妹を想いながら転生したら

弓立歩

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本編

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「ん~。よく眠れた」

今日はいよいよ初めての魔法付与防具の製作の日だ。魔導具との違いは元々が持つ価値にある。魔導具とは基本的に魔法を行使することができるよう専用の設計がされたもの。この行使以外にはさしたる価値がないものだ。実際には魔法を込めるのに宝石などを使うため、美術的価値はあるのだが。

一方の魔法付与品はそれそのものに価値があり、そこに魔法が付与されているもののことだ。基本的に前者は魔法自体が込められることが多く、後者は補助的なもの。例えば、ブーツなら跳躍力を増すような効果が付与されることが多い。こういった魔法付与品は補助魔法に長けているものがいないパーティーにとって、大変重要だが、製作自体が難しく高価になってしまう。大体の冒険者には憧れの一品なのだ。

「さあ、今日はすぐに工房に向かわないとね」

身支度をいつも通り済ませ、食堂に降りて朝食を頼む。

「おはようございます。あらティアさん今日は一人ですか?珍しいですね」

「ちょっと朝から用事があって、早めに出るのよ」

「分かりました。じゃあすぐお持ちします」

しばらくすると、朝食が運ばれてきてそれを口に運ぶ。食べながらもどんな魔法をかけるか考える。実際にはこれというものはあるのだが、それでも直前まで何がいいか考えてベターを探す。

「これも忘れずに使わないとね」

私はポケットに入れた宝石を取りだす。冒険者学校の成績優秀者に毎年贈られているそうだ。そこそこ品質もいいので今まで取っておいた。朝食を食べ終わり、私は出発しようとする。

「あっ、ティアさん待ってください。今日もしお昼の予定がなければこれどうぞ」

リアがサンドイッチを渡してくれる。

「あら、ありがとう。頂くわ」

貰ったサンドイッチを鞄に詰めて宿を出た。

「ふ~。うまくいきました。どうです、よくやったでしょ?」

「さっすがリアさん。ありがとね~」

「でも、エミリーさんが直接渡してあげればよかったのに」

「変にプレッシャーにならないようにね。真面目さんだから~」

「そうですね。おっと、私も仕事に戻りますね」

「ばいば~い」

さあ、わたしは早起きした分、寝なおそう。起きたからとその後、何かをしようとはしないエミリーだった。


工房に着いた私をヴォルさんが出迎えてくれる。

「朝早くからよく来たなティア」

「いえ、今回は無理言ってすみません」

「いいってことよ。それとこいつが手伝いに加わる」

「弟子のガイウスです。よろしくお願いします」

「ティアです。こちらこそ鍛冶は経験がないのでお願いしますね」

「でも、師匠。本当に私が手伝いに加わってもいいんですか。いつもは一人でやるのに」

「ティアは付与品を作るのは初めてだからな。2人だと気も使うだろう。それに俺も後継者を探さんといかん」

「ヴォルさん引退するんですか?」

「するって言っても10年は先の話だ。まあ、どうなるかは俺も分らんがな」

「そんな。私たちはまだまだです」

「あたりめえよ。だが、いつまでもできるわけじゃねえからな。俺の師匠みたいに病気で逝っちまうこともある。一応の話よ」

そうこぼしながら、ヴォルさんは奥から1本のハンマーを持ち出す。

「これがマジックハンマーっていってな、魔法を定着させるのに都合のいい魔導具だ。中に魔道具の本体があって周りを鋼が覆っている一品よ」

「それが付与品用のハンマーってことですね」

「そうだ。これがなきゃ出来が悪くなっちまう。こいつで叩きながらやるといいものができるんだ」

「久しぶりに見ましたそれ」

「まあ、お前らが無茶しないように、付与品の作成にはかかわりを持たせないようにしてきたからな」

「やっぱり、そういうのは自分でするからですか?」

「そうじゃねえ。弟子の中にな、早く店を持ちたいって、あまり手を出さない付与品の店や変に高級品ばかりの店を作るやつがいてな。技術もない癖にろくでもないもん作りやがって、店をつぶす馬鹿が出たから慎重にやってんだ」

「それでいつも立ち合いできなかったんですか」

「付与魔法使いと知り合いになって、同じことされちゃあたまらんからな。弟子の不始末を防ぐためよ」

「大変なんですね鍛冶師も」

「王都は店も多いからなぁ。おっと、無駄話はここまでだ。デザイン持ってきな」

持ってきたデザインを確認する。私が思い描いていたのと変わらない。

「これで問題ありません」

「そうか。ならすぐにでも作業を始めていきたいが、初めてだから説明するぜ。俺がこの材料どもを叩いて形にする。その間お前はずっと魔力を送り続けるんだ。もちろんただの魔力じゃなくて、付与する魔法をだ。ただ、何枚もうろこを加工するからムラができないように叩いているものと、横に積まれているものに均等に送り続けるんだ」

「均等にですか?」

「でないと出来にムラが残っちまう。両足に跳躍をつけて左右飛び上がる力が違うなんぞ笑い話にもならんぞ」

横に積まれているうろこを見る。これと今、台の上に置かれている加工待ちのうろこの両方に送り続けるのか。台の上の方はいいけれど積まれている方は形もとらえにくく難しそうだ。

「すみません。積んであるほう並べてもらってもいいですか?どうにも1枚ずつの形がつかめなくて…」

「分かりました」

ガイウスさんがすぐに作業に取り掛かってくれる。見えやすくまとまりがある並びだ。こういうことをしてもらえれば確かに心強い。今からは魔法に集中するのにいらない気を使わないで済む。

「そういうやり方なんだな。お前さんは」

「いつもの人は違うんですか?」

「ああ、適当に積んどいてくれればやるっていうんで、俺もぞんざいな扱いだな。それでもムラができない当たり腕はいいんだろうが」

「流石は付与魔法使いですね」

「感心してないで、お前も頑張れよティア。これができればパーティーも助かるし、お前の経験にもなる」

「そうですね。頑張ります!」

「よし始めるぞ。ガイウス!俺が加工が終わるごとに材料を戻していくからすぐに次を渡せ。それと絶対自分の腕をうろことティアの視線の間に入れるなよ。こいつは初めてで、物を見ながら魔力を込めるんだ。それを遮ったら現地にうろこを取りに行かせるぞ!」

「は、はい!」

うろこを取りにいかせたら、間違いなく帰ってこないだろう。でも、それぐらいの覚悟で臨んでくれるというのはありがたい。私も経験がない為、少しでも何かあれば集中力を切らしてしまうからありがたかった。

「じゃあ、始めるぞ」

ごくりとつばを飲み込み一回目の打音を待つ。

カーン。

その音を合図に私はうろこに魔力を流し込んでいく。音がしたうろこから作業がまだのうろこへ布を広げるように魔力を広げていく。そして、1枚のうろこが仕上がる。しかし、それには20分もの時間がかかっている。大きいとはいえこれを後、20枚ほど…。考えて魔力を乱さないように頭を空にして、魔力を注ぐことに集中する。イメージを明確にして出来上がったものにより大きな付与がされるように。


何時間か過ぎたのだろうか?もうずっと、ハンマーを叩く音がしている。今が何枚目かもすでにわからない。それでもじっと待ち、魔力を送り続ける。これができればきっとエミリーの身を守れるものができる。それだけを胸に強く、長く、ムラなく私は魔力を送り続けた。それから、どのくらいか時間が経ってヴォルガノンはハンマーを置いた。

「終わったぞ…」

「終わりましたよ、ティアさん」

何かを言われている様だがよくわからない。とりあえず魔力を送る。

「ガイウス。ちょっと肩揺さぶって起こせ。魔力を送ることに意識が向いて聞こえちゃいねえみたいだ」

「はい、すぐ」

慌ててガイウスはティアの肩をゆする。

何か視線が揺れている、このままじゃ魔力がうまく流せない。何だと思って視線をうろこから外す。

「ガイウスさん?何してるんです」

作業を邪魔しないでという目を向ける。

「ティア。作業はもう終わったぞ!」

ヴォルさんにそう言われて周りを見る。ハンマーはすでに台の横に置かれていて、台の上には何も載っていない。何だ終わったんだ。

「ああ、終わりですか?」

「お前大丈夫か?最初の時は集中できないことがあると聞いたことはあったが、集中しすぎでおかしくなるなんて初めて見たぜ」

「??」

よく言っている意味が理解できない。頭がまだぼんやりとする。首をかしげていると、10分ほど座ったままでいろと言われ、2人とも席を立ってしまった。しばらく座っていると、ちょっとずつ思考力が戻ってきた。今は何時だろうか?

「始めてた時は8時くらいだったわよね」

時計がないか探してみる。この部屋には残念ながら無いようだ。仕方がないので、工房をでて探そうとする。

「っ!」

立ち眩みがする。ずっと座って魔力を注ぎ続けたからだろうか。フラフラな体を押して、工房の受付に戻る。

「ティア、大丈夫?」

「大丈夫か?」

「ん、なんでエミリーとカークスがいるの?」

「ヴォルさんの使いが来て、今日の作業は終わったから迎えに来てほしいって」

「あらそうなの?悪いわね」

「おい歩けるか?」

「今もちゃんと歩いてるわよ?失礼ね…」

「カークス。ちょっとやすませてから送ってくれる?」

「仕方がないな。全く、根を詰めすぎだ」

「やっぱり!ご飯も食べないで。さあ、ちょっとずつでいいから食べよう?」

エミリーが昼に食べようと思ったサンドイッチをちぎって食べさせてくれる。自分で食べられると思ったが、面倒だなと思ってそのまま食べる。ゆっくり時間をかけて食べたら、カークスが私をおぶった。

「何してるのカークス?」

「お前は自分で思ってるよりはるかに疲れている。エミリー、荷物は頼んだぞ!」

「アイアイサー」

なんだ、その手下みたいな言葉遣いは。

「まあ、好きにするといいわ。面倒だし。ふわぁ」

実際に疲れているのか、なんだかやる気が出ない。送ってくれるならそれはそれで楽だと思いなおし素直に掴まる。

「これは重傷だな。キルドあたりに見つからなくてよかったな」

「そうだね。じゃあ、早く送ってあげよ」

「ああ」

カークスが私をおぶって、それにエミリーが続く。工房をでて宿へと向かう。なんだか冒険者仲間に声をかけられた気もするが、よくわからない…。

「ティア、寝ちゃったね」

「そうだな。魔力を使いすぎて、すぐ来て欲しいといわれたがこんなになるものか」

「初めてだって言ってたし、加減せずにやってたんじゃないかなぁ」

「8時間もか?付与術を使うものでも5時間ぐらいで休むそうだが」

「ヴォルさんに聞いたら、途中で休憩しようとしたら何の返事もなくて仕方ないから作業完了まで一気にやったんだって」

「相変わらず無茶する奴だ。これからは何かするときは全部聞いてからやらせんとな」

「ほんとだよ~。見たときびっくりしたもん」

「本人が問題ないといっているのが一番驚いたな。自覚せずにいたとは」

「次からは、見張りでも立ててやらせないとね」

「全くだ。付与専門の魔法使いは確かに高額だが、こんな状態になるやつを使う訳にもいかないな」

「そうそう。ところで、結構さっきからみんなに見られてるけどいいの?」

道行く冒険者にじろじろ見られている。ティアは普段、地味な格好をしてごまかせているけど、なじみのみんなから見れば美人だという事がばれている。その上、大人びた雰囲気で一目置かれてるのに、子供みたいにカークスの背中にピッタリくっついているのでさらに目立つ。

「仕方ないだろう。フォルトは少し前に掲示板を見て来るといって、ギルドに行ってしまったし、キルドも寝てたんだ」

「あら、カークス。お姫様なんて背負って珍しい」

「なんだ?暇してるのか?変わってやるぞ」

「王子様のお仕事は取らないよ。大丈夫なのか?疲れてそうだけど」

「ああ、魔力の使い過ぎで寝てるだけだ」

「そ、ならよかった。可愛い妹分を無理させないでよ」

「勝手にやりだすんだからしょうがないだろう」

「それをきちんと抑えるのが仕事でしょう。じゃあね。エミリーもまた」

「またね~」

ぶんぶんと手を振って別れる。あの人はわたしたちがギルドに所属してからずっとティアを気にかけてくれる。なんだかんだで、わたしはヒーラーというだけで、待遇はあまりよくないけどそこそこ声がかかっていた。それをいつも、そんな扱いのところにはやれないとティアが一蹴していたのだ。そのせいでティア自身の評判はそんなに良くなかった。

ベテランからも最初は冒険者学校で成績がいいだけと言われていたからだ。そんな中であの人だけ、わたしじゃなくてティアにずっと声をかけてくれていた。何度か一緒に依頼をこなしたし、その中でティアは強いって宣伝もしてくれたのだ。

「あの人にも心配かけちゃったね」

「あいつはいつもうるさいからな」

「ティアの味方だからね。ずっと」

「おかげでこの前もちょっとギルドに行った時にうるさく言われた。ティアを気に掛ける奴は口うるさいやつばかりだな」

「もうちょっと無鉄砲なところが治れば、治まると思うけどね~」

「じゃあ、当分無理そうだな」

カークスは背中で眠っているティアを見て、はぁとため息をつく。

「ほらほら、これ以上目立たないうちに帰ろ」

わたしに先導されて、カークスも歩き出す。その日、ティアはベッドに寝かされてからも全く起きる気配がなかった。しょうがないから自重するようにと、今日の出来事を簡単にまとめて代わりに日記帳を書いておいてあげた。
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