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本編
43
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「おはよ~ティア」
「おはようエミリー」
村で迎える久し振りの朝だ。今日はどうやら曇りのようだ。以前いた感じだとこの村の周辺は晴天が多く、雨が少ないと感じた。ともかく、ベッドからのそのそと起き上がり支度をする。
「ちょっと早めに起こしちゃった。今日はみんなにお土産配ったりするんでしょ?」
「ええそうね。ちょっと早めに起こしてくれて助かったわ」
すぐにリビングへと向かって歩き出す。リビングではフォルトとキルドが朝食の用意をしていた。
「おはようティア。今日は早いんだね」
「おはよう」
「おはよう、フォルト。朝食の準備してくれてるのね、ありがとう」
「なに、この鎧の礼も兼ねてだ」
「なら、もう少し豪華にしてもらってもいいわよ?」
「これは一本取られたな」
「僕は?」
「あら、いたのキルド。おはよう」
挨拶もそこそこに、昨日冷蔵庫に入れておいたものを取りだす。
「そういえばフォルトたちはお土産、私たちと一緒に渡す?」
「そう思っていたんだが、一気に渡した方が手間も省けるだろうし」
「じゃあ、一緒に行きましょうか。カークスはまだ寝てるの?」
「ああ、特に用事もない日はそんなに早くは起きないからな」
「それじゃあ、もうちょっと余裕があるね。今のうちにもう一回整理しとこ」
「先にご飯食べてからね。一緒に食べてちゃ、すぐに抜かれちゃうわよ。みんなご飯食べるの早いからね」
「僕はそこそこ遅い方だけど?」
「キルドが遅いといっても、私たちよりは早いわよ」
「まあ、ティアたちは結構、荷物も多いんだろうし先に見てきた方がいいかもな」
「そうするわ」
今さっき取りだしたものと、部屋にあるものをもう一度見比べて、誰の分かを確認する。
「うん、間違いないわね。さてと、もう一度リビングに戻りましょう」
「おっけ~」
10分ほど確認したのちにリビングに向かうと、カークスが起きてきていた。
「おはようカークス」
「ああ、ティアか。おはよう」
「なんか、カークスとティアってちょっと似てるよね。頑固で寝起きが悪いとことか」
「似てない!」
「似てません!」
「ほら、そういうとこ」
「もう。いいわ、朝食にしましょう」
これ以上突っ込んで、墓穴を掘っても仕方がないので話を打ち切って朝食を取り始める。
「そういえば、これから土産を持っていくんだろう?みんなで行くのか?」
「ええ、さっきその話をしていて、一度にまとめて渡してしまおうって」
「その方が賢明か。なら、前に使っていた広場に集めてもらうとするか」
「それじゃあ、長老様のところに行った方が早そうだね~」
「だね。僕たちも挨拶はまだだし、ちょうどいいかもね」
意見が一致したところで、朝食を再開する。食べ終わって簡単に片づけを済ますと、長老の家へと向かう。
コンコン
「すみません。昨日、お伝えした通り、みんなであいさつに参りました」
「おや、カークス殿か。入られよ」
私たちはカークスを先頭にして長老の家へと入っていく。こういうところに入るのはやっぱり少し緊張する。
「ご無沙汰しております。昨日にあいさつに来るべきとは思いましたが、何分遅くなってしまいました」
「ティア殿、こちらこそ、けが人を治して回られたと伺いました。大変ありがとうございます」
「いえ、実際に治したのはエミリーですので」
「エミリー殿もありがとうございます。以前なら、あの傷を受けてしまうと、翼がうまく動かなくなることもありましてな、本当に助かりました」
「いえ、そんな~」
エミリーも昨日に引き続き褒められて、照れている様だ。しかし、大空を翔るハーピーたちの翼を癒すという事はそれだけ大きいことなのだろう。長老の態度からも、それがうかがえた。
「そういえば、ティア殿よりカリンに渡された魔導書といいましたかな。あれのおかげで、他にも助かった者もおりまして、重ねてお礼申し上げる」
「いえ、それこそカリンの指導と、熱心に覚えようとした者たちの頑張りです」
「そういって頂けると、村のものとして誇らしく思います。それで今日は何用でしょうかな?」
「あの、実はお土産といいますか、私たちの街で売っているものを少し持ってきているんです。それで、みんなに渡せればと思いまして」
ちょっとみんなを集めて欲しいのと、場所を用意してほしいと長老に伝える。
「おお、そういうことでしたら喜んで広場をお貸しします。キニー、村のものに伝えてきなさい」
キニ―さんが長老の命を受けて飛び去っていく。
「さて、では集まるまで少しだけ時間がありますが、何かありますかな?」
長老がちょっと時間があるという事なので、私は昨日から気になっていることについて尋ねてみる。
「その、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
「奥に置いてあるハーピーの像なのですが、昨日その像は村の女神を祭ったものと聞きましたが、なにか伝承があるのですか?」
「この像ですね。これは以前にいた詩人の方が、実際に見える形の方が良いだろうと新たに作ってくれたものです。前のものは少しばかり傷んでしまいましてな。大切に仕舞っているんですじゃ。伝承とのことですが、少し長くなりますが…」
長老の言葉を聞いて私たちは近くに用意されていた椅子に座る。話を聞く用意ができたところで長老が話し始める。
「実は女神の伝承はこの村の守り神ではなく、ハーピー種族かもわからんのです」
「ここの守り神ではないと?」
「ええ、わしの知っている限りですと、天より舞い降りた翼をもつ女神は左右に2対の翼をもち、傷ついたものを癒した後にその元凶となるものを討ち果たし、再び天へと帰っていった。そのように言われております。ハーピーという種族自体が翼をもつものと、人型をしておりますので皆はこの村の守り神といっておるみたいですが」
「では、そもそもこの渓谷を守るものでもないと?」
「言い伝えが確かなら、この場所だけでなく少なくとも周辺地域一帯のものを守ったという事でしょう」
「なんだかすごい女神さまだね。みんなを治したかと思ったら、敵を倒したんでしょ?」
「たしかにそうだな。癒しの力を使うという事だから、少なくともいるとすれば高位の魔物だろう」
「おそらく、言われる通りでしょうなぁ。ところが今回村にも癒しの魔法を使えるものが出てきてましてな、生まれ変わりではないかというものもおりまして」
「あの子ね。昨日、その子にも会いましたが、本人はそんなことは思っていないようでしたが?」
「それでよいのじゃが、このままだと将来が心配で」
「下手に祭りあげられてもあの子のためにならないし、今後も見に来て気に掛ける用にします」
「お願いします。カリンが熱心に教えた子は他にもおりますが、癒しの力が使える子はあの子だけでしてな」
「任せてくださいとは言えませんが、カリンにも伝えてできるだけのことはします」
「苦労を掛けます。他に何かありませんかな?」
「カークス、そういえばゴブリンの件って報告してたんだっけ?」
「ああ、昨日のうちに説明してある」
「なら、あとは大丈夫かな」
それから、準備ができるまで数分ほど私たちは長老の家で待たせてもらった。
「長老様、準備ができましたのでどうぞ。ティア様たちもついてきてください」
「分かりました。さ、みんな行きましょうか」
「うん!」
みんなで広場に向かう。広場にはすでにハーピーたちが集まっていた。この前の時より大勢いる気がする。安全になったので見張りや他の人も来ているのだろう。残念ながら村の入り口を守っている人はさすがに来られないようだったが。
「コホン。皆のもの、朝から集まってもらいご苦労だった。見てわかる通り、昨日のうちにティア殿たちが再びわが村へと来られた。しかも、我々に渡したいものがあるという事だ。くれぐれも礼を忘れぬようにな」
そう言って長老は下がった後に、私に前に出るように促す。これさえなければもっと気軽に集まってもらえるのに。
「皆さん。今日は朝からごめんなさい。この村に来るのも遅くなったお詫びではないけれど、それぞれ人間の街から皆さんに喜んでもらえるものを持ってきたつもりです。持って来れる量にも限界があって、全員には行き渡らないかもしれませんが、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。それに倣ってカークスたちも軽くお辞儀をする。それにこたえてくれるように、翼で拍手が起きる。とりあえずは安堵した。
「じゃあ、とりあえずは子供たちからという事で」
そういうと子供たちが一斉に近づいてくる。一斉に羽ばたいてこられると大丈夫と分かっていても、ちょっと怖い。
「こら~、ティアを困らせるんじゃありません!」
カリンが子供たちの盾になってくれてなだめてくれる。その言葉で一斉に子供たちが列を作り出す。どうやら、魔法を教えるときに教師と生徒として関係ができている様だ。みんな言うことを聞いてすぐに一列に並ぶ。
「あ、元気な子とかはあっちのお兄さんたちの列の方がいいかも。きっと、いいものくれるわよ」
私はカークスたちのハードルを上げつつ、中身がちょっと違うのを振り分けていく。一応事前にみんながどんなものを渡すかは聞いているのだ。最もどんなものかは完全には教えてくれなかったけど。私たちのところには昨日村に入ってすぐに出会った2人もいる。
「おねえちゃんおはよう!」
「おはよう。はい、これ」
私は小さな包みを渡す。昨日エミリーと話していたチーズだ。サーリさんの分は残してあるから大丈夫だ。
「これはな~に」
「チーズって言って分かるかしら。牛とかの乳を発酵させたものよ」
「よくわかんない…」
「じゃあ後で一緒に食べましょうか?」
「ほんと!じゃあ待ってる」
少女といったん別れ、別の子にさっきのチーズとは違うものを渡す。今度は最近王都で売り出し中の魚のすり身を焼いたものだ。もっとおしゃれなものと思ったのだが、中々日持ちのするものがなくこうなってしまった。これはいわゆるちくわだ。
「はい!どうぞ」
「ありがとう!」
元気に受け取ったかと思うとすぐに口に運んで食べている。美味しそうに食べてくれるとこっちもうれしい。ただ、余り凝ったものをもっては来ていない。あくまで人の手が入ったと明確にわかるものは、避けている。この村が人と親交があるわけではない以上、下手に人を刺激することのないようにしないと。商隊を襲ったと誤解されてはたまったものではない。
「はい、ど~ぞ!」
エミリーの方も順調に受け渡しが進んでいる様だ。あっちは冷やしながら運んだ、ケーキ類が並んでいる。こういう時に料理が得意なのは有利だとしみじみ思ってしまう。日頃の努力の差といえばそれまでなのだけど。
「最近、あまり作ってなかったから、ちょっと見栄え悪いけどね」
そう言いながらも素人目には綺麗に焼けている。正直、店で並んでいてもよくわからないと私などは思うぐらいだ。一通り渡し終えたようで、子供たちも満足してくれたようだ。
「子供たちには行き渡ったようですね。じゃあ、次は大人の方どうぞ」
「私たちもいいんですか?」
「ええ、まだ他にもありますから」
私たちは子供たちに渡したのとは違うものを取りだし、並んでもらう。
「大人の人には、これ!」
エミリーは今度はチョコケーキを渡している様だ。大人向けにちょっとだけお酒とビターに仕上げているといっていた。
「美味しい!町ではこんなのが売ってるの?」
「これはわたしが作ったんです!」
エヘンとエミリーが胸を反らしてアピールする。ハーピーの人もケーキとエミリーを2度見している。やっぱりちょっと意外だったのかな。
「甘さも抑えられてておいしい!私たちでも作ったりできます?」
「材料があればだけど…木とか植えたら育つかなぁティア?」
「そこで私に振るの?まあ、ここは温暖だし育つことは育つと思うけど、ちょっと時間かかりますよ?」
「構いません!ぜひ、作ってみたいです」
どうやら、サーリさんと同じ料理好きの人みたいで、やる気に火をつけたみたいだ。そう思っていると私のところにも1人来た。ちょうど子供に渡した、ちくわが1つ余っているのでそれを渡す。
「ちょっと、こっちもおいしいわ。ねえ、これは何から作られてるの?」
「これはその、魚のすり身を焼いたもので…」
「魚から?魚なら山の向こうの川にいるわね。今度試してみましょう!」
こっちにも料理好きの人が…。まあ、これぐらいならすぐに覚えられるしいいか。その場で簡単に作り方を説明する。といっても、これを買う時に店の人がしつこく作り方を説明してくれたままだが。美味しいけど、こだわりを延々と話さないでくれたらもっといい店だと思っていたけど、今回は助けられたので良しとしよう。
そして、大人の分も配り終えた。後はケイトさんに服を渡さないとね。服を何着か大人の人に渡そうかと思ったけど、それだとケイトさんの目に余り止まらなさそうだし一旦持っていくことにした。あの人見た感じだと、そんなに外に出てなさそうだったし。今日はさすがに来てくれていたので、あとでお邪魔するという事を伝える。
「ほんと!じゃあ、用意して待ってますね!」
いった瞬間に颯爽と家に帰ってしまった。もう少し後で言うべきだったかな。それから、しばらく私たちはそこでみんなと話していたが、そろそろみんなも仕事があるので解散になった。
「それじゃあ僕らはちょっと向こうで遊んでるね」
キルドたちは子供たちの相手をしてくれるというので、ちょっとの間任せる。その時間を使って私たちはケイトさんに会いに行く。
「ケイトさんいますか?」
「待ってたましたよ~」
「ケ、ケイトくっつきすぎ~」
文字通り飛び出してきたケイトさんをカリンがはがしてくれる。
「ありがとうカリン」
「任せて!」
「カリンってばもう。そうそう、早速服を見せてもらっていいですか?」
「ええ、まずはこれね」
1着目はワンピースだ。それもハーピーにも着れる腰元は後ろで、上は肩口に結んで着る珍しいタイプのものだ。王都でもちょっと変わったデザインだがそこそこ売れているらしい。
「あら~、かわいい上に私たちでも着れそうですね」
「ええ、基本的には皆さんでも着れるものを選んでます。中には私たちが手伝えればというのもあるんですけど」
「うん、そういうのも欲しかったんです。ちゃんと人間が着るデザインのが。私たちだとどうしても着れる形が限られてしまうから、色や飾りが単純になっちゃうんですよ」
着るのも大変になるだけだしね、とケイトさんが続ける。たしかにこのワンピースだって王都では変わったものだけど、ハーピーのみんなからしたら普通なのかもしれない。逆もまた然りという事なのだろう。
「次はこの服ね。これはちょっときれいな感じですね。私たちみたいな大人じゃないと着れないデザインです」
「そうそう。ティアは普段からあんまりこういう服買わないから、店の人捕まえて無理やり着せて選んだんだよ」
だからって背中が開いていて、ひもでクロスして止めるデザインのものを選ぶなんて本当に恥ずかしかった。
「でも、これは私たちじゃあ着るのは難しいかも知れないですね。そもそも、紐結ぶのも結構練習がいるんです」
たしかにロープぐらいならできるのだろうけど、服の細かな紐となると難しいのかもしれない。さっきの服もちょっと難しいのかな。
「それでも、見てるだけで新しいデザインが浮かんできます。着にくいところは直せばいいだけなので」
ケイトさんは頷きながら、イメージを膨らませている様だ。そして、残りの3着も出して見せる。その一つ一つに意見を言ってくれて、持ってきたかいがあったとほっとした。
「うんうん。いいもの見せてもらいました。この後はティアさんたちはどうされるんですか?」
「この後は子供たちと遊ぶ約束をしてるんです。だから、午前中は一緒に遊んでます」
「元気ですね。私は疲れるのであまり遊んであげてないんですよ」
「たしかにあの子たち元気いいよね」
「カリンが言うならよっぽどだね~」
「何でよ、エミリー」
「こら2人とも!バタバタしないの」
「ふふっ、こうしていると姉妹みたいですね」
「じゃあ私が長女ね」
「ちがうよ~、絶対ティアは次女だね」
「う~ん、確かに長女っぽい次女だね~」
「何よそれ。ぽいっていうより完全に長女でしょ」
「「そういうとこ~」」
ぱたぱたと2人がケイトさんの家を出ていく。
「待ちなさい、あっ、ケイトさんまた伺いますね?」
「気にしないでください。行ってらっしゃい」
「行ってきます。2人とも待ちなさい!」
ケイトさんにあいさつをして私は2人を追いかける。方向からして子供たちのところだろう。
「おはようエミリー」
村で迎える久し振りの朝だ。今日はどうやら曇りのようだ。以前いた感じだとこの村の周辺は晴天が多く、雨が少ないと感じた。ともかく、ベッドからのそのそと起き上がり支度をする。
「ちょっと早めに起こしちゃった。今日はみんなにお土産配ったりするんでしょ?」
「ええそうね。ちょっと早めに起こしてくれて助かったわ」
すぐにリビングへと向かって歩き出す。リビングではフォルトとキルドが朝食の用意をしていた。
「おはようティア。今日は早いんだね」
「おはよう」
「おはよう、フォルト。朝食の準備してくれてるのね、ありがとう」
「なに、この鎧の礼も兼ねてだ」
「なら、もう少し豪華にしてもらってもいいわよ?」
「これは一本取られたな」
「僕は?」
「あら、いたのキルド。おはよう」
挨拶もそこそこに、昨日冷蔵庫に入れておいたものを取りだす。
「そういえばフォルトたちはお土産、私たちと一緒に渡す?」
「そう思っていたんだが、一気に渡した方が手間も省けるだろうし」
「じゃあ、一緒に行きましょうか。カークスはまだ寝てるの?」
「ああ、特に用事もない日はそんなに早くは起きないからな」
「それじゃあ、もうちょっと余裕があるね。今のうちにもう一回整理しとこ」
「先にご飯食べてからね。一緒に食べてちゃ、すぐに抜かれちゃうわよ。みんなご飯食べるの早いからね」
「僕はそこそこ遅い方だけど?」
「キルドが遅いといっても、私たちよりは早いわよ」
「まあ、ティアたちは結構、荷物も多いんだろうし先に見てきた方がいいかもな」
「そうするわ」
今さっき取りだしたものと、部屋にあるものをもう一度見比べて、誰の分かを確認する。
「うん、間違いないわね。さてと、もう一度リビングに戻りましょう」
「おっけ~」
10分ほど確認したのちにリビングに向かうと、カークスが起きてきていた。
「おはようカークス」
「ああ、ティアか。おはよう」
「なんか、カークスとティアってちょっと似てるよね。頑固で寝起きが悪いとことか」
「似てない!」
「似てません!」
「ほら、そういうとこ」
「もう。いいわ、朝食にしましょう」
これ以上突っ込んで、墓穴を掘っても仕方がないので話を打ち切って朝食を取り始める。
「そういえば、これから土産を持っていくんだろう?みんなで行くのか?」
「ええ、さっきその話をしていて、一度にまとめて渡してしまおうって」
「その方が賢明か。なら、前に使っていた広場に集めてもらうとするか」
「それじゃあ、長老様のところに行った方が早そうだね~」
「だね。僕たちも挨拶はまだだし、ちょうどいいかもね」
意見が一致したところで、朝食を再開する。食べ終わって簡単に片づけを済ますと、長老の家へと向かう。
コンコン
「すみません。昨日、お伝えした通り、みんなであいさつに参りました」
「おや、カークス殿か。入られよ」
私たちはカークスを先頭にして長老の家へと入っていく。こういうところに入るのはやっぱり少し緊張する。
「ご無沙汰しております。昨日にあいさつに来るべきとは思いましたが、何分遅くなってしまいました」
「ティア殿、こちらこそ、けが人を治して回られたと伺いました。大変ありがとうございます」
「いえ、実際に治したのはエミリーですので」
「エミリー殿もありがとうございます。以前なら、あの傷を受けてしまうと、翼がうまく動かなくなることもありましてな、本当に助かりました」
「いえ、そんな~」
エミリーも昨日に引き続き褒められて、照れている様だ。しかし、大空を翔るハーピーたちの翼を癒すという事はそれだけ大きいことなのだろう。長老の態度からも、それがうかがえた。
「そういえば、ティア殿よりカリンに渡された魔導書といいましたかな。あれのおかげで、他にも助かった者もおりまして、重ねてお礼申し上げる」
「いえ、それこそカリンの指導と、熱心に覚えようとした者たちの頑張りです」
「そういって頂けると、村のものとして誇らしく思います。それで今日は何用でしょうかな?」
「あの、実はお土産といいますか、私たちの街で売っているものを少し持ってきているんです。それで、みんなに渡せればと思いまして」
ちょっとみんなを集めて欲しいのと、場所を用意してほしいと長老に伝える。
「おお、そういうことでしたら喜んで広場をお貸しします。キニー、村のものに伝えてきなさい」
キニ―さんが長老の命を受けて飛び去っていく。
「さて、では集まるまで少しだけ時間がありますが、何かありますかな?」
長老がちょっと時間があるという事なので、私は昨日から気になっていることについて尋ねてみる。
「その、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
「奥に置いてあるハーピーの像なのですが、昨日その像は村の女神を祭ったものと聞きましたが、なにか伝承があるのですか?」
「この像ですね。これは以前にいた詩人の方が、実際に見える形の方が良いだろうと新たに作ってくれたものです。前のものは少しばかり傷んでしまいましてな。大切に仕舞っているんですじゃ。伝承とのことですが、少し長くなりますが…」
長老の言葉を聞いて私たちは近くに用意されていた椅子に座る。話を聞く用意ができたところで長老が話し始める。
「実は女神の伝承はこの村の守り神ではなく、ハーピー種族かもわからんのです」
「ここの守り神ではないと?」
「ええ、わしの知っている限りですと、天より舞い降りた翼をもつ女神は左右に2対の翼をもち、傷ついたものを癒した後にその元凶となるものを討ち果たし、再び天へと帰っていった。そのように言われております。ハーピーという種族自体が翼をもつものと、人型をしておりますので皆はこの村の守り神といっておるみたいですが」
「では、そもそもこの渓谷を守るものでもないと?」
「言い伝えが確かなら、この場所だけでなく少なくとも周辺地域一帯のものを守ったという事でしょう」
「なんだかすごい女神さまだね。みんなを治したかと思ったら、敵を倒したんでしょ?」
「たしかにそうだな。癒しの力を使うという事だから、少なくともいるとすれば高位の魔物だろう」
「おそらく、言われる通りでしょうなぁ。ところが今回村にも癒しの魔法を使えるものが出てきてましてな、生まれ変わりではないかというものもおりまして」
「あの子ね。昨日、その子にも会いましたが、本人はそんなことは思っていないようでしたが?」
「それでよいのじゃが、このままだと将来が心配で」
「下手に祭りあげられてもあの子のためにならないし、今後も見に来て気に掛ける用にします」
「お願いします。カリンが熱心に教えた子は他にもおりますが、癒しの力が使える子はあの子だけでしてな」
「任せてくださいとは言えませんが、カリンにも伝えてできるだけのことはします」
「苦労を掛けます。他に何かありませんかな?」
「カークス、そういえばゴブリンの件って報告してたんだっけ?」
「ああ、昨日のうちに説明してある」
「なら、あとは大丈夫かな」
それから、準備ができるまで数分ほど私たちは長老の家で待たせてもらった。
「長老様、準備ができましたのでどうぞ。ティア様たちもついてきてください」
「分かりました。さ、みんな行きましょうか」
「うん!」
みんなで広場に向かう。広場にはすでにハーピーたちが集まっていた。この前の時より大勢いる気がする。安全になったので見張りや他の人も来ているのだろう。残念ながら村の入り口を守っている人はさすがに来られないようだったが。
「コホン。皆のもの、朝から集まってもらいご苦労だった。見てわかる通り、昨日のうちにティア殿たちが再びわが村へと来られた。しかも、我々に渡したいものがあるという事だ。くれぐれも礼を忘れぬようにな」
そう言って長老は下がった後に、私に前に出るように促す。これさえなければもっと気軽に集まってもらえるのに。
「皆さん。今日は朝からごめんなさい。この村に来るのも遅くなったお詫びではないけれど、それぞれ人間の街から皆さんに喜んでもらえるものを持ってきたつもりです。持って来れる量にも限界があって、全員には行き渡らないかもしれませんが、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。それに倣ってカークスたちも軽くお辞儀をする。それにこたえてくれるように、翼で拍手が起きる。とりあえずは安堵した。
「じゃあ、とりあえずは子供たちからという事で」
そういうと子供たちが一斉に近づいてくる。一斉に羽ばたいてこられると大丈夫と分かっていても、ちょっと怖い。
「こら~、ティアを困らせるんじゃありません!」
カリンが子供たちの盾になってくれてなだめてくれる。その言葉で一斉に子供たちが列を作り出す。どうやら、魔法を教えるときに教師と生徒として関係ができている様だ。みんな言うことを聞いてすぐに一列に並ぶ。
「あ、元気な子とかはあっちのお兄さんたちの列の方がいいかも。きっと、いいものくれるわよ」
私はカークスたちのハードルを上げつつ、中身がちょっと違うのを振り分けていく。一応事前にみんながどんなものを渡すかは聞いているのだ。最もどんなものかは完全には教えてくれなかったけど。私たちのところには昨日村に入ってすぐに出会った2人もいる。
「おねえちゃんおはよう!」
「おはよう。はい、これ」
私は小さな包みを渡す。昨日エミリーと話していたチーズだ。サーリさんの分は残してあるから大丈夫だ。
「これはな~に」
「チーズって言って分かるかしら。牛とかの乳を発酵させたものよ」
「よくわかんない…」
「じゃあ後で一緒に食べましょうか?」
「ほんと!じゃあ待ってる」
少女といったん別れ、別の子にさっきのチーズとは違うものを渡す。今度は最近王都で売り出し中の魚のすり身を焼いたものだ。もっとおしゃれなものと思ったのだが、中々日持ちのするものがなくこうなってしまった。これはいわゆるちくわだ。
「はい!どうぞ」
「ありがとう!」
元気に受け取ったかと思うとすぐに口に運んで食べている。美味しそうに食べてくれるとこっちもうれしい。ただ、余り凝ったものをもっては来ていない。あくまで人の手が入ったと明確にわかるものは、避けている。この村が人と親交があるわけではない以上、下手に人を刺激することのないようにしないと。商隊を襲ったと誤解されてはたまったものではない。
「はい、ど~ぞ!」
エミリーの方も順調に受け渡しが進んでいる様だ。あっちは冷やしながら運んだ、ケーキ類が並んでいる。こういう時に料理が得意なのは有利だとしみじみ思ってしまう。日頃の努力の差といえばそれまでなのだけど。
「最近、あまり作ってなかったから、ちょっと見栄え悪いけどね」
そう言いながらも素人目には綺麗に焼けている。正直、店で並んでいてもよくわからないと私などは思うぐらいだ。一通り渡し終えたようで、子供たちも満足してくれたようだ。
「子供たちには行き渡ったようですね。じゃあ、次は大人の方どうぞ」
「私たちもいいんですか?」
「ええ、まだ他にもありますから」
私たちは子供たちに渡したのとは違うものを取りだし、並んでもらう。
「大人の人には、これ!」
エミリーは今度はチョコケーキを渡している様だ。大人向けにちょっとだけお酒とビターに仕上げているといっていた。
「美味しい!町ではこんなのが売ってるの?」
「これはわたしが作ったんです!」
エヘンとエミリーが胸を反らしてアピールする。ハーピーの人もケーキとエミリーを2度見している。やっぱりちょっと意外だったのかな。
「甘さも抑えられてておいしい!私たちでも作ったりできます?」
「材料があればだけど…木とか植えたら育つかなぁティア?」
「そこで私に振るの?まあ、ここは温暖だし育つことは育つと思うけど、ちょっと時間かかりますよ?」
「構いません!ぜひ、作ってみたいです」
どうやら、サーリさんと同じ料理好きの人みたいで、やる気に火をつけたみたいだ。そう思っていると私のところにも1人来た。ちょうど子供に渡した、ちくわが1つ余っているのでそれを渡す。
「ちょっと、こっちもおいしいわ。ねえ、これは何から作られてるの?」
「これはその、魚のすり身を焼いたもので…」
「魚から?魚なら山の向こうの川にいるわね。今度試してみましょう!」
こっちにも料理好きの人が…。まあ、これぐらいならすぐに覚えられるしいいか。その場で簡単に作り方を説明する。といっても、これを買う時に店の人がしつこく作り方を説明してくれたままだが。美味しいけど、こだわりを延々と話さないでくれたらもっといい店だと思っていたけど、今回は助けられたので良しとしよう。
そして、大人の分も配り終えた。後はケイトさんに服を渡さないとね。服を何着か大人の人に渡そうかと思ったけど、それだとケイトさんの目に余り止まらなさそうだし一旦持っていくことにした。あの人見た感じだと、そんなに外に出てなさそうだったし。今日はさすがに来てくれていたので、あとでお邪魔するという事を伝える。
「ほんと!じゃあ、用意して待ってますね!」
いった瞬間に颯爽と家に帰ってしまった。もう少し後で言うべきだったかな。それから、しばらく私たちはそこでみんなと話していたが、そろそろみんなも仕事があるので解散になった。
「それじゃあ僕らはちょっと向こうで遊んでるね」
キルドたちは子供たちの相手をしてくれるというので、ちょっとの間任せる。その時間を使って私たちはケイトさんに会いに行く。
「ケイトさんいますか?」
「待ってたましたよ~」
「ケ、ケイトくっつきすぎ~」
文字通り飛び出してきたケイトさんをカリンがはがしてくれる。
「ありがとうカリン」
「任せて!」
「カリンってばもう。そうそう、早速服を見せてもらっていいですか?」
「ええ、まずはこれね」
1着目はワンピースだ。それもハーピーにも着れる腰元は後ろで、上は肩口に結んで着る珍しいタイプのものだ。王都でもちょっと変わったデザインだがそこそこ売れているらしい。
「あら~、かわいい上に私たちでも着れそうですね」
「ええ、基本的には皆さんでも着れるものを選んでます。中には私たちが手伝えればというのもあるんですけど」
「うん、そういうのも欲しかったんです。ちゃんと人間が着るデザインのが。私たちだとどうしても着れる形が限られてしまうから、色や飾りが単純になっちゃうんですよ」
着るのも大変になるだけだしね、とケイトさんが続ける。たしかにこのワンピースだって王都では変わったものだけど、ハーピーのみんなからしたら普通なのかもしれない。逆もまた然りという事なのだろう。
「次はこの服ね。これはちょっときれいな感じですね。私たちみたいな大人じゃないと着れないデザインです」
「そうそう。ティアは普段からあんまりこういう服買わないから、店の人捕まえて無理やり着せて選んだんだよ」
だからって背中が開いていて、ひもでクロスして止めるデザインのものを選ぶなんて本当に恥ずかしかった。
「でも、これは私たちじゃあ着るのは難しいかも知れないですね。そもそも、紐結ぶのも結構練習がいるんです」
たしかにロープぐらいならできるのだろうけど、服の細かな紐となると難しいのかもしれない。さっきの服もちょっと難しいのかな。
「それでも、見てるだけで新しいデザインが浮かんできます。着にくいところは直せばいいだけなので」
ケイトさんは頷きながら、イメージを膨らませている様だ。そして、残りの3着も出して見せる。その一つ一つに意見を言ってくれて、持ってきたかいがあったとほっとした。
「うんうん。いいもの見せてもらいました。この後はティアさんたちはどうされるんですか?」
「この後は子供たちと遊ぶ約束をしてるんです。だから、午前中は一緒に遊んでます」
「元気ですね。私は疲れるのであまり遊んであげてないんですよ」
「たしかにあの子たち元気いいよね」
「カリンが言うならよっぽどだね~」
「何でよ、エミリー」
「こら2人とも!バタバタしないの」
「ふふっ、こうしていると姉妹みたいですね」
「じゃあ私が長女ね」
「ちがうよ~、絶対ティアは次女だね」
「う~ん、確かに長女っぽい次女だね~」
「何よそれ。ぽいっていうより完全に長女でしょ」
「「そういうとこ~」」
ぱたぱたと2人がケイトさんの家を出ていく。
「待ちなさい、あっ、ケイトさんまた伺いますね?」
「気にしないでください。行ってらっしゃい」
「行ってきます。2人とも待ちなさい!」
ケイトさんにあいさつをして私は2人を追いかける。方向からして子供たちのところだろう。
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一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
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掲載は不定期になります。
追記
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