竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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意外な結末

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 精霊が減った手掛かりすら掴めないまま、既に二週間が経とうとしていた。
 この領土は気候的にも恵まれている為精霊がいないからと大きな影響を受ける事はないものの、街の人々の精神的には良くないからレイフォードとしても早く解決してあげたいのだが如何せん調べても何も出てこない。
 頼みの綱の精霊たちも知らないと言うのだから、本当にどうしようもな
状態だ。
 城も気になる為一度帰城しようかとキリアンに話そうとしたある日、ルカと共に部屋にいたソフィアが慌てたように応接室に駆け込んできた。

「陛下、ルカ様のお部屋に⋯っ」
「!」

 ルカの身に何かあったのかと急いで部屋へと向かったレイフォードとキリアンは、入った瞬間に見えた光景に唖然とした。

―ルカだぁ―
―ほんものだ―
―ぼくたちとははじめましてだね―
―あえてうれしいよ―
―ほんとにぽかぽかする―

「待って、一度に喋んないで⋯っ」

 決して狭くはない部屋の中、ルカを中心にして驚くべき数の精霊が室内にひしめき合っていた。いくら質量が無に近い存在とはいえここまでいれば圧巻で、話し掛けられているルカは物凄く困惑して見える。

「ルカ」
「あ、レイ。精霊が⋯」
「凄い数だな。もしかして、街からいなくなっていたのはお前たちか?」

 ベッドの上で途方に暮れるルカに声をかけるとホッとしたような顔をする。腕を伸ばして来たから抱き留め精霊たちを見上げて問い掛けると、何を聞いているのかと言わんばかりにキョトンとして頷いた。

―いなくなったわけじゃないよ―
―あのね、ルカにあいにいってたの―

「え、俺?」

―アザをもってるってきいてたからあいたくて―
―でもね、とちゅうでおもしろいばしょみつけたからあそんじゃった―
―そうしたらこのまちにルカがきたっていうから、かえってきたんだ―

 自由な精霊らしい言い方にその場にいた全員がガックリと肩を落とす。
 まさかそんな単純な理由だとは誰も思わないだろうが、良く考えればそれこそが精霊なのだ。
 この視察の原因に間接的だが自分が関わっていると知りポカンとしたルカは、ハッとしてキリアンを見ると情けない顔になった。

「ごめんなさい⋯俺のせいだ⋯」
「え? い、いえ、竜妃様が謝られる事は何も御座いませんよ?」
「でもみんな俺に会いにって⋯」
「精霊が竜妃様にお会いしに行く事を想定していなかった私たちが悪いのです」

 この世界で竜王と精霊の関係はとても深い。故に竜妃との関係値も必然的に国民よりは高くなる為、各地の精霊が会いたくなるのも当然だ。しかもルカは何千年振りのアザ持ちである。
 少し頭を柔らかくすれば簡単に思い付く事であった。

「むしろ、陛下と竜妃様のお時間を長く拘束してしまいまして誠に申し訳御座いません」
「いや、大きな問題ではなくて良かった」
「みんなが心配するから、今度から黙っていなくなるのはダメだからな」

 今回の件で偉い人たちは相当ヤキモキしていた事を知っているルカは、同じような事が二度と起きないようにと窘めるように見上げて言うと、精霊たちは顔を見合わせたあと手を上げて元気良く頷いた。
 本当に分かってくれたか不安ではあるが、ルカに会いたくて出掛けるという事はもうないだろう。

「本当に、精霊の思考だけは読めないな」
「お疲れ様」

 とりあえず満足したのか帰って行く精霊たちに手を振っていると、レイフォードの腕が腹に回され珍しく疲れ切った声が苦笑混じりに零す。振っていた手で柔らかい金の髪を撫で労いの言葉をかけたらぎゅっと抱き締められた。

「ルカは精霊からモテるな」
「これはモテるって言うのか⋯?」
「私以外に好かれているのだから、モテているだろう?」

 どこか憮然としたように言うレイフォードに目を瞬き顔を覗き込むと、まるで拗ねているみたいな表情をしていて思わず笑ってしまった。
 いつもはカッコいい大人なのに、こういう時に可愛くなるのは本当に狡い。

「俺が特別に好きなのはレイだけだよ」
「⋯分かっている」
「ならその不貞腐れた顔を直して下さーい」

 両手で頬を挟み軽く引っ張りながら言えばようやくいつもの微笑みに戻ってくれて、つられて笑顔になったルカはキリアンたちがいるのも構わずレイフォードへと口付けた。
 自分の夫は本当にヤキモチ妬きだ。




「世話になったな」
「こちらこそ、調査までして頂いてありがとうございました。お気を付けてお帰り下さいませ」
「絶対また来ます!」
「はい、お待ちしております」

 謎の精霊減少事件が収束した日の夕方、荷物を纏めた一行はキリアンと屋敷の者たちへ挨拶しオレンジ色に染まる空へと飛び立った。
 行きと同じように街の転移装置までエッシェンド公爵家の使用人たちが運んでくれ、あちらで城の使用人たちが受け取る手筈になっている。だが一つだけ行きと違うのは、バルドーとアルマが持つ土産の山だろうか。
 饅頭と果物のパイをいたく気に入ったルカは、城のみんなにも食べて欲しいと店主の許可を取りレイフォードに買い占めて貰った。本当は自分で払えたら一番いいのだが、生憎と働いていないルカに身銭はなく、ソフィアに背中を押される形でおねだりしたのだ。
 買い占めなんてと怒られるかと思ったらレイフォードは嬉々として動いてくれたから、また何かお礼を考えなければと思っている。

「着く頃には夜か…」
「帰ったらみんなにはもう休んで貰わないと」
「そうだな」

 竜族とはいえ環境が変われば疲れもするはずだ。
 レイフォードの肩越しにソフィアを見ると、リックスと話していたのにこちらに気付いて手を振ってくれる。それが嬉しくてにこやかに振り返していたらレイフォードに名前を呼ばれた。

「何?」
「戻ったら、触れてもいいか?」

 どこを、なんて野暮な事を聞かなくてもルカはもう分かっている。
 だからレイフォードの首に腕を回して抱き着くと、周りには聞こえないけど風に負けないくらいの声量で答えた。

「レイなら、聞かなくても触っていいよ」

 いつだって、どんな事があったってレイフォードを拒否したりしない。
 腕に力を込めて自分よりも太い首に唇を近付けたルカは、彼が動けないのをいい事に耳の下辺りに軽く噛み付いた。
 たまにはこんな風にお返ししたってバチは当たらないはずだ。
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