妹を想いながら転生したら

弓立歩

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本編

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登り始めると標高が高くなっていった。それに伴いどんどん木々の背は低くなり、身を隠せるところが少なくなっていく。

「言われた通りね。これだけ見晴らしのいいところなのに、飛竜の気配が全くないわ」

「そうだな。だが油断は禁物だな、キルド。悪いがこの先の地図の作製は完全じゃなくていいから早めに頼む。こういう場所では対応がしにくい。作業の方もできるだけ帰ってできるようにしてくれ」

「そうだね。さすがにここまで開けた場所だと遭遇したら危険だからね。じゃあ、フォルト。申し訳ないけど手伝ってよ」

「分かった。ティア、紙とペンを頼む」

「紙とペンね…はい」

フォルトは紙とペンを受け取るとすぐさま周囲を見渡して、景色と目印になりそうなものを紙に書き込んでいく。みんないろんな事が出来て感心する。そこからはキルドとフォルトが地図の作成を行い、私とカークスが目視でエミリーとカリンが魔法で警戒しながら進んだ。しばらく進むと山の頂上付近が見えてきた。これ以上進むとグリフォンを刺激することになりかねないので、この辺りで作業するといいだろう。

「そろそろ山頂も見えてきたし、この辺でこのエリアの調査は終了しましょう」

「そうだね。じゃあフォルト頼むよ。」

「分かった。でも、基本的にはキルドの作るものがメインでこっちは補助的になるから手は抜くなよ」

「はいはい」

「でも確かにこの辺は飛竜たちも全く来てないみたいだね~」

「そうね。やっぱりこの山の主を恐れているんでしょうね」

「わたしは昨日この少し下のところで襲われちゃったけどな~」

「あの2匹はまだ子供だったからそれを理解していなかったのか、縄張りが欲しかったのでしょうね」

「縄張りか…。確かにさっきのグリフォンの言う通りならば、飛竜もそれなりにいるんだろう。大型の魔物自体が広い縄張りを必要とする。空を飛ぶ飛竜ともなれば急激に増えたせいで、縄張りが足りなくなっているのかもな」

「巣がいくつかあるって言っていたものね。元々ここに生息していた飛竜もいるし、簡単にはいかないでしょうね」

そう思いながら、前世のことをちらっと思い出す。TVのドキュメンタリー番組などでみた野生生物の番組では、同種・異種にかかわらず激しい縄張り争いをしていた。きっとここの飛竜たちの中でもそのようなことが行われているのだろう。だから、カリンたちハーピーの村付近にまでやってきているのだ。

「でも、大鷹さんも言っていたけど、あいつら何があって渓谷に来たんだろう…」

「そっちも問題よね。こっちにわざわざ来るほどの何を避けて来たのか」

そんな風に考えようとしていると、計測が終わったらしい。

「みんなおまたせ。この辺の地図はいったん終わりだよ。もうちょっと詰めたい部分もあるけど、今回は危険だしここまでで帰って仕上げるよ」

「よし、じゃあみんな降りるぞ」

「了解」

それから時々少し休憩しながらも、下りは順調に降りて行った。だけど、気が付くとキルドが途中少し立ち止まっていた。

「ねえキルド。さっきから少し立ち止まったりしているけれど、大丈夫?」

「ああ、ティア心配かけたみたいでごめんね。やっぱり上りながら見る景色と、降りながら見る景色はちょっと違うから、気になったところを簡単だけどメモしてるんだ。」

「そうだったの。…みんなすごいわね。魔法や剣以外は私はそこまでできるものが無いから」

「ティアの魔法だってすごいと思うよ。それにこれからでも色々試せるしね。パーティーなんだからみんな色々できてちょうどじゃないかな?」

「そうもそうかも。ありがとうキルド。…みんなに遅れちゃうわね、行きましょう」

キルドに手招きしてみんなとの間を詰める。話をしているうちに少しゆっくり歩いてしまったようだ。少し急いでみんなと合流した。その後は何事もなく出発した場所へと戻ってきた。

「これからみんなは何をする予定なの?」

「僕とフォルトはさっき作った地図を完成させたいから、これから小屋の方で作業だね。よろしくフォルト」

「わかった。そういうわけだから私もキルドと小屋の方にいる」

「俺は長老と少し話をしたいと思っているから長老のところだな。エミリーやティアはどうするんだ?」

「何もないなら昨日途中になってる飛竜のうろこの選別でもしようかなと思ってるんだけどカリンは?」

「わたしは今日の朝みたいに何かできないかちょっと考えてみたいの。それで…」

ちょっともじもじしながらカリンがこちらを見つめる。なんだろう?

「べつに急ぎじゃないからいいわよ。いってみて」

「わたしに何ができるか1人じゃわかんないから、できればエミリーやティアにもいて欲しいなって」

「という事みたいなのだけれど、カークスいいかしら?」

「俺のせいでもあるし、うろこの選別は誰でもできるからな。俺も話が終わったらするよ」

「ありがとう。エミリーもそれでいい?」

「うん。カリンには大事な魔法を教えてもらったし、今度はわたしが手伝うよ!」

「じゃあ決まりね。みんなそれぞれ予定を確認したことだし、村へ戻りましょう。何かあったらそれぞれの場所へ行くってことで」

「お前たちはどこでするんだ?」

「それならわたしが朝に練習していたあそこでやるよ」

「分かった。くれぐれも無茶はしないようにな」

村へ帰った後は村の人に迎えられ、木の実などを使った昼食をみんなで食べた。その後、予定通り別行動となり私たちはカリンとエミリーとともに開けた場所へと来ていた。

「じゃあまずどうしよう?」

「どうって、カリンは何か自分で思いつくことはある?」

「それが朝は棒を使ってたんだけど、木にぶつけたり飛んでったりしてダメだったから何もないんだ」

「それならひとまずは本当にカリンはものを使って戦うのが難しいかどうか確かめてみましょうか」

「すごい!ティアそんなことできるの?」

「感心しているところごめんなさいエミリー。単純に朝と同じで他の物を持ってみるってだけなの」

「他の物?」

「そうよ。朝にカリンが使っていた棒は結構長かったでしょう?確かにあれだけ長ければある程度離れて戦えて有利だろうけどだから邪魔になったと思うの。それと重いって言ってたから、実際使えるかは置いといて軽めのものを持って見て適性を見てみようかと」

わたしはいつも背負っている小振りの剣を取り出すとカリンに見せる。

「この剣ならそこまで重くないはずだわ。これをある程度使えるようならまだ何かを掴んで、戦うことができるかもしれないわ」

「じゃあ、カリンちゃん持ってみよ!」

「…よっと。うん、確かに朝持ってた棒よりは軽いけど、それでも結構重いね」

「それは仕方ないわ。小さいけれど立派な剣だもの。金属である限り見た目よりは重いわよ」

「振り回す分には…っと」

軽く振り回そうとしたカリンだったが、剣がするりと抜けそうになる。

「ちょっと待って。あなたの爪に剣の持ち手があっていないようね。ちょっと布を巻くから待ってて」

あわてて剣の持ち手にバッグから布を取りだし巻き付ける。これで飛ぶようなことはないだろう。
剣自体は王都でも有名な人の作品なので、当たったら大事故だ。

「はい。これで大丈夫なはずよ」

「ありがとうティア。じゃあさっそくやってみるね」

えい、やーとカリンが振り回す。ちょっと変な感じはするが振れてはいる様だ。

「カリンどう?ちゃんと使えそう?」

「ちょっとまって、飛び周りながら少しやって見る…」

少し羽ばたいてカリンが再度剣を振り始める。かなり危なっかしい、今にも翼に当たりそうだ。

「やっぱり難しいみたい。そこまでは重くないけど、持ちながら動くとやっぱり動けないや。もしかすると落っこちちゃうかも」

「そうなの。一応私用だからそこまで重くないものなんだけど、これで無理ならやっぱり何かを持って戦うのは難しそうね」

「残念だけどそうだね。これだったらそのまま飛び回ってるほうがまだましかも」

「でも、それじゃあ飛竜に傷付けることができないよね~」

「振出しに戻っちゃったわね…」

「まあ、昨日の今日ですぐに戦えるわけないよね―。わたしもティアみたいに魔法とか使えたらな~」

「魔法…。そうだわ!ねえエミリー。あなたの探知魔法って元はカリンのものとほとんど同じよね?」

「そうだよ。微妙に違う感じはするけど、基本的には魔法的な流れかな?」

私は腕組みをして少し考える。確かに魔物だって火や氷を使うものもいる。ただ言語体系も異なりそれが魔法っぽいとしか語られていなかった。力の本質的にそこまで差がないのだったら、人と同じ言葉を話せるカリンたちならそのまま魔法も使えないだろうか?

「ねえカリン。私の言うとおりに言葉を言いながら風を出すイメージをしてみて」

「ティア、何をするの?別にいいけど」

「もしエミリーの言う通りにあなたの風を読む力が、私たちが魔法と呼んでいるものに酷似しているなら、人の魔法も使えるかもと思って」

「そんなことができるの?」

「実際は全く分からないわ。魔物が人間と同じ言葉を習得した事例も報告は少ないし、わざわざ危険なことを試そうとはしないもの」

魔物が人の言葉を覚える事例は、人型の魔物を飼う下劣な輩がいるという噂だ。その他にも獣魔使という魔物を操る人がごくわずかいるらしい。そういった例以外では確認されていない。前者は脅威となる力を持たそうとはしないし、後者はあくまで魔物として扱うため、言葉も命令をきかせるためのものだという。

冒険者学校で学んだときは、そんなこと思いもしなかった。もちろん、ゲームとかでは見たことはあったが、ここは別世界だ。魔物と人はあくまで命のやり取りをするものであり、見つかったら戦うか逃げるかだ。それがこんな形で可能性を見出すなんて。

「やってみる!このまま何もしないでも時間が過ぎるだけだし、わたしやってみるよ」

「じゃあ、今からいうことを唱えるの。そして言葉の意味も考えるのよ。イメージできなければせっかくの力も形が作られないわ」

「わかった、お願い」

「風よ、わが前に集いて解き放て」

力を絞って風を打ち出す。目の前にある小さな岩にぶつかり、わずかな衝撃音とともに風が霧散する。

「こんな感じよ?やってみて」

「こ、こう? か、風よ、わが前に集いて解き放て!」

ビュウ、と風が吹いた感じがした。しかし、この弱弱しい風では魔法的なものかは判別ができない。

「ダメ見たいね。もう一度やってみて」

「うん、わかった」

その後、何度かやってみるものの成果は得られずダメかなとカリンが肩を落としている。

「ねえカリンちゃん。言っている意味ちゃんと分かる?なんだかあいまいな感じだから…」

「実はよく…。言葉はしゃべれるけど本とかあんまりないし何となくなの」

「あー、ごめんなさい。難しかったかしら。じゃあ、イメージしやすいようにこの小石を使いましょう」

そういって私は近くに落ちていたちょっと大きい石と小さい石を取り上げてカリンに説明する。

「まずこの大きい石。これがこの周りにある風ね。これを「わが前に集いて」この部分でこの小さい石ぐらいに集めるの。そして、「解き放て」この部分で自分の意識した方向へ飛ばすの。実際イメージしやすいように手で飛ばすわね」

そう言って私は手に持った小石を先ほど風魔法を当てた小さい岩へと投げる。うまく放物線を描いて小石は岩へと当たる。

「こんな感じでもう一度やってみて?」

「ありがとう、2人とも。もう一回やってみる!」

カリンがもう一度落ち着いて詠唱を行う。

「…風よ、わが前に集いて…解き放て!」

カリンの言葉とともに周囲の空気が圧縮される。そして、先ほど見せた小石の大きさまで圧縮された風が岩へと一直線に向かう。

チュィィン― 

ドォン

風が直撃したところからパラパラと岩の破片が舞い落ちる。

「…で、できてる。できてるじゃないカリン!」

「カリンちゃんすご~い、さっすが」

「へへ~、ブイ」

口だけでブイというシュールなポーズとともにカリンが嬉しそうにはばたく。しかし、驚いた。翼をもつ種族だからだろうか?単純にカリンの適性が高いのか。普段から魔法のような力を使っていたとはいえ。あんな初歩の魔法で岩に穴をあけるなんて。

「どうしたのティア考え事?」

「風よ、わが前に集いて解き放て」

私ももう一度岩に向かって魔法を放つ。カリンが当てたところとは別のところに当たり、貫通とまでいかないまでもそこそこの穴が開いた。

「ふぅ」

「すご~いティア。カリンのよりずっと大きいよ。さすがだね。わたしも頑張らなくちゃ」

「…ねえティア」

「何も言わないで貰えるエミリー。ちょっと、ちょっと確認しただけだから」

別に自分よりひょっとしてなんて思ってない。そう、カリンに向上心を持ってもらうためだ。うんうんと頷きながらカリンに話しかける。

「カリン。さっき見た通りどうやらあなたにも人と同じ魔法が使えるみたいね。おめでとう。でも、筋はいいけどまだまだよ。覚えたてだから仕方ないけれど、今後はこの力を伸ばせるように頑張りましょう」

「ありがとうティア。エミリーも。わたしこれで村を、みんなを守れるかもしれないよ!」

「自分の力を過信してはダメよ。それにこの力も今はあなただけしか使えないのよ。無理をしてしまっては意味がないわ。後で他の呪文についてもちゃんと教えてあげるから、勝手に使ってはダメよ?」

「わかった!せっかく使えるようになったから大事に使うね」

「そうそう、わたしみたいにもっとゆったりしないとね~」

そうエミリーが言うと私たちは互いに顔を見合わせ笑いあった。その後、さっきの魔法は威力が出すぎているという事で、イメージの強め方や弱め方を説明して、日常生活にも転用できるように訓練した。流石にばらつきは出たものの順調に成果は出ていて、この調子なら問題ないだろう。

「これ以上使い続けると明日に支障が出るから、今日ここまでにしましょう」

「そうだね~。わたしもいっぱい使ってひーひーいったこともあるし、それがいいよ」

「わかった。2人ともありがとね」

「じゃあ、私たちは小屋へ戻ってるから」

「わたしは今日の調査のことを長老様に話してくるね。大鷹さんのことも言っとかなきゃだし」

「それじゃあね~」

カリンと別れて私たちは小屋へと戻る。キルドたちは地図の作成を終えただろうか?
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