竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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元気いっぱい

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「こら、ルーウェン! 危ないから降りて来なさい!」

 秋から冬、冬から春へと季節が移り変わり、積もっていた雪が溶けて草花が顔を出し始めて数日、城の中ではすっかり日常になった光景が今日も広げられていた。

 竜族の子供は成人を迎えるまでは人間に比べて成長が早く、幼い竜体だったルーウェンは二ヶ月もすれば人の形を取れるようなった。その見た目は小さいレイフォードと称されるほど良く似ていて、薄い紫の瞳と綺麗な蒼い髪をしており幼いながらに整った顔立ちをしていた。
 ただ出来る事は転がる事と「あー」だの「うー」だのといった喃語でのお喋りだから特別変わったところはないのだが。

 そこから更に四ヶ月が経ちよちよち歩きが出来るようにはなったのだが、一年を迎えるまでは翼がしまえないらしくそれが曲者だった。
 体重を支えられるくらいまで大きくなった翼で飛べるようになったルーウェンは、毎日部屋から抜け出て高いところに行きたがる。最初に天井にへばりついていた時は何事かと思ったが、棚の上だったり廊下の壁に飾られたどうぶつの剥製の頭上だったり、いないと思ったら目線より高い場所にいるのだ。
 どうしても見付けられない時は精霊が教えてくれるが、いくら翼があるといっても手が届かないくらい高所にいられると心配で堪らない。
 今だって、レイフォードが手を伸ばしても届かない木の上にいてドヤ顔をしている。

「ほら、おいで! 落ちたら痛いよ!」
「ない!」
「もー⋯俺は飛べないのに⋯」
「仕方のない子だ」

 迎えに行きたくても行けない歯痒さに肩を落としていたら、苦笑混じりの声が聞こえ頬に何かが触れた。それがレイフォードの唇だと気付いた時には彼は銀の翼を出して飛んでいて、嬉しそうなルーウェンを抱いて戻ってくる。
 ホッとして傍に行くと、小さな手がこちらへと伸ばされレイフォードの腕からルカの腕へと移ってきた。

「ルーウェン、あまり母様を困らせるな」
「あい」
「⋯絶対分かってない返事だ」
「任せきりにしてすまないな」

 レイフォードの声にキリッとした顔で即答するルーウェンに呆れていると、肩を抱かれ額に口付けられる。
 言われた言葉に緩く首を振り頭をレイフォードの腕に寄り掛からせたらルーウェンが短い手でぎゅうっと抱き着いてきた。

「別に任せっきりって訳じゃないだろ。一緒にいる時は傍にいて遊んであげてるじゃん」
「だが少しの時間だ」
「時間の問題じゃないって。ルーウェンが楽しいか楽しくないか、それだけなんだから。それに、楽しくなかったらこんなに懐いてないよ」

 長い時間を一緒にいる母親が我が子から懐かれるのは当然で、それでも仕事が終わってからはルーウェンが望むままに構ってあげるレイフォードだって好かれているのは見ていれば分かる。
 むしろ夜はレイフォードにベッタリだし、何より公務はレイフォードしか出来ない仕事なのだから謝らないで欲しい。

「むしろ俺の方が上手く出来てない」
「それこそ杞憂だ。ルカは良くやってくれている」
「そうかなぁ⋯さっきだって、もしルーウェンが足を滑らせてたら⋯」
「この高さから落ちたくらいではそこまでの怪我はしないが⋯まぁ母親としては心配だな」

 竜族が頑丈だというのはここ数日で嫌というほど思い知らされた。
 とにかくルーウェンは動き回るから、ぶつかったり落ちたり引っ掛けたりはしょっちゅうだ。そのたびにルカはハラハラしてきたが、どれも傷にも痣にもなっておらず本人もケロッとしているから周りはさほど気にしていない。
 分かっていても、万が一を考えるとどうしても心配が勝つ。
 落ち込むルカの頭をレイフォードの大きな手が撫で、それからルーウェンの顔を覗き込んだ。

「ルーウェンは母様が大好きだろう? 元気なのはいい事だが、あまり心配をかけないようにな」
「⋯あい」
「いい子だ」

 ゆっくりと言い聞かせるような声に今度はこっくりと頷いたルーウェンは、ルカを見上げると小さな手を伸ばして頬に触れてきた。

「めーしゃ」
「いいよ。母様もルーウェンが大好きだから、追い掛けっこくらいどうって事ないし。でも手が届かない場所に行くのはやめてな」
「あいー」
「可愛いなー、もー」

 大好きな人レイフォードのミニバージョンとも言えるルーウェンにルカはもうメロメロだ。
 絶対レイフォードのようにモテ街道まっしぐらなのだろうが、令嬢に囲まれて大変そうにしていたレイフォードを知っているだけにルーウェンの将来が心配になる。
 まだまだ先の話ではあるのだが。
 真剣な顔で返事をするルーウェンの頬にちゅーっとしていたら、不意にレイフォードの手が我が子の小さな顔を覆い隠しルカへと口付けてきた。

「ルカを一番愛しているのは私だから」

 キョトンとしていると、まるで張り合うような事を言われてもう一度唇が重なる。軽く吸われて離れ、頬を撫でられながら柔らかな笑みを向けられようやく理解し苦笑した。

「ルーウェンにまでヤキモチ妬いてる」
「息子といえど、ルカを想う気持ちは負けられないからな」
「家族と特別は違うって教えてくれたのはレイなのに」
「家族としても夫としてもだよ」
「欲張りだな」

 だが、そこまで想って貰えるのは正直嬉しい。
 それにルカだって、レイフォードを好きな気持ちは息子にだって負けたくなかった。
 クスリと笑いレイフォードの胸元に擦り寄ったルカは、片手を彼の首へと回して引き寄せ紫の瞳を覗き込む。

「レイを一番愛してるのも俺だよ」

 そう囁いて自分から口付けたルカはお返しが出来たと満足したのだが、目を細めたレイフォードにルーウェンごと抱き上げられ目を瞬く。
 困惑している間に歩き出したレイフォードは途中でルーウェンをソフィアへと預け、抱かれたままのルカは何故か部屋へと連れて行かれてベッドに押し倒され⋯⋯何がどうしてこうなったのか分からないまま頂かれてしまった。
 レイフォードのスイッチが作動する理由は今だに分からない。
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