妹を想いながら転生したら

弓立歩

文字の大きさ
上 下
70 / 73
本編

69

しおりを挟む
「すみません。宿に仲間が止まっていると思うんですが…」

「ああ、いらっしゃい。ってお仲間かい、上がって一番奥のところとその手前だよ」

「ありがとうございます」

宿屋の女将は客が増えたと一瞬喜んだのだろう。ちょっとぶっきらぼうに返事をすると奥に行ってしまった。
それから私は言われた通りに2階の一番奥の部屋へと向かう。

「みんないる?」

とりあえず一番奥の部屋から声をかけてみる。

「ティア!ちゃんと依頼終わったんだね。こっちこっち」

ドアを開けたエミリーに引き込まれるように部屋に入る。

「ごめんなさいみんな遅くなって、ってあなた一人なの?」

「みんなは今、情報を集めてるよ。私はティアが来るだろうからお留守番なの」

「そうだったの。じゃあ、今日はこのままでもいいのかしら」

「うん。もう時間もけっこう経ってるしいいんじゃないかな。それよりあの後どうだった?」

私はエミリーに促されるまま、道中のことを話した。空を飛びながら馬車のコントロールをすることがかなり大変だったこと。門を通る際はいつもの門と違って待たされそうだったことと、カインにそれを融通してもらったことなどを話す。

「ふ~ん。カインっていつもぱっぱと人を通してるだけかと思ってたけど、結構話せる人だね」

「ええ、おかげで時間ほど待つかもしれなかったところをすぐに通してもらえたわ」

「じゃあ、今度お礼をしなくっちゃね!」

「そこはもうしてあるから気遣ってあげなくても大丈夫よ」

「さっすがティア。それで続きは?」

「その後はギルドに行ったんだけど、ハンナさんがビール1杯無料で人を集めてね…」

順を追って今日1日あったことを説明していく。その後、盗賊はアジトにまだ数人いるためリンさんが非番のメンバーを起こして討伐に出たことや、取り調べを経てもリーダー格の男は懲りていなかったことを身振りを交えながら話す。

「じゃあ、今頃は追加の依頼はリンさんのところのパーティーが受けてるんだ?」

「そのはずよ。実働部隊と売却部隊に分かれていたようね。でも、結構大所帯の盗賊団だから普段からかなりの荷物を奪っているはずよ」

「たしかにね。20人も食べて暮らすとなったら大変そう」

「同情はしないけどね。真人間になるかそのまま出てこないことを祈りましょう」

「でも、王都周辺の盗賊団なんてわたし久しぶりに聞いたよ。前はいつぐらいだったっけ?」

「5年くらい前じゃないかしら。あの頃は討伐されたかどうかは知らなかったけど、当時の一味がいた可能性もあるかもね」

少しあくびをしながら私は数年前にも盗賊団の事件があったことを思い出していた。

「あっ、ティア眠いよね。ちょっと横になる?」

「ごめんなさい、いいかしら」

「どうぞどうぞ」

エミリーにすすめられるまま、ベッドに横になる。自分で思うより疲れていたのか、横になるとすぐに眠ってしまった。


「…でさ、結局は騎士団に引き渡した時に商人さんに振り込まれるから、現状の取り分でって話したんだって」

「まあ、その辺は全く問題ないが、それにしてもまさか休むことなく一気にやってくるとはな」

「さびしかったのかも。普段は一人でいることもないし」

「はは、そうかもね」

「あんまり言って聞かれたら面倒だぞ」

みんなの声がする。何を言ってるかはほとんど頭に入ってこないけれど、どうやら戻ってきたらしい。

「んっ」

「あっ、大きい声で話しすぎたかな?」

「どうせもうすぐ食事の時間だし問題ないだろう」

目を開けるとみんながテーブルを囲んで話している。エミリーだけはベッドに腰かけている様だ。

「おはようティア」

「おはよう」

キルドにあいさつをされ、オウム返しに返す。ずいぶん寝たと思うけれどまだ頭がぼーっとしている。
体を起こしてみんなの方へ向き直ろうとするがうまくいかない。

「あ~、もうちょっとそのままでいいよ」

エミリーがゆっくりしていいというので、そのままの姿勢でみんなの会話に耳を傾ける。

「それで、護衛依頼の方は片付いたとして報酬とかはもう片付いてるのか?」

「ティアが言うにはそうみたい。カードも寝る前にここにポンと置いてたし」

「なるほどな。確かに残金も増えてるし、問題はほぼなさそうだ」

「ほぼって?」

「話を聞く限り、手間賃でそこそこ支払ったのに、面倒だからという事で依頼料の分は全部ここに入れてある」

「じゃあ、昼代とかも?」

「どうせ勝手に出したからとでも言って誤魔化す気だったんだろう」

そういう決めつけはよくないと思う。一旦は全額カードに入れて後で清算するほうが楽という考えはないのだろうか。まあ、そんな気はないけれど。

「依頼自体はティアが達成したんだから、一番取り分があるはずなのにね」

「全くだ。報奨金ぐらいは自分の財布に入れてもらわないと困る。護衛の報酬だって最初に守った時以外は俺たちは何もしてないからな」

「別にいいじゃない」

「良くない。別のパーティーと組んだ時にそちらは変に平等主義なんですねといわれるのがおちだ」

「じゃあ、組まなきゃいんじゃない?」

「ティア、まだ寝てるでしょ。合同の護衛依頼だって珍しくないんだからそういうこと言わないの」

色々考えて言っているつもりだが、あんまり頭は働いてないらしい。ここは聞くことに徹しよう。

「それで聞き込みはどうだったの?」

「そうそう、わたしもそれ気になってたんだ。ティアの話ばっかりで聞きそびれてた」

「…飯の後にするか。そろそろ時間だ」

話そうとしたカークスだったが、別の気配を感じ取ったのか話を切り上げ下に降りるように促す。渋々、エミリーも用意を始める。私はというと何も考えずに寝たせいか、髪もぼさぼさだしちょっとだけ整えてから降りる。

「ああ、ちょうど呼びに行こうかと思ってたところだよ」

下に降りると、昼間に部屋の場所を案内してくれたおばさんが料理を運んできてくれていた。

「普段は村の寄り合い所みたいなところだからたいそうなものはないけどね」

そう言って出してくれたのは、地元でとれた肉と野菜を使ったスープや炒め物だった。

「ここの料金ってどうなってるの?」

「宿代と一緒に1日単位で払っている。宿代はまとめてでもよかったんだが、いつまでいるかは分からんからな」

「そう、それじゃあ。いただきます」

用意してもらった食事を一斉に食べ始める。

「おいしい」

「ほんとだね。温かくて」

「うれしいねえ。最近は盗賊団のせいで王都からの客もめっきり減って。村の連中に食べさせても何も言わないからねえ」

「やっぱり、影響は大きいですか?」

「大きいも何も、前は3組ぐらいは毎日来てくれてたのが、ここ3週間ほどはほとんど来なくてね。村の方には出ないって話だけど、都市との分かれ道もあるからみんな寄り付かなくなって」

「それなら該当の盗賊団か知りませんが、この前王都で捕まってるのを見ましたよ」

「ほんとかい?なら、もう少し頑張らないとね」

おばさんは客足が戻ることを期待して、やる気を出してくれたようだ。変に自分たちがやりましたなんて言ったら今後の調査もしにくくなるし、このぐらいでいいだろう。カークスももういう事はないと目で合図してくるし、よかったようだ。

その後はみんなと明日の目的地について話し合いながら食事をした。先ほどの話に気を良くしたのか、おばさんがお代わりも持ってきてくれカークスとフォルトは遠慮なくいただいていた。食事も終わり、お風呂に入るように提案する。おばさんの話では湯の用意が大変な為、普段はやってないという事だったが魔法が使えるから心配いらないというと、使ってもいいと言われた。条件として他の人も使用していいとのことだが、それぐらいなら何でもないので了承した。

「ん~、最近は出先、出先でお風呂に入れるから勘違いしちゃうわね」

「ほんとほんと。まるで旅行者の気分だよ~」

エミリーと二人で湯船につかりながらまったりとする。実際、宿というのは素泊まりか食事つきが一般的で、よくて沐浴というか井戸で水浴びそれも激高な料金だ。ある程度の都市には王都みたいにサービスが充実した宿があるが、こういう村々ではまずお目にかかれない。十分に堪能した私たちはお風呂から上がる。次はカークスたちだ。使用に関してはいいといったが、順番は私たち優先だ。最初はおばさんも渋ったものの、私たちが使い終わった後はお湯を張り替えると言ったら、すぐに了承してくれた。

「3人とも空いたからお風呂どうぞ」

髪を拭きながら隣のカークスたちの部屋に入って空いたことを教える。

「ありがとうティア。じゃあ、僕らも入ろうか」

カークスたちも準備していた道具をもってお風呂へ。20分もすれば上がってくるだろうからそれまではエミリーと話をする。やがて上がったのかとなりからガヤガヤと声がする。

「カークスたちも上がったみたいね」

「そうみたいだね」

カークスたちは直ぐに私たちの部屋に来ると明日からの予定について、私たちは打ち合わせを始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

処理中です...