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サイドストーリーズ
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翌日、父ともに侯爵と伯爵を見張っていたが特に動きは見られなかった。まあ、ほぼ動けないように縛られたまま放り込まれていたので、仕方のないことだとは思うが。
「それではこれより。昨晩、捕らえたアルター侯爵、ギュシュテン伯爵。並びにエディン子爵令嬢及びその親であるトールマン子爵と第2王子クレヒルトのこれまでの行いについて事実の確認を行う。まずはこの魔道具に宣誓を…」
「そ、それは『誓いの誓文』!虚偽の発言に罰をもって知らせるという王家秘蔵の…」
「此度の損失を考えれば、当然であろう侯爵殿?」
こうして、順番に魔道具に宣誓を誓わされる。
「まずはエディン子爵令嬢。その方は開発中の『魔力病』の治療薬を盗ませ王子に飲ませた。これに間違いはないか?」
「あ、いえ、男に。そう!男に言われたのです。そうして王子に近づけば、今以上に仲良くなれると」
「それが犯罪であってもかい?」
「それはその…で、ですが私は指示に従っただけで…ぎゃ!」
びりびりとエディン子爵令嬢に電撃が走る。さほど、大きな嘘ではないからだろう。
「指示に従っただけではないようだが?」
「えっと、婚約者とは仲が悪く、その…私とは仲が良かったので男を雇って」
「そして薬を盗んだと」
コクリ
発言でぼろが出ないようにと思ったのか、首を振ってこたえる。
「アルター侯爵。そなたの差し金だな?」
「さ、差し金とは…。ただ、クレヒルト殿下と婚約者の中が良くないという事でしたので、それならばと」
ここで、電撃が起きないという事は真実そう思ったという事だが、大事なのはその理由だ。
「ギュシュテン伯爵はその侯爵の指示を受けて、この度の騒動を画策したのだな?」
「そ、騒動というわけではなく、あくまでアルター侯爵様よりご助言いただき、より良い方が婚約者になるべきだと…ぎゃあ!」
「言葉尻が違うのではないのかな?より、自分たちに都合の良いものだろう?」
「い、いえ、滅相も・・ひいっ!」
「つまりアルター侯爵の命でギュシュテン伯爵は第2王子の婚約者を自分たちが扱いやすいものと変えたかったと。では続いての質問だな」
「エディン子爵令嬢。そなたが婚約破棄を考えたとクレヒルトは申しておった。その理由は何か?わが国では高位の貴族は複数の妻を持つ者もいる。世継ぎ問題もあり、破棄は不要ではないか?」
「王様。愛されもしない、国に貢献もしない令嬢などが正妻で私が第2夫人。これは明らかにおかしなことです」
おかしいのはお前だ!さっき、カノン嬢の研究成果の薬を盗んだと言ったばかりだろう。
「しかし、報告書では彼女は数々の新薬や改良薬の作成に携わり、チーム内でも中心的な役割だったと報告があるが?」
「そ、それはそうかもしれませんが…。ですが、そもそも令嬢はお茶会に出てこそです。それ以外にも婚約者を蔑ろにする彼女が必要でしょうか?」
言ってやったぞといった顔だ。本当に頭の緩い女だな。
「では、お前はお茶会に出て何を得た?」
「えっ!」
「彼女の功績は先ほど余が述べた。それで、お前は何を生み出したのだ?」
「そ、それは…ですが、貴族とはそういうものでしょう?」
「貴様っ!」
「陛下お待ちを!エディン子爵令嬢。貴族とは領地を守り、多くを知り、次代のために新たな礎を築く。それが本来の役割だ。あなたは集めた情報によれば、各領の情報を集めるでもなくただ男に話しかけていただけだと聞いているが?」
「家のためにより良い婚姻を探すのも務めですわ。宰相さま」
「その家に入り、何ができるというのだ。学園の生活態度も成績もマナーですらギリギリだそうではないか?」
「殿方を応援するのが妻の仕事です。それ以外には必要ありませんわ」
「宰相。これは言っても無駄だ。エディン子爵令嬢。一つ言っておくが、この場の認識としてあなたの価値はゼロだ。対してカノン嬢はかけがえのないものと承知するように」
「な、そんな…あんな奴!」
「口を慎みなさい。陛下の前ですよ」
「!」
エディン子爵令嬢は悔しそうに唇をかみしめて耐える。
「質問に戻ろう。アルター侯爵、婚約破棄についてはそなたも同意していたという事か?」
「は、はい。確かにカノン嬢には貴族としての礼節がかけております。クレヒルト殿下の相手としてはふさわしくないと」
「それにしては、閣下からそのようなことを聞いたことがありませんな。侯爵家であり、その立場で考えれば王や私にも相談できる立場だろう?」
「そ、それは…」
「では、ギュシュテン伯爵はどうか?」
「こ、この件に関しまして私は意見をはさんでおりませんので…」
…どうやら本当らしい。まあ、自分の地位を上げるために行ったという事らしいからな。特にそういう主義・主張などは持っていないのだろう。
「では、次の質問だ。カノン嬢を婚約破棄の後どうするつもりであったか?」
「は?あんな女なんて破棄されれば構わないわ。どの道あんな冴えない女じゃ誰も相手にしないでしょ」
さっきので落ち着いたかと思ったら、よほどカノン嬢に逆恨みしているらしい。嘘ではないという事だ。
「アルター侯爵は?」
「はい、婚約破棄はされたと言え彼女の才能は随一。きっと研究所にて活躍すると…あばばば」
これまでで一番、大きな電撃だ。
「何度も嘘をつくとその場で死ぬがよいか?」
「ひいっ!か、彼女が消沈したところに我が家かギュシュテン伯爵のものに婚姻を持ち掛けさせようと」
「誠かギュシュテン伯爵!」
「は、はっ!アルター侯爵のところですと年が離れますので、嫌がった場合には我が家の年の近いものをと…」
「ギュシュテン伯爵!」
「アルター侯爵様。先ほどの裁きを見るにもはや隠し立ては不可能かと…」
「貴様が助かりたいだけだろう!おのれ!」
「見苦しい!即刻、首をはね、親族もろとも族滅にしても良いのだぞ!」
「へ、陛下。どうかそれだけは…」
「では、ちゃんと話せ。わしも貴様らの相手などしたくはないのだ」
「では陛下、続きは私が…。彼女と婚姻を結びどうしようとしたのですか?」
「い、家に閉じ込め死ぬまで研究をさせようと。ど、どの道、今でも過剰に働いているし問題もないと…」
「そういう意図があったという事ですね?」
「はい」
「この件についてエディン子爵令嬢は知っていましたか?」
「知らないです。私は王族になるだけですから」
「なにを…」
「何か発言なされますかアルター侯爵?」
「い、いえ」
「では、ギュシュテン伯爵は?」
「これ以上は何も話すことは…」
2人とも黙ってしまったか。確かにこれ以上話したくないのは本心だろうから、嘘ではない。しかしここまで性根が腐っているなら、こちらも遠慮はいらないな。正直に計画を話せば、もう少しましな流れになったかもしれぬものを。
「証人をここへ」
一人の男が手を縛られてやってきた。あいつは…。
「あんた、私にうそを教えたわね!こんなんなっちゃってるじゃないの!」
「それは立ち回りの問題だ。それに俺の元々の依頼主はあんたじゃない。あんたが話を持ち掛けてても俺には責任はない」
「へ、陛下この者は…」
「そなたらの方が詳しいであろう?そなたたちが雇った、ギルドの男だ」
「では、この者を証人としてこれより承認する。その前に証人はこの魔道具に誓いを!」
「はっ!」
淡い光とともに、連れてこられた男も誓いをする。
「では、あなたの受けた依頼から説明してもらいましょう」
「私はそこの侯爵様より、伯爵との伝令役。そして、そこの女の動きを補佐するように依頼を受けました」
「伝令の内容は?」
「侯爵より命令を、伯爵より進み具合を報告しておりました」
「では、その女とはどのような契約を?」
「新開発の薬を盗むことと、王子のメイドを遠ざけるための買収です。怪しまれぬように個別の依頼として報酬も設定しました」
…ここまでで全く、罰を受けないところを見るに真実なのだろう。
「あんた。嘘ついてるでしょ!きっと魔道具をごまかす何かを使ってるんだわ」
「この魔道具にそのようなものは効かん!」
「で、でもぉ…」
「そこまで言うなら、簡単な質問をしましょう。先ほどこの女から報酬をもらったと言いましたが、全額依頼主であるアルター侯爵に渡しましたか?」
「…いえ、少しいただきました…いたっ!」
ビリリと小さく電撃が走る。まあ、この手のものに一人で交渉をさせればそうなるだろう。
「実際は?」
「3分の1ほどもらいました」
「なっ!強欲な奴め!」
「こういう輩を一人で行動させるからですよ。今ので、彼にも魔道具が適用されていることが証明できましたので続けます」
「では、此度の彼らの目的については知っていますか?」
「はい、まずはカノンという女を侯爵家で飼い、成果を長年にわたり確保する。もう一つはこの女を第2王子と会わせて、ゆくゆくは暗殺の首謀者にしようと」
「暗殺だと!」
「その対象は?」
「第1王子のレスターさまです」
「れ、レスターをだと…なぜ?」
「レスター王子が死ねば、王位はクレヒルト殿下のもの。殿下もまさか婚約者が暗殺したとなってはショックで政務にも関わらなくなるだろうと…」
「な、貴様、そのような嘘を…ぎゃああああ」
「愚かな…」
「だが、それならなぜ計画を行わなかったのだ?」
「差し向けた刺客は次の視察地域にいたものの、カノンが行方不明になり王子が引き返したためだと言っておりました」
「なるほどな。私は馬を乗り継いで帰ったから、刺客も間に合わなかったわけか」
「王都では、護衛に影と十分な人材がそろっていると言っておりました。その為、計画は変更。その女に暗示をかけ毒を以て襲わせる算段でした」
「貴様!裏切る気か?」
「裏切るも何も、邸に騎士たちが突入したとき真っ先に口封じをしようとしただろう!依頼人が裏切る以上、情報の秘匿をする必要はない!」
「もはやこれ以上は無意味だな。判決を言い渡す。アルター侯爵家は一族すべてを処刑する。族子以外も関係が深いものは同罪だ。血族の当主と次期当主を処刑する。侯爵家は廃し、しばらくは直轄地とする。ギュシュテン伯爵は命令とは言え、手を貸したことには変わりない。男爵家に落とし、本人及び長子は処刑。次男を後継とし2代にわたり特別税と国からの見張りを付けるものとする。また、エディン子爵令嬢は国に多大な貢献をしたものを害し、王家への不敬もあり国家反逆罪として処刑する。トールマン子爵については監督責を問い、当代のみ準男爵家とし、以降は平民とする。新しく領地を治める子爵に引き継ぎをするように!以上だ」
「ま、待ってください。私はともかく親族は…」
パサリ
「えっ?」
一枚の紙が、元侯爵の前に落ちる。そこには新しく政治体制が整った場合の配置が載っていた。
「まさか…どうしてここに」
「そこには親族として同格の者たちもきれいに配置されておる。話し合ったものがいることは明白だ」
「い、一族の悲願が…」
「同じ貴族として言わせていただければ、努力に比重を置かずに楽をした結果ですよ。一族の者もさぞ迷惑でしょう」
「ギュシュテン伯爵はよろしいですね?」
「か、寛大な処置に感謝いたします…」
「ちょ、ちょっと待って!私がどうして処刑されなきゃいけないの?私はあの女を追い出しただけよ?」
「そうだな。しかし、君が王子に近づくなど分不相応なことをしなければ、今回のこと自体起きなかった。それに彼女はすでに隣国で新たに研究所を持っている。これからも多くの開発をすることだろう。本来この国にもたらされるはずの利益をな」
「レスター王子の言われる通りです。彼女が今後上げる功績はこの国を潤すものでした。それも、1年2年ではありません。ひょっとすると何十年、何百年にもわたるかもしれません。あなたがある程度の功績があり、いかなる嘆願があろうともこれほどの国への不利益は覆せない。自業自得です」
「な、なんで、私はただ。追い出しただけ…それだけよぉぉぉおおーーー」
彼女の絶叫が鳴り響いたが、それに呼応するものはいなかった。そして、彼らは牢へと連れていかれその場には、王と王妃、宰相と2人の王子が残った。
「これでひとまずは終わりじゃな」
「ち、父上私はこれからどうすれば…」
「まだ、お前が残って居ったな。はぁ、クレヒルトよ。そなたは今後、レスターが嫡男を生むまで北の塔に幽閉。生まれ次第、最南端の刑務所に幽閉だ。つらいがそこでゆっくりと暮らすが良い」
「なっ!そんな、それはあまりにも!」
最南端の刑務所は重犯罪者が集まるところだ。刑務官以外には法も通じず、いさかいの末に命を失うものも多い場所だ。
「本来!お前も即処刑じゃ。しかし、隣国の薬の開発者はお前の婚約者ではないと向こうも言っておるし、大々的な処罰は出来ん。それゆえ命が助かるのだ」
「…そんな」
がっくりとうなだれるクレヒルトを衛兵が塔へと連れていく。この先、あいつと出会うことはもうないだろう。
「のう、宰相よ」
「は」
「わしは今回のことで疲れた。レスターには何時頃譲れるのか…」
「他国との関係や発表もありますので、およそ2年は必要かと」
「2年か…。レスター後は頼むぞ!」
「父上の、陛下の期待に添えますよう努力いたします!」
「うむ。…はぁ」
それ以来、国王は大規模な行事以外には顔を見せず、レスター王子の戴冠式以後は全く大衆の前に姿を現さなかったという。
「それではこれより。昨晩、捕らえたアルター侯爵、ギュシュテン伯爵。並びにエディン子爵令嬢及びその親であるトールマン子爵と第2王子クレヒルトのこれまでの行いについて事実の確認を行う。まずはこの魔道具に宣誓を…」
「そ、それは『誓いの誓文』!虚偽の発言に罰をもって知らせるという王家秘蔵の…」
「此度の損失を考えれば、当然であろう侯爵殿?」
こうして、順番に魔道具に宣誓を誓わされる。
「まずはエディン子爵令嬢。その方は開発中の『魔力病』の治療薬を盗ませ王子に飲ませた。これに間違いはないか?」
「あ、いえ、男に。そう!男に言われたのです。そうして王子に近づけば、今以上に仲良くなれると」
「それが犯罪であってもかい?」
「それはその…で、ですが私は指示に従っただけで…ぎゃ!」
びりびりとエディン子爵令嬢に電撃が走る。さほど、大きな嘘ではないからだろう。
「指示に従っただけではないようだが?」
「えっと、婚約者とは仲が悪く、その…私とは仲が良かったので男を雇って」
「そして薬を盗んだと」
コクリ
発言でぼろが出ないようにと思ったのか、首を振ってこたえる。
「アルター侯爵。そなたの差し金だな?」
「さ、差し金とは…。ただ、クレヒルト殿下と婚約者の中が良くないという事でしたので、それならばと」
ここで、電撃が起きないという事は真実そう思ったという事だが、大事なのはその理由だ。
「ギュシュテン伯爵はその侯爵の指示を受けて、この度の騒動を画策したのだな?」
「そ、騒動というわけではなく、あくまでアルター侯爵様よりご助言いただき、より良い方が婚約者になるべきだと…ぎゃあ!」
「言葉尻が違うのではないのかな?より、自分たちに都合の良いものだろう?」
「い、いえ、滅相も・・ひいっ!」
「つまりアルター侯爵の命でギュシュテン伯爵は第2王子の婚約者を自分たちが扱いやすいものと変えたかったと。では続いての質問だな」
「エディン子爵令嬢。そなたが婚約破棄を考えたとクレヒルトは申しておった。その理由は何か?わが国では高位の貴族は複数の妻を持つ者もいる。世継ぎ問題もあり、破棄は不要ではないか?」
「王様。愛されもしない、国に貢献もしない令嬢などが正妻で私が第2夫人。これは明らかにおかしなことです」
おかしいのはお前だ!さっき、カノン嬢の研究成果の薬を盗んだと言ったばかりだろう。
「しかし、報告書では彼女は数々の新薬や改良薬の作成に携わり、チーム内でも中心的な役割だったと報告があるが?」
「そ、それはそうかもしれませんが…。ですが、そもそも令嬢はお茶会に出てこそです。それ以外にも婚約者を蔑ろにする彼女が必要でしょうか?」
言ってやったぞといった顔だ。本当に頭の緩い女だな。
「では、お前はお茶会に出て何を得た?」
「えっ!」
「彼女の功績は先ほど余が述べた。それで、お前は何を生み出したのだ?」
「そ、それは…ですが、貴族とはそういうものでしょう?」
「貴様っ!」
「陛下お待ちを!エディン子爵令嬢。貴族とは領地を守り、多くを知り、次代のために新たな礎を築く。それが本来の役割だ。あなたは集めた情報によれば、各領の情報を集めるでもなくただ男に話しかけていただけだと聞いているが?」
「家のためにより良い婚姻を探すのも務めですわ。宰相さま」
「その家に入り、何ができるというのだ。学園の生活態度も成績もマナーですらギリギリだそうではないか?」
「殿方を応援するのが妻の仕事です。それ以外には必要ありませんわ」
「宰相。これは言っても無駄だ。エディン子爵令嬢。一つ言っておくが、この場の認識としてあなたの価値はゼロだ。対してカノン嬢はかけがえのないものと承知するように」
「な、そんな…あんな奴!」
「口を慎みなさい。陛下の前ですよ」
「!」
エディン子爵令嬢は悔しそうに唇をかみしめて耐える。
「質問に戻ろう。アルター侯爵、婚約破棄についてはそなたも同意していたという事か?」
「は、はい。確かにカノン嬢には貴族としての礼節がかけております。クレヒルト殿下の相手としてはふさわしくないと」
「それにしては、閣下からそのようなことを聞いたことがありませんな。侯爵家であり、その立場で考えれば王や私にも相談できる立場だろう?」
「そ、それは…」
「では、ギュシュテン伯爵はどうか?」
「こ、この件に関しまして私は意見をはさんでおりませんので…」
…どうやら本当らしい。まあ、自分の地位を上げるために行ったという事らしいからな。特にそういう主義・主張などは持っていないのだろう。
「では、次の質問だ。カノン嬢を婚約破棄の後どうするつもりであったか?」
「は?あんな女なんて破棄されれば構わないわ。どの道あんな冴えない女じゃ誰も相手にしないでしょ」
さっきので落ち着いたかと思ったら、よほどカノン嬢に逆恨みしているらしい。嘘ではないという事だ。
「アルター侯爵は?」
「はい、婚約破棄はされたと言え彼女の才能は随一。きっと研究所にて活躍すると…あばばば」
これまでで一番、大きな電撃だ。
「何度も嘘をつくとその場で死ぬがよいか?」
「ひいっ!か、彼女が消沈したところに我が家かギュシュテン伯爵のものに婚姻を持ち掛けさせようと」
「誠かギュシュテン伯爵!」
「は、はっ!アルター侯爵のところですと年が離れますので、嫌がった場合には我が家の年の近いものをと…」
「ギュシュテン伯爵!」
「アルター侯爵様。先ほどの裁きを見るにもはや隠し立ては不可能かと…」
「貴様が助かりたいだけだろう!おのれ!」
「見苦しい!即刻、首をはね、親族もろとも族滅にしても良いのだぞ!」
「へ、陛下。どうかそれだけは…」
「では、ちゃんと話せ。わしも貴様らの相手などしたくはないのだ」
「では陛下、続きは私が…。彼女と婚姻を結びどうしようとしたのですか?」
「い、家に閉じ込め死ぬまで研究をさせようと。ど、どの道、今でも過剰に働いているし問題もないと…」
「そういう意図があったという事ですね?」
「はい」
「この件についてエディン子爵令嬢は知っていましたか?」
「知らないです。私は王族になるだけですから」
「なにを…」
「何か発言なされますかアルター侯爵?」
「い、いえ」
「では、ギュシュテン伯爵は?」
「これ以上は何も話すことは…」
2人とも黙ってしまったか。確かにこれ以上話したくないのは本心だろうから、嘘ではない。しかしここまで性根が腐っているなら、こちらも遠慮はいらないな。正直に計画を話せば、もう少しましな流れになったかもしれぬものを。
「証人をここへ」
一人の男が手を縛られてやってきた。あいつは…。
「あんた、私にうそを教えたわね!こんなんなっちゃってるじゃないの!」
「それは立ち回りの問題だ。それに俺の元々の依頼主はあんたじゃない。あんたが話を持ち掛けてても俺には責任はない」
「へ、陛下この者は…」
「そなたらの方が詳しいであろう?そなたたちが雇った、ギルドの男だ」
「では、この者を証人としてこれより承認する。その前に証人はこの魔道具に誓いを!」
「はっ!」
淡い光とともに、連れてこられた男も誓いをする。
「では、あなたの受けた依頼から説明してもらいましょう」
「私はそこの侯爵様より、伯爵との伝令役。そして、そこの女の動きを補佐するように依頼を受けました」
「伝令の内容は?」
「侯爵より命令を、伯爵より進み具合を報告しておりました」
「では、その女とはどのような契約を?」
「新開発の薬を盗むことと、王子のメイドを遠ざけるための買収です。怪しまれぬように個別の依頼として報酬も設定しました」
…ここまでで全く、罰を受けないところを見るに真実なのだろう。
「あんた。嘘ついてるでしょ!きっと魔道具をごまかす何かを使ってるんだわ」
「この魔道具にそのようなものは効かん!」
「で、でもぉ…」
「そこまで言うなら、簡単な質問をしましょう。先ほどこの女から報酬をもらったと言いましたが、全額依頼主であるアルター侯爵に渡しましたか?」
「…いえ、少しいただきました…いたっ!」
ビリリと小さく電撃が走る。まあ、この手のものに一人で交渉をさせればそうなるだろう。
「実際は?」
「3分の1ほどもらいました」
「なっ!強欲な奴め!」
「こういう輩を一人で行動させるからですよ。今ので、彼にも魔道具が適用されていることが証明できましたので続けます」
「では、此度の彼らの目的については知っていますか?」
「はい、まずはカノンという女を侯爵家で飼い、成果を長年にわたり確保する。もう一つはこの女を第2王子と会わせて、ゆくゆくは暗殺の首謀者にしようと」
「暗殺だと!」
「その対象は?」
「第1王子のレスターさまです」
「れ、レスターをだと…なぜ?」
「レスター王子が死ねば、王位はクレヒルト殿下のもの。殿下もまさか婚約者が暗殺したとなってはショックで政務にも関わらなくなるだろうと…」
「な、貴様、そのような嘘を…ぎゃああああ」
「愚かな…」
「だが、それならなぜ計画を行わなかったのだ?」
「差し向けた刺客は次の視察地域にいたものの、カノンが行方不明になり王子が引き返したためだと言っておりました」
「なるほどな。私は馬を乗り継いで帰ったから、刺客も間に合わなかったわけか」
「王都では、護衛に影と十分な人材がそろっていると言っておりました。その為、計画は変更。その女に暗示をかけ毒を以て襲わせる算段でした」
「貴様!裏切る気か?」
「裏切るも何も、邸に騎士たちが突入したとき真っ先に口封じをしようとしただろう!依頼人が裏切る以上、情報の秘匿をする必要はない!」
「もはやこれ以上は無意味だな。判決を言い渡す。アルター侯爵家は一族すべてを処刑する。族子以外も関係が深いものは同罪だ。血族の当主と次期当主を処刑する。侯爵家は廃し、しばらくは直轄地とする。ギュシュテン伯爵は命令とは言え、手を貸したことには変わりない。男爵家に落とし、本人及び長子は処刑。次男を後継とし2代にわたり特別税と国からの見張りを付けるものとする。また、エディン子爵令嬢は国に多大な貢献をしたものを害し、王家への不敬もあり国家反逆罪として処刑する。トールマン子爵については監督責を問い、当代のみ準男爵家とし、以降は平民とする。新しく領地を治める子爵に引き継ぎをするように!以上だ」
「ま、待ってください。私はともかく親族は…」
パサリ
「えっ?」
一枚の紙が、元侯爵の前に落ちる。そこには新しく政治体制が整った場合の配置が載っていた。
「まさか…どうしてここに」
「そこには親族として同格の者たちもきれいに配置されておる。話し合ったものがいることは明白だ」
「い、一族の悲願が…」
「同じ貴族として言わせていただければ、努力に比重を置かずに楽をした結果ですよ。一族の者もさぞ迷惑でしょう」
「ギュシュテン伯爵はよろしいですね?」
「か、寛大な処置に感謝いたします…」
「ちょ、ちょっと待って!私がどうして処刑されなきゃいけないの?私はあの女を追い出しただけよ?」
「そうだな。しかし、君が王子に近づくなど分不相応なことをしなければ、今回のこと自体起きなかった。それに彼女はすでに隣国で新たに研究所を持っている。これからも多くの開発をすることだろう。本来この国にもたらされるはずの利益をな」
「レスター王子の言われる通りです。彼女が今後上げる功績はこの国を潤すものでした。それも、1年2年ではありません。ひょっとすると何十年、何百年にもわたるかもしれません。あなたがある程度の功績があり、いかなる嘆願があろうともこれほどの国への不利益は覆せない。自業自得です」
「な、なんで、私はただ。追い出しただけ…それだけよぉぉぉおおーーー」
彼女の絶叫が鳴り響いたが、それに呼応するものはいなかった。そして、彼らは牢へと連れていかれその場には、王と王妃、宰相と2人の王子が残った。
「これでひとまずは終わりじゃな」
「ち、父上私はこれからどうすれば…」
「まだ、お前が残って居ったな。はぁ、クレヒルトよ。そなたは今後、レスターが嫡男を生むまで北の塔に幽閉。生まれ次第、最南端の刑務所に幽閉だ。つらいがそこでゆっくりと暮らすが良い」
「なっ!そんな、それはあまりにも!」
最南端の刑務所は重犯罪者が集まるところだ。刑務官以外には法も通じず、いさかいの末に命を失うものも多い場所だ。
「本来!お前も即処刑じゃ。しかし、隣国の薬の開発者はお前の婚約者ではないと向こうも言っておるし、大々的な処罰は出来ん。それゆえ命が助かるのだ」
「…そんな」
がっくりとうなだれるクレヒルトを衛兵が塔へと連れていく。この先、あいつと出会うことはもうないだろう。
「のう、宰相よ」
「は」
「わしは今回のことで疲れた。レスターには何時頃譲れるのか…」
「他国との関係や発表もありますので、およそ2年は必要かと」
「2年か…。レスター後は頼むぞ!」
「父上の、陛下の期待に添えますよう努力いたします!」
「うむ。…はぁ」
それ以来、国王は大規模な行事以外には顔を見せず、レスター王子の戴冠式以後は全く大衆の前に姿を現さなかったという。
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