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それから10分ほど待つと再びメイドがやってきて準備ができたと伝えてくれた。
「お嬢様、相手が分からない以上はくれぐれも多くをお話にならないように」
「アーニャ、分かってる。でも、頼るしかないからそこまで隠そうとは思わないよ」
「…分かりました」
そして、みんなとも合流して食堂へと向かう。まるで大広間みたいだ。
「大広間みたいね」
「そういって頂けると、ありがたいですな」
執事さんに聞こえてしまったみたいだ。
「それではお席の方へお着き下さい」
案内された席はなが~いテーブルの一番奥だった。
「邸の主人はどちらに?」
「普段はそちらのところでございますが、本日は話し合いと伺っておりますので対面になります」
「ありがとうございます」
そういってリーナが頭を下げる。ちなみに私以外は座らずに席を立っている。気にしないでもいいのに。
「どうしたのリーナ?座る場所なんて気にして…」
「お嬢様は気になさいませんが、そちらに座られた場合、明らかにお嬢様は格下です。領主殿がいかなる地位かはわかりませんでしたが、そのままでは体面に傷が付きます」
こっそりとリーナが教えてくれた。そんなこと言っても私はもう国を出てるから気にしないのに。そのとき奥のドアが開いて男性が出てきた。おそらくその人が領主なのだろう。
「いやあ、済まない。ここまで早く着くとは思っていなかった」
そこに現れたのは国境を越えるときに私たちを通してくれた国境警備隊の隊長さんだった。
「隊長さん!」
「こんばんは、カノン伯爵令嬢殿。あの時は急いでいたから名乗らなかったが、私はこのローラント領の領主、フィスト=ローラント侯爵だ。これからよろしくな」
スッと右手を出されたので私も立ち上がって手を出して握手する。
「…噂通りのお方のようだ」
「???」
「お嬢様、こういう時は手の甲を出すのです。彼は騎士でもありますので、そうするのがマナーですよ」
「じゃあ、リーナ教えておいてよ」
「領主が誰か判らなかったのですから無理です。それに、普通はみんな知っていることですよ」
「はっはっはっ!さすが、王国随一の研究者だ。別に構わない。俺も、警備隊何てところに長くいるものだから堅苦しいのは苦手なんだ。立ち話もなんだし、夕食にしよう」
「は、はい…」
挨拶一つで恥をかくなんて、さすがに少しはマナーの勉強もした方がいいと思いながら私も席に着く。
「お連れの方も同席いただいて結構ですよ。事情はおおむね理解していますので」
「流石、警備隊の方です。情報が早いですね。リーナ様、私たちもつかせていただきましょう。侯爵様という事が分かった以上は従うべきです」
「そ、そうね」
それから運ばれてきた料理はすごいの一言だった。私に合わせてくれているのか一つ一つの量は少ないけれど、新鮮な野菜から薄くスライスされて上品な味わいの肉までありとあらゆる料理が並んでいる。
「素晴らしい。これほどの料理が突然の訪問にもかかわらず用意できるなんて」
「実は早馬を出していたので、今日の朝には料理人には話は伝わっていたんだ。徹底して伝わらなく、申し訳ない」
「い、いえ、朝からだとしてもそこから食材を吟味してメニューを考えて中々こうはいきません」
ライグがすごく感動しているみたいだ。
「後で料理人にも伝えておこう。しかし、カノン嬢の使用人は料理にも精通しているのかな?」
「いえ、ライグは元々うちの邸で料理長をしていたんです。それが、私の家出に妻のリーナも付き合ってくれるという事になって、夫婦で連れてきてしまったんです」
「なるほど。ここの料理人の味に満足していただけて安心だ。当分、留まるのであればここで働きませんか?」
「フィスト様お食事中ですよ」
「そうだったな。すまない、この話は後でという事で」
それからも色んな料理が出てきた。中でもデザートのプリンが絶品だった。なめらかでも普通でも好きだけど、今日はなめらかだった。
「プリンはやっぱりおいしいですね~。実は私こういうのが好きなんです。今日はなめらかな方でしたけど、スタンダードなのも仕事疲れに癒されるんです~」
「それはいいことを聞いた。明日はスタンダードな方を作らせよう」
「ほんとですか!楽しみ~」
「お嬢様」
「アーニャ?」
アーニャが口元をさりげなく指差す。見れば奥のリーナの形相は怒っていた。やばっ、またマナーがって怒られちゃう。
「ああ、先ほども言いましたが気にせずどうぞ。俺の職場も男所帯なのでマナーとは無縁で」
「やっぱり、警備隊の中でも女性は少ないんですか?」
「ええ、警備隊の隊員自体がそこまで多くないですが、各地を転々とするため万が一、長距離の移動に耐えられないとなっては大変ですから。そういうこともあって隊員に女性は少ないです」
和やかに話が進んでいると玄関の方から声がした。
「おい!仕事を押し付けるなんてとんだ隊長だな!」
「あの方は?」
「紹介しよう。…国境警備隊の副隊長だ」
「グルーエル=ラインフォード伯爵です。隊長ともどもよろしくね」
「こいつは俺以上に警備隊や騎士団とのつながりが深いから不快にさせたら済まない」
「それはないんじゃない?苦手な分野を肩代わりしてるよね?」
「ずいぶん仲がいいんですね」
「領地も隣同士で昔から交流もあるからね。ちなみに領地は南側じゃなくて北側だよ」
「どんな紹介の仕方だ?」
「君がみんなに南の領主は欲深いっていうからだろ。一緒にされたらたまんないね」
「そうだ。グルーエル食事は?」
「誰かのおかげでまだだよ」
「アルフレッド」
「はい、グルーエル様すぐにお持ちいたします」
「やった~」
「それではグルーエル様の食事の後でお話を…」
「い~よい~よ、食べながらで。普段からそういうこと多いしね」
「済まない。奴もこういう場での礼儀については普段から割ときっちりするのだが…」
「いいえ、私もマナーはさっぱりですし、気さくでいいと思います」
「決まりだね。それじゃ、この国に来た経緯から改めて説明してくれる?」
グルーエル様の言葉とともに私はこれまでのいきさつを話し始めた。本当に食事しながらでも話が聞けるみたいで内心すごいと感心していた。あれをマスターすれば私の研究時間も、もう少し確保できるんじゃないかな?
「大体、破棄までの経緯はこんな感じで、王子の病弱だった部分は途中に体調を整える薬剤ができたのでそれを服用して治していますね」
うっうっ
何だろうと思って周りを見ると、なんだかメイドさんが涙を目に溜めている。そんなに感動的な話だったっけ?
「お嬢様。あれが普通の反応です。それだけ不遇をかこっていたのですよ。本来、王族の婚約者というのは家がどうこうせずとも最高の教育が受けられるようになるのが当たり前です」
「でも、研究楽しいよ?魔力回復薬の味と回復量を改善しろって言って、1か月閉じ込められたときはさすがに帰りたいと思ったけど」
「なんと!あの、改良薬もカノン様が?うちの領兵たちも愛用しておりますぞ。高いですが、兵が安心して戦えますので」
「そうなの?アルフレッドさん。頑張って良かった」
「…フィスト」
「ここまでで十分すぎるほどだが、詳細に話して引き渡しに応じないように陛下に手を考えてもらわねばならないな。そんなところには2度と返せん」
なんだか、ピリリとした雰囲気になってきたけど大丈夫だよね?
「それで、数日前の婚約セレモニーのパーティーで…」
「ちょ、ちょっと待ってカノンちゃん。婚約セレモニーって遅くない?」
「でも、それまでなかったんだよね…」
なんだか、グルーエル様とお話してると口調が崩れちゃうな、気をつけないと。
「それなのですが、王子が病弱という事と元々お嬢様が婚約者というより専属の薬師という扱いだったのです。この度、ようやくそれまでの働きと王子の体調が良いという事で開かれたのです」
「なんだそれは!誠意のかけらもない。実家はどうしていたんだ?」
「父は単純に王族の仲間入りができると、進んで協力してました」
「お嬢様もこのような性格でしたので、すべての教養に当てる時間が薬学になり今のように…」
その後もセレモニーでの出来事を話して、それから隊長さんと出会ったこととかを話して私から話せることはこれでおしまいっと言葉を区切る。
「…以上!カノン=エレステンでした」
「分かりたくないが、了承した。アルフレッド!」
「はっ!」
「今すぐ先ほどのカノン嬢の話をまとめてくれ。明日朝にでも陛下に宛てて手紙を出さねばならないようだ」
「畏まりました」
すーっとアルフレッドさんが滑るような無駄のない動きで食堂を出ていった。
「ここに来た事情は改めて分かった。こちらとしても最大限尽力する。ついてはこれからのことを少し話そう」
この後もお話が続くみたい。今日は1日が長いなぁ…研究ならあっという間に時間が過ぎるのにね。
「お嬢様、相手が分からない以上はくれぐれも多くをお話にならないように」
「アーニャ、分かってる。でも、頼るしかないからそこまで隠そうとは思わないよ」
「…分かりました」
そして、みんなとも合流して食堂へと向かう。まるで大広間みたいだ。
「大広間みたいね」
「そういって頂けると、ありがたいですな」
執事さんに聞こえてしまったみたいだ。
「それではお席の方へお着き下さい」
案内された席はなが~いテーブルの一番奥だった。
「邸の主人はどちらに?」
「普段はそちらのところでございますが、本日は話し合いと伺っておりますので対面になります」
「ありがとうございます」
そういってリーナが頭を下げる。ちなみに私以外は座らずに席を立っている。気にしないでもいいのに。
「どうしたのリーナ?座る場所なんて気にして…」
「お嬢様は気になさいませんが、そちらに座られた場合、明らかにお嬢様は格下です。領主殿がいかなる地位かはわかりませんでしたが、そのままでは体面に傷が付きます」
こっそりとリーナが教えてくれた。そんなこと言っても私はもう国を出てるから気にしないのに。そのとき奥のドアが開いて男性が出てきた。おそらくその人が領主なのだろう。
「いやあ、済まない。ここまで早く着くとは思っていなかった」
そこに現れたのは国境を越えるときに私たちを通してくれた国境警備隊の隊長さんだった。
「隊長さん!」
「こんばんは、カノン伯爵令嬢殿。あの時は急いでいたから名乗らなかったが、私はこのローラント領の領主、フィスト=ローラント侯爵だ。これからよろしくな」
スッと右手を出されたので私も立ち上がって手を出して握手する。
「…噂通りのお方のようだ」
「???」
「お嬢様、こういう時は手の甲を出すのです。彼は騎士でもありますので、そうするのがマナーですよ」
「じゃあ、リーナ教えておいてよ」
「領主が誰か判らなかったのですから無理です。それに、普通はみんな知っていることですよ」
「はっはっはっ!さすが、王国随一の研究者だ。別に構わない。俺も、警備隊何てところに長くいるものだから堅苦しいのは苦手なんだ。立ち話もなんだし、夕食にしよう」
「は、はい…」
挨拶一つで恥をかくなんて、さすがに少しはマナーの勉強もした方がいいと思いながら私も席に着く。
「お連れの方も同席いただいて結構ですよ。事情はおおむね理解していますので」
「流石、警備隊の方です。情報が早いですね。リーナ様、私たちもつかせていただきましょう。侯爵様という事が分かった以上は従うべきです」
「そ、そうね」
それから運ばれてきた料理はすごいの一言だった。私に合わせてくれているのか一つ一つの量は少ないけれど、新鮮な野菜から薄くスライスされて上品な味わいの肉までありとあらゆる料理が並んでいる。
「素晴らしい。これほどの料理が突然の訪問にもかかわらず用意できるなんて」
「実は早馬を出していたので、今日の朝には料理人には話は伝わっていたんだ。徹底して伝わらなく、申し訳ない」
「い、いえ、朝からだとしてもそこから食材を吟味してメニューを考えて中々こうはいきません」
ライグがすごく感動しているみたいだ。
「後で料理人にも伝えておこう。しかし、カノン嬢の使用人は料理にも精通しているのかな?」
「いえ、ライグは元々うちの邸で料理長をしていたんです。それが、私の家出に妻のリーナも付き合ってくれるという事になって、夫婦で連れてきてしまったんです」
「なるほど。ここの料理人の味に満足していただけて安心だ。当分、留まるのであればここで働きませんか?」
「フィスト様お食事中ですよ」
「そうだったな。すまない、この話は後でという事で」
それからも色んな料理が出てきた。中でもデザートのプリンが絶品だった。なめらかでも普通でも好きだけど、今日はなめらかだった。
「プリンはやっぱりおいしいですね~。実は私こういうのが好きなんです。今日はなめらかな方でしたけど、スタンダードなのも仕事疲れに癒されるんです~」
「それはいいことを聞いた。明日はスタンダードな方を作らせよう」
「ほんとですか!楽しみ~」
「お嬢様」
「アーニャ?」
アーニャが口元をさりげなく指差す。見れば奥のリーナの形相は怒っていた。やばっ、またマナーがって怒られちゃう。
「ああ、先ほども言いましたが気にせずどうぞ。俺の職場も男所帯なのでマナーとは無縁で」
「やっぱり、警備隊の中でも女性は少ないんですか?」
「ええ、警備隊の隊員自体がそこまで多くないですが、各地を転々とするため万が一、長距離の移動に耐えられないとなっては大変ですから。そういうこともあって隊員に女性は少ないです」
和やかに話が進んでいると玄関の方から声がした。
「おい!仕事を押し付けるなんてとんだ隊長だな!」
「あの方は?」
「紹介しよう。…国境警備隊の副隊長だ」
「グルーエル=ラインフォード伯爵です。隊長ともどもよろしくね」
「こいつは俺以上に警備隊や騎士団とのつながりが深いから不快にさせたら済まない」
「それはないんじゃない?苦手な分野を肩代わりしてるよね?」
「ずいぶん仲がいいんですね」
「領地も隣同士で昔から交流もあるからね。ちなみに領地は南側じゃなくて北側だよ」
「どんな紹介の仕方だ?」
「君がみんなに南の領主は欲深いっていうからだろ。一緒にされたらたまんないね」
「そうだ。グルーエル食事は?」
「誰かのおかげでまだだよ」
「アルフレッド」
「はい、グルーエル様すぐにお持ちいたします」
「やった~」
「それではグルーエル様の食事の後でお話を…」
「い~よい~よ、食べながらで。普段からそういうこと多いしね」
「済まない。奴もこういう場での礼儀については普段から割ときっちりするのだが…」
「いいえ、私もマナーはさっぱりですし、気さくでいいと思います」
「決まりだね。それじゃ、この国に来た経緯から改めて説明してくれる?」
グルーエル様の言葉とともに私はこれまでのいきさつを話し始めた。本当に食事しながらでも話が聞けるみたいで内心すごいと感心していた。あれをマスターすれば私の研究時間も、もう少し確保できるんじゃないかな?
「大体、破棄までの経緯はこんな感じで、王子の病弱だった部分は途中に体調を整える薬剤ができたのでそれを服用して治していますね」
うっうっ
何だろうと思って周りを見ると、なんだかメイドさんが涙を目に溜めている。そんなに感動的な話だったっけ?
「お嬢様。あれが普通の反応です。それだけ不遇をかこっていたのですよ。本来、王族の婚約者というのは家がどうこうせずとも最高の教育が受けられるようになるのが当たり前です」
「でも、研究楽しいよ?魔力回復薬の味と回復量を改善しろって言って、1か月閉じ込められたときはさすがに帰りたいと思ったけど」
「なんと!あの、改良薬もカノン様が?うちの領兵たちも愛用しておりますぞ。高いですが、兵が安心して戦えますので」
「そうなの?アルフレッドさん。頑張って良かった」
「…フィスト」
「ここまでで十分すぎるほどだが、詳細に話して引き渡しに応じないように陛下に手を考えてもらわねばならないな。そんなところには2度と返せん」
なんだか、ピリリとした雰囲気になってきたけど大丈夫だよね?
「それで、数日前の婚約セレモニーのパーティーで…」
「ちょ、ちょっと待ってカノンちゃん。婚約セレモニーって遅くない?」
「でも、それまでなかったんだよね…」
なんだか、グルーエル様とお話してると口調が崩れちゃうな、気をつけないと。
「それなのですが、王子が病弱という事と元々お嬢様が婚約者というより専属の薬師という扱いだったのです。この度、ようやくそれまでの働きと王子の体調が良いという事で開かれたのです」
「なんだそれは!誠意のかけらもない。実家はどうしていたんだ?」
「父は単純に王族の仲間入りができると、進んで協力してました」
「お嬢様もこのような性格でしたので、すべての教養に当てる時間が薬学になり今のように…」
その後もセレモニーでの出来事を話して、それから隊長さんと出会ったこととかを話して私から話せることはこれでおしまいっと言葉を区切る。
「…以上!カノン=エレステンでした」
「分かりたくないが、了承した。アルフレッド!」
「はっ!」
「今すぐ先ほどのカノン嬢の話をまとめてくれ。明日朝にでも陛下に宛てて手紙を出さねばならないようだ」
「畏まりました」
すーっとアルフレッドさんが滑るような無駄のない動きで食堂を出ていった。
「ここに来た事情は改めて分かった。こちらとしても最大限尽力する。ついてはこれからのことを少し話そう」
この後もお話が続くみたい。今日は1日が長いなぁ…研究ならあっという間に時間が過ぎるのにね。
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