「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」
「ん、起きてるわ」
ガチャリとドアが開きハンナが入ってくる。以前までの私ならここでも文句を言っていた。やれ朝早くに起こすなだの、朝ご飯が遅れて早く起こせだの、学園に通う時は着くのがギリギリになっただのと無茶苦茶を言っていた。でも、新生した私はそんなことは言わないのよ。
「おはようございます。お加減はいかがでしょうか?」
「大丈夫みたい。昨日はまた倒れたみたいでびっくりさせたでしょう?ごめんなさいね」
「い、いえ、お元気そうでよかったです。ですが、念のため後で診察を受けてください」
「分かったわ。学園の方はどうかしら?」
「残すところあと2ヶ月ですし、今は長期休暇中ですからそのまま休んでも良いと、旦那様から伺っております」
「そうなの?それについてはまたお父様と話すわね」
着替えるからと立ち上がるとハンナに止められる。
「まだ、本調子ではないのですからもうしばらくはそのままでお待ちください」
「では代わりに何か本を持ってきてくれない?何もすることがないの」
「分かりました。いつも読まれている本でしょうか?」
「いいえ、ちょっと待ってね」
私は頭の中でアルマナが今までどれだけの知識を付けて来たかを思い出す。勉強か~この子ほとんどやって来てないな。流石に教科書とは言えないので、退屈しのぎに買ってきたと思われる文学書と辞書を指定する。こういう本で何とか熟語とか難し目の表現を覚えないと。また、前みたいなことをするなら色んな文章に慣れないといけないしね。
「この2冊ですか?」
「ええ、そうよ。お願い」
「かしこまりました。それでは医者の手配をしますので失礼します」
ハンナが本を持って来てくれ、再度出て行ったのを見送ると早速、本を読む。
「ううっ、あんまりわかんないかも」
思ったより勉強をさぼっていたようだ。辞書をめくる回数がどんどん増えていく。しばらく読み進めていると再びドアがノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのはハンナの手配したお医者様だった。
「ふむ。頭は小さくこぶになっているようですが、この程度であれば問題ないでしょう。ただ、大丈夫と思っても容体が急変することがありますので、数日は付き添ってください」
「分かりました。お嬢様には私がつきます」
「先生、ありがとうございます」
「いやいや、大事にな。お嬢ちゃんを見ると孫を思い出したよ」
おじいちゃん先生が私の頭を撫でて帰って行くと、再び部屋にはハンナと2人きりだ。
「ハンナ、悪いんだけどこの本は私には難しいみたい。もう少し、簡単な本をくれないかしら?」
「どのような本をお探しですか?」
「そうね…。きょ、教科書とか?」
あんまり言いたくなかったけど、今のアルマナには教科書が一番向いてると思う。基礎力の欠如は致命的だ。こうして、目が覚めてというか記憶が戻って1週間。私はまだ体調が戻らないという言い訳を使って、学力の向上に努めたのだった。
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