竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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セノールの特別な人

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「よ、セノール。久し振り」
「おー」

 少しずつ散歩の時間を伸ばし体力も戻りつつあるルカは、およそ一週間ぶりにセノールのいる図書館までやって来た。
 竜族になってから二日目にレイフォードに無理言ってセノールの元へ連れて行って貰ったのだが、ルカが狂いそうなほどの苦痛を味わっていた事を聞いていたのか目が合った瞬間くしゃりと顔を歪ませ、思いっきり抱き締められたのは記憶にも新しい。
 だからか少し照れ臭そうな様子には見なかった事にして、当然のようにソファに座るとすぐに飲み物を用意してくれた。

「ありがと。ってかさ、ここって精霊も入れないのか? 入口までは一緒だったのに、中に入る時はバイバーイって言われたんだけど」
「ああ。別に入れん事もないけど、大事なもんばっかだから絶対暴れんなよっつったら入って来なくなった」
「こんだけ広かったら暴れたくなるか⋯」

 無邪気な精霊だからこそ遊びにも全力で、そうすれば本棚が見るも無惨な姿になるのは容易に想像出来る。
 乾いた笑いを浮かべて紅茶に口を付けたルカは隣から視線を感じて眉を顰めた。

「⋯⋯⋯何」
「ほんっとに竜族になったんだな」
「うん、なれたよ」
「お前に魔力があるの、変な感じ」
「生きてく分だけみたいだけどな」

 セノールのように本を動かしたりは出来ないが、それでもところどころで自分が竜族になれた事を実感出来て嬉しくなる。

「っつか、髪は何で伸びた?」
「分かんない。お医者さんも途中変異だからかなって言ってた」
「聞いた事ねぇけど⋯まぁ害はねぇし、いいんじゃね?」

 確かに伸びた事自体は問題ないしむしろソフィアが喜んでるからいいのだが、再び髪に時間が掛かるようになった事だけは不満だった。しかも短い髪に慣れていたせいか、起きた時に髪を手で踏んだり色んな場所で挟んだりするのだ。
 肩を竦め足を組んでカップに口を付けるセノールにルカは少し前から気になっていた事を尋ねた。

「なぁ、セノールは特別な人いないのか?」
「お前⋯自分がいろいろ理解して来たからってよく聞けるな」
「だから聞けるんだろ?」
「⋯⋯別に、そういうのは…」

 妙に歯切れの悪いセノールに目を瞬いたルカは、少しして何かに気付くと身を乗り出して顔を覗き込んだ。
 ギョッとしてカップを落としそうになったセノールは慌ててテーブルに置き眉根を寄せる。

「危ねぇ⋯」
「いるのか?」
「だから別に⋯」
「その反応はいるって事だろ?」
「何でこういう時は鋭いんだ、お前は」
「セノールだったら、いなかったらいないってハッキリ言うじゃん」

 何事も口悪くきっぱり言い切るセノールが言い淀むという事はそういう事だろうとワクワクしながら聞くと、物凄く嫌そうな顔をしたセノールはたっぷりと間を空けたあと渋々と「口説かれている」と答える。
 その言葉の意味が分からなくて首を傾げると、溜め息をつきルカが分かりやすいように説明してくれた。

「番になってくれとは⋯言われてる」
「え。だ、誰に⋯⋯」
「ブラウウェル副隊長」
「⋯⋯誰?」

 基本的にファーストネームで呼んでいるルカが家名を覚えているはずもなく、せっかく教えて貰っても目が点だ。
 若干の面倒臭さを感じながらも、言わなければルカは引き下がらない事を知っているセノールが小さな声で答える。

「⋯アルマ・ブラウウェル副隊長だよ」
「アルマ!?」

 まさかの相手にルカは心底驚いてしまった。
 バルドーとアルマはレイフォードの護衛である為ルカと関わる事はあまりないが、それでも執務室に行った時は話すし見掛けても何かしらの言葉を交わすから、忙しない使用人よりは会う頻度が高い。
 逆に図書館に入り浸りのセノールは会う事自体がほぼないはずなのに、いつの間にそんな事になったのだろうか。

「いつから?」
「さぁ? でもルカと初めて町に下りた日からは気になってたって言われた」
「ちなみにいつ番になってって言われたんだ?」
「言われたのはお前が寝込む前。それまでもちょくちょく会いに来てて⋯⋯ホント、何で俺なんかがいいのか分かんねぇ⋯」

 頭を掻き心の底から分からないらしいセノールには苦笑するが、実は可愛らしい顔立ちをしているという事はメイドたちの会話で聞いていた。
 口は悪いけど優しいし、友達思いだし、多少意地っ張りな部分はあるけど割と素直に話してくれるとは思っているが、アルマから見てのセノールは一体どんな感じなのだろうか。

「アルマ、いい人だよ」
「⋯⋯分かってるよ、そんなの」
「じゃあ結構いい感じだ」
「⋯⋯知らん」

 まったく否定しないという事は、セノールも満更ではないしむしろ絆されているようで意外だったが、案外相性も悪くないのではとルカは思った。
 恰幅が良く快活な青年であるアルマならセノールのすべてを受け入れてくれそうだし、竜族は総じて番を溺愛するらしいから、心優しい友人が幸せになれるならルカはアルマを応援するつもりだ。

「セノールって案外分かりやすいよな」
「お前に言われたくねぇわ」
「⋯っ、いった⋯!」

 こんな話が出来るのも友人特権とニマニマしながら頷いてたら容赦のないデコピンが飛んできて涙目になる。じんじんする額を両手で押さえてセノールを見ると、頬杖をついて笑ったあと息を吐いてルカの頭をポンポンと撫でてきた。

「⋯⋯俺はちょっとだけ、お前が羨ましいよ」

 その言葉はあまりにも小さ過ぎて、ルカは聞き取る事が出来なかった。 
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