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本編
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しおりを挟む「それじゃあ、この書類にサインをお願いします。報酬に関しては一旦、仮査定をここに記載してあります。
5日以内には決定通知後に支払いが行われますのでよろしくお願いします」
「支払先は商人さんの方でいいかしら?私たちはその頃は王都にいるか判らないし、確認できないから」
「ええ、かまいませんよ。私たちはしばらく滞在していますので。ですが、またお会いできるとは限りませんし支払いはどうしましょう?」
「それじゃあ、悪いけどこの仮査定のところで分けてもらえるかしら。査定が上がれば私たちの損。下がればそちらの損という形で」
「分かりました。では、合計査定が小金貨45枚ですから…」
「じゃあ、キリもいいしこっちが30枚でいいわね」
私はカークスと約束していた通りに小金貨15枚を商人側に提示する。
「それではそちらの取り分が少ないのでは?」
「護衛金ももらってるし、馬車の荷物も一部捨てさせちゃったお詫びよ」
「それではお言葉に甘えて」
私は商人から小金貨30枚を受け取る。今使う予定もないのでカークスから預かったギルドカードに全て入れるようにギルドの窓口で手続きを済ました。
「しかし、さすがは次期団長と目される方の妹さんですね。大活躍だったとか」
キルドから調書を受け取り読み終えた騎士がそう話しかけてくる。
「不肖の兄がいつもお世話になってます」
「いえいえ、見回りにも熱心で我々も助かっております。それでは失礼します」
そう敬礼して騎士は盗賊たちを連れてギルドをでていった。いったい誰の話をしているのだろうか。やや軽薄でぼんやりとしているだけだと兄さんは思うのだが。
「じゃあ、これで一応は盗賊団の処理は完了ですね」
「そうですね。それでは慌ただしくて申し訳ありませんが、私どもは宿の手配がありますので…」
「では」
商人とあいさつをして別れる。私はというと一応依頼としては後付けでギルドカードに書き込みを行ってもらう。
一旦こうやっておくことで、あとでも個人のカードにはこの履歴をもとにそれぞれ振り分けることができる。
「ハンナさん。それじゃあギルドカードの情報更新をお願いします」
「はいは~い。じゃあ、お昼ですから食事でもして待っててください」
そう言われて時計を見ると、すでに少し昼を回ったところだった。私はギルド内の食堂でメニューを注文する。
「そういえば、みんなも分も注文しないと。みなさん、好きなものどうぞ」
「おっしゃー」
私の手の空くのを待っていたのだろう。盗賊団の見張りに協力してくれた冒険者に注文してもらう。
店員もやり取り自体は聞いているので、つけの話もなしだ。一通り注文したところで、厨房からビールが配られる。
「これだよこれ、いやぁ~ただ酒はいいねぇ~」
みんな一気にあおり、すぐに1杯目は空になってしまった。
「2杯目お持ちしましょうか?」
「いや、料理と一緒に運んできてくれ」
「はい、畏まりました」
「俺は今飲んじまうぞ!」
昼間から勢いよく飲んで大丈夫なんだろうか。この調子ならせっかくのただ飯も酒代でマイナスになりそうだ。
しばらくすると料理が順番に運ばれてくる。ウサギ肉の包み焼にワイルドボアのステーキに森トカゲの串焼きと見事に肉ばっかりだ。私はというとそこまで眠れていないこともあり、サンドイッチとスープにしてある。
「なんだあ、ティア。儲けのわりにしょっぱいなあ」
「私は昨日からあんまり寝てないから。そんなに重たいものは食べられないわ」
「そんなこと言って、普段から食ってねえじゃねえか!」
「そうだそうだ。もうちょっと食え食え!」
そう言いながらわざわざ私のところにきて、串を一本置いていく。
「もう、別にいいのに」
そうは言ってもせっかくもらったものは頂かなくてはと思い、はむっと一つ食べる。
「むぐむぐ。…おいしいわね。ちょっとピリッとしてて」
「そうだろう、そうだろう。俺の頼むものははずれが無いからな」
「それはおススメですよ。昨日、ギルドマスターが新しい店にあいさつに行ったついでに買ってきた、新しい調味料を使ってみたんですよ」
「へえ~、そうだったのね」
ちょっと最近どこかで食べた味に似ていると思ったけど、間違いなくリライアの店に売っていたものだろう。
しかし、ギルドマスターもちゃんと店のことを気にしてくれていたんだなあと感心する。
「そんな店あったっけな。お前知ってるか?」
「ああ、なんか開店しますって話しかけられたぜ。あそこの角のとこだよ」
「そこってなんか微妙な武器屋だろ」
「ばかか、もうとっくに閉めてただろ」
「興味のない店なんざ気にも留めねえからな。一応今度行ってみるか」
調味料からとはいえ、みんなリライアの店に興味を持ってくれたようだ。上々の滑り出しというところか。
貰った串を食べながらうんうんと頷いていると。
「しかし、リンもよくこんなかわいげのない奴にかまうと思ってたが、よくよく見れば愛嬌があったんだな」
奥で何か言ってるらしいが、食事に夢中になっている私はよく聞き取れない。よくわからないという顔をした後、また食べ始める。
「そうだな。パーティーでいるときぐらいかと思いきや、結構しゃべるしな」
「何の話?」
「いやいや、何でもねえよ」
そういうと冒険者たちは3人であれやこれやと盛り上がっている。この会話の中に彼らが盛り上がる話でもあったのだろうか。私はまた村に戻ることを思い出して、かまわず食べ進める。
「ごちそうさまでした。すいません、会計お願いします」
「は~い。ちょっと待ってください」
ぱたぱたと給仕を終えた店員がカウンターへとやってくる。
「なんだよ、もう食事は終わりか?」
「あいにくと依頼中なの。カークスたちが待ってるから」
「真面目だなあ」
「うちのパーティーの連中にも見せてやりたいぜ」
「昼間からお酒飲んでる人には言われたくないと思うわよ」
「そりゃあたしかに!」
そう言って彼らは笑い出すとまた話に戻っていった。
「それじゃあ、お会計はちょうど銀貨枚2です」
「じゃあ、これ」
私は袋から銀貨2枚を取りだして店員に渡す。領収書なんかは商人とのやり取り以外では発行する文化もないのでそのままギルドをでる。
「またのご利用を」
「ようやく終わったわね。それじゃあ、村に向かうとしますか」
私は気分も新たにまずは門まで向かう。
「カイン、朝はありがとう」
「おや、ティアさん用事は終わりましたか?」
「ええ、おかげさまで。そうだこれ受け取って!」
私は袋から小金貨1枚を取りだして渡す。
「そんな、僕は職務を果たしただけです」
「それでも助かったし、言ってくれなかったらまだ王都にいたもの。悪いと思うならあっちの彼らでも誘って何か食べてね」
「…分かりました。ありがとうございます」
「じゃあ、通してもらうわね」
「ええ、お気をつけて」
後日、カインは商人口の門番と一緒に飲みに行ったが、気分良く飲み食いしたため結局、足が出たという。
「この辺でいいかしら」
キョロキョロと周りを気にする。門を出て少し歩いた後、人通りのいないところに入り込む。そして、魔法を使って空へ飛びあがり一気に村を目指す。
「昨日と違って好きなように飛べるから気持ちいいわ」
昨日は荷物を抱えて飛んでいたからコントロールが難しい分、風を切って自由に飛べる今日はとても気持ち良かった。ビュンビュンと無意味に動きながら村を目指す。
「それにしても以前よりずいぶん飛行もうまくなったわね」
ふと我に返って自分の姿を見る。カリンの村に行くころはついていくのもやっとだったり。風を捕まえるのが難しかったが、今はとても楽しんで飛べている。
「飛竜のおかげねこれは」
そして一気に村の近くまで飛んでいき、上空から村が見えるようになるころに地上に降りる。降りてからは街道を道なりに進んでいく。昨日と違って盗賊もいないし、魔物の気配も感じさせないいいところだ。
「王都に近いけれど、安全で田舎暮らしも楽しめるなんていいところね」
実際に住んでみたらまた違う苦労があるのだろうけどと思いつつ、村を目指す。
30分ほどで村の入り口に到着する。入口のところには王都から派遣されている衛兵らしき人がいた。
「すみません。今日村に来た冒険者の仲間ですが、宿はどこでしょうか?」
「うん、あいつらの仲間かあっちだ」
衛兵が指差した先には少し大きい家が建っている。きっとあそこがこの村の宿なのだろう。
「ありがとうございます」
お礼を言って私は村の宿へと向かった。
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