竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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【最終話】竜王陛下の愛し子たち

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 竜の国アッシェンベルグは今日も平和である。
 歴代一仲睦まじいと評される竜王と竜妃は、相も変わらず見目麗しく人々の羨望の眼差しを一身に集めていた。
 しかし、ルカを見つめる視線の中に一際熱を持つ者がいる事は本人さえも気付いていない。

(ルカは年を重ねるごとに美しくなるな)

 一昨年生まれた我が子を抱き、レティシアと本を見ながら話しているルカの横顔を眺めていたレイフォードは胸中でそう零す。
 初めて出会った時は溌剌とした美しさを持っていたルカだったが、城で過ごすうちに花開くかのようにどんどん色気を孕み、今では大人としての凛とした美しさをその身に宿していた。
 おまけに子供たちに向ける顔は母性に溢れていて、今だってレティシアに向ける微笑みは柔らかい。

「母様はもうドレスは着ないの?」
「レティシアが一緒に着てくれるなら着るよ」
「じゃあお揃いがいい! ねぇ父様、母様とお揃いのドレス着たい!」
「ああ、それはいいな。今度仕立て屋を呼んで繕って貰おう」
「やったー」

 無邪気なおねだりに表情を緩めて頷けばレティシアは手を叩いて喜ぶ。
 ルカは男ではあるが今だ服装に拘りはなく、ドレスだろうと何だろうとその時に必要なら身に着けるのだが、ここ数年は普段着しか着ておらずジュエリーやドレスを与える機会もなくてレイフォードも物足りないと思っていた。
 せっかくだから宝石も多めに使って貰うかと考えていたら、眠っていた子が泣き出しルカが立ち上がる。

「よしよし、どうした? 怖い夢でも見たか?」
「大丈夫よ、ティアラ。母様も父様もお姉様もいるわ」
「そうだぞー。怖い事なんて何もないからな」

 緩く揺れながら泣く幼子へと声をかける妻と、覗き込みながら優しく髪を撫でる娘の姿が堪らなく愛おしい。
 少しして泣き声が小さくなり、微睡みだしたティアラを見たルカが歌を口ずさみ始めた。
 これはルーウェンがなかなか眠ってくれなかった時ソフィアに助けを求めたルカが彼女から教えて貰ったもので、以降はレティシアやアレオス、ティアラにも子守唄として歌われている。

(綺麗だな)

 なんて事ない母と子のワンシーンなのに、我が子を見て表情を緩めるルカが息を飲むほどに美しい。
 再び眠りについたティアラにホッとして振り向き、レイフォードと目が合ったルカは数回瞬きしたあとふわりと微笑む。それは自分だけにしか向けない甘えを含んだ可愛らしいもので、今すぐ抱き上げて自室に連れ込みたいほど煽情的だった。
 きっと、いくつになってもルカの魅力には敵わないのだろう。





 それから更に一年が経ち、レティシアとアレオスが本格的に学べるようにと講師が付いた頃のある日の夜、どこか嬉しそうな顔でベッドに上がって来たルカに袖が引かれた。

「レイ」
「ん?」
「ちょっと耳貸して」

 その表情に何かいい事でもあったかと思いながら耳を寄せると、二人しかいないのにルカはどうしてか小声で耳打ちしてきた。

「また家族が増えるよ」
「え?」
「ここに、新しく俺とレイの子が来てくれた」

 言われた事に上手く反応出来ずにいたら、ルカはレイフォードの手を取り自身の腹へと押し当てた。ルーウェンの時以降何度も経験したその仕草と続いた言葉に目を見瞠ってルカを見ると、頬を染め可愛らしくはにかむ。
 自他共に認める愛妻家のレイフォードに、ルカとベッドに二人きりで手を出さないなんて事が出来るはずもなく、現在でもほぼ毎日のように軽い触れ合いや身体を重ねたりしており身篭るのも時間の問題ではあった。
 本当に子供は何人いてもいいとは思っていたのだが、さすがにルカに負担を掛け過ぎている気がする。

「⋯⋯嬉しくない?」

 自分の節操のなさに呆れていると、何も言わないからか不安そうなルカの声が聞こえ慌てて首を振る。

「いや、嬉しいよ。ただ、ルカが大変ではないか?」
「何で?」
「妊娠期間は行動が制限されるし、産む時も痛いだろう?」
「それは子供の為だから我慢出来る」

 何度も痛くて辛い経験をしてきたルカにはなるべく同じような思いはして欲しくない。だけどルカはそうきっぱり言い切ると、両手でお腹を撫でながら何とも幸せそうな顔で話を続けた。

「ソフィアが言ってた。ルーウェンもレティシアもアレオスもティアラも、俺とレイの子になりたいから来てくれたって。きっとこの子もそうなんだよ」

 つまり、あの子たちは自らの意思で自分たちを親として選んでくれたという事かとレイフォードは嬉しくなる。
 産まれてからも父母として慕ってくれていて、仕事であまり関われない自分にも屈託なく笑ってくれる子供たちは、間違いなく二人にとっての宝物だ。

「そうだな。この子も私たちだから来てくれたのかもしれないな」
「そうそう。だから、大変でも頑張ろうって気持ちになるんだよ」
「⋯この先何人増えてもか?」
「家族が多いのは大歓迎」

 さすがにそろそろ考えなければと思うが、ルカなら本当に何人でも受け入れてしまいそうでレイフォードは苦笑する。正直、この子で最後にした方がいいのではとは思うが。
 そんな事を考えていたら、部屋の扉がノックされ知った声が聞こえてきた。
 すぐにベッドから降りたルカが開くと申し訳なさそうなルーウェンが弟妹と共に立っており、ルカを見るなり泣き出したティアラに眉尻を下げる。

「お休みになられるところすみません…ティアラがどうしても母様がいいと言って聞かなくて⋯」
「そっか。いつも面倒見てくれてありがとな、ルーウェン」
「いえ、私が好きでしている事ですから」
「レティシアとアレオスは一人でも眠れるのではなかったか?」

 ルーウェンは生来の優しさに加え非常に面倒見が良く、弟妹たちと毎日のように遊んであげたり寝かし付けたりしてくれていてルカやソフィアもとても助かっていた。
 ティアラはともかく既にそれぞれの部屋で寝起きしているレティシアとアレオスに問い掛けると、二人は顔を見合わせたあとレイフォードの元へと駆けてくるなりはにかんだ。

「父様と母様におやすみの挨拶がしたくて」
「絵本に、父様と母様におやすみのキスをして貰うと楽しい夢が見られるって書いてあったから」
「そうか、それは大事だな」
「可愛いなー。せっかくだし、ルーウェンもおいで」
「あ、私は⋯」

 何とも可愛らしい理由にルカもレイフォードも頬が緩んだ。
 二人をベッドに抱き上げ、それぞれの頬に口付けてやるとキャッキャと声を上げて喜んでくれ、遠慮するルーウェンの腕を引いたルカも戻って来るなり同じようにキスをする。
 あんなに泣いていたはずのティアラは、今は泣き止んでいてみんなを見てキョトンとしているし、問答無用でベッドに座らされたルーウェンは幸せそうなレティシアとアレオスに目を細めていた。
 一気に賑やかになった室内にレイフォードは言い様のない気持ちを抱く。

(いつの間にか、こんなにも私の家族が増えたんだな)

 ルカと出会ってからはどんな小さな事でも幸せだと感じられるようになった。可愛らしい笑顔が向けられるたび、真っ直ぐで飾らない想いをぶつけられるたび胸の中が温かくなった。
 誓いを立て、二人の命が尽きるまで傍にいる約束をして、そうして気が付けば、幸せの象徴ともいえる光景が目の前に広がっている。 

「兄様には私がしてあげるー」
「うわ⋯っ。に、兄様はいいよ」
「えー?」
「僕はティアラにする」
「あ、ずるーい。私もー」

 年頃だからかルーウェンが照れて首を振ればレティシアは残念そうに声を上げ、アレオスの言葉に対抗するように今度はじっと様子を見ているティアラの頬に両側から口付ける。
 仲の良い子供たちと、その様子を見て微笑んでいるルカにどうしようもない愛おしさを感じてレイフォードは諸共に抱き締めた。

「わ」
「と、父様?」
「みんなでぎゅーだ!」
「ぎゅー」
「うー」

 反応がいろいろで思わず笑ってしまったが、誰も振り解くような事はなくルーウェンだけが困惑して視線を彷徨わせていた。

「ルカもお前たちも、私の宝物だよ」

 何よりもかけがえのないものであり、なくてはならない存在。
 顔を見合わせた愛しい人たちはみな笑顔になると、それぞれに腕を伸ばしレイフォードを抱き締め返してくれた。

 この幸せはこれから先も続いていく。
 物語のページがゆっくりと捲られていくように、一つ一つ思い出を刻み何百年先へと綴られて未来へ受け継がれていくのだ。

 ルカと同じ歩幅で、ハッピーエンドへと向かう為に。





 ⟡.· ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ ⟡.·

『竜王陛下の愛し子』、本編はこれにて完結となります。

 説明不足な部分も多々あるなと思いつつも、無事に終わらせる事が出来てホッとしております。
 登場人物が増え過ぎた感は否めず、ナイアスに至ってはまったく絡みがなくて申し訳ないなと…ハルマンもそうですが、護衛メンバーも最後らへんは出て来なくて💦
 リックスだけでも出せて良かったです😊

 子供たち目線のお話や本編に収められなかったお話もいくつかあるので、番外編としてもう少しだけ続けたいと思っております✨

 凄く自分の好みを詰め込んだ作品だったので、作っていてめちゃくちゃ楽しかったです☺️
 またファンタジー作品は手掛けたいなと思いました🌼

 あと数話、レイフォードとルカ+αのお話をお楽しみ下さい🌼
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