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本編
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「ティアよ。入ってもいい?」
コンコンと小屋の入り口のドアをノックして返事を待つ。
「ああ、ティア。カリンの方はもういいの?入っていいよ」
ドアを開けてエミリーがそれに続く。地図はかなり完成しているようだが、まだフォルトとキルドが真剣に見ているところを見ると、何か気になるところがあるみたいだ。
「地図、大分できてるみたいだけど、もうすぐ出来上がりそう?」
「それなんだけどね。頂上近くの地形で、奥側のところの地形が今一つ出てこないんだよね。フォルトもこっち側は結構覚えてくれてたんだけど。」
「そうなのね。でも、奥ってまた谷になってて、その奥に少し小さい山があったわよね?」
「ティア覚えてるの?」
「ええ、山の景色ってきれいだから、結構よく見るのよ。それに、こっち側はまた見れると思って、向こうばっかり見てたわ」
「ちょ、ちょっと絵に描いてくれる」
急にキルドが紙を渡してきたのでそこに覚えている景色を書く。とはいってもそこまで絵はうまくないので、形がわかる程度だけど。
「キルド、これならそこそこなものにならないか?」
「うん、僕の記憶と照らし合わせてもかなり正確なものになるよ。ありがとうティア!」
興奮したキルドに両手で手をつかまれて振り回される。
「ちょ、ちょっとやめてキルド。わかったから」
「ごめん、ごめん。ここでずっと行き詰ってたからついうれしくて」
「だから、ティアたちを待ってみてはといっただろう」
奥の方から声がしたと思ったらカークスが1人で飛竜のうろこの選別作業を淡々とこなしていた。
「あら、カークスもいたのね」
「見ての通りだ。そこの2人は地図とにらめっこだ。さっきのところで詰まってから全く進んでいなかったが」
「そうは言うけどカークスだって分かんないって言ってたじゃん」
「俺は辺りを見回して常に警戒していたんだ。そんな暇はなかったといっただろう」
「じゃあ、カークスもわたしたちと一緒だね~」
「いや、だから俺は…もういい。それでそっちはどうだったんだ?」
「大きな進展といっていいかしら」
「ふむ、ティア何かカリンが身に着けたのか?」
「ええ、フォルト聞いたら驚くわよ。なんてったって…」
「カリンが風魔法を使えるようになったんだよ!」
エミリーが私の言葉を遮るように先に言ってしまった。
「魔法を?しかし、ハーピーたちがというより、魔物が人の魔法を使うなんて聞いたことがないぞ」
「まあ本来、魔物たちは人とは別の言語体系を持つし、言葉の意味をうまく読み取ることができないからでしょうね。でも、カリンたちはちゃんと言葉を理解しながら、話すことができるから使えたのだと思うわ」
「それにしてもな…。ちなみにどれぐらい使えるんだ?」
「私たちも驚いたのだけれど、かなり使えると思うわ。私10とすると8ぐらいはあるんじゃないかしら?」
「初めて使うんだろう?そんなに強いのか」
「まあ、元々魔法のような力を使っていたからだと思うけど、冒険者ランクで見るとDランクの中堅以上ね。昇格を見据えたころかしら?」
「それは魔法だけだろう。空を自在に飛べて、爪や翼を使った攻撃ができるならCランクの冒険者ともそこそこ戦えるレベルだろう」
「そうね、羽根や魔法への抵抗が十分にできないなら、勝てないでしょうね」
「で、どうするんだこれから?」
「カリンだってこの後は村を守ることになるだろうし、私たちだっていつまでもいる訳ではないし、もう少し教えてみようと思うの」
「本気か?後で問題にならないか?それで、ここに来る人間を傷つけないとも限らないぞ」
「言いたいことは分かるわ。でも、私は悪いけど見知らぬ人のことより自分の仲間や友人の方がずっと大切よ。あの子はこのままだときっと死ぬわ。村を守りたい一心でね。たとえ自分では勝てないと分かってもみんなの為に飛竜に立ち向かっていくでしょうね」
少しの沈黙の後、フォルトが口を開いた。
「カークス、分かってやれ。カリンを助けたときから感じていたことだろう」
「だが、フォルト。このままでは諍いになることもあり得る」
「そんなこと言ってもここ来る奴なんて、僕らみたいに変わった依頼か何か訳ありの人ぐらいだよ。そいつらが村に害をなすんなら僕らじゃどうしようもないよ。カリンたちもいっていたけど別に生活圏を広げようって考えもないわけだし、逆に飛竜にここを奪われちゃったらそれこそ王都まで来ちゃうかもよ」
「…分かったよ。いつからうちは慈善事業にまで手を伸ばすようになったのやら」
「ありがとうカークス。まあ、私たちもここを借りてるわけだしそのお礼という事で」
「そんなこと言っておいてどうせ教えられるだけ教えるつもりだろう」
「そんなことはないわ。カリンはまだ使い始めたばかりだもの。コントロールが難しいものは教えたりしないわ…多分」
「ティアの多分は信用できないからね~。今日も結構ハイペースだったよ。学校の子たちじゃ逃げ出したかもね」
「うそ!?そんなに詰め込んでないわよ。とりあえず強弱をつけられるようにして後は、風の形をある程度変えることを教えただけじゃない」
「ちょっと待て、カリンは今日覚えたばかりだろう。もう、そこまでできるのか?」
「元からあれだけの風を操れたんだものできるでしょ?」
「強弱をつける位は個人差はあるがまだいいとして、形を変えるのは中級者向けだ。そもそも刃ぐらいならともかく眼に見えない風は変形が難しいと聞いたが」
「ダメだよカークス。ティアはいつもスラスラ解けるタイプだから、人とは基準が違うの。わたしも学校では苦労したよ…」
何かエミリーが遠い目をしている。そんなに難しかったのかな。私としてはどんなものでもイメージさえすれば一緒だと思ったんだけど。
「まあ、その話はいったん置いといて、じゃあティアたちは明日もカリンと一緒に風の魔法の練習をするの?」
「そうね、もちろん午前はあなた達と一緒に地図作りには参加するから」
「まあ、目的さえとりあえず果たせればまずはいいとしよう」
「じゃあ、カークスのお許しも出たところで、明日の行き先を決めようか」
「どこか希望はあるかキルド?」
「さっきの話を聞いた感じだと、カリンも少しは魔法で戦えるようになるってことでいいティア?」
「ええ、そうだけどそれが何?」
「だったら明日は森を抜けたところから少し下ったところを調べよう。」
「それは構わないが、カリンと何か関係あるのか?」
「もしカリンが今日より明日の方が魔法の扱いが上達するなら、飛竜により遭いにくいところから回ろうと思って。最終的に戦うのはもちろんわかってるけど、調査中に戦う時になった場合に戦力は少しでも大きい方がいいでしょ?」
「なるほどな。だが、そっちの方が安全なのか?」
「それは分からないけど、グリフォンの縄張りがこの山の頂上なら、そこを降りたところにわざわざ獲物を取りに来るかなって。僕だったらそんなところに行くより、今ある縄張りで我慢するからね」
「確かにその方が安全かもしれないわね。じゃあ明日はそのエリアを回りましょう」
「決まりだな。では、明日はもう少し早く出発しよう。ティアは悪いがカリンにこのことを伝えておいてくれ」
「分かったわ」
「じゃあ、今日はこの後でご飯食べたらすぐ寝ようねティア~」
「そうだ。言い忘れていたが、お前たちもう暇だろう。この飛竜のうろこの仕分けを手伝ってくれ。大量に分けたが余り使えないものも結構あって1人じゃやる気になれん」
「そんな~」
「仕方ないわエミリー。それにこれを今きっちり分けていれば、王都に戻ったら一杯お金が入るわよ。おいしいものだと思ってやりましょう」
「むむっ、じゃあしょうがないね。カークス、わたしにもまだやってないやつ頂戴」
「現金だなぁエミリーは」
「でも、その方が冒険者らしいでしょ」
「確かにそうだな」
「あなた達も手伝ってくれるんでしょ?」
「残念だ。私たちはこの地図が失われないためにこの後、2枚ほど模写する作業がまだ残っていてな」
「そうそう、これがまた疲れるんだよね。移したやつが変にずれたりして役に立たなくこともあるからね」
「それは大変そうね。私は選別作業をするわ、神経がすり減って疲れそうだもの」
「それがいい。慣れない作業だし、どこか失敗したら1からやり直しだ。ああ、思い出したくもない」
珍しくフォルトが身震いしている。過去に何かあったのだろう。興味がないわけではないけどそういうことは王都に戻ってからにしよう。今は、帰った時の為にこのうろこを選別しないと。この中からフォルトやエミリーの素材も取る予定なのだから。その後、フォルトとキルドはそれぞれ地図の写しを完成させ、私たちはうろこをほぼ選別し終えた。
「そろそろ夕食の時間じゃない?」
「もうそんな時間か~。集中して分からなかったよ。やっぱり地図を写す作業は疲れるなあ」
「もう終わってるんでしょ?行こうよキルド」
「ま、もう少し残ってるけど。みんなを待たせても悪いし行こうか」
キルドの言葉を合図に私たちは夕食を食べに広場へと向かった。ここにいる間は夕食はハーピーさんたちが用意してくれる。小屋を提供してくれるだけでも十分なのにといったのだが、村の子供に笑顔が戻ったのも私たちのおかげと作ってくれることになった。おかげで私たちは午前・午後と好きなように動いては夕食を呼ばれるVIP待遇だ。悪い気もするが、私たちもそこまで余裕がないから甘えている。
「今日はなんだろうね~」
「あっ、皆さん来られましたか」
迎えてくれたのはサーリさんというハーピー。カリンより少し年上だが日常生活のことはすごくしっかりしているという事らしい。実際、この村では調理といっても大したことはできないと思っていたら、サーリさん主導で結構料理をするとのこと。肉なども干すときはしっかりした味をつけて干すし、漬物のようなものも作っているらしい。
「すみません、サーリさん。待たせてしまいましたか?」
「いえいえ、かまいませんよ。それに今は火を使ったりはめったにできませんから、冷めたりもしませんし」
そう言いながら簡単なテーブルの上に料理を運んできてくれる。昨日も見た木の実とこれはカブ?だろうか根菜と干し肉がある。
「この肉は?」
「ああそれは森ウサギの干し肉です。簡単ですが味もついてるのでおいしいと思いますよ。宴の時は気づかずごめんなさい。人間の方が生肉を食べないの知らなくて。」
「いえ、仕方ないです。食生活なんかはその場所にもよりますから」
昨晩の宴会の時は実はジュースや木の実以外にも飛竜の肉も出たのだった。ハーピーたちは美味しそうに食べていたのだが、さすがに生肉は私たちは食べなかった。飛竜の肉は人にとって毒性があるわけではない。単純に食あたりで翌日以降の調査に支障が出ると判断したからだ。新鮮な飛竜の肉というのもちょっと興味があったので少しならと思ったが、カークスとフォルトにがっちりつかまれて止められてしまった。この依頼の帰りに機会があったら、別に凍らせてこっそり試そう。
「あっ、ティアたちだ。お~い」
「あら、カリン。あなたも食事は今からなの?」
「そうだよ。あの後は長老様のところに行って今日の事を報告してたんだ。すっごいびっくりしてたけど喜んでたよ」
「良かったわね。でも、まだ覚えたてなんだからあんまり言いふらすのはダメよ。使えますってちゃんと言えるようになってからね」
「わかってるよ。今日は何かな~。…あっ今日は森ウサギだ!やった、この肉は生でも干しても柔らかくておいしんだよね~」
「そうだよね~。この干し肉は味つけもちょうどですっごくおいしいよ」
「人間も森ウサギ食べるの?」
「そうね。私たち以外にも森にはこういった食べられる動物を狩る人がいて、市場にも並んでいるわ。割と高いんだけどね」
「そうだよね。ちょっとしたお祝いとかにしか食べないかもね」
「へ~。そこまで村では珍しくないけど人間のところでは貴重なんだね」
「私たちは森から離れて暮らしているからその辺はしょうがないわね」
「じゃあ味わって食べてね。サーリの料理美味しいから」
「本当ね。でも、料理をしたり服を作ったり、ここのハーピーたちは器用よね」
「かもね。わたしも長老様から聞いただけだけど、この村のハーピー以外じゃ見たことないんだって」
「じゃあ、ますます大事に守っていかないといけないわね」
「うん」
「そうだ、カリンちゃん。明日も私たちについてきてくれるの?」
「そのつもりだけど…」
「明日は今日よりもう少し早めに準備していこうってことになってるの。時間大丈夫かしら?」
「うん、時間はティアたちに合わせるよ。わたしも一杯教えてもらってるし、それぐらいなんてことないよ」
「じゃあ、申し訳ないけど明日もよろしくね。それが終わったらまた魔法の練習をしましょう」
「約束だよ。明日はもっと一杯教えてね」
「わかったわ。でも、急ぎすぎて基本がおろそかになってもいけないから、ちゃんと復習から始めるわよ」
「わかってま~す」
カリンは元気よく返事をすると、森ウサギの干し肉のお代わりをもらいに行ってしまった。おいしかったし私もちょっともらおうかしら?
食事も終わって、小屋に帰ってきた私たちはそれぞれ明日の準備を始める。いつも寝る前にはチェックするのだ。今はこうやって小屋で休めているが、基本は野営なので習慣づけておかないといざという時に生死を分ける。私も今は剣を手入れしている。少し刀身を傾けると私の半身が映り込む。手入れも問題ないようだ。後はカリンと約束した魔法の使い方や呪文を書いた冊子をまとめようと机に向かう。
「ティア~。明日も早いんだから寝なくちゃだめだよ~」
「分かってるわエミリー。さわりのところだけでも書いておきたいの」
「ホントにそこだけだよ。すぐ無理するんだから。おやすみ~」
「おやすみなさいエミリー」
そういってエミリーの方を向くとベッドに潜り込み、寝ているところだった。私はそれから20分ほど進めて、キリが良くなったので寝ることにした。あんまりエミリーに心配かけても悪いもの。残念ながら寝た時間をごまかしてもすぐに彼女は見破ってしまうのだ。明日の調査もうまくいきますように…。
コンコンと小屋の入り口のドアをノックして返事を待つ。
「ああ、ティア。カリンの方はもういいの?入っていいよ」
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「地図、大分できてるみたいだけど、もうすぐ出来上がりそう?」
「それなんだけどね。頂上近くの地形で、奥側のところの地形が今一つ出てこないんだよね。フォルトもこっち側は結構覚えてくれてたんだけど。」
「そうなのね。でも、奥ってまた谷になってて、その奥に少し小さい山があったわよね?」
「ティア覚えてるの?」
「ええ、山の景色ってきれいだから、結構よく見るのよ。それに、こっち側はまた見れると思って、向こうばっかり見てたわ」
「ちょ、ちょっと絵に描いてくれる」
急にキルドが紙を渡してきたのでそこに覚えている景色を書く。とはいってもそこまで絵はうまくないので、形がわかる程度だけど。
「キルド、これならそこそこなものにならないか?」
「うん、僕の記憶と照らし合わせてもかなり正確なものになるよ。ありがとうティア!」
興奮したキルドに両手で手をつかまれて振り回される。
「ちょ、ちょっとやめてキルド。わかったから」
「ごめん、ごめん。ここでずっと行き詰ってたからついうれしくて」
「だから、ティアたちを待ってみてはといっただろう」
奥の方から声がしたと思ったらカークスが1人で飛竜のうろこの選別作業を淡々とこなしていた。
「あら、カークスもいたのね」
「見ての通りだ。そこの2人は地図とにらめっこだ。さっきのところで詰まってから全く進んでいなかったが」
「そうは言うけどカークスだって分かんないって言ってたじゃん」
「俺は辺りを見回して常に警戒していたんだ。そんな暇はなかったといっただろう」
「じゃあ、カークスもわたしたちと一緒だね~」
「いや、だから俺は…もういい。それでそっちはどうだったんだ?」
「大きな進展といっていいかしら」
「ふむ、ティア何かカリンが身に着けたのか?」
「ええ、フォルト聞いたら驚くわよ。なんてったって…」
「カリンが風魔法を使えるようになったんだよ!」
エミリーが私の言葉を遮るように先に言ってしまった。
「魔法を?しかし、ハーピーたちがというより、魔物が人の魔法を使うなんて聞いたことがないぞ」
「まあ本来、魔物たちは人とは別の言語体系を持つし、言葉の意味をうまく読み取ることができないからでしょうね。でも、カリンたちはちゃんと言葉を理解しながら、話すことができるから使えたのだと思うわ」
「それにしてもな…。ちなみにどれぐらい使えるんだ?」
「私たちも驚いたのだけれど、かなり使えると思うわ。私10とすると8ぐらいはあるんじゃないかしら?」
「初めて使うんだろう?そんなに強いのか」
「まあ、元々魔法のような力を使っていたからだと思うけど、冒険者ランクで見るとDランクの中堅以上ね。昇格を見据えたころかしら?」
「それは魔法だけだろう。空を自在に飛べて、爪や翼を使った攻撃ができるならCランクの冒険者ともそこそこ戦えるレベルだろう」
「そうね、羽根や魔法への抵抗が十分にできないなら、勝てないでしょうね」
「で、どうするんだこれから?」
「カリンだってこの後は村を守ることになるだろうし、私たちだっていつまでもいる訳ではないし、もう少し教えてみようと思うの」
「本気か?後で問題にならないか?それで、ここに来る人間を傷つけないとも限らないぞ」
「言いたいことは分かるわ。でも、私は悪いけど見知らぬ人のことより自分の仲間や友人の方がずっと大切よ。あの子はこのままだときっと死ぬわ。村を守りたい一心でね。たとえ自分では勝てないと分かってもみんなの為に飛竜に立ち向かっていくでしょうね」
少しの沈黙の後、フォルトが口を開いた。
「カークス、分かってやれ。カリンを助けたときから感じていたことだろう」
「だが、フォルト。このままでは諍いになることもあり得る」
「そんなこと言ってもここ来る奴なんて、僕らみたいに変わった依頼か何か訳ありの人ぐらいだよ。そいつらが村に害をなすんなら僕らじゃどうしようもないよ。カリンたちもいっていたけど別に生活圏を広げようって考えもないわけだし、逆に飛竜にここを奪われちゃったらそれこそ王都まで来ちゃうかもよ」
「…分かったよ。いつからうちは慈善事業にまで手を伸ばすようになったのやら」
「ありがとうカークス。まあ、私たちもここを借りてるわけだしそのお礼という事で」
「そんなこと言っておいてどうせ教えられるだけ教えるつもりだろう」
「そんなことはないわ。カリンはまだ使い始めたばかりだもの。コントロールが難しいものは教えたりしないわ…多分」
「ティアの多分は信用できないからね~。今日も結構ハイペースだったよ。学校の子たちじゃ逃げ出したかもね」
「うそ!?そんなに詰め込んでないわよ。とりあえず強弱をつけられるようにして後は、風の形をある程度変えることを教えただけじゃない」
「ちょっと待て、カリンは今日覚えたばかりだろう。もう、そこまでできるのか?」
「元からあれだけの風を操れたんだものできるでしょ?」
「強弱をつける位は個人差はあるがまだいいとして、形を変えるのは中級者向けだ。そもそも刃ぐらいならともかく眼に見えない風は変形が難しいと聞いたが」
「ダメだよカークス。ティアはいつもスラスラ解けるタイプだから、人とは基準が違うの。わたしも学校では苦労したよ…」
何かエミリーが遠い目をしている。そんなに難しかったのかな。私としてはどんなものでもイメージさえすれば一緒だと思ったんだけど。
「まあ、その話はいったん置いといて、じゃあティアたちは明日もカリンと一緒に風の魔法の練習をするの?」
「そうね、もちろん午前はあなた達と一緒に地図作りには参加するから」
「まあ、目的さえとりあえず果たせればまずはいいとしよう」
「じゃあ、カークスのお許しも出たところで、明日の行き先を決めようか」
「どこか希望はあるかキルド?」
「さっきの話を聞いた感じだと、カリンも少しは魔法で戦えるようになるってことでいいティア?」
「ええ、そうだけどそれが何?」
「だったら明日は森を抜けたところから少し下ったところを調べよう。」
「それは構わないが、カリンと何か関係あるのか?」
「もしカリンが今日より明日の方が魔法の扱いが上達するなら、飛竜により遭いにくいところから回ろうと思って。最終的に戦うのはもちろんわかってるけど、調査中に戦う時になった場合に戦力は少しでも大きい方がいいでしょ?」
「なるほどな。だが、そっちの方が安全なのか?」
「それは分からないけど、グリフォンの縄張りがこの山の頂上なら、そこを降りたところにわざわざ獲物を取りに来るかなって。僕だったらそんなところに行くより、今ある縄張りで我慢するからね」
「確かにその方が安全かもしれないわね。じゃあ明日はそのエリアを回りましょう」
「決まりだな。では、明日はもう少し早く出発しよう。ティアは悪いがカリンにこのことを伝えておいてくれ」
「分かったわ」
「じゃあ、今日はこの後でご飯食べたらすぐ寝ようねティア~」
「そうだ。言い忘れていたが、お前たちもう暇だろう。この飛竜のうろこの仕分けを手伝ってくれ。大量に分けたが余り使えないものも結構あって1人じゃやる気になれん」
「そんな~」
「仕方ないわエミリー。それにこれを今きっちり分けていれば、王都に戻ったら一杯お金が入るわよ。おいしいものだと思ってやりましょう」
「むむっ、じゃあしょうがないね。カークス、わたしにもまだやってないやつ頂戴」
「現金だなぁエミリーは」
「でも、その方が冒険者らしいでしょ」
「確かにそうだな」
「あなた達も手伝ってくれるんでしょ?」
「残念だ。私たちはこの地図が失われないためにこの後、2枚ほど模写する作業がまだ残っていてな」
「そうそう、これがまた疲れるんだよね。移したやつが変にずれたりして役に立たなくこともあるからね」
「それは大変そうね。私は選別作業をするわ、神経がすり減って疲れそうだもの」
「それがいい。慣れない作業だし、どこか失敗したら1からやり直しだ。ああ、思い出したくもない」
珍しくフォルトが身震いしている。過去に何かあったのだろう。興味がないわけではないけどそういうことは王都に戻ってからにしよう。今は、帰った時の為にこのうろこを選別しないと。この中からフォルトやエミリーの素材も取る予定なのだから。その後、フォルトとキルドはそれぞれ地図の写しを完成させ、私たちはうろこをほぼ選別し終えた。
「そろそろ夕食の時間じゃない?」
「もうそんな時間か~。集中して分からなかったよ。やっぱり地図を写す作業は疲れるなあ」
「もう終わってるんでしょ?行こうよキルド」
「ま、もう少し残ってるけど。みんなを待たせても悪いし行こうか」
キルドの言葉を合図に私たちは夕食を食べに広場へと向かった。ここにいる間は夕食はハーピーさんたちが用意してくれる。小屋を提供してくれるだけでも十分なのにといったのだが、村の子供に笑顔が戻ったのも私たちのおかげと作ってくれることになった。おかげで私たちは午前・午後と好きなように動いては夕食を呼ばれるVIP待遇だ。悪い気もするが、私たちもそこまで余裕がないから甘えている。
「今日はなんだろうね~」
「あっ、皆さん来られましたか」
迎えてくれたのはサーリさんというハーピー。カリンより少し年上だが日常生活のことはすごくしっかりしているという事らしい。実際、この村では調理といっても大したことはできないと思っていたら、サーリさん主導で結構料理をするとのこと。肉なども干すときはしっかりした味をつけて干すし、漬物のようなものも作っているらしい。
「すみません、サーリさん。待たせてしまいましたか?」
「いえいえ、かまいませんよ。それに今は火を使ったりはめったにできませんから、冷めたりもしませんし」
そう言いながら簡単なテーブルの上に料理を運んできてくれる。昨日も見た木の実とこれはカブ?だろうか根菜と干し肉がある。
「この肉は?」
「ああそれは森ウサギの干し肉です。簡単ですが味もついてるのでおいしいと思いますよ。宴の時は気づかずごめんなさい。人間の方が生肉を食べないの知らなくて。」
「いえ、仕方ないです。食生活なんかはその場所にもよりますから」
昨晩の宴会の時は実はジュースや木の実以外にも飛竜の肉も出たのだった。ハーピーたちは美味しそうに食べていたのだが、さすがに生肉は私たちは食べなかった。飛竜の肉は人にとって毒性があるわけではない。単純に食あたりで翌日以降の調査に支障が出ると判断したからだ。新鮮な飛竜の肉というのもちょっと興味があったので少しならと思ったが、カークスとフォルトにがっちりつかまれて止められてしまった。この依頼の帰りに機会があったら、別に凍らせてこっそり試そう。
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「あら、カリン。あなたも食事は今からなの?」
「そうだよ。あの後は長老様のところに行って今日の事を報告してたんだ。すっごいびっくりしてたけど喜んでたよ」
「良かったわね。でも、まだ覚えたてなんだからあんまり言いふらすのはダメよ。使えますってちゃんと言えるようになってからね」
「わかってるよ。今日は何かな~。…あっ今日は森ウサギだ!やった、この肉は生でも干しても柔らかくておいしんだよね~」
「そうだよね~。この干し肉は味つけもちょうどですっごくおいしいよ」
「人間も森ウサギ食べるの?」
「そうね。私たち以外にも森にはこういった食べられる動物を狩る人がいて、市場にも並んでいるわ。割と高いんだけどね」
「そうだよね。ちょっとしたお祝いとかにしか食べないかもね」
「へ~。そこまで村では珍しくないけど人間のところでは貴重なんだね」
「私たちは森から離れて暮らしているからその辺はしょうがないわね」
「じゃあ味わって食べてね。サーリの料理美味しいから」
「本当ね。でも、料理をしたり服を作ったり、ここのハーピーたちは器用よね」
「かもね。わたしも長老様から聞いただけだけど、この村のハーピー以外じゃ見たことないんだって」
「じゃあ、ますます大事に守っていかないといけないわね」
「うん」
「そうだ、カリンちゃん。明日も私たちについてきてくれるの?」
「そのつもりだけど…」
「明日は今日よりもう少し早めに準備していこうってことになってるの。時間大丈夫かしら?」
「うん、時間はティアたちに合わせるよ。わたしも一杯教えてもらってるし、それぐらいなんてことないよ」
「じゃあ、申し訳ないけど明日もよろしくね。それが終わったらまた魔法の練習をしましょう」
「約束だよ。明日はもっと一杯教えてね」
「わかったわ。でも、急ぎすぎて基本がおろそかになってもいけないから、ちゃんと復習から始めるわよ」
「わかってま~す」
カリンは元気よく返事をすると、森ウサギの干し肉のお代わりをもらいに行ってしまった。おいしかったし私もちょっともらおうかしら?
食事も終わって、小屋に帰ってきた私たちはそれぞれ明日の準備を始める。いつも寝る前にはチェックするのだ。今はこうやって小屋で休めているが、基本は野営なので習慣づけておかないといざという時に生死を分ける。私も今は剣を手入れしている。少し刀身を傾けると私の半身が映り込む。手入れも問題ないようだ。後はカリンと約束した魔法の使い方や呪文を書いた冊子をまとめようと机に向かう。
「ティア~。明日も早いんだから寝なくちゃだめだよ~」
「分かってるわエミリー。さわりのところだけでも書いておきたいの」
「ホントにそこだけだよ。すぐ無理するんだから。おやすみ~」
「おやすみなさいエミリー」
そういってエミリーの方を向くとベッドに潜り込み、寝ているところだった。私はそれから20分ほど進めて、キリが良くなったので寝ることにした。あんまりエミリーに心配かけても悪いもの。残念ながら寝た時間をごまかしてもすぐに彼女は見破ってしまうのだ。明日の調査もうまくいきますように…。
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