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本編
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しおりを挟む「面倒ね。この時間なのにちょっと並んでるわね」
商人たちは荷物を調べるという事もあり、一般人とは別の列に並ぶ。そして調べるものも多い為、1人の商人が通るのに結構時間がかかるのだ。いつもは一般用の門なのだが、今日は商人用だ。知り合いの門番なんてもちろんいない。
「駄目元で頼んでみるか。ちょっと行ってくるわ!」
バルガスさんかカインがいることを当てに一般口に向かう。
「おはよう、カイン」
「おはようございます、ティアさん。あれ、昨日旅に出たって聞きましたけど?」
「相変わらず情報が早いわね。ちょっとね、お願いがあるんだけど…」
私は簡単に事情を説明して、商人口の担当に優先してもらえないか切り出す。
「いつもお世話になってますから話はしてみますが…」
「ええ、だめでも仕方ないのは分かってるから」
そういうと、カインはすぐに別の衛兵を呼び少しの間だけ作業を止めるよう言う。
「じゃあ、行きますよ」
カインに連れられて商人口に戻った私たちはすぐに別の商隊の調べをしている門番に話をする。
最初はけげんな顔をしていた彼らだったが、盗賊を捕まえていると聞くとすぐに見せて欲しいといってきた。
調べていた分が終わるとすぐにやってきて中を確認する。
「確かに盗賊団のようだな。調べは?」
「夜中に襲われてそのまま走ってきたからまだよ。護衛も私一人だけなの」
「1人でか?」
「倒した時は仲間がいたんだけど、あいにく別の依頼を受けてるから戻ってきたのは私だけよ」
「なるほどな。すぐに手配をしよう」
門番はそういうと先に待っていた商人に話をしに行く。商人は最初は怒っていたものこちらに来て盗賊団を見てからは何も言わず通してくれた。
「すいません、先に調べてもらって」
「最初は何事かと思ったが、こいつらが掴まったのなら構わん。これで少しは安心して商売ができるからな。感謝する」
逆にお礼を言われてしまった。しかし、それぐらい商人たちにとっては悩みの種だったのだろう。盗賊団を見る商人の目つきは冷たかった。
「それじゃあ、調べるぞ」
門番たちが私たちの商隊の分を調べていく。とはいってもこっちの馬車には盗賊が載っているだけで特にめぼしいものはない。一方にも人がいっぱい載っていて、どうでもいいものは向こうで捨てた分もあるので、荷物としては少し少ない位だ。
「ふむ、ちょっと馬車からすると少ない位だがまあいいだろう。先にギルドの方へ行ってくれよ」
「分かりました。ありがとうございます」
門番に頭を下げ、順番を譲ってくれた商人さんにもお辞儀をする。さっきとはうって変わって笑顔で見送ってくれた。
「じゃあ、盗賊を引き渡したいから先にギルドに向かうわよ。事情を聴かれるから全員でね」
「分かりました」
私たちはギルドの前に馬車を2台止めて、商人さんに受付の人を呼んでもらう。
「盗賊ですか…大変でしたねぇ」
「ハンナさんこんにちわ」
「って、ティアさん?依頼の方は」
「きちんとカークスたちが続けてます。野営中に襲われたので皆とは別れてきたんです」
「それにしても一人で来るなんて危ないですよ。ちょっと人を呼んできますね。みなさ~ん、ビール一杯無料の依頼先着4名です」
人を呼ぶにしてもなんという呼び方だろうか。しかし、言葉につられた冒険者がすぐに出てくる。
「何だよ、ハンナ。どうせつまらん用事だろう」
「あっ、リンさん」
「おや、ティア。冒険に出たんじゃなかったのかい?」
リンさんにもさっきハンナさんに話した事と同様の内容を話す。
「依頼中に盗賊団に襲われるとはね。しかも、あんな田舎道で。運がなかったね」
「本当ですよ。すぐにこれからとんぼ返りで行かないと」
「で、これが盗賊団ってわけか。数だけは多そうだね。お前らティアに手を出そうとしたらしいね。ここで変なことすると全員切り捨てるよ?」
リンさんが剣を抜いて盗賊を威圧する。まだ、意識がはっきりしないものもいたが、みんな震えあがっている。
「皆さん来てくれましたね。じゃあ、奥の部屋に運びますからお願いします」
冒険者たちがそれぞれ盗賊たちを運んでいく。荒っぽいものもいるようで引きずるように進むものもいる。
それを見て盗賊たちはさらに従順になったようだ。また、朝とはいえ街中でこういうことが目撃されるとすぐにうわさは広がるだろう。
「…それで、野営中にこの商人が駆けこんできて倒したと」
私たちは奥の大部屋に通され、ギルドマスターに夜のことを話す。
「しかし、よくあの場所から一晩で着いたな。半日程度はかかるだろう?」
「ちょっと、裏技を使いまして」
「まあそれはいいとしてだ、お前らのリーダーは誰だ?」
「お、私です」
俺と言おうとして、ギルドマスターににらみつけられ丁寧にしゃべりだすリーダー格の男。最後まで抵抗しようとした他の2人が死んだことを受けてずいぶんおとなしくなった。
「お前らはこれで全員か?言っておくが、リーダーだから今聞いているだけで、嘘をついているかは他のものに聞くし、嘘だと分かればすぐにでも切り捨てる」
「は、はいぃ。アジトには後、4人います。俺たちが帰った後には売りさばく必要があるんで、そういうのが得意なやつらでして…」
「さっさと地図と場所、間取りを書け。きちんと得意なやつに書かせろ」
「はい。お、お前がかけ」
リーダー格の男から指名された盗賊の1人が書き始める。書くにあたって縄をほどいてはいるが、部屋に入る前に身体検査はしてあるし、今も冒険者たちが同行を監視している。やがて数分で書き終わった。
「これが全部です。アジトは1つなんでこれ以上はみんなわかんないです」
「よし、ハンナ。すぐに依頼を出せ。緊急依頼として依頼料もギルドからも出す」
本来の盗賊の報奨金は各国の依頼でギルドが受ける形になっている。そこでギルドが捕まえてきた盗賊から事情を聴くなどしてから国に引き渡す。
その中でも緊急性が高いものに関しては国の依頼を待たず追加に依頼して後で依頼をもらう形だ、
国によっては治安が守られる反面、騎士団の面子の問題もありいいところばかりではないのだが、今回は仕方ないだろう。
「じゃあ、依頼料はこのぐらいですね。後、残りの盗賊の生死はどうしますか?」
盗賊団の規模が分かった以上は追加依頼は壊滅という事で出されることも多い。ハンナさんが聞くのも当然のことだろう。
「こいつらは売買には長けていないようだし、一応は生存が好ましいな」
「じゃあ、そのまま書いときますね。生存が好ましいっと。で、この依頼どうしましょう。優先権はティアさんのパーティーなんですが」
通常、こういった追加依頼の依頼は達成したパ-ティーに優先権が与えられる。というのも基本的にアジトに使っている人数や規模がある程度分かる以上は危険が少ないからだ。
無論、盗賊たちが真実を話すとは限らないがそういうことはほとんどない。嘘なら強制労働ではすまず人知れず裁かれるだろう。
「私たちのところは無理ね。ただでさえ、依頼中に無理して帰ってきてるんだから」
「なら、私のところでいいかい?すぐにたたき起こして揃えてくるよ」
「リンさんのところですか。人数もそこそこいますしすぐ出発してもらえるなら。皆さんもいいですか?」
ここに集まってくれている冒険者たちも異存はないようだ。朝から酒につられてきている人たちだし、休みの人もいるのだろう。
「商談成立だね。いやあ、助かったよティア。今月ちょっと赤が出そうだったからさ」
「こっちも助かります。お願いします」
すぐにリンさんが書類を確認して、パーティーメンバーを呼びに行った。宿は近いところにしてあると以前言っていた通り、10分足らずで戻ってきた。
「ちなみに馬を借りられるかい。早い方がいいだろ?」
「ギルドで使っているところを使用してくれるならな。報酬からは引かないが大事にはしてくれよ」
「はいよ。じゃあ、みんな行くよ!」
「依頼を持ってきてくれるのはうれしいけど、もう少し早めに行ってよね~」
「まあ、これで今月も儲かるわけだし」
リンさんのところのメンバーがいろいろ言いながらもすぐに出ていった。ああいう切り替えの早いメンバー何だと感心する。
「それじゃあ、アジトの方はこれで片が付いたな。後はお前らのやったことだが、ここからは3人ずつに分けて手前の部屋で調書を取る。違っていたり過少報告は分かっているだろうな」
ギルドマスターと1人冒険者がついていき、そこにもう一人ギルド員が加わる。ハンナさんともう2人の冒険者はこちらの部屋で見張りだ。
「とんだ休日だな」
「2人ともごめんなさいね。後でお昼ぐらいはおごるから」
「ありがとよ。しかし、あんなに居やがったとはなあ。被害も大きいしお手柄だな」
「もっと別の機会が良かったけどね。この後、すぐに戻らなきゃ」
「そういえば別の依頼中でしたね。ご苦労様です。皆さんももう一杯づつビール出しますね」
「おう、そうしてくれ!」
和やかに話しつつも、少しでも盗賊が動けば剣を動かす。
「あんまり、変に動いてると傷増えるわよ」
「そうそう。引き渡しには生死以外の項目がないからな。気をつけろよ」
実際には引き渡すときに作業できる状態で金額は違うのだが、そういうところで盗賊がつけあがらないように書面上はそう書かれている。つまり、最低保証金が設定してあってケガの具合が少ないほど追加で報酬という形だ。
その後、何度も盗賊たちは入れ替わり立ち代わりで部屋に入っていく。出てくるときには顔がはれているものもいてつまらないことでも言ったのだろう。
「これで全部か。一応、照合するとリーダーのお前の言うことは少し少ないな。ちゃんと書類に書いておくからしっかり働くといいだろう」
「そ、そんな…」
そこまで部下たちが正直に話すと思わなかったのか、リーダーは少し話を少なくしたらしい。往生際の悪い奴だ。
後は引き渡しだな、騎士団には話を通してあるから、すぐに来るだろう。
「それじゃあ、待ってましょうか」
それから20分後に騎士団がやってきた。
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