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リバースストーリー
1 家出しない伯爵令嬢
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これは、カノン=エレステン伯爵令嬢が婚約者と別れることなく幸せをつかんだお話です。
私は世界一幸せ者の王子だろう。私の身体的境遇を見ればそのように言うものはいないだろうが、何より私自身がそれを知っている。そしてそれは私の婚約者がもたらしてくれるものだ。
私の名前はクレヒルト=グレンデル。グレンデル王国の第二王子にして王位継承権第二位の王子である。しかし、私のことを人は雛王子と陰口を叩く。それは私が生まれ持った『魔力病』という病気にある。
『魔力病』とは人が大小持つ魔力をコントロールできずに、体内で巡る魔力が体外に自然に出ていき、衰弱死するという恐ろしい病気だ。治療法は無く、これまでは魔力回復薬を飲み続けることでしか生き永らえないとされた病だ。
ただし、魔力回復薬は平民の一か月分の給料にも相当し、大商家や貴族以外では生き延びることができないと言われてきた。
この病は魔導学・薬学両面より研究されているが、隣国の魔導王国と母の代に婚姻を結び、魔導研究においては近隣諸国でも上位に入る我が国ですら、治療法のきっかけも作れなかった。
また薬でしか治せない病気も多い薬学方面では我が国は後塵を拝していた。そんないつ死ぬともしれない私のために用意された婚約者がカノン=エレステン伯爵令嬢だった。
何も彼女の家が伯爵家にしては権力を持っていたというわけではない。彼女の家は代々、薬学研究に励み彼女の祖父の代には薬学研究所の所長を務めた実績もある。残念ながらその息子は才能が乏しいようだったが、どのみち長く生きられないならと、せめてかの家に今一度チャンスを与え、薬学が発展する期待を込めて結ばれた縁談だった。
親である陛下にも兄にも婚約者にもかいがいしく世話をしてもらう王子。だから雛王子だ。
『クレヒルト様大丈夫ですか?』私の婚約者である彼女はいつもこの言葉から会話を始める。二か月に一度、薬品の匂いとともにやってきては様子を見に来てくれるのだ。彼女から薬品の匂いがするのも仕方のないことだ。ほとんど休みを取らずに研究に勤しんでいるからだ。
調べさせたところによると、彼女は家でかなり粗末な扱いを受けているらしい。パーティーに着ていく服は仕立てるが、それ以外の服と言えばドレスと言えないような服ばかりだ。おまけに研究所から帰っても研究をさせ続けているらしい。
「以前、魔力回復薬の改良版を作った時のように軟禁したら今度こそ許さん!」
魔力回復薬は効能の割に値段が高かったため、これまでは大変高価な薬だったが、彼女のおかげで吐き気のするほど不味い味と臭い、何より効能が上がった。効果量だけでなく使う素材も改良されており、コストカットもできている。これにより延命できるものが増えたのも彼女の功績だったが、そのために開発末期には軟禁してまで開発させたらしい。
「伯爵自らの手で研究を行い、こちらが強く関与できないと思って好き勝手してくれる。だが、これ以上好きにはさせない!」
彼女の元にはこの度その働きから、王家の影をつけることになった。異例のことではあるが、私につけても一切価値がないと押し切り、ようやく二名をつけることができたのだ。
「アーニャ、ライン。お前たち二名には今後、カノンを守ってもらう。彼女に危険が迫らないように全力を尽くせ!」
「はっ!」
ラインが恭しく頭を下げるが、アーニャの方は思案気だ。
「どうかしたか?」
「お嬢様とクレヒルト殿下、どちらかをお守りする時はどうすればよいのでしょう?」
「無論彼女だ」
「わかりました。必ずお守りいたします」
彼女は影としては名門の家の出だ。兄上に感謝しなければ。あれほど忠義に篤く、優秀な影もいないだろう。ああ言えば忠実に任務をこなしてくれる。
二人が気配を消してしばらく、私付きの騎士が入ってくる。
「クレヒルト殿下、本日はカノン様の来訪日ですね」
「それがどうした?」
「顔がにやけてますよ」
思わず顔に手をやると騎士は笑顔を見せていた。そこでようやくからかわれていたのだと気づく。幼少から仕えてくれているが、こういうところは苦手だ。
「にしても、本当に体調がよくなられましたね」
「ああ、やはり盗まれた薬は……」
「ええ、間違いないと思います。ただ、裏が大きいかと思いますので、我慢が必要でしょう」
最近俺に絡んでくる令嬢が『魔力病』治療薬の治験最終段階に入っている薬を盗んだことは分かっている。だが、バックにいるのが誰かまだ分からないので、苦々しくも放っているのだ。カノンの大切な成果を横取りするとは許せんことだ!
「小さい頃のあいつもかわいかった。『クレヒルトさま、これが魔力回復薬の材料です』って薬草園から引き抜いて持ってきたり、ちょっと大きくなれば『クレヒルト様びっくりしました? 改良版ですよ。おいしいでしょう?』なんて、いたずらっぽく笑ったり……ああ、もうすぐ会えるのだな」
「殿下はカノン様が関わる時以外はまともなのに……」
「はあ? お前はあの天使を見てそう思わんのか?」
「確かに彼女は素晴らしい人物ですが、外見をして言うとそこまでかといわれますと」
「何を言うんだ! あの、今日の体調はどうでしょうかと気遣う目も、ゆっくりしてくださいという顔つきもも素晴らしいだろう!」
「外では発言しないでくださいね」
「それをあいつときたら!」
その時、小さなノック音とともに小さな影が部屋に入ってくる。
「クレヒルト様、大きな声を出されていましたが大丈夫ですか? 体調が悪いのだったら……」
「カ、カノン。大丈夫だ。だから寂しいことを言わないでくれ……」
「いいえ、私こそ申し訳ありません。いつもドレスの一つも着ずに来てしまって。先日も他の方に言われましたの」
「別にカノンは気にすることじゃない。それだけ頑張っているんだからね。だけど、いつも言っているように休まないといけないよ」
「わかってはいますが、殿下や同じ病気の方に少しでも早く治っていただきたいんです。その……」
彼女が言い淀んでしまった。私は知っているが、彼女は私が『魔力病』治療薬の開発が終了していることを知らないと思っているからだろう。治験の結果、副作用が強ければ作り直しとなる場合もある。ぬか喜びさせたくないという気持ちと、もうすぐ治してあげられる気持ちがせめぎ合っているのだろう。
その気持ちをとても喜んでいる自分がいる。皆が言うように自分はいまだに何もできていない雛王子だというのに……。
「心配するな。これでも最近は体調がいいのだ。もうしばらくすれば、さらに良くなるかもな」
「……そうですか。では、また来ますので」
「あ、あぁ」
何だか途中から元気がなかったようだがどうしたのだろうか? まあ、彼女のことだ。次に会う時は元気になっているだろう。私も彼女に負けないように頑張らなければな。
「明日からまた、学問の方を再開する」
「体調は大丈夫ですか?」
「ああ、これまで王族の役目を果たせなかった分を取り返さねばな」
「手配は致しますがくれぐれもご無理はなさいませぬように」
「分かっている」
以前にも本を読むのに集中しすぎだというので取り上げられたことがある。あの時はつらかった。なにせ、普段から寝たきりに近いからやることが本当になくなってしまった。あんなことだけはもうごめんだ。
「ふぅ、しかし今日は少し疲れたな。もう休むことにする。引き続き調査の方を頼む」
「はっ!」
こうして今日も終わる。しかし、また次に会えるのは二か月後か……。長いものだな。
私は世界一幸せ者の王子だろう。私の身体的境遇を見ればそのように言うものはいないだろうが、何より私自身がそれを知っている。そしてそれは私の婚約者がもたらしてくれるものだ。
私の名前はクレヒルト=グレンデル。グレンデル王国の第二王子にして王位継承権第二位の王子である。しかし、私のことを人は雛王子と陰口を叩く。それは私が生まれ持った『魔力病』という病気にある。
『魔力病』とは人が大小持つ魔力をコントロールできずに、体内で巡る魔力が体外に自然に出ていき、衰弱死するという恐ろしい病気だ。治療法は無く、これまでは魔力回復薬を飲み続けることでしか生き永らえないとされた病だ。
ただし、魔力回復薬は平民の一か月分の給料にも相当し、大商家や貴族以外では生き延びることができないと言われてきた。
この病は魔導学・薬学両面より研究されているが、隣国の魔導王国と母の代に婚姻を結び、魔導研究においては近隣諸国でも上位に入る我が国ですら、治療法のきっかけも作れなかった。
また薬でしか治せない病気も多い薬学方面では我が国は後塵を拝していた。そんないつ死ぬともしれない私のために用意された婚約者がカノン=エレステン伯爵令嬢だった。
何も彼女の家が伯爵家にしては権力を持っていたというわけではない。彼女の家は代々、薬学研究に励み彼女の祖父の代には薬学研究所の所長を務めた実績もある。残念ながらその息子は才能が乏しいようだったが、どのみち長く生きられないならと、せめてかの家に今一度チャンスを与え、薬学が発展する期待を込めて結ばれた縁談だった。
親である陛下にも兄にも婚約者にもかいがいしく世話をしてもらう王子。だから雛王子だ。
『クレヒルト様大丈夫ですか?』私の婚約者である彼女はいつもこの言葉から会話を始める。二か月に一度、薬品の匂いとともにやってきては様子を見に来てくれるのだ。彼女から薬品の匂いがするのも仕方のないことだ。ほとんど休みを取らずに研究に勤しんでいるからだ。
調べさせたところによると、彼女は家でかなり粗末な扱いを受けているらしい。パーティーに着ていく服は仕立てるが、それ以外の服と言えばドレスと言えないような服ばかりだ。おまけに研究所から帰っても研究をさせ続けているらしい。
「以前、魔力回復薬の改良版を作った時のように軟禁したら今度こそ許さん!」
魔力回復薬は効能の割に値段が高かったため、これまでは大変高価な薬だったが、彼女のおかげで吐き気のするほど不味い味と臭い、何より効能が上がった。効果量だけでなく使う素材も改良されており、コストカットもできている。これにより延命できるものが増えたのも彼女の功績だったが、そのために開発末期には軟禁してまで開発させたらしい。
「伯爵自らの手で研究を行い、こちらが強く関与できないと思って好き勝手してくれる。だが、これ以上好きにはさせない!」
彼女の元にはこの度その働きから、王家の影をつけることになった。異例のことではあるが、私につけても一切価値がないと押し切り、ようやく二名をつけることができたのだ。
「アーニャ、ライン。お前たち二名には今後、カノンを守ってもらう。彼女に危険が迫らないように全力を尽くせ!」
「はっ!」
ラインが恭しく頭を下げるが、アーニャの方は思案気だ。
「どうかしたか?」
「お嬢様とクレヒルト殿下、どちらかをお守りする時はどうすればよいのでしょう?」
「無論彼女だ」
「わかりました。必ずお守りいたします」
彼女は影としては名門の家の出だ。兄上に感謝しなければ。あれほど忠義に篤く、優秀な影もいないだろう。ああ言えば忠実に任務をこなしてくれる。
二人が気配を消してしばらく、私付きの騎士が入ってくる。
「クレヒルト殿下、本日はカノン様の来訪日ですね」
「それがどうした?」
「顔がにやけてますよ」
思わず顔に手をやると騎士は笑顔を見せていた。そこでようやくからかわれていたのだと気づく。幼少から仕えてくれているが、こういうところは苦手だ。
「にしても、本当に体調がよくなられましたね」
「ああ、やはり盗まれた薬は……」
「ええ、間違いないと思います。ただ、裏が大きいかと思いますので、我慢が必要でしょう」
最近俺に絡んでくる令嬢が『魔力病』治療薬の治験最終段階に入っている薬を盗んだことは分かっている。だが、バックにいるのが誰かまだ分からないので、苦々しくも放っているのだ。カノンの大切な成果を横取りするとは許せんことだ!
「小さい頃のあいつもかわいかった。『クレヒルトさま、これが魔力回復薬の材料です』って薬草園から引き抜いて持ってきたり、ちょっと大きくなれば『クレヒルト様びっくりしました? 改良版ですよ。おいしいでしょう?』なんて、いたずらっぽく笑ったり……ああ、もうすぐ会えるのだな」
「殿下はカノン様が関わる時以外はまともなのに……」
「はあ? お前はあの天使を見てそう思わんのか?」
「確かに彼女は素晴らしい人物ですが、外見をして言うとそこまでかといわれますと」
「何を言うんだ! あの、今日の体調はどうでしょうかと気遣う目も、ゆっくりしてくださいという顔つきもも素晴らしいだろう!」
「外では発言しないでくださいね」
「それをあいつときたら!」
その時、小さなノック音とともに小さな影が部屋に入ってくる。
「クレヒルト様、大きな声を出されていましたが大丈夫ですか? 体調が悪いのだったら……」
「カ、カノン。大丈夫だ。だから寂しいことを言わないでくれ……」
「いいえ、私こそ申し訳ありません。いつもドレスの一つも着ずに来てしまって。先日も他の方に言われましたの」
「別にカノンは気にすることじゃない。それだけ頑張っているんだからね。だけど、いつも言っているように休まないといけないよ」
「わかってはいますが、殿下や同じ病気の方に少しでも早く治っていただきたいんです。その……」
彼女が言い淀んでしまった。私は知っているが、彼女は私が『魔力病』治療薬の開発が終了していることを知らないと思っているからだろう。治験の結果、副作用が強ければ作り直しとなる場合もある。ぬか喜びさせたくないという気持ちと、もうすぐ治してあげられる気持ちがせめぎ合っているのだろう。
その気持ちをとても喜んでいる自分がいる。皆が言うように自分はいまだに何もできていない雛王子だというのに……。
「心配するな。これでも最近は体調がいいのだ。もうしばらくすれば、さらに良くなるかもな」
「……そうですか。では、また来ますので」
「あ、あぁ」
何だか途中から元気がなかったようだがどうしたのだろうか? まあ、彼女のことだ。次に会う時は元気になっているだろう。私も彼女に負けないように頑張らなければな。
「明日からまた、学問の方を再開する」
「体調は大丈夫ですか?」
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「手配は致しますがくれぐれもご無理はなさいませぬように」
「分かっている」
以前にも本を読むのに集中しすぎだというので取り上げられたことがある。あの時はつらかった。なにせ、普段から寝たきりに近いからやることが本当になくなってしまった。あんなことだけはもうごめんだ。
「ふぅ、しかし今日は少し疲れたな。もう休むことにする。引き続き調査の方を頼む」
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