妹を想いながら転生したら

弓立歩

文字の大きさ
上 下
30 / 73
本編

29

しおりを挟む

「ん…。朝か」

目が覚める。いよいよ今日は王都への帰還の日だ。短いようで長かったこの数日とも一旦お別れ。私は笛を机の引き出しに大事にしまい込むと、代わりにエリアの書を2冊取り出す。ちょっと硬めの方がカリンの分、もう一冊が私の分である。

「また、村に来たら書き加えなきゃね」

まだまだ未完成の本を手に取り、そう決心する。魔導書は本人の記録でもある。止まってしまうという事は、死亡したかあるいはやめてしまったという事だ。今日までの経験を胸に決意を新たにし、鏡の前で身だしなみを整える。

「よし!」

私は気合を入れなおして、リビングへと向かう。

「おはよう、ティア」

「おはようエミリー、みんな」

リビングに向かうと、すでにみんな揃っていた。食事の用意の最中という事は、そんなに起きた時間は変わらないらしい。

「何時も用意してもらってごめんなさい」

「いいよべつに。朝早く起きてもやることないしね」

目の前に朝食が並べられていく。私たちは一斉に食べ始めた。

「もう後は出発だけなんだよね?」

「まあ、そうなんだが。思いのほか素材が集まってしまったから、持ち物を出した後、外にある分を入れないとな」

「そういえばまだ、外に少しだけあったわね。使えないものかと思っていたんだけど」

「まあでも、入れやすいようにはしてるからすぐに終わるよ」

「そうなんだ~」

今日の準備のことを再度確認しながら、食事を終えた私たちはそれぞれの準備に移る。

「エミリー、入れ忘れてるものはない?」

「大丈夫だよ。元々私の荷物って服ぐらいだから」

「なら後は素材を持っていくだけね。私の方も問題ないわ。じゃあ、外に出ましょう」

私とエミリーはリビングにあった私たち用の素地袋を背負って外に出る。外ではすでに3人が待っていた。

「用意できたわ」

「そうか、じゃあ入れ替わりにこれを入れてくる」

カークスたちは小屋に持ち込めなかった分の素材を入れに行く。昨日のうちにほとんどを運び込んでいたらしく、往復するほどもないようだ。

「お待たせ~」

最後にキルドが出てきて、私たちは小屋のドアを閉めて村の入り口へと向かう。私は一度振り返ってお辞儀をする。

「素敵な出会いをありがとうございました」

小屋の持ち主の詩人と思い出の小屋に対して。その後、遅れないようにみんなに急いでついていく。

「おはようティア!」

村の入り口に着くとすでにカリンと長老がいた。2人とも見送りに来てくれたのだ。

「おはようカリン。おはようございます長老様。この度はお世話になりました」

「なんの、こちらこそ飛竜の脅威から村を救っていただき感謝しきれません」

「少しの間は飛竜の素材も預かっていただくことになり助かります」

「別にあの小屋は人間のためのものだからいいよ」

「カリンも色々ありがとう。これを受け取って」

私は鞄の中からエリアの書を取りだす。

「これは?」

「これはエリアの書といって私が今使える風の魔法や、その他の属性の魔法を記した魔導書よ。使い方や特性についてもわかる範囲で書いているから役立てて。もし、他の子に教えるならあなたは風だったけど、ひょっとしたら別の属性も使えるかもしれないわ。でも、無理させないようにね」

「うん、ありがとう。でも、こんな大事なものを良いの?」

「私も同じものを持ってるし、この魔導書の名前はね私とエミリーとカリンの名前から取ってあるの。あなたに使って欲しいのよ」

「…分かった。ありがとうティア。この本を読んで、わたしたちだけでもこの村を守れるように強くなるよ!」

「分かってると思うけど無理だけはダメよ。読んで使えるだけじゃ強くは成れないわ。教える子にもちゃんと言ってね」

「そうだね。実際の戦いとは違うもんね。でも、あの子たちならきっと大丈夫だよ」

「そうね。期待してるからね」

私はエリアの書をカリンの腰に括り付ける。左上にひもを通せるように作ってあり、結ぶのも簡単な方法を使った。

「これで、魔導士カリンの誕生ね」

「へへ。でも、魔法使いじゃないの?」

「魔法使いは自分のために魔法を使う人よ。カリンみたいに誰かを教え、導く人は魔導士って言うのよ。私の弟子1号なんだから頑張りなさい」

「じゃあ、まだ見習いだね。見習い魔導士カリン、この村のために頑張ります!」

そう言ってカリンはビシッと姿勢を正す。思わず私も敬礼で返す。

「じゃあ、私たちはそろそろ行くわね。また来ると思うけど元気でね」

「うん」

「カリンちゃんまたね!」

「エミリーも元気でね。また会おうね!」

それぞれに簡単なあいさつをして、私たちは村を出る。村を出て少し行ったところで後ろから声がする。

「ティアおねえちゃ~ん、またね~」

いつかの寝顔を見ていたコンビが空を飛びながら手を振ってくれる。

「またね~」

その声に私も大きく手を振って返す。2人が見えなくなったところで前を向きみんなと一緒に歩きだす。

「また来ようね、ティア」

「うん」

私は泣きたくなる気持ちを抑えながら、森へと進んでいく。

「来た時とはえらい違いだね。あの時はすごく警戒しながら来たものだけど」

「そうだな。左右上下と忙しく見回していたのが嘘みたいだ」

「ねえ、森まで飛んでいく?」

「いいのか?魔力を使っても」

「今回で、ちょっと魔力も高まったからどうってことないわ」

「じゃあお言葉に甘えようか」

「風よ、我らにに翼の加護を!」

私が魔法を唱えると、みんなに力が行き渡る。キルド、カークス、フォルトが順番に飛んでいく。

「わたしは?」

「エミリーは私と一緒。さあつかまって」

エミリーが私につかまるのを確認すると、私は一気に空へと駆けあがる。そして、先行している3人より高く飛んで一気に間を詰める。

「ティアはやっぱり飛ぶのうまいね」

「あら、魔法使いってことを抜けば、キルドはすごいと思うわよ。それぐらい飛び回れない人もいるんだから」

「だが、俺たちではさすがに人を背負ったりはできないからな」

「私を差し置いて、エミリーを背負おうなんて10年早いわ」

「やれやれ…」

飛びながら行くと早いもので、ものの数分で森の入り口まで着く。ここから先は冒険者と出会う可能性もあり、あまり力がわからないよう徒歩で移動する。森に入ろうとしたところで、大きな鳴き声がした。

「なんだ?」

「きっと、大鷹さんが見送りをしてくれてるのよ」

姿は見えないがきっとそうだろう。私は山の方に一礼をして森へと入っていった。

「また、我のもとに姿を見せるがよい」

そんな声が聞こえた気がした。


森に入ると、渓谷とは打って変わって、一気に暗がりになる。この奥まではめったに人も来ないため、木も切られておらず足元もおぼつかない。

「みんな、来た時と一緒で足元と暗がりには気を付けて。目が慣れるまで動かないでね」

キルドから注意が飛ぶ。今までとは違って、ここはダンジョンの中。気を引き締めないと。
私はスラリと剣を抜く。魔法では周囲を吹き飛ばして、視界を遮りかねないので剣を使う。

「相変わらずだね森は~」

「そうね。ほらエミリー先に行きなさい」

私はエミリーを先行させて最後尾に付く。来るときも多くはなかったが、ゴブリンたちと遭遇している。急ぎ帰りたいところではあるが周囲の警戒も怠ることはできない。

ガサガサッ

木の奥から音がする。何かいる様だ。しかし、キルドが少し近づいただけでそれはすぐに向こうへ行ってしまった。その後もゴブリンに遠目で出会ったが、すぐに私たちと距離を置いて逃げてしまった。

「どうしたんだろう。魔物逃げちゃうね」

「襲われないのはいいことだが奇妙だな?」

「くんくん」

「キルド、服の匂いかいでどうした?」

「あ~、多分これだね。僕たち長いことハーピーの村にいたでしょ。僕らは慣れちゃったけど、ハーピーたちの匂いが服とかについてるみたい」

「…ハーピーの方が上位の魔物だから気が付いて逃げてたのね」

「そういうことだと思うよ。この辺じゃ、オークとかもなかなか来ないだろうね。森に棲んでいる種に限定だけど」

「思わぬ収穫だな。警戒はするが、そういうことならもう少しペースを上げて進むとしよう」

「そうだね。ティアたちもそれでいい?」

「ええ、問題ないわ。頑張ってついていくからたまには後ろも見てね」

「注意するよ。じゃあ、進もう」

森の移動が速いキルドが先行してしまわないようくぎを刺して進む。キルドに限ってそんなことはないと思うけど一応ね。パーティーは人数が多いほど、専門性も高くなる。どうしても後方は守りも弱くなるため、はぐれては命の危険に直結するのだ。

「しかし、このあたりはまだまだ、人がこない場所だな」

「そうだなフォルト。わずかに木を切った後があるが、数か月は前だな」

「ギルドは飛竜の件、伏せていたといっていたが現場の人間にはそこそこ伝わっていたようだな」

「逆よりはいいとはいえ生活もある中、大変だな」

会話をしながら森を私たちは進んでいく。予想通り魔物たちは私たちを避けている様だ。この時間帯なら活動的なものもいるのに全く遭わないとは。

「いつもこれぐらいだったら、もっとこの辺も来れるのにね」

「普段はここに来るまでに何度か襲撃もあるから、薬師などもめったに来ないからな」

「おっと、いい具合に休憩できそうな場所があるね」

「そうだな。いくときにはなかったところを見ると、別のパーティーが作ったものかな?」

「…そうみたいだね。焚火の後もあるし」

「じゃあ、お借りして休みましょうか、ちょうどお昼ぐらいでしょう?」

「なら、ちょっと広げよう。見張りは僕がしておくからフォルト、準備お願い」

「了解した」

キルドが木に登って周りを見渡す。カークスが火の準備をフォルトは食材を用意する。私も軽く切ったりはできるので手伝う。

「そうだ、エミリー。索敵は森でも試してるのか?」

カークスから質問を受けて水で食材を洗っていたエミリーが答える。

「うん、やってはいるんだけど、やっぱり障害物とか、小さい生き物が多いから結構難しいかも。オークとかみたいな分かりやすいものだったら分かると思うんだけど」

「そうか、それだけでも十分だ。キルドも慣れているとはいえ、森ではなかなか目では見えないこともあるからな。できるだけ頼む」

「分かったよ」

エミリーはそう答えながら食材を洗ったとこから切っていく、リズムよくサイズも揃えられたそれらはボウルへと収まる。その間に私は肉を一口サイズに切り分ける。後は、サーリさんからもらった調味料をかけて焼くだけだ。

「じゃあ、焼くわね」

火の魔法で薪に着火して鉄板を引いて焼く。鉄板はちょっとだけこだわって中央から油が抜け、さらに軽い素材を使っているものを常備している。
木の実や山菜と炒めて、焼けたところでみんなに取り分ける。

「いただきま~s」

ガサガサ

奥の茂みから音がする。

「何だ?」

すぐにカークス、フォルトがそれぞれ武器を持ち、私は魔法の準備をする。キルドとエミリーは他にいないか周囲に目を向けている。

「ま、待ってください!」

飛び出してきたのは冒険者風の女性だった。冒険者風というのは皮鎧を着ていたからだが、質の悪い中古でも並ばないような代物だったからだ。

「いやぁ、おいしいですねぇ」

ばくばくと珍入者は私たちの料理を食べている。その飛竜の肉レアものだからもっと味わって食べてよね。

「で、あなたどうしてこんなとこに1人でいるの?その装備じゃここまで来れないでしょ」

「んぐ。それがですね。私、ここから南の村に住んでたんですが、最近村の近くの街でも死体が消えたり、病気が流行ったりして生活が苦しくなりまして。それで働き口を探して王都に来たんですが、なかなか見つからなくてやっと冒険者としてパーティーに入れてもらったんですぅ」

「それは災難だね」

「そうなんです。それで、2日ほど前に森へ来たんですが夜に魔物の襲撃がありみんなとはぐれてしまったんです。幸い、焚火の場所は分かったんですが、みんなはいないので息を殺して今まで生きてたんです」

「割と図太いかもねこの人」

「そうね。それで、他の人は見なかったの?」

「全く見当たらないんです。向こうに行ったと思ったんですが…。せっかく住んでいた村の周りから飛竜も消えたと思ったら、家を追い出されてこんな目に合うなんて」

王都の近くとはいえ、村では飢饉や災害等でこうして食い扶持を減らすため、家を追われることがあるとは知っていたけど実際に目の当たりにするとは。

「って、あなたの村は最近まで飛竜がいたの?」

「そうなんです。いやあ、家畜たちも何匹もやられまして。たまに討伐隊も来てくれるんですが、被害も大きくて最近は来てなったんです。
それが急に消えたんでみんなうれしがったんですが、すぐその後で病が流行りだしまして…」

「カークス」

「今は王都に帰ることが先決だが、帰ったら調べる必要があるな」

「あのう、皆さん王都に住んでおられるんですか?」

「そうだ、ちょっと前まで依頼をして今から帰るところだ」

「じゃあ、連れてってもらえませんか?」

「それは構わん。今の食事代ももらわないとな」

そう言ってカークスも周りを見る。明らかにこの人がたくさん食べたため、私たちの分はあんまりなかった。

「でも私持ち合わせがですね~」

「冒険者ならちゃんと稼げ、無理ならさっさとやめて働いて返すことだ」

一見、冷たそうに思える会話だが、彼女自身は戦う力がないようだしこれも仕方がない。冒険者がただで仕事を引き受けけること自体禁忌なのだ。Cランク相当のパーティーが護衛依頼でただっていうのは対外的にも後々困ることになる。

「カークス、それもそうだが行方不明のパーティーも見て見ぬふりはできないだろう」

「一応、余裕があったら探すことになっているしね」

ギルド規則の中に不明者又はそのパーティーの一員については可能であれば、発見・保護に務めることとある。実際は危険を冒して探し回るのは割に合わないので、熱心にはやらないが、自分たちも助けてもらえる訳で余裕があればどのパーティーも行っている。

幸いこの辺の森の魔物は私たちより下位のものばかりなので、今回の捜索はある意味義務でもある。

「仕方ないわね。少し遅くなるけれど探しましょうか」

「じゃあ、まずは片付けからだな」

みんな、慣れたもので手早く片付けていく。

「わ、私は?」

「不慣れな人が手伝っても仕方ないから、そこに立ってて。できれば魔物がいないか見てくれると助かるわ」

キルドが今も警戒して、エミリーも魔法探知しているので不要なのだが、何もやることがないのもかわいそうなのでとりあえず指示する。一生懸命キョロキョロしている様だが、早く見すぎていて、あれでは変化があっても音がしない限り気づかないだろう。本当に素人同然のようだ。彼女を引き入れたパーティーも何を考えていたのやら。

「片付けも終わったし、分かれたと思うところへ案内しろ」

「はい、え~とこっちです」

彼女は森の奥へ入っていく。そこはかろうじてあった道から外れており、完全に人の手が入っていないところだ。

「こんな方に逃げたのか、よく助かったものだな」

「そうなんですか?親からはこういうところに逃げろって言われたんですが?」

「それは盗賊とかだろう。最悪あいつ等は集団行動で動くから魔物に見つかりやすいこういうところを避けるってだけだ。」

「そうだったんですね。知りませんでした」

「どの辺りだ」

「私はその奥にいたんですが、みんなはさらに奥に行ってしまったんです」

「何でまた別行動したの?」

「実は転んでしまったので、遅れてたんです。そこでリーダーがその茂みに隠れてろって…」

「なんだか、オチが読めてきたわね」

「リーダーはこの草が見えてたの?」

「まさか、夜でしたし見えませんよ」

「君、この草のところでよかったね。これは強い匂いを終始発してて、人の匂いなんかは消えちゃうんだ」

「その草じゃ無かったら、命はなかったな」

「そんな…」

この人は魔物に追いつかれると思っておいていかれたのだろう。そして、パーティーはそれを助けられるほど強くもなかった。ならば、結果もおのずと見えてくるものだ。

「まあ、素人を入れて逃げる位だからこうなっちゃうよね」

そこからさらに進んだところに彼らはいた。大きく肩口から切り裂かれているもの、最後まで逃げようとして背中から刺し傷のあるもの。合わせて3人の姿があった。その装備はお世辞にもいいとは言えない。冒険者としてギリギリの装備だ。この森に来るのが早かったというほかない。

「み、みなさん…」

「こういうのはあれだがな。助かったのがお前でまだよかったよ。捨てたほうでなく捨てられた方が助かったんだからな」

彼女の肩が震える。その言葉にだろうか、それとも変わり果てた元仲間の姿にだろうか。

「探索の目標は達成した。後はこれだな」

「フォルトが遺体を探りそこからギルド発行のカードを取りだす」

「それは、パーティーの」

「ギルドもパーティーがある分だけ管理しないといけないからな。不要になった分は回収する規則だ」

「でも、かわいそうだね」

「そうね。自分たちが招いたこととはいえ、苦しかったでしょう」

私は風の魔法で地面をえぐるとそこに彼らの遺体を入れてやる。

「お墓は作れないけど、せめて安らかに」

死者の傷を癒すことはできないが、それでも祝福の代わりとして簡単な治癒魔法を使い彼らを弔う。仲間を見捨てたとはいえ、その死の間際はつらかっただろう。エミリーも私に倣い残りの二人に魔法をかけ、最後に土をかぶせる。冒険者はその場所場所で死ぬものだ。こうすることが、冒険者の唯一の慰めになるといわれている。

「さあ、行きましょう。ここにこれ以上いても仕方ないわ」

「そうだな。さあ、行くぞ」

力なく立ち上がる彼女を引っ張っていくカークス。せっかく生き残れた彼女にはこれからも精一杯生きて欲しい。それから休憩したところに戻って、また王都へと歩き出す。

「そう言えばあなた名前は何て言うの?」

まだ名前を聞いていないことに気づいた。

「私はリライアといいます」

「リライアさんね、短い間だけどよろしく」

「よろしくね」

私とエミリーが挨拶する。彼女もよろしくと返してくれる。ちょっとは落ち着いたようだ。

「リライアさんは村では何してたの?」

「私?私は普段は薬草とかを集めて調合したり、店番とかをしてたんです」

「店?」

「小さい村だったけど、私の家は王都や近くの街からくる商人と取引をして、村で何でも屋みたいな店を開いてたんです」

「へぇ~。大きい店だったの?」

「まさか、小さい店で村人が最近武器が足りないとか言えば武器を、珍しいものが欲しいと言えば見たことないような食べ物を買ったりしたんです」

「じゃあ、儲かってたの?ほかの店とかないんでしょう?」

「ないですよ。こちらは欲しいと言われたものをそろえるだけ。後は商人からも村人からも買い叩かれてほとんど利益はありませんでした。なので、病気とかで生活がすぐに苦しくなったんです」

「そうだったのごめんなさい…」

「いいんです。聞いてもらえてすっきりしました。でも、これからどうしましょうか」

「薬草が取れるなら薬師にでもなったら?」

「薬草も見て覚えただけで、何に使うかはよく知らないんです。あくまで集めるだけでしたから。まあ、でも店番してるときはそこそこ取引がうまいって親には言われましたけど」

「それなら商売っ気があるのかもね」

「お金でもあればするんですが、この調子なら何年かかるか判りませんね。向いてる仕事があればいいんですが…」

そう言って彼女は考えながら歩いていく。力になりたい気持ちもあるが、彼女では旅に同行することは難しそうだ。

「みんな止まって!」

キルドがみんなに注意を促す。

「どうしたキルド?」

「どうやら、お出ましのようだよ」

「匂いで寄ってこないんじゃなかったの?」

「ひょっとすると彼らを襲った奴らかもね。勝てると思ってるのかも」

「たしかに、4匹…6匹かな?」

「エミリー、方向は?」

「右奥に4匹、左側に2匹だよ」

「了解、俺とキルドで右を、左はティア頼む。悪いがフォルトはエミリーとリライアを!」

「分かった。ここは任せてくれ」

そう言って私たちは分かれる。確かに奥に2匹いる。まだ見えないが、探知の魔法で丸わかりだ。

「風よ、わが前に集いて解き放て」

矢のように解き放たれた魔法が、1体の魔物を襲う。胸の中心に当たり倒れた。それを見たもう一体は冷静さを失いこっちに突進してくる。その動きを見極め左に躱すと、剣を抜きすれ違いざまに切りつける。魔物が絶命したのを確認して、カークスたちの方を向く。あちらも問題なく片付いたようで、キルドが手を振っている。どうやらゴブリンの集団だったようだ。

「お疲れ様2人とも。フォルトもご苦労様」

「これぐらいなら大したことはない。だが、キルドやエミリーが気づいてくれなかったら面倒だったかもな」

「確かに、ちゃんと2手に分かれて襲ってくるあたり、慣れてたみたいだね」

「私の方は弓を持っていたみたい。最初に倒したのは偶々だったけれど」

「何にしてもケガがなくてよかった。また襲われると面倒だ。先を急ごう」

みんなカークスの言葉とともに歩き出していく。ふと、リライアが立ち止まっているのに気付いた。

「どうしたの?置いていかれるわよ」

「皆さんお強いんですね」

「森に入るなら、当然よ。ちゃんと事態に対処できるからこそ向かうのよ」

彼女を手招きしながら私は答える。冒険者は自分の力と相手の力を常に見極めなければいけない。この森のようにある程度、人の手が入っている場所ならなおさらだ。彼らはもし生き延びていても、長くはもたなかっただろう。

森をどんどん抜けていく。あれからは魔物に襲われることもなく順調だ。

「ちょっとだけ休んでもいいかしら」

「ああ、その先で休もう」

ちょっと立ち止まってもらった。

「リライア、その鎧重たくない?」

皮の鎧はさほど重たくはないといえ、冒険者でもなかったものからすると、動きにくく疲れやすい。

「確かに重たいですけど、ちゃんとついていきます」

「そうじゃなくて、もうひとりじゃないんだから、着けててもあまり意味ないなら脱いでいけばと思って」

「いいんですか?」

「とりあえず王都までは護衛するし、その鎧じゃ売れないよね」

「そうだな。俺たちは向こう向いているから」

「一応、気を利かせてくれてるみたいだし」

「じゃあ、すみません」

そう言ってリライアは皮の鎧を脱ぐ。下には普通の服を着ており、まさに昨日冒険者になったという感じだ。

「どう軽くなった?」

「はい、ありがとうございます!」

身軽になったリライアを加え、再び歩き出す。森の奥からすでに中盤を過ぎ、この先は冒険者たちと出会うことも多くなる場所だ。

「ようやくここまで戻ってきたね」

「あともうちょっとだね」

みんなの足取りも軽くなっていく。村を出るときは寂しかったが、ここまで来ると王都に戻ってきたという感覚もある。

「あと一踏ん張りだな」

周囲を見渡しながらさらに進んでいく。このあたりは道も結構分かり易く。迷うこともない。

ガサガサ

何だろうと思っているとエミリーが答える。

「これは人だと思う」

エミリーの言った通り他のパーティーのようだ。もう少し先へ進むのだろうか。私たちは一定の距離をあけながらすれ違っていく。人だからといって警戒は解いてはいけない。この辺に盗賊の情報はないが、何があるかわからないのだ。

その後も森の入り口が近づくにつれ、人の気配がするようになっていく。入口付近ではまだ、結成して時間が経ってなさそうなパーティーと出会った。彼らが無事に生き残れるように願わずにはいられない。

「やった~もうすぐ王都だ~」

無事に森を抜けた私たちは一息つく。

「予定外のこともあったが、遅くはなっていないようだ」

「そうね、このまま野営はしたくないし、一気に行きましょう」

「さんせ~い」

「皆さんお元気ですね。私はちょっと疲れました。はぁはぁ」

「こう見えても冒険者ですからね。これぐらいならできますよ」

そんなことを言いながら途中からエミリーと自分のだけは軽く魔法で浮かせているのは秘密だ。さすがに普段軽装というか鎧を装備しない私たちにはこの荷物はちょっと重たかった。しばし休憩を取ったところで再び王都へと向かう。

「リライアさんももうちょっとだけ頑張ろう」

エミリーに促されリライアも歩き出す。目的地もわずかに見えてきたのか、足取りも今までよりしっかりしている。そう、ようやく王都が姿を確認したのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゲーム世界の1000年後に転生した俺は、最強ギフト【無の紋章】と原作知識で無双する

八又ナガト
ファンタジー
大人気VRMMORPG『クレスト・オンライン』。 通称『クレオン』は、キャラクリエイト時に選択した紋章を武器とし、様々な強敵と戦っていくアクションゲームだ。 そんなクレオンで世界ランク1位だった俺は、ある日突然、ゲーム世界の1000年後に転生してしまう。 シルフィード侯爵家の次男ゼロスとして生まれ変わった俺に与えられたのは、誰もが「無能」と蔑む外れギフト【無の紋章】だった。 家族からの失望、兄からの嘲笑。 そんな中、前世の記憶と知識を持つ俺だけが知っていた。 この【無の紋章】こそ、全てのスキルを習得できる“最強の才能”だということを。 「決まりだな。俺はこの世界でもう一度、世界最強を目指す!」 ゲーム知識と【無の紋章】を駆使し、俺は驚く程の速度で力を身に着けていく。 やがて前世の自分すら超える最強の力を手にした俺は、この世界でひたすらに無双するのだった――

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

処理中です...