上 下
18 / 25

15

しおりを挟む
 陛下との会談も終わり、今日はもう特にやることもないので帰ったあとはみんな宿でゆっくりしていた。

「そうそう、あなたたち。ゆっくりするのはいいけど、キチンと帰る準備しておきなさいよ!」

「ええっ!? だって、イリス様やテレサにもそんな動きは……」

「テレサは私付きのメイドよ? いつでも動けるように準備は万端よ。今からでも出発できるわ。それに明日貴族たちにお披露目後はすぐに領地にも知らせに行くといって帰るのよ。ゆっくりしている暇はないわ」

「そ、そんな。ケイト様、急がなくては」

「そうね」

「ああ、エマ。あなたはいちいち主に意見を聞かなくても荷物をまとめられるようになりなさい。そこまでできて一人前のメイドよ」

「はい!」

 バタバタと2人が出て行く。

「さて私たちも準備をしましょうか」

「そうですわね。主の荷物を勝手に触って必要なものをどこかへやるなど、そういったリスクを冒さないのが、優秀なメイドですから」

 こうして私たちは焦るメイドと主一組を尻目にゆっくりと準備をしたのであった。

「あら、ケイト。これ汚いんじゃない? もう少しきれいに入れなさい」

「でも時間が……」

「優雅に大胆にできないようではだめよ。エマももっとしっかりしなさい」

「申し訳ありません」

 いやあ、二人が初々しいからちょっとからかっちゃうわね。最近ずっと言っているように私の方が本当は格下だから逆の立場なのに。

「お嬢様、そんなに言ってはいけませんよ」

「いいえ、いいんですテレサ。私みたいな田舎の令嬢はこうやって鍛えてもらわないとだめになっちゃいます」

 ちょっと、ちょっとだけだけどあの目でこう、正直にものを言われると悪いことをしている気になるわね。

「ま、まあ私も少し言い過ぎたかしら。少しずつ出来るようになればいいわ」

 この日は早めに寝ることにして明日はしっかりさせないと。貴族たちからどんな話が出るかわからないからね。流石の私でも普段から話をする機会はないからちょっと心配だわ。今日の昼のような言い返しがずっとできるなら安心なんだけど。



「う~ん、よく寝たわ。今日は王宮に行く日だし気合い入れていかないと」

「そうですね。お二人を起こしてまいります」

「ええ、頼むわ」

 寝起きに側にいることも特に疑問に思うことなく、二人を起こしに行ってもらう。正直なところ手間が省けていいのよね。

「おきました~」

「お待たせいたしました。しかし、イリス様は朝が早いのですね」

「昨日の情報で大事なものは朝一番に来るからね。この後、何もないならちょっと寝てもいいし、早めに起きるようにしているの」

「素晴らしい行いです! 私も見習います」

「でも、二度寝してるって邸のみんなに知られるっていうこともあるからいいだけじゃないけど」

「それでも、実践なさるということが素晴らしいですわ」

「それよりエマたちも早く着替えなさい。すぐに王宮へ向かうんだから」

「まだ、時間には早いのでは?」

「新しく襲名するといっても所詮子爵よ。高位貴族より遅く来て、侯爵令嬢の気分が抜けないの? とか言われるからね」

「では、準備をしませんといけませんわね。お嬢様は蒼いドレス。ケイト様は真紅のドレスですね。着付けは二人で全力で行いますので」

 こうして私たちは二人に着つけられ準備を終えた。

「あとはネックレスですが、ケイト様のはこちらですわ」

「それは?」

「これは侯爵家夫人が代々つけているものよ。あなたがつけるべきものなの」

「よ、よろしいのでしょうか?」

「いいからはいっと」

 ケイトの首にネックレスをかけてやる。これで、準備万端、王宮へ向かう。お母様も見守っててよね。



「はぁ~、早く来たとは思ったけどやっぱり疲れるわ」

「さっきから挨拶ばかりですものね」

「ケイト様も私がエルマンの家に入るものだからこうして挨拶してもらってますけれど、場所が王宮でよかったですわ。これがパーティーになっていれば各家の夫人が出てきて大慌てになるところです」

「全くですね。まさかここにはテレサもエマも入れないとは」

「爵位を持たないものはここには入れません。だから爵位の一つもあげたかったんだけど……」

「感謝しておられるのですか?」

「バカなこといわないでよね。連れ回すのに一番楽でいいからよ」

「おや、レイバン侯爵令嬢久しぶりですね」

「アーダン伯爵久しぶりですわ。学園以来でしょうか?」

「ええ、あの頃から努力家と思っていましたが、まさか当主になられるとは。おめでとうございます」

「ありがとうございます。領地も近いので何かあったらお願いしますわ」

「こちらこそ痩せた土地も多いので、お聞きしたいことがあれば訪問致します。今後はよろしくお願いします」

「わかりました。すぐにでもこちらも領地を見聞いたします」

「ではまた」

「かっこいい方でしたね」

「ま、まあね。なかなかの好青年よ。ただ、器用さがなくてちょっとだけ残念なのよね」

「にしても割とフレンドリーでしたね」

「初めて学園で振られた方ですからね」

「えっ!?」

「あの頃は若かったからちょっと強めに迫ったりもしたし、それをばらさないありがたい方よ」

「そ、そうですか……」

 挨拶も一通り済んだところで、私はふぅと一息つき一旦後ろの控室に下がる。ケイトも一緒に下がりちょっとだけメイクを直す。ここではきちんとした格好をしないとね。

「しかし、お嬢様。時間がかかりましたね。もう少し早く戻られるかと」

「本当に人が多いのよ。さて、じゃあ行ってくるわね」

「行ってらっしゃいませ」

 もう一度広間に戻って列に加わる。私は本来後ろの方でケイトが前の方だけど、今日は私の新子爵就任への祝いを兼ねているので、席は特別前だ。

「それでは今日集まってもらった件であるが、……諸侯も知っておる通りエルマン子爵領の生産高は年々下がっている。このまま、あの領地を任せてよいものかとわしは思っておる。一先ずは近年の結果から領地の一部を切り取り再建に奮起してもらうとする。また、次代の領主にはここにいるレイバン侯爵の娘のイリスを当てようと思う」

「では陛下、エルマン子爵の息子はどうなるので?」

「うむ、イリスと婚姻関係を結ぶ。彼が当主では民がついてこぬだろう。それならば王家の血も入った彼女こそ新領主にふさわしいと思ったのだ。また、我が国でも女領主は珍しいことである。それにふさわしい名前をと思い、ここに『カーナヴォン子爵』を名乗ることを許そう。これによりエルマン子爵家は当代限りとする!」

「「はは~」」

 何事もなく貴族が皆ひれ伏した。この瞬間、私は王都ではイリス=カーナヴォン次期子爵家当主となった。


しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。

❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。 それは、婚約破棄&女の戦い?

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

父の後妻に婚約者を盗られたようです。

和泉 凪紗
恋愛
 男爵令嬢のアルティナは跡取り娘。素敵な婚約者もいて結婚を待ち遠しく思っている。婚約者のユーシスは最近忙しいとあまり会いに来てくれなくなってしまった。たまに届く手紙を楽しみに待つ日々だ。  そんなある日、父親に弟か妹ができたと嬉しそうに告げられる。父親と後妻の間に子供ができたらしい。  お義母様、お腹の子はいったい誰の子ですか?

最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~

猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。 現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。 現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、 嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、 足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。 愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。 できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、 ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。 この公爵の溺愛は止まりません。 最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。

義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。

新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。

愛されない皇子妃、あっさり離宮に引きこもる ~皇都が絶望的だけど、今さら泣きついてきても知りません~

ネコ
恋愛
帝国の第二皇子アシュレイに嫁いだ侯爵令嬢クリスティナ。だがアシュレイは他国の姫と密会を繰り返し、クリスティナを悪女と糾弾して冷遇する。ある日、「彼女を皇妃にするため離縁してくれ」と言われたクリスティナは、あっさりと離宮へ引きこもる道を選ぶ。ところが皇都では不可解な問題が多発し、次第に名ばかり呼ばれるのはクリスティナ。彼女を手放したアシュレイや周囲は、ようやくその存在の大きさに気づくが、今さら彼女は戻ってくれそうもなく……。

処理中です...