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本編
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「そう言えばカリンのところにはいつ行きましょうか?」
「目のこともあるし、早めに行きたいところではあるが、残念ながら私は武器も鎧もない。後、数日はかかるだろうな」
「さすがに武器無しであそこに行くのはね。せめて槍といいたいけど、鎧もないと不安だよ」
「キルドの言う通りね。じゃあ、鎧の方ももう一度私に作らせてね」
「構わないが、今度は無理をするな。鎧の出来よりティアの方が心配だ」
「そうそう、ちゃんと休憩取りながらゆっくりやらなきゃ」
「分かってるわよ。それで、魔法を付与するなら何か希望はある?」
「希望というよりできるかなんだが、腕の部分と鎧の部分で魔法を分けることは可能か?」
「別々に作れば大丈夫よ。その代わりちょっと日数かかるけど。まあ、鎧自体も大きいしその方が都合がいいかもね」
「なら、腕の部分は攻撃を弾くように盾のような魔法を。鎧の部分は全体的に軽くなる魔法か、俊敏さを上げられるものを頼む」
「わかったわ。その2つで良さそうな方選んでおくわね」
「みんな一気に装備の質が上がってうらやましいよ」
「そういえばキルドは特に新調しないの?」
「新調しようにも普段から鎧は胸当てとブーツのみ。短剣はもうあるし、あとは弓矢だからね」
「ああ、それについてヴォルさんが引き受けてくれたらだけど、矢を作れないかお願いしようかと思ってるの」
「矢を?」
「お爺様はやりたがらないだろうって言ってたけど、飛竜の矢じりなら強度もばっちりだし強敵との戦いに役立つはずよ」
「まあ、そうだろうけど別口で矢を持つとなると荷物増えるなあ」
「10本ぐらいでどうかしら?」
「それで、毎回違う矢筒を運ぶんでしょ。できなくはないけど回収もめんどくさそうだね」
「回収するの?いつもは打ちっぱなしじゃない?」
「そりゃいつものは矢筒とセットでも安いものとか、セールで買うからね。使い回しても変に飛んだりして危ないし、ほとんど回収しないけど。飛竜のものともなれば、そこらじゅうのパーティーや商人が群がるだろうね」
「そんなに人気があるのか?」
「人気があるというか。加工が難し過ぎて単価が高くて頼めないんだよ。使ってみたいけど使えない矢の中でもトップクラスに高いよ」
まだまだ、魔法付与の金属矢の方が簡単に手に入るよという事だ。お爺様も言っていたが相当希少なものらしい。
「それだけ貴重な矢じりなら矢に使う木もいいものになって、最終的に記念品として送られるのが常だね」
「でも、実用性はあるのよね?」
「そりゃ、貫通力や噂じゃ魔法をかけて放つこともできるって話だけど、一矢で銀貨1枚じゃあ話にならないよ」
「頼むのはタダだから言ってみましょう」
「ティア今の話聞いてた?」
「ええ、矢としては素晴らしいものだって。それだけいいものなら少量でもあって困らないわ」
「まあ、知り合いの鍛冶師みたいだし、僕も持てるなら持ってみたいし、期待せず待つことにするよ」
「任せときなさい!」
「変な自信つけちゃって、そういえばティアたちは午後からどうするの?」
「午後の予定ね。とりあえず実家からお金を回収しないとね。今回は武具の一新にみんなお金使うでしょうから、早めにお金を補充していかないとね。後はリライアに不要なうろこの残りを渡そうと思ってるの。物がないとレイアウトも決まらないでしょうから」
「それなら僕もついてくよ。客の感覚で実際に見られると思うしね」
「それは助かるわ。エミリーはどうするの?」
「孤児院の院長さんから呼ばれてるんだ。なのでわたしはそっちにいるね」
「そうなの。大変だけど頑張ってね」
「うん!」
エミリーや私は偶に孤児院の院長さんから依頼を受けている。依頼料は微々たるものだけど、孤児院にいる子供たちの病気やけがを見るというものだ。放っておくと、感染症や後遺症になることもあって、受けるようにしている。いつもは2人で行っていたのだが、私1人でもたまに行くことはあった。
「あの孤児院に行くなら私がついていこう」
「ほんとフォルト!たすかるよ~」
フォルトが私に目配せする。私もそれにこたえてちょっとだけ気づかれないように頭を下げる。孤児院の周りはお世辞にも治安は良くなく、厄介ごとが起きる可能性もある。今のエミリーの装備なら大丈夫とは思うけれど念のためついていってもらうと助かる。
「じゃあ、パパっと昼を済ませていこうか」
「そうね」
私たちは部屋から出て、食堂に向かう。今日は材料の関係ですべてのメニューが魚に統一されていた。まあ、別に好きだからいいけれど、どこかから差し入れでも貰ったのだろうか?昼食を済ますと、それぞれ目的の場所へと向かう。
「じゃあ、エミリー。フォルトがいるから安心だとは思うけれど、十分注意しなさいよ」
「大丈夫だよ。心配性だなティアは」
「それと、孤児院の子たちに迷惑かけないようにね」
「さすがにそんなことはないよ」
「ティア。心配しなくとも私がちゃんと見ておく」
「なら安心だね。こっちも行こうか」
エミリーたちと別れて私たちはリライアの店へとうろこを持って向かう。
「そう言えば、キルドはこの数日ずっと留守にしてたから、店を見るのは初めてよね」
「そうだね。やっぱり、王都に帰ってきたって思ったらつい力が入っちゃってね。結構いろんなとこに顔出してたら時間かかっちゃったんだよ」
「行きつけの店がいっぱいある人は大変ね」
「なにせ、飛竜のドロップ品だからね。適当に渡しても結構サービスしてくれてさ。いやぁ、いい気分だったよ」
「それはよかったわ。後日、揉め事に発展しなければいいわね」
「怖いこと言わないでよ。平等に接してるんだから」
「くれぐれも私やエミリーの部屋に刃物を持った人が二度と来ないようにしてもらいたいわね」
「あれはごめんって。まさか、パーティーメンバーに手を出したなんて思われると思ってなくてさ」
「相手が一般人だからよかったものの、冒険者同士や魔法使いなら大迷惑だったわよ」
「反省してあれ以来、宿を明かしたりはしてないから」
「そんなのCランクパーティーになったんだから、無駄ね。特に飛竜討伐の噂は結構広まってるからね。誰かさんのおかげで」
「まあ、気を抜かないようにはするよ。このパーティーを抜けたら行き場がないからね」
「そんなこと言って。キルドの能力ならどんなところでも重宝されるわよ」
「でも、うちのパーティーって結構、みんな真面目で通ってるからね。そこを追い出されたなんて誰も欲しがらないよ」
「そんなものかしら?」
「ティアたちはパーティーを渡り歩いたことが無いからね。思っているより、前のところの評価が付きまとうんだよ。同じ街で活動するなら特にね」
「へぇ~、勉強になるわね。あっ、ここがその店よ。まだ開店してないけどね」
「ここって前も冒険者向けの店だったよね。立地もいいし家賃とか大丈夫なの?」
「そこは国の補助と、持ち主からの好意で月の家賃なんと小金貨4枚よ。来年からは6枚だけど」
「そんなに安いの!それなら今年中にガンガン儲けてもらわないとね」
「問題はそこよね。2年目からの家賃アップに対応しないといけないのよね」
「今は売り物があるからそこで評判を勝ち取れば問題ないよ。後は僕らも頑張って、売り物になる素材をバンバン取って来ないとね」
「気が重いわね。彼女の生活の支えという事もだけど、店に並べられるものを取るってことはそれだけ危険も伴うもの」
「ランクが上がって、ゴブリン退治はできないからね。頑張りすぎなければそこそこ行けるよきっと」
「そうね。店の前で立ち話もなんだし、そろそろ入りましょうか」
「ははっ。そうだったね」
私はコンコンとドアをたたきリライアを呼ぶ。いないかなと思ったが、数秒後ドアが開いた。
「は~い、どなたでしょう?って、ティアさんにキルドさん。どうぞ上がってください」
「お邪魔します」
2人とも挨拶をして、店に入る。商品がないこと以外はかなり体裁が整っている。ところどころあったほこりもきれいに清掃されており、店内は清潔なイメージだ。
「へぇ。思ったよりきれいだね」
「ええ、前の店主の方も結構掃除とかは得意だったみたいで、ちょっと掃いたり拭いただけなんですよ」
カウンターの椅子に座ると奥からリライアがお茶を持って来てくれた。
「はい、どうぞ!」
「おいしい!リライアってお茶いれるのうまいわね」
「まあ、客商売ですから。できるだけ品質以上の味が出せるように頑張ったんですよ」
「うんうん、これを出されたら商売も弾むと思うよ。冒険者たちは結構、適当なものばっかり飲んでるから」
「良かったです。実は開店祝い様にとちょっとだけいいものにしておいたんです。最初の掴みが肝心ですから」
「しっかり店のこと考えてくれてうれしいわ」
「当然ですよ!それで今日はどんな用件でしょう?」
「えっとね、この前言っていた飛竜のうろこの件だけど実際に今日は売り物を持ってきたの」
「ちょっと待って。今並べるから」
キルドが持ってきたバッグから売り物になるうろこを取りだしていく。とりあえずは良質の大きめのものから順番に並べる。
「これがとりあえずの売り物になる訳だけど、リライアはパッと見てどれ良いかって分かる?」
「この前もちょっと見せてもらったんですが、実際に見ればわかると思います」
「キルド、彼女結構すごい目利きなのよ。宝石とかもちょっと見ればわかるみたいだし、今後は鑑定を任せても問題ないと思うわ」
「同じ商売人のティアが言うなら間違いないね」
「それに私の実家に行ったとき、母さんが気に入ったみたいで、一通りの商品の説明や並べ方なんかも教えてたわ」
「そうなんですよ。店を開くといったら、手寧に教えていただいてこの店の棚の並びとかも参考にしたんです」
「通りで初めて入ったのに、きれいというか見慣れたような感じがした訳だ」
「キルドってうちの店によく来てるの?」
「まあ、ティアの家の店は雑貨だけど、小物やアクセサリーが多めだよね。結構、プレゼントとかにいいんだよね」
衝撃の真実だ。私が家にいるときは出会ったことなんてなかったのに、キルドはよく利用しているらしい。
「ティアはあんまり知らないかもね。あまり、時間帯としては会うようなときじゃないから」
「水臭いわね。一言、言ってくれればいいのに」
「でも、ティアさんが知ったら何でうちに来たんだって照れながら言ってそうですね」
「そうそう。絶対そうなると思って、はちあわない時間帯を選んでいってるんだ」
「2人とも!そんなこと言わないわよ」
「どうだかね。それよりここに並んでるのちょっと等級付けてみてよ」
「等級ですか?どれくらいです?」
「それは自分で決めていいよ」
20枚はあるうろこをリライアがどんどん分けていく。最終的に5段階に分けられたうろこが並ぶ。
「ふ~ん。ティアの言った通りだね。ちゃんとアクセサリー向けとかにも分けられてて、これなら他の商品も問題なさそうだね」
「わたしの言葉信じてなかったの?」
ジトーっと目を細めてキルドに迫る。
「いやいや、悪かったからそんな目で見ないでよ。リライアもごめんね。一応確認だけはしとかないと、今後はみんなここを使うと思うから」
「いいえ。私も商人としては駆け出しですから、こうやって試されること自体いい刺激です」
「じゃあ、とりあえずこの分はそのままにしておいて、あとは小さいものだね」
「こっちね」
私は自分で持ってきた方をリライアに渡す。私の方には家に渡したのと同じ、幼体のうろこが入っている。それも、小さいものが中心で使い道があまりないものだ。
「これは数も多いし、まとめておいていてもいいと思うわ。それなりに商品があるように見えるし」
「う~ん。そうなんですけど、とりあえず利益も欲しいところなので、一旦は全部分けちゃいます。それでも売れ行きが良くなければ、ちょっと考えることにしますね」
「やり方は任せるわ。ただ、一応原価として銅貨1.5枚~2枚で引き取ってもらうから、ちゃんとした価格でお願い」
「分かりました。きっとやって見せます」
ぎゅっとこぶしを握り締め、気合を入れるリライア。今回のものに限れば質もいいものだし、まあ大丈夫だろう。
「じゃあ、私はこのうろこ一気に今日分けちゃいますね」
「そう?なら、私たちは邪魔ね。頑張ってねリライア」
「頑張ってね~」
私たちはリライアが集中できるよう店を後にする。
「場所も人もいい店でこれから楽しみだね」
「全くね。前の店みたいにならないようにしないとね」
「それじゃ、時間も余ったしそこらへんで軽く食べて帰ろうか?」
「たまにはそれもいいわね。じゃあ、案内は任せるわねキルド」
「任されましたとも」
その後、私たちは王都の商店をまわってから帰った。食事はちょっと離れたところの普段来ない店を紹介してくれ、とても新鮮だった。さりげないが、こういう気づかいをしてくれるキルドが改めて頼もしく思えた一日だった。
「目のこともあるし、早めに行きたいところではあるが、残念ながら私は武器も鎧もない。後、数日はかかるだろうな」
「さすがに武器無しであそこに行くのはね。せめて槍といいたいけど、鎧もないと不安だよ」
「キルドの言う通りね。じゃあ、鎧の方ももう一度私に作らせてね」
「構わないが、今度は無理をするな。鎧の出来よりティアの方が心配だ」
「そうそう、ちゃんと休憩取りながらゆっくりやらなきゃ」
「分かってるわよ。それで、魔法を付与するなら何か希望はある?」
「希望というよりできるかなんだが、腕の部分と鎧の部分で魔法を分けることは可能か?」
「別々に作れば大丈夫よ。その代わりちょっと日数かかるけど。まあ、鎧自体も大きいしその方が都合がいいかもね」
「なら、腕の部分は攻撃を弾くように盾のような魔法を。鎧の部分は全体的に軽くなる魔法か、俊敏さを上げられるものを頼む」
「わかったわ。その2つで良さそうな方選んでおくわね」
「みんな一気に装備の質が上がってうらやましいよ」
「そういえばキルドは特に新調しないの?」
「新調しようにも普段から鎧は胸当てとブーツのみ。短剣はもうあるし、あとは弓矢だからね」
「ああ、それについてヴォルさんが引き受けてくれたらだけど、矢を作れないかお願いしようかと思ってるの」
「矢を?」
「お爺様はやりたがらないだろうって言ってたけど、飛竜の矢じりなら強度もばっちりだし強敵との戦いに役立つはずよ」
「まあ、そうだろうけど別口で矢を持つとなると荷物増えるなあ」
「10本ぐらいでどうかしら?」
「それで、毎回違う矢筒を運ぶんでしょ。できなくはないけど回収もめんどくさそうだね」
「回収するの?いつもは打ちっぱなしじゃない?」
「そりゃいつものは矢筒とセットでも安いものとか、セールで買うからね。使い回しても変に飛んだりして危ないし、ほとんど回収しないけど。飛竜のものともなれば、そこらじゅうのパーティーや商人が群がるだろうね」
「そんなに人気があるのか?」
「人気があるというか。加工が難し過ぎて単価が高くて頼めないんだよ。使ってみたいけど使えない矢の中でもトップクラスに高いよ」
まだまだ、魔法付与の金属矢の方が簡単に手に入るよという事だ。お爺様も言っていたが相当希少なものらしい。
「それだけ貴重な矢じりなら矢に使う木もいいものになって、最終的に記念品として送られるのが常だね」
「でも、実用性はあるのよね?」
「そりゃ、貫通力や噂じゃ魔法をかけて放つこともできるって話だけど、一矢で銀貨1枚じゃあ話にならないよ」
「頼むのはタダだから言ってみましょう」
「ティア今の話聞いてた?」
「ええ、矢としては素晴らしいものだって。それだけいいものなら少量でもあって困らないわ」
「まあ、知り合いの鍛冶師みたいだし、僕も持てるなら持ってみたいし、期待せず待つことにするよ」
「任せときなさい!」
「変な自信つけちゃって、そういえばティアたちは午後からどうするの?」
「午後の予定ね。とりあえず実家からお金を回収しないとね。今回は武具の一新にみんなお金使うでしょうから、早めにお金を補充していかないとね。後はリライアに不要なうろこの残りを渡そうと思ってるの。物がないとレイアウトも決まらないでしょうから」
「それなら僕もついてくよ。客の感覚で実際に見られると思うしね」
「それは助かるわ。エミリーはどうするの?」
「孤児院の院長さんから呼ばれてるんだ。なのでわたしはそっちにいるね」
「そうなの。大変だけど頑張ってね」
「うん!」
エミリーや私は偶に孤児院の院長さんから依頼を受けている。依頼料は微々たるものだけど、孤児院にいる子供たちの病気やけがを見るというものだ。放っておくと、感染症や後遺症になることもあって、受けるようにしている。いつもは2人で行っていたのだが、私1人でもたまに行くことはあった。
「あの孤児院に行くなら私がついていこう」
「ほんとフォルト!たすかるよ~」
フォルトが私に目配せする。私もそれにこたえてちょっとだけ気づかれないように頭を下げる。孤児院の周りはお世辞にも治安は良くなく、厄介ごとが起きる可能性もある。今のエミリーの装備なら大丈夫とは思うけれど念のためついていってもらうと助かる。
「じゃあ、パパっと昼を済ませていこうか」
「そうね」
私たちは部屋から出て、食堂に向かう。今日は材料の関係ですべてのメニューが魚に統一されていた。まあ、別に好きだからいいけれど、どこかから差し入れでも貰ったのだろうか?昼食を済ますと、それぞれ目的の場所へと向かう。
「じゃあ、エミリー。フォルトがいるから安心だとは思うけれど、十分注意しなさいよ」
「大丈夫だよ。心配性だなティアは」
「それと、孤児院の子たちに迷惑かけないようにね」
「さすがにそんなことはないよ」
「ティア。心配しなくとも私がちゃんと見ておく」
「なら安心だね。こっちも行こうか」
エミリーたちと別れて私たちはリライアの店へとうろこを持って向かう。
「そう言えば、キルドはこの数日ずっと留守にしてたから、店を見るのは初めてよね」
「そうだね。やっぱり、王都に帰ってきたって思ったらつい力が入っちゃってね。結構いろんなとこに顔出してたら時間かかっちゃったんだよ」
「行きつけの店がいっぱいある人は大変ね」
「なにせ、飛竜のドロップ品だからね。適当に渡しても結構サービスしてくれてさ。いやぁ、いい気分だったよ」
「それはよかったわ。後日、揉め事に発展しなければいいわね」
「怖いこと言わないでよ。平等に接してるんだから」
「くれぐれも私やエミリーの部屋に刃物を持った人が二度と来ないようにしてもらいたいわね」
「あれはごめんって。まさか、パーティーメンバーに手を出したなんて思われると思ってなくてさ」
「相手が一般人だからよかったものの、冒険者同士や魔法使いなら大迷惑だったわよ」
「反省してあれ以来、宿を明かしたりはしてないから」
「そんなのCランクパーティーになったんだから、無駄ね。特に飛竜討伐の噂は結構広まってるからね。誰かさんのおかげで」
「まあ、気を抜かないようにはするよ。このパーティーを抜けたら行き場がないからね」
「そんなこと言って。キルドの能力ならどんなところでも重宝されるわよ」
「でも、うちのパーティーって結構、みんな真面目で通ってるからね。そこを追い出されたなんて誰も欲しがらないよ」
「そんなものかしら?」
「ティアたちはパーティーを渡り歩いたことが無いからね。思っているより、前のところの評価が付きまとうんだよ。同じ街で活動するなら特にね」
「へぇ~、勉強になるわね。あっ、ここがその店よ。まだ開店してないけどね」
「ここって前も冒険者向けの店だったよね。立地もいいし家賃とか大丈夫なの?」
「そこは国の補助と、持ち主からの好意で月の家賃なんと小金貨4枚よ。来年からは6枚だけど」
「そんなに安いの!それなら今年中にガンガン儲けてもらわないとね」
「問題はそこよね。2年目からの家賃アップに対応しないといけないのよね」
「今は売り物があるからそこで評判を勝ち取れば問題ないよ。後は僕らも頑張って、売り物になる素材をバンバン取って来ないとね」
「気が重いわね。彼女の生活の支えという事もだけど、店に並べられるものを取るってことはそれだけ危険も伴うもの」
「ランクが上がって、ゴブリン退治はできないからね。頑張りすぎなければそこそこ行けるよきっと」
「そうね。店の前で立ち話もなんだし、そろそろ入りましょうか」
「ははっ。そうだったね」
私はコンコンとドアをたたきリライアを呼ぶ。いないかなと思ったが、数秒後ドアが開いた。
「は~い、どなたでしょう?って、ティアさんにキルドさん。どうぞ上がってください」
「お邪魔します」
2人とも挨拶をして、店に入る。商品がないこと以外はかなり体裁が整っている。ところどころあったほこりもきれいに清掃されており、店内は清潔なイメージだ。
「へぇ。思ったよりきれいだね」
「ええ、前の店主の方も結構掃除とかは得意だったみたいで、ちょっと掃いたり拭いただけなんですよ」
カウンターの椅子に座ると奥からリライアがお茶を持って来てくれた。
「はい、どうぞ!」
「おいしい!リライアってお茶いれるのうまいわね」
「まあ、客商売ですから。できるだけ品質以上の味が出せるように頑張ったんですよ」
「うんうん、これを出されたら商売も弾むと思うよ。冒険者たちは結構、適当なものばっかり飲んでるから」
「良かったです。実は開店祝い様にとちょっとだけいいものにしておいたんです。最初の掴みが肝心ですから」
「しっかり店のこと考えてくれてうれしいわ」
「当然ですよ!それで今日はどんな用件でしょう?」
「えっとね、この前言っていた飛竜のうろこの件だけど実際に今日は売り物を持ってきたの」
「ちょっと待って。今並べるから」
キルドが持ってきたバッグから売り物になるうろこを取りだしていく。とりあえずは良質の大きめのものから順番に並べる。
「これがとりあえずの売り物になる訳だけど、リライアはパッと見てどれ良いかって分かる?」
「この前もちょっと見せてもらったんですが、実際に見ればわかると思います」
「キルド、彼女結構すごい目利きなのよ。宝石とかもちょっと見ればわかるみたいだし、今後は鑑定を任せても問題ないと思うわ」
「同じ商売人のティアが言うなら間違いないね」
「それに私の実家に行ったとき、母さんが気に入ったみたいで、一通りの商品の説明や並べ方なんかも教えてたわ」
「そうなんですよ。店を開くといったら、手寧に教えていただいてこの店の棚の並びとかも参考にしたんです」
「通りで初めて入ったのに、きれいというか見慣れたような感じがした訳だ」
「キルドってうちの店によく来てるの?」
「まあ、ティアの家の店は雑貨だけど、小物やアクセサリーが多めだよね。結構、プレゼントとかにいいんだよね」
衝撃の真実だ。私が家にいるときは出会ったことなんてなかったのに、キルドはよく利用しているらしい。
「ティアはあんまり知らないかもね。あまり、時間帯としては会うようなときじゃないから」
「水臭いわね。一言、言ってくれればいいのに」
「でも、ティアさんが知ったら何でうちに来たんだって照れながら言ってそうですね」
「そうそう。絶対そうなると思って、はちあわない時間帯を選んでいってるんだ」
「2人とも!そんなこと言わないわよ」
「どうだかね。それよりここに並んでるのちょっと等級付けてみてよ」
「等級ですか?どれくらいです?」
「それは自分で決めていいよ」
20枚はあるうろこをリライアがどんどん分けていく。最終的に5段階に分けられたうろこが並ぶ。
「ふ~ん。ティアの言った通りだね。ちゃんとアクセサリー向けとかにも分けられてて、これなら他の商品も問題なさそうだね」
「わたしの言葉信じてなかったの?」
ジトーっと目を細めてキルドに迫る。
「いやいや、悪かったからそんな目で見ないでよ。リライアもごめんね。一応確認だけはしとかないと、今後はみんなここを使うと思うから」
「いいえ。私も商人としては駆け出しですから、こうやって試されること自体いい刺激です」
「じゃあ、とりあえずこの分はそのままにしておいて、あとは小さいものだね」
「こっちね」
私は自分で持ってきた方をリライアに渡す。私の方には家に渡したのと同じ、幼体のうろこが入っている。それも、小さいものが中心で使い道があまりないものだ。
「これは数も多いし、まとめておいていてもいいと思うわ。それなりに商品があるように見えるし」
「う~ん。そうなんですけど、とりあえず利益も欲しいところなので、一旦は全部分けちゃいます。それでも売れ行きが良くなければ、ちょっと考えることにしますね」
「やり方は任せるわ。ただ、一応原価として銅貨1.5枚~2枚で引き取ってもらうから、ちゃんとした価格でお願い」
「分かりました。きっとやって見せます」
ぎゅっとこぶしを握り締め、気合を入れるリライア。今回のものに限れば質もいいものだし、まあ大丈夫だろう。
「じゃあ、私はこのうろこ一気に今日分けちゃいますね」
「そう?なら、私たちは邪魔ね。頑張ってねリライア」
「頑張ってね~」
私たちはリライアが集中できるよう店を後にする。
「場所も人もいい店でこれから楽しみだね」
「全くね。前の店みたいにならないようにしないとね」
「それじゃ、時間も余ったしそこらへんで軽く食べて帰ろうか?」
「たまにはそれもいいわね。じゃあ、案内は任せるわねキルド」
「任されましたとも」
その後、私たちは王都の商店をまわってから帰った。食事はちょっと離れたところの普段来ない店を紹介してくれ、とても新鮮だった。さりげないが、こういう気づかいをしてくれるキルドが改めて頼もしく思えた一日だった。
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